働き方が多様化するなかで大事なこととは? ソニー流ダイバーシティマネジメント談義
創業以来、社員一人ひとりの多様な個性を尊重し、多様な価値が混ざり合うことをイノベーションの源泉としてきたソニーグループ(以下、ソニー)では、全社でダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(以下、DE&I)推進に積極的に取り組んでいます。
今回は、DE&Iの取り組みの一つであるマネジメントに向けたダイバーシティマネジメント研修に参加した、ソニーマーケティング株式会社のお二人が登場。ソニーには幅広い業務がありますが、今回はソニー商品のマーケティング・セールスを担うお二人に、働きやすい環境づくりのための工夫や今後の課題などをご自身の体験談を交えて語っていただきました。
- 高橋 拓也
- ソニーマーケティング株式会社
カスタマーマーケティング部門 コミュニケーションデザイン部 担当部長
- 遠藤 亜紀
- ソニーマーケティング株式会社
経営企画管理部門SOMK経営管理部 MK管理1課 統括課長
ソニーは多様性のある職場? リアルに感じるソニーらしさ
—お二人でお話をされるのは、今日がはじめてですよね。まずは、それぞれ自己紹介をお願いします。
高橋:僕は、国内のエレクトロニクス商品の広告宣伝業務を担っています。4つの課のリーダーでもあるので、メンバーの業務管理はもちろん、部署間の連携、さらにコミュニケーション施策として世の中に発信するアウトプットが表現として適切かを判断するのも僕の仕事。このあたりは、今回のテーマであるダイバーシティマネジメントと関係が深い業務かもしれませんね。
遠藤:私は、テレビやオーディオ機器などのビデオ&サウンドプロダクト系、そしてモバイルフォンのカテゴリーの経営管理担当として、販売施策を考えるビジネス部をサポートしています。若手社員が多くいる課なので、マネジメントとしてはもちろんですが、それ以上に親のような気持ちでメンバーを見守っている感じですね(笑)。
—勤務歴20年以上のお二人ですが、ソニーの社風について、どのように感じられていますか? また、時代に伴う変化があれば教えてください。
高橋:強い意志を持って自分の意見を言える人が多い職場だと感じますね。一方で、個性豊かでありながら協調性もあるので、自己を保ちつつも他者が大事にしている価値を認め、相手の意見や状況を自分事として消化できる人たち。チーム内で対話を積み重ねながら一つのものを作り上げることが、習慣として自然に身についていますよね。
私たちの世代は、自分の意見を示す前に、「わかりました」と我慢してしまう風潮があったように思います。時代を追うごとに、自分の意志を示せる人が増えている状況が頼もしいです。
遠藤:働く環境も、ここ数年で変わりましたよね。コロナ禍で変化を余儀なくされたのですが、結果的にテレワークがより浸透したことで、育児や介護などそれぞれの環境がある中で、さらに両立がしやすくなったと思います。
ただし、融通が効く代わりに、自分のスケジュールを関係者に共有してチームワークを整えたり、アウトプットとして伝えたりすることが、より個人の責任として問われるようになっています。だからこそ、お互いにより一層の信頼関係を築けるよう、各自で考えて動くようになってきましたね。
—テレワークが基本となり、リアルでのコミュニケーションが以前より減る中、どのような工夫を取り入れていますか?
高橋:テレワークがメインとなって雑談をする機会が減り、相手の状況の変化に気づきにくくなっています。業務内容は把握できても、今、本人がハッピーなのかアンハッピーなのか、声だけではコンディションを見分けにくい。だから、意識的に個別に雑談の時間を設けて近況を聞いたりしています。
遠藤:そうですよね。一方で、1対1で話がしやすくなったのは、テレワークのメリットかもしれません。オンラインミーティングなら周囲を気にすることなく話せますし、こまめなやり取りで、割と本音で深い話ができる!
高橋:そうそう、深い話ができますよね。そこまでのきっかけを掴むのが難しいけれど。
遠藤:テレワークでいうと、特にこのコロナ禍で社会人になったメンバーは、職場で社会人マナーを学べる機会が少ないですよね。
いきなりテレワークで仕事がスタートした新入社員にとっては、会社でのイロハを先輩から直接学べる機会がどうしても減ってしまっています。仕事に真摯に取り組んでいる姿を理解してもらえるよう、社会人としての基本的なことを、日ごろからできるだけ伝えるようにしています。
“個と個”として対話をすることで、一人ひとりが働きやすい職場に
—“イクボス*”をテーマにした、ダイバーシティマネジメント研修*にも参加されたそうですが、研修で学んだことも踏まえて、マネジメントとして今どんなことが求められていると思いますか?
