社内で兼業?!「キャリアプラス制度」で自ら広げるキャリアの可能性
「一つの会社でずっと働いていて飽きないだろうか」そのような疑問を持ったことはありませんか。私の知人でも、転職をしたり副業を始めたりし、一つの会社や仕事にとらわれず柔軟な考え方を持つ人が増えてきたように感じています。
ソニーでは、2015年から社内兼業ができるキャリアプラス制度が運用されています。今回は実際にこの制度を利用した窪園さんと東山さん、そして、事務局として制度の運営を担当する滝口さんにお話を伺います。
※記事に掲載している情報は取材当時のものです。
- 滝口 凜太郎
<キャリアプラス制度とは>
本来の担当業務を続けながら、業務時間の一部を別の業務に充てることができる制度。所属する部署から異動することなく新たな業務やプロジェクトを経験し、キャリア展開の選択肢を広げたり、他部門で自分の専門性を生かすことができます。基本的に、別の業務に充てることができる時間は業務時間全体の20%まで、期間は最長1年と決まっています。
※本記事では本来の業務を「主務」、本来の業務とは別の新たな仕事やプロジェクトを「兼務」と表記します。
「この先もずっとこの仕事をするのかな」悩んだ時期に
── 現在どのようなお仕事をされているのか教えてください。
東山:主務は経理で、キャリアプラス制度を利用して宇宙エンタテインメント推進室で「STAR SPHERE」に携わっています。このプロジェクトでは、ソニー製のカメラを搭載した人工衛星を宇宙へ打ち上げ、みなさんに宇宙から見た景色を自由に撮影いただく体験の提供を目指しています。私は主にSNSなどを使った対外情報発信の業務を担当しています。
窪園:テレビ事業の経営管理が主務で、担当する国や地域の利益をいかにして最大化するかを常に考えています。キャリアプラス制度は2021年の秋から1年間利用していました。その時はR&D部門を兼務し、ソニーの中から新規事業を生み出すための、新規事業発掘コンテストの運営に携わっていました。
滝口(人事):人事として、キャリアプラス制度を含め、社内フリーエージェント(FA)制度*など複数の人事関連の制度の企画・運営を担当しています。また、クリエイティブセンターの職場人事に関わる業務にも携わっています。
*社内フリーエージェント(FA)制度については、過去の記事「プロ野球だけじゃない!ソニーでできるFA宣言」をぜひご覧ください。
── キャリアプラス制度を利用するきっかけは何でしたか。
東山:新卒入社で経理部門に配属され1年が経ち、業務に慣れた頃、「この先もずっと経理の仕事だけをするのかな」と少し悩んだ時期がありました。経理の仕事も充実してはいたのですが、私は職種別採用で入社したので、自分で手を挙げない限りは基本的に経理を中心としてキャリアを歩むケースが多いです。早い年次で他の職種も経験してみようと思ったことが、キャリアプラス制度を利用するきっかけでした。
窪園:私の主務である経営管理という職種は、どの事業においても生かすことができます。そのため、主務業務でのジョブローテーションが行われ別の事業に携わる前に、キャリアプラス制度を通じて「ソニーの中にはどのような事業があるのか」を自分の目で見ておこうと考えました。当時主務ではマーケティングや営業の領域を担当していたので、一番離れた分野に行ってみようと思い、R&D部門での兼務を決めました。
── 他にもキャリア形成のためのさまざまな制度*がある中で、なぜキャリアプラス制度を選んだのでしょうか。
東山:経理以外の業務も経験してみたいけれど、経理を辞めたいわけではなく、転職するつもりもありませんでした。そのような私にとっては、主務はそのままで違う職種にも挑戦できるキャリアプラス制度が一番合っていたのだと思います。またその頃ちょうど、経理の業務で関わりがあり、気になっていた宇宙エンタテインメント推進室の募集が出ていたので、思い切って応募しました。
窪園:私の場合は、人間関係の幅がより広がりそうだったからです。普段の社内の人付き合いは同じ部署の人や同期などが中心で、限定的になりがちだったので、他にも多様な人たちとのつながりをつくりたいと思っていました。実際、兼務先で参加したプロジェクトで出会った人たちとは、プロジェクト終了後も隔週で集まるなど、貴重なつながりができました。
*キャリア形成のためのさまざまな制度について詳しくはこちら
キャリアプラス制度の導入は必然。ソニーに根付くキャリア観
