「ソニーは実力を見てくれた」障がい者雇用の理念と社員の思い
ソニーのファウンダーの一人である井深大は、かつて「障がい者だからという特権なしの厳しさで、健丈者*の仕事よりも優れたものを、という信念を持って」と語りました。これは、障がいがあっても一人の社員として活躍し、他の社員と同等、またはそれ以上の意識をもって働くことの大切さを説いており、ソニーの障がい者雇用の理念として受け継がれています。
今回はこの理念のもと、障がいのある社員がソニーでどのように活躍しているのかを取材しました。先天性の聴覚障がいがある桑原さんと、同僚でチームリーダーの安田さんにお話を伺います。
*障がいがなく「丈夫」な人はいるが、「常に」健康な人はいないという、井深の考え方を踏まえて表記したもの。
最初は手探りだった
── はじめに自己紹介をお願いします。
桑原:私は生まれつき聴覚に障がいがあり、耳が聞こえません。出社して同僚などと話す際は、相手の口の形を読んで会話することもできますが、仕事で使うような専門的な言葉や内容は判読が難しいため、スマートフォンの音声認識ツールを活用してコミュニケーションを取っています。
安田:私は新卒で入社してからずっとソニーで働いていて、今は定年再雇用で3年目になります。再雇用後、桑原さんと同じチームになったのですが、障がいのある方と同じチームで働くことは初めてだったので、私にとっては新鮮な気分での再スタートでしたね。
── お二人のお仕事について教えてください。
安田:私たちの課では、イメージセンサーのディープランニングの領域を担当しており、私はハードウェア設計のチームリーダーを担っています。
桑原:私はソフトウェアを担当しており、ハードウェアの設計や検証に必要なデータを用意したり、ネットワークを開発したりする仕事を担当しています。
── 聴覚障がいがあることで、業務上困ることなどはありますか。
桑原:やはりコミュニケーションですね。電話や立ち話など、ちょっとした会話をするのが難しいです。基本的にはスマートフォンの音声認識アプリを使うか、相手の方に口を見せて話してもらっています。オンライン会議の際には、ライブキャプションという機能が自動的に会話を文字起こししてくれるので重宝しています。
安田:一緒に働き始めた最初の頃の話ですが、オンライン会議のライブキャプション機能が私の声を正しく認識してくれないことがよくありました。私の話し方が不明瞭なのかもしれないと思い、その時から話し方に気を付けるようになりました。
興味を持ってくれるのは、私にとってうれしいこと
── チームとして桑原さんにどのようなサポートをしていますか。
安田:正直なところ、今はサポートをしているという感覚はあまりないです…。
一方で、聴覚障がいのある方と同じチームで働くと知った時は、実は少し緊張しました。手話を勉強し始めたりもしました。ただ仕事では専門用語を使うことが多いので、手話で表現するのが難しく、結果、スマートフォンの音声認識アプリを活用するのがベストだという判断に至りました。もちろん桑原さん自身の努力が大きいですが、今では特段困ることもなく自然なコミュニケーションを取りながら仕事をしています。
桑原:私も、職場の皆さんからのサポートが不足しているという感覚はありません。もし仕事の中でわからないことがあれば、もう一度丁寧に教えてくださるので助かっています。
── 会社からはどのようなサポートがありますか。
桑原:音声認識アプリのために使っているスマートフォンは、会社から支給してもらいました。マイクが原因で音声認識の精度が良くないとわかった時には、マイクを変えてほしいとお願いすると、すぐに変えてくれたこともありました。このように会社には柔軟に対応してもらっています。また、会社の配慮で、筆談ボードや、対面での会議の時に一人ひとりが使えるマイクも用意してもらいました。
安田:桑原さんが入社したのはちょうどコロナ禍が始まった頃で、オンライン会議が一気に広がるのに合わせて、ライブキャプション機能が日本語に対応するようになるなど、環境の変化がプラスに働いた側面もありました。
桑原:そうですね。その時の状況や技術の発展具合によって、どのようなツールを活用してコミュニケーションを取るかが変わってくるので、適宜相談しながら対応していただいています。
── 同僚の方と障がいについてお話する機会はありますか。
桑原:安田さんは障がいについて結構聞いてくださいますよね。