遠藤:若手社員からは、多忙な日々の中で、仕事の優先順位づけが難しいという相談をよく受けます。そんな時は、「こういう理由で、これは今すぐやらなくていいから」と優先順位が低いものをこちらで切ってあげると、心の負担も減るようです。
また、何をやるにも目的は明確にするようにしていますが、トップマネジメントのビジョンと現場サイドでの目的に、ギャップが出ることもありますよね。だから、メンバーの皆さんに目的を伝える際には、トップマネジメントの方針を私なりにしっかり咀嚼し、納得感のある背景を丁寧に説明するようにしています。「トップマネジメントが言っているからやろう」とだけ伝えると、「言われたからやるんですか?」となって、モチベーションも上がりにくいですよね。
高橋:わかります! つい「上が〜」と言ってしまいがちですが(笑)。私も、自分なりの解釈をつけるようにしています。
遠藤:部下がやることを自分事化してスムーズに業務に入れるように、解釈をつけてつなぐことが私に求められている役割だと思います。
高橋:僕は、まだ道半ばですが、メンバーが公平に実力を発揮できる環境をつくって、それを維持できるように取り組んでいます。そのためにも、バイアスなくメンバー一人ひとりの立場になって考える必要がありますし、何かあった時にチームとして協力し合える体制づくりも重要でしょう。都合があって休んだ時でも、その人に代わって誰かが対応できる。そんな余裕のある体制をいかに作れるかを求められている気がします。
※「イクボス」とは職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランス(仕事と生活の両立)を考え、部下のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司(経営者・管理職)です。(イクボスプロジェクトの公式サイトより)。ボスの性別、年齢、役職は問いません。
※マネジメントが、経営戦略としてダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンを推進する重要性や心得を理解し、現場での成果につなげることを目的に実施している社内研修プログラム。今回はNPO法人ファザーリングジャパンの講師によるイクボスをテーマにした講演やワークショップを実施しました。
—ジェンダーギャップについては、どう感じていますか?
高橋:本来は男女問わず、家庭と仕事との両立ができる環境があった上で、ジェンダーギャップについて話すことが望ましいですが、意識の方が先行している印象がありますね。
現状では、女性マネジメントの数は少ないかもしれません。でも、だからといってただ漠然と女性マネジメントを増やせというのはちょっと違うのかなと感じます。性別に関わらず、自発的にやりたいと思える環境づくりがまずは必要だと思いますね。
遠藤:同感です。それから、マネジメントは自分にはできないと思っている人もいますよね。私も一時期、育児で時間がなくてとてもマネジメントはできないと思っていましたが、その時の上司に「細かいことは考えずに、まずはやってみたら。完璧な人なんていないんだから」と言ってもらい、考え方が変わりました。そういった言葉をかけてくれる人がまわりにいると、私のように考えが変わる人も出てくるかもしれません。
高橋:バイアスをかけて物事を見ないためにも、対話は大事ですよね。一番大事なのは“個”と接することですから。自分も“個”だし、相手も“個”。それぞれ異なる“個”を属性やイメージで自分の中でグループ化してしまう前に、ちゃんと向き合って話し合いをするべきかなと思いますね。
遠藤:1対1で話してくれたことって、すごく記憶に残りますよね。
高橋:僕自身、話さないと何を考えているかわからない怖い人に見えるらしいです(笑)。
人は、自分と違う考えを持っている人からは無意識に離れていこうとしますよね。離れれば離れるほど、お互いがわからなくなって、それ以上交われなくなる。でも、とことんつき合って違いを理解できるレベルまではっきりさせると、結構仲良くなれたりしますよね。相手とできるだけ向き合える距離でいられるよう、時には自分の弱みを相手にみせるようにしています。
遠藤:弱みをみせる…、大事ですよね。失敗して落ち込んでいる若手社員に、私自身の失敗談を話すと大喜びしてくれます(笑)。私としては思い出して凹みますが…。でも、似たような失敗経験をしても、こうやって克服して成長していけると思ってもらえるなら、いくらでも伝えますよ。
育休・産休を取得しやすい職場にするためには?
—育休や産休について教えてください。部下が育休や産休を取得しやすい環境づくりのために工夫していることはありますか?
高橋:僕自身、10年前に20日間の育児休暇*を取得しました。家族にとって、きっと何にも代えがたい貴重な時間になるだろうと思ったからです。その時は、課員メンバーが自分の業務を手分けしてくれて、本当にありがたかったですね。そんな自分の経験から、育休に入るメンバーが気兼ねなく休暇に入れるように体制を整えることを心掛けるようにしています。
*育児休暇の制度については、グループ各社により違いがあります。
遠藤:取得するメンバーには、仕事のことは心配せず、思いきり育児を楽しんでという感じで送り出しています。育休取得者の業務を分担して吸収できるよう、各メンバーの仕事量にもう少し余裕があればよいのですが、それがなかなか作れない状況があります。何かいいアイデアがあればいいなと思います。
高橋:そこは理想と現実のギャップがありますよね。育休取得を推奨するのなら、チームメンバー一人ひとりが、日常的に余裕ある状態にしておかないといけないですからね。
—2022年4月から法改正により、男性の育休が段階的に推進されていきますが、男性の育休取得についてどのような期待を持っていますか?