── ソニーがキャリアプラス制度を設けた背景は何でしょうか。
滝口(人事):この制度の一番の目的は、社員の皆さんのスキルアップやキャリア形成につなげていただくことです。ソニーにはもともと、「自分のキャリアは自分で築く」という考え方が根付いており、それを実現するための制度が充実しています。例えば、自ら手を挙げて希望する部署やポストに応募できる「社内募集制度」は、1966年から57年以上にわたって続いています。また、兼務をする文化も以前から根強くあったそうです。これらが浸透していたことが、キャリアプラス制度導入の後押しになったのではと考えます。
── 実際にキャリアプラス制度を利用するのはどのような人が多いですか。
滝口(人事):年齢制限はなく、ソニーグループの中でも複数の会社が対象になっているので、利用する社員の属性は幅広いです。「もう一度キャリアプラス制度を利用して別のことにチャレンジしたい」というリピーターも結構いらっしゃいます。また、特にベテラン社員の中には、セカンドキャリアにつなげることを意識して活用される例もあるようです。
東山:私の兼務先は、大半がキャリアプラス制度で応募した社員で構成されています。他の職種の社員の知恵やベテラン社員の経験談を聞けるのが刺激的で楽しいです。
── 最近、キャリアプラス制度の利用者が増えたと聞きましたが、それはなぜでしょうか。
滝口(人事):まず制度ができてもうすぐ10年になるので、制度自体の認知が広まったという背景があるでしょう。またここ数年、コロナ禍でテレワークがさらに定着したこともあり、多様な部署やグループ会社の人が会議をする時には、オンライン上で簡単に集まれるようになりました。このような環境の変化により、より多くの人がキャリアプラス制度を活用しやすくなったと考えています。
経験、人脈、知恵…。「兼務」の難しさをはるかに超えるもの
── キャリアプラス制度を利用してみて、どのような点が良かったですか。
窪園:より広い視野で将来のキャリアについて考えられるようになったことです。特に兼務先のR&D部門は研究開発を担っており、ビジネスの上流部分を担当しています。主務の経営管理とは異なった視点や考え方を学べただけではなく、主務で扱っている商品や技術がどのような思い、ステップでつくられたのか知ることができました。この経験をする前と後では、キャリアを考える際の視野が大きく広がったと感じています。
東山:私も窪園さんの意見に近いです。私の場合は主務ではできない経験をしてみたいという思いが強かったので、まさにそれを叶えることができ、別の会社に転職したかのような気分を味わうことができました。経理業務では、すでにビジネスの方向性はある程度決まった上で、これから使うお金や実際使ったお金について相談を受けたり、金額をまとめたりすることが多いです。一方で兼務先は、新規事業でもあり、これからビジネスとしてどのようにお金を使っていくかを考える現場を目の前で見ることができます。私にとっては新しい世界で、さらに現場の目線を理解できたことで、主務側にもプラスになっていると感じます。
滝口(人事):兼務先で得る「あ、こういうことなのか!」という気づきを主務に持ち帰って、業務につなげられるというのは大事なことだと思いますね。
── 逆に難しかったことはありましたか?それをどう乗り越えたのかも気になります。
窪園:兼務先では、どのようにして自分の価値を発揮するかで苦労しました。兼務先は私にとって全くの新しい環境で、専門性もなく、そのままでは何も任されなくなってしまいます。解決策として、「ここを教えてください。その代わり、これは私が得意なのでやってみます」などとギブアンドテイクの関係を築くように心がけました。これにより、初めてコミュニケーションする相手でも、懐に入っていく力が身に付いたと思います。
東山:私自身は若手で、高い専門性を期待されていたわけではないので、やる気さえあればいろいろなことに携わらせてもらえるというメリットはありました。一方で主務が忙しい時期には、なかなか兼務先の業務に時間を割けないこともあり、葛藤もありますね。ただ、主務をおろそかにしたくはないので、兼務先で時間や業務量を調整してもらえるのはありがたいです。
窪園:私も、兼務をしているから主務のクオリティが下がったとは言われたくなかったので、いかにして主務を効率化し、兼務の時間をつくるか考えました。結果として主務の効率が上がったように思います。