安田:私はこれまであまり聴覚障がいのある方と関わったことがなかったので、桑原さんの話は勉強になります。桑原さんに以前、聴力検査の結果や、その人がどの程度の音が聞こえるかを示すオージオグラムというグラフを見せてもらいました。そのグラフを見て、聴覚障がいとは、必ずしも聞こえるか聞こえないかの両極端なものではないことも知りました。
桑原:やはり一緒に仕事をしているメンバー、特にリーダーである安田さんに質問していただけると、「自分に興味を持ってくれているんだな」「歩み寄ってくれているんだな」と感じるので、私はとてもうれしいです。
実力を見てくれる、それがソニーだった
── 就職活動のこともお聞きしたいです。どのように会社を選んでいましたか。
桑原:私はセンサー関係の研究をしていたので、センシングを扱う業界にとても興味がありました。また、面接の時に障がいのことばかり聞くのではなく、自分の研究内容をしっかりと聞いて、それを踏まえて適性を判断してくれる会社がいいなと思っていました。
やはり私が一番やりたいのは技術を開発する仕事なので、障がいがあることで、障がいのない人と比べて仕事内容に差が生まれてしまうような場では、自分のやりたいことはできないのかなと考えていました。
── その中でソニーを知るきっかけは何だったのでしょうか。
桑原:障がい者向けの就活イベントがあり、そこにソニーのブースがあったんです。人事の方と話すと雰囲気が良く、自由に働けそうな社風が私に合っているなと感じました。障がい者採用の枠が設けられていなかったのも、障がいの有無に関わらず全員を平等に見てくれていると感じられ、私には好印象でした。
安田:その人の適性や実力を見るというのは、ソニーらしいなと感じます。
── ソニーでの面接の様子や、最終的にソニーに決めた理由も気になります。
桑原:ソニーの面接は非常にフランクでしたね。研究内容について説明する時間が長く、面接員もたくさん質問してくれました。「研究内容をもとに、私の実力を見てくれているな」という実感がありました。
最終的に数社で迷った際「チャレンジできる幅の広さ」が決め手になりました。ソニーは多様な事業を持ち、違うことに挑戦したいと思ったら、自ら手を挙げて希望する事業・職種に応募できる「社内募集制度」などがあります。今後のキャリアの広がりを考えた時に、ソニーでなら自分に合う形で長く働けそうだなと思い、入社を決めました。
活躍できそうな場所に、悩まず飛び込んでみる
──ソニーに入られて、どのような点でお仕事のやりがいを感じますか。
桑原:他の社員と同じように、自分が興味のある職種のコースに応募し採用され、そのコースに関連する仕事に取り組めているのでありがたく思います。また今の業務は、直接お客さまにお届けするよりも、今後の新技術の検討をする業務なので、これからの将来にどのようにつながっていくのかを考えると楽しみです。社会に関わっている実感が持てて、やりがいを感じます。
──ソニーの障がい者雇用についてはどう感じていますか。
桑原:採用の方法や応募条件、報酬、会社に入った後の評価の仕方などが、障がいの有無で変わらないというのは、私は非常に良い点だと思っています。
安田:ソニーのファウンダーの一人である盛田昭夫は、「学歴無用論」という本の中で、自身の能力に対する正しい認識を持ち、才能と情熱が生かせるスペシャリストになることの重要性を説いています。私は長くソニーに在籍していますが、仕事の内容で勝負する考え方は、創業時から今も変わっていないのだと感じます。
── 「ソニーで働きたいけれど、自分の障がいを受け入れてくれるか不安」「ソニーに自分にできる仕事があるかわからない」という読者へのメッセージをお願いします。
安田:障がいの有無に関わらず「自分は何がやりたいか」「自分には何ができるか」を考えてみるのが良いと思います。それらにソニーで挑戦できそうなら、ぜひソニーを受けてみてほしいです。
桑原:そうですね。障がいの有無でソニーを受けるかどうかを考えるのではなく、ソニーで自分が活躍できそうだと思うなら、ぜひ悩まずに飛び込んでみてほしいです。
またソニーには、自分が困っていることを伝えれば、柔軟に対応してくれるメンバーが多いので、ご自身の積極性を大事にしてみてください。
<編集部のDiscover>
取材をしながら、お二人は思いやりを持ちつつ、率直にコミュニケーションを図っているのだなと感じました。相手に対して身構えすぎず、困ったことがあればすぐに伝える。このような社員同士のコミュニケーションを土台に、ソニーの障がい者雇用の理念が実践されているのだと思います。