新たな価値創造を支える「公募留学制度」。運営する事務局の思いと、実際に留学した社員が得た気づきとは。
社会人になってからの留学は、学生の留学と何が違うのか。
ソニーグループ(以下、ソニー)が技術系の社員向けに設けている「公募留学制度」は、会社に籍を置きながら1年間の留学ができる制度です。希望する社員は自ら留学先の大学や研究テーマを決めて応募し、選考を経て留学生として送り出されます。公募留学制度を運営する担当者は、どのような思いで社員を送り出しているのか。そして、留学する社員はどのような期待を胸に旅立ち、どのようなことを学び、持ち帰ってきたのか。留学し、2023年秋に帰国した島田さんと、事務局として運営に携わる今村さんにお話を伺いました。
※記事に掲載している情報は取材当時のものです。
- 渡部 優基
確かなビジョンと大きな期待を胸に留学へ。
── 島田さんのお仕事について教えてください。
島田:現在私はソニーグループの研究開発を担う組織の一つであるテクノロジーインフラストラクチャーセンターに所属しており、AIに関する研究開発を担当しています。主にカメラなどに搭載される画像認識に関する研究開発を担当しています。代表的なところではXperia™に搭載されている動物や鳥の瞳にもピントを合わせる「リアルタイム瞳AF機能」※1 や、空間再現ディスプレイ※2 などに活用されています。留学先では、画像と音声を使った、複数の手段による認識技術について研究しました。
※1 リアルタイム瞳AF機能についてはこちら。
※2 空間再現ディスプレイについてはこちら。
── とても興味深い研究内容ですね。今回留学を決心したきっかけは何ですか。
島田:入社前からソニーには公募留学制度があることは知っていて、もともと最先端の研究に触れたいという思いがあったので、入社後も留学について前向きに考えていました。そして所属していた部署内で新しい研究テーマを立ち上げようという話が挙がったときに、私自身にとっても腰を据えてその研究の技術を勉強するチャンスだと捉え、留学してより深く学ぶため挑戦を決意しました。
── 今村さんはどのようなことを期待して留学に行く社員を送り出していますか。
今村:留学で得た最先端の技術や知見をもとに、新たな技術や製品、サービスの開発につなげてもらい、新しいイノベーションが生まれることを期待しています。応募者の選考では留学先で学んだことを帰国後の業務にどう生かすか、先を見据えた研究テーマが設定されているかを重視して選考しています。
島田:私の場合、画像と音声を使った新しい認識技術が将来のソニーの製品やサービスにとって不可欠なものになりうること、そしてAI技術の若いトップランナーの方たちと今のうちからコネクションを作ることを強調して選考面談で話しました。
── 確かなビジョンを持って留学にのぞまれたのですね。留学前の心境はどのようなものでしたか。
島田:留学先での生活や米国学生とのコミュニケーションなど、初めてのことばかりでイメージが持てず、やはり不安はありました。一方で、職場での業務から離れ、新しい環境で新しいことを始めることはとても楽しみに感じていました。
今村:選考の場でもみなさんが目を輝かせてご自分の研究テーマを話されるので、留学への熱意はひしひしと伝わってきます。
社会人になってからの留学だからこそ気づけたこと。
── 留学先ではどのような活動をしていましたか。
島田:留学先では客員研究員という肩書でオフィスを1室いただいて研究していました。基本的に朝から晩まで研究し、時々ラボのメンバーや先生と議論したり、授業を聴講したりする機会がありました。ラボの雰囲気や研究生活は日本の大学とほとんど変わりませんが、世界トップレベルの研究チームで、やはり研究のスピード感やレベルの高さを肌で感じました。
── 留学生活で最も印象に残ったことは何ですか。
島田:文化や生活スタイルの違いは強く感じました。私が住んでいた場所はニューヨーク州の北にあるロチェスターという都市でしたが、車がないと生活が不便な環境だったので、人生で初めて車を買いました。また、米国では知り合いでなくても気さくに話しかけてくれるので、コミュニケーションの仕方においても日本との違いを感じました。
── とても刺激的ですね。社会人になってからの留学だからこそ気づけたことはありますか。
島田:6年ほど実際に業務に携わってから留学したので、やはり研究に対する取り組み方が学生の時と比べて変わったと感じました。研究している技術が製品に実装されるまでのリードタイムや、製品やサービスに応用することで価値が生まれそうな部分を意識して研究を進めることができたので、かなり密度の高い研究活動ができた実感があります。
アカデミック文化と企業文化を融合し、新たな価値を創造する人材へ。
── 日本、そして職場に戻ってきて、ご自分の中で最も成長を実感したのはどのような点ですか。
島田:ゼロから新しいことに挑戦する気持ちの強さが身についたと感じています。知らない街で、知らない人だらけの中、家も移動手段もないところからスタートし、最終的に研究成果を日本に持ち帰ってくる。これを一度経験すると、新しいことへチャレンジすることに対する精神的なハードルが下がったように感じます。
── 留学を経験して、ご自身の職場は今までとは違って見えましたか。
島田:やはり大学という学術機関での研究と、実際の商品やサービスの開発を目的とする企業での研究との違いを痛感しました。企業における研究は、商品化するまでのいろいろな課題や制約がある中で、時間をかけて慎重に研究を進めています。一方で、大学での研究はそのような制約が少ない分、スピード感や積極性に優れています。大学での研究ならではのよさや、みんなで活発に議論するラボの雰囲気などは職場に取り入れていきたいです。
今村:今島田さんが話されたことが、まさにこの制度のねらいの1つです。アカデミック文化と企業文化の両方の視点を持ち、それらをつなげることができる人材として留学経験者に活躍していただく。まさに今ソニーで期待されている、多様な事業領域や文化の垣根を越えて働く人材になっていただきたいと思っています。
新しい世界へ挑戦する人の第一歩になる制度として。
── 島田さんのご活躍が楽しみですね。今回の留学経験を今後どのように生かしていきたいですか。
島田:研究成果をソニーの技術につなげていくのはもちろんですが、異なる文化や考え方、そして留学で得たコネクションなどを積極的に生かしていきたいです。実は今回の留学をきっかけに、留学先の大学との新しい研究プロジェクトがスタートしました。今後もこのつながりを大事にして、この先一緒に研究開発をしていければと思っています。
── 今後この制度をどのような人におすすめしたいですか。
島田:ソニーグループ内だけでも多様な事業を展開しているので十分広い世界があるのですが、そこからさらにフィールドを広げて、新しい環境で新しいことに挑戦したいというマインドを持った人におすすめしたいです。
今村:「自分の持つ技術で、新しいソニーを切り拓いていくのだ」という強い意志を持った人に、その挑戦の一歩としてこの制度を活用してもらえればと思っています。
<編集部のDiscover>
最先端技術に対する熱意と大きな挑戦心を持って留学に行かれた島田さんと、留学経験者の熱意に触れながら、ソニーのさらなる成長に貢献するために制度を運営する今村さん。お二人がお互いの話を聞いて深くうなずき、時に笑顔を見せる姿が印象的でした。「ソニーだけで十分広い世界があるが、そこからさらに新しいことへ挑戦するマインドのある人におすすめしたい」という言葉の通り、常に新しい挑戦を続けるソニー社員に挑戦の場を提供し、事業や人材の多様性を活かしていく公募留学制度は、まさにソニーのカルチャーを体現している制度だと感じました。たくさんのことを経験し、持ち帰ってこられた島田さんが今後どのような活躍をされるのか、とても楽しみです。