滝口(人事):兼務へのモチベーションの高さが主務にも良い影響を与えているのは良いことですよね。
── ソニーにとって、キャリアプラス制度があることのメリットや難しさは何でしょうか。
滝口(人事):二人のコメントにもありましたが「業務を継続しながら異なる経験ができる」ことは、社員の皆さんの経験価値向上につながっており、ソニーにとってのメリットにもなっています。また受け入れる職場にとって、短期間でリソース形成ができ、知見が共有されやすいという利点もあります。キャリアプラス制度は毎月募集をしているので、例えば新規事業や新しいプロジェクトを立ち上げる際には、すぐに求人を出すことができます。それを見た、やる気もあってポテンシャルの高い社員が手を挙げてくれて、マッチングすればすぐ兼務についてもらう。このスピード感は組織にとって大きなメリットです。
ただ一方で、最長1年という限られた期間で未経験の社員が参画するので、どの程度のパフォーマンスでコミットしてもらえるかは未知数です。受け入れる職場にとってはその点が難しいと思います。
東山:そこは確かに難しいポイントかもしれませんね。ですが、それぞれ多様な経験や人脈を持った社員が集まることで有意義な知恵の出し合いができるので、より良いアイデアが生まれたり、話が早く進んだりするメリットはとても大きいと思います。
「自分のキャリアは自分で築く」
── キャリアプラス制度を利用し、仕事や働き方、会社に対する考え方は変わりましたか。
東山:ソニーの中でできることはもっといろいろありそうだと改めて実感しました。キャリアプラス制度に応募する際、上司に初めて相談した時に「やってみなよ」と快く受け入れてもらえたことで、自分のやる気さえあれば柔軟に対応してくれると分かり、会社への印象はとても良かったですね。
窪園:ソニーでよく言われる「自分のキャリアは自分で築く」を、本当に実践できる環境があると分かり、良い意味で会社の印象は変わらなかったです。またソニーは「自由な会社」というイメージがあると思いますが、キャリアプラス制度を利用するのにも上司の承認がいるように、本業をしっかりとやりきって初めて自由な働き方を認めてもらえます。この「正しい自由」のあり方を、身をもって感じました。
東山:今後のことをお話すると、主務の経理では定期的に担当部署のジョブローテーションがあります。キャリアプラス制度で現場を見た経験は「このグループ会社での経理も面白そう」という発見につながったので、次の配属先の希望を考える参考にもなっています。
窪園:主務ではいかにしてビジネスの利益を最大化するかを考えていますが、その利益の根源は、人や社会の課題を解決するところにあると思います。今後はそうした課題解決に貢献できる人材を目指していきたいです。
── 今後のキャリアに悩む後輩にアドバイスをするとしたら、どのような言葉をかけたいですか。
東山:「転職するほどではないけれど、新しいことをしてみたい」という時に、今の業務を続けながら安心して他の業務にも挑戦できるのは、規模が大きく、さまざまな事業を持つソニーだからこそ可能なことだと思います。キャリアプラス制度など選択肢はいろいろあるので、もし迷うことがあれば、ぜひ意志を持って手を挙げてみてほしいです。
窪園:ソニーでは、一生懸命業務に取り組めば、自分のやりたいことに巡り合えるチャンスが必ずあると思っています。そのことを後輩だけでなく学生の皆さんにもぜひ伝えたいですね。
滝口(人事):ソニーでは、キャリアプラス制度をはじめとするキャリア形成のための制度が充実しており、年次を問わず多くの方が利用しています。特に、社員が自発的に「こうしたい」と考えて行動すれば、それをサポートし受け入れてくれる環境があることは非常に大きな特徴だと思います。これはソニーらしいカルチャーの一つとも言えるでしょう。ぜひソニーで「自分のキャリアは自分で築く」を実践し、ご自身のキャリアの可能性を広げてみてほしいですね。
<編集部のDiscover>
就職活動をしていると、その企業に入ることがゴールになってしまいがちな気がしています。しかし入社後に「ちょっと違うかも」と思うことや、他にやりたいことが見つかることも往々にしてあると思います。ライフステージが変わることもあります。そのような変化に応じて、自分の意志でキャリアを築いていく、それを後押しする環境があるというのは、ソニーの大きな強みだと感じました。