ロボティクスやドローンを手掛けている部署からモビリティ向けサービスプラットフォームが誕生。どんなサービスなのか。なぜモビリティなのか。
ソニーがモビリティ向けプラットフォームを提供することはご存知でしょうか。本田技研工業との合弁会社ソニー・ホンダモビリティが新ブランド「AFEELA(アフィーラ)」を発表しましたが、AFEELAにはソニーが開発するモビリティ向けサービスプラットフォームが利用される予定です。また、エンタテインメントロボットaiboや、プロフェッショナル向けドローンAirpeakを手掛ける部署からモビリティ事業も始まったらしい。どのような部署か、モビリティ向けサービスプラットフォームとは何か、プラットフォームのソフトウェアを開発している平さんに話を聞きました。
- 久藤 颯人
自動車が学習し、ユーザーに応じた移動空間を提供
ーーモビリティ向けのサービスプラットフォームを開発されていると聞きましたが、なかなか想像がつきません。どのようなサービスを提供していくのでしょうか?
ソニーは「人に近づく」を経営の方向性としていますが、車のオーナーに応じてパーソナライズされた体験を届けるサービスです。モビリティ業界においてもソフトウェアの重要性が増す中で、ソニーらしい新たな価値を提供するために取り組んでいます。
ーーパーソナライズされた体験とは?
例えば、キャンプへの道中でキャンプのコンテンツを楽しみたい人もいれば、仕事をしたい人もいます。人によって、状況によって、移動中のニーズは異なります。そのように人や状況に応じて最適化された移動空間を車自体が学習し、提供することを考えています。
自動運転が普及するにつれて、車で移動しながら何かを行う機会は増えていくと思います。そのような状況の中で、ソニーとして新しい価値を提供していきたいです。
ロボティクスやドローンを手掛ける部署からモビリティ事業が発足
ーー魅力的なサービスだとは思うのですが、ソニーがモビリティ向けサービスプラットフォームを提供するのは意外だと感じました。そもそもなぜこの事業を始められるのですか?
モビリティ事業は、もともとaiboをきっかけに設立されたAIロボティクスの部署から始まりました。AI技術が大きく進化する中で、AI技術を採用したaiboを2018年に発売しました。その後、AIやロボティクスを活用した新たな製品やサービスの開発も進めており、その結果としてプロフェッショナル向けドローンAirpeakやEVのプロトタイプ「VISION-S」が生まれました。
ーーモビリティ事業がAIロボットやドローンと同じとは、なかなかイメージしにくいです。
周囲の環境を認識して、どのように動くか機械が考え、自ら判断して行動に移すという観点ではどれも同じと捉えています。足で動くか、プロペラで動くか、車輪で動くかは違いますが、概念としては同じ技術です。
ただ、同じ技術要素があるとはいえ、「モビリティの進化に貢献したい」「困難かもしれないけど、作ってみて探求しよう」と考え、実際にEVのプロトタイプに取り組んだことはソニーらしいと思います。私自身、入社したときにはモビリティに関わると思っていなかったです。しかし驚きはなく、ソニーらしい決断だと思いました。
ーーそのような新しい取り組みをする部署に、若手もいらっしゃるのですか?
幅広い人がいます。新卒で入社し活躍しているメンバーもいますし、ベテラン世代のメンバーもいます。学生時代にしっかり研究していれば、その分野のトップレベルの知識を持っているでしょうし、年次は関係ないです。
ーーエンジニアとして携わる面白さはどのようなところにあるのですか?
ハードウェアとソフトウェア、サービス一体で開発するところだと思います。環境が変化する自然界で動くものを開発するので、机上の論理だけではうまくいかないこともあります。そのため試行錯誤を繰り返し、壁を乗り越えていく面白さがあります。
また、自分が開発したものが動くことも面白いです。ウェブやアプリケーションとは違い、何か機能を開発したときに、実際にロボットや車などのハードウェアに反映されることは達成感が大きいです。
全ての移動体験を支えるインフラへ
ーー近年さまざまな企業がモビリティ事業に参入すると見聞きするのですが、ソニーの強みはどこにあるのですか?
ソニーに対する社会からの期待、得意分野ということでは、多くの事業を手掛ける中でもモビリティと親和性が高いエンタテインメントやセンシングの技術は強みだと思っています。新会社(注:サービスプラットフォームを手掛けるソニーモビリティ株式会社)では、より幅広く人々へ貢献できるインフラとなることを目指したいと考えています。
ーーインフラとは?
現在はソニー・ホンダモビリティ向けのサービスを開発しているのですが、将来的には自動車メーカーだけでなく、モビリティのプラットフォームとして、例えばシェアカー、充電スタンド、MaaSなどさまざまな事業者と繋がっていきたいと考えています。
そして、世界各国の都市や地方で異なる課題を解決して、全ての人が豊かな移動体験を享受できる社会の一助となれればと思っています。
ーーそのような社会が実現するとうれしいですね。実現するための課題は何ですか?
現在もたくさんのアイデアが出ているのですが、使い勝手や利便性はまだ開発途上です。何をするにしても、ユーザーが操作しなければならない点は考慮すべき部分と捉えています。ソニーはさまざまな製品に共通してUX(ユーザー体験)を大切にしている会社で、ユーザーやオーナーの気持ちを徹底的に考えて改善していくことも得意なので、この課題に対しても貢献していければと考えています。
毎日学び、プロセスから自分で考える刺激的な環境
ーー難しく、やりがいのある仕事だと感じたのですが、平さんが感じるモビリティ事業の面白さは何ですか?
規模の大きさだと思います。一口にモビリティといっても、自動車から公共交通機関まで、さらにグローバルな規模で新たな製品・サービスが日々開発、運用されています。これらは私たちにとっては新しい領域のため、毎日たくさんの新たな学びがあります。
ーー刺激的な環境ですね。
仕事の進め方も自分たちで考える裁量があります。決まったやり方で開発するのではなく、ビジョンに沿って、プロセスも柔軟に変更していく環境です。
ーー最後に、平さんの目標を教えてください。
まずは、ソニーのモビリティ事業をしっかりと軌道に乗せ、ソニーの中核となる事業の一つとして認められるように育てていくことです。そして、我々のサービスを利用される企業、ユーザーが喜んでいただける環境をつくり、社会に貢献することができたら幸せです。
<編集部のDiscover>
ソニーがモビリティ向けサービスプラットフォームを開発していると聞いたとき、頭の中は「?」でいっぱいでした。「100年に一度の変革期」としてモビリティ産業の構造が変わる今、その不確実性の高い環境の中で、目標を持ち、それぞれの社員が考え、挑戦し続ける環境は素敵だなと思いました。一人の学生として、成長できるし、なにより楽しく働けそうな環境だなと感じます。