高橋:僕にとって20日間の育休は育児の大変さを実感できたいい機会でしたが、育児はその後もずっと続きますよね。妻からすれば、「育休20日とったくらいで何を言っているのだ」というのが正直な気持ちだと思います(苦笑)。
遠藤:取れるならできるだけ取ってもらいたいですし、出産後は目まぐるしく変わる日々なので、少なくとも半年くらいは取れるといいですよね。ただ、今の忙しい職場環境でそれを実現するのはなかなか難しいと感じるので、各部署のリソースや事業目標などを含め、会社全体で解決策を考えていく必要があると思います。
マネジメントは、管理する人ではなく、“支援する人”。
—ダイバーシティマネジメントの視点から、「働きやすい環境」とはどのような環境だと思いますか?
高橋:心の余裕やスケジュールの余白をどのくらい作れるかが、働きやすさにつながってくるのではないかと思っています。とはいえ、立場や性格上、自分で環境をコントロールするのが難しい人もいるので、そこはマネジメントとして場と時間を提供していく必要がありますよね。
遠藤:私も近い考えかもしれません。まずメンバーには、プライベートを充実してもらいたいと思っています。私はピアノのアマチュアコンクールに挑戦したりするのですが、仕事とはまったく別世界です。身一つで舞台に立ち、あまりの孤独に心が折れそうになる。それに比べれば仕事は孤独ではないし、変に緊張することもないと、仕事でもよい方向にマインドを持っていくことができているように感じます。
—働きやすい環境をつくることを含め、ダイバーシティマネジメントを行うにあたって心掛けていることは何ですか?
高橋:まずは、メンバーに任せる、信じる。そして一緒に考えることですね。昔、「管理されすぎると息が詰まる」とメンバーから言われたことがあります。参加したダイバーシティマネジメント研修で講師の方もおっしゃっていましたが、僕たち、マネジメントの役割って実は管理することではなくて、支援することですよね。だから今、僕は会議についても「アイデアを交換し合う場」とするようにしています。
遠藤:それはすごく勉強になります!
上司の目線と部下の実務の両方を理解した上で支援することも大切ですよね。部下の実務状況をわからずに上からの思惑を押し付けるだけだと、何も進まない。逆に実務の都合に偏りすぎてしまうと目標を達成できないかもしれない。この両者をいかにうまくつなげて、支援してあげられるかが大事なのかなと思います。
オンとオフをしっかりと切り分けて、互いに高め合える職場に。
—会社でダイバーシティマネジメントを進める上での課題や難しさはどんなところにあると考えらえますか?
高橋:先程、余裕や余白が大事だとお伝えしましたが、仕事への熱意があるぶん、仕事に熱中してプライベートの時間を削ってしまう人が多いように感じます。でも、オンとオフの切り分けこそ大切にした方が良いと思いますね。僕は昔から土日は仕事をしないようにしていますが、それはプライベートでの経験が仕事に活かされるからです。
遠藤:多様な人が集まり、新しい風が少しずつ入ってくることで、アイデアやスキルも多様化できれば、会社としてもメリットを享受できると思います。多様な人が集まる環境の中で時に悩むこともあると思いますが、支援者として「悩んだら何でも聞いて」という風土を作るようにしたいですね。
高橋:僕にとって、ダイバーシティマネジメントの推進は、結局、満足度や達成感として自分に返ってくるものだと思っています。仕事のやりがいや働きがいというのは、会社の成長によるものではなく、自分の成長から生まれるものだと思うので。最終的には、一人ひとりが成長して仕事にやりがいを感じてもらえることが、ダイバーシティマネジメントの成果になるのではないでしょうか。
—最後に、ご自身の考えるダイバーシティマネジメントを教えてください。
高橋:「見えるものだけに捉われてはいけない」。僕がメンバーによく伝えている言葉です。見えないものほど大事で、それを見ようとすることで、人は新たな発見やいろいろな体験ができる。ダイバーシティはまさにその見えない部分の価値を考えて、人同士を成長させ、人生を何倍も充実させることができるものではないかと考えています。
<strong>遠藤:</strong>私にとっては、交わり合って、お互いを高め合えるものですね。たとえば会社であれば、同じ空間を共有して一緒に協力し合う一方で、それぞれ一人ひとりの世界もちゃんと成立している。それらがクロスする毎日を過ごせることは、すごく貴重なことだとも思いますので、お互いの環境を尊重し合えることを大事にしたいです。
ダイバーシティマネジメントと聞くと、難しそうな取り組みと感じられるかもしれません。でも、お二人の取材を通して見えてきたのは、“個と個”として向き合い、一人ひとりが力を発揮できるように支援する——マーケティング・セールスチームの働きやすい環境づくりに取り組む、そんなリアルなマネジメントの姿でした。
今後もソニーでは、マネジメントへの研修をはじめ、女性活躍やLGBTQ+関連の施策など多様な働き方の実践に向けた施策を通して、さらなるダイバーシティな環境をつくるための取り組みを進めていきます。