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組み合わせで築くテクノロジーとキャリア ~センサー×AIの挑戦~

Business

AI処理機能を搭載したインテリジェントビジョンセンサー『IMX500』に企画から携わっている浴さん。以前は、モバイル向けイメージセンサーの開発リーダーを務めていました。なぜイメージセンサーとAIを組み合わせた世界初のセンサー開発に挑んだのか、新たな領域へ挑戦することへのモチベーションについて聞いてみました。
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浴 良仁
田村 みゆ

最先端技術とソニーの技術を組み合わせた『IMX500』

—もともとモバイル向けのイメージセンサーの開発をされていたそうですが、『IMX500』に関わるようになったきっかけは何ですか?

開発プロジェクトがひと段落したので、次のステップとして最先端技術やそれを取り巻く市場の変化について学びたいと思い、アメリカの販売会社で3か月間の研修に参加しました。その頃は、画像認識用AIが人間の眼を超えたと話題になっていた時期で、今後AIがビジネスとして広がっていきそうな雰囲気を感じ取りました。

—アメリカでAIの可能性を感じたのですね。そこからイメージセンサーとAIを組み合わせることを思いついたわけですね。

当時AIで画像処理をするにはコストやセキュリティ等の課題があったのですが、ソニーの技術力があればそれらを解決できそうだと社内外の方たちと話しているうちにだんだんと盛り上がり、持ち帰って企画化したのが『IMX500』開発の始まりでした。

高性能なAIを目指して

—『IMX500』にはどのような立場で携わっていらっしゃったのでしょうか?

最初は人数も少なかったので、『IMX500』のコンセプト検討だけではなく、ビジネス企画やデバイス仕様の検討も担当していました。軌道に乗り始めてからも、『IMX500』全体のシステムの考案、開発のプロジェクトリーダーやビジネス開発も担当したりと…企画から設計、ビジネスまで幅広く携わっていました。

—非常に幅広く携わっていたのですね…。そんな浴さんだからこそ知る、『IMX500』の開発時に苦労されたことについて教えてください。

実際に商品を作るうえで大変だったのはAIエンジンの開発でした。センサーの微細化が進み、様々な機能を搭載できるようになっても、AIを処理することに長けたプロセッサーがなく、思ったようなパフォーマンスや速度が出せずに足踏みしていました。その時にイスラエルにあるグループ会社 Sony Semiconductor IsraelのチームがAI向けのエンジンを作れるという話を聞いて、共同で開発することになりました。

—Sony Semiconductor Israelとの共同開発によって一歩前進したのですね。商品化に向けてAIの観点で工夫されたことはありますか?

通常クラウドでAI処理する場合、様々なユースケースに対応できるように汎用性の高い、巨大なモデルを作ることが多いです。画像データをクラウドに上げるため、データ伝送に時間がかかりシステム全体の処理速度が低下しますし、クラウドAIに対し懸念を持たれる方もいるかと思います。一方、『IMX500』では最適化された小型なAIがセンサー上でリアルタイムに処理できるようになっています。これにより、メタデータ(撮像データに属する意味情報)のみを出力することが可能となり、クラウドへ転送するデータ量の削減や、それに伴う消費電力の低減を実現し、さらにはプライバシーへの配慮にもつなげることができます。また、ソニーの強みである積層型のイメージセンサー構造を活かすことでより小型なAIカメラも実現でき、そういったことも可能にする構成を意識しています。

組み合わせで築くキャリア

—先ほどから浴さんの行動力に圧倒されているのですが、新しい領域にチャレンジするモチベーションについて教えてください。

いくつか理由があります。1つは自分のキャリア、もう1つは自分のやりたかったことだからですね。キャリアの目線では、何かに特化することも大事だと思います。私自身もイメージセンサーやアナログ回路をそれなりに極めてきました。しかし、時代は刻一刻と変化するもので、その変化の中で自分がどうあるべきかと何度も考えていくうちに、自分がイメージセンサー以外のことを知らないなと考えるようになりました。

—そこからアメリカの研修に繋がっていくのですね。

視野を広げたうえで、実際に必要になってくる技術を取得してもっと広い範囲の技術を学び、組み合わせることで自分の強みにしたいと思ったことが理由の1つ目です。

—2つ目の自分のやりたかったこととは何でしょうか?

自分の作ったものを誰かが使って、世界中の方々に喜んでもらえることをしていきたいという思いがエンジニアとしてあります。自分の専門性と新しい領域を組み合わせることで実現していきたいです。

—新しい領域に踏み出すことで自分自身も変化していくのですね。浴さんが考える新しい領域に踏み出すことの魅力や難しさは何ですか?

まず魅力というと、知らないことを知ることができるのは面白いですよね。自分の知識領域が広がっていって、ただ知っているだけでなく何かと何かを組み合わせたり、全然違う領域と繋げたりすることを考えることが楽しいですね。新しい領域に踏み出すことは結構怖い部分もありますが、それも含めて楽しめることが大事になってくるかなと。挑戦してみた結果、失敗しても、成功してもその人のキャリアには大事なことなので、割り切れたらいいのかなと思います。

センサー×AIで世界一を目指す

—『IMX500』のキーパーソンである浴さんの考えるセンサー×AIの魅力ついて教えてください。

『IMX500』のようなイメージセンサーとAIを組み合わせたものはまだまだ珍しいです。そもそもこの組み合わせにはかなり技術力が必要なのですが、1チップで実現することで、AIをさらに社会に普及させていくことに繋がると思うのです。イメージセンサーのノウハウが蓄積されたソニーだからこそできることであって、さらに我々はデバイスの中身を理解したうえで、そのソフトウェアやAIを作ることもできます。デバイスからAIまで手掛け、他にはできない突出したものが作れる。そして社会に普及していく。そういったことができる可能性があるところにセンサー×AIの魅力を感じます。

—半導体というとなかなかAIのイメージがないのでAIに関心がある方々は躊躇されてしまうかと思われるのですが…

Time of Flight(ToF)方式距離画像センサー(レーザーを照射して返ってくるまでの時間を計測することで物体との距離を測定できるセンサー)やSWIRイメージセンサー(非可視光帯域も撮像可能なセンサー)などをはじめとした情報を取るためのセンサーとAIを組み合わせることで次世代のセンサーを検討することもできます。逆にデバイスを活用してまだ論文には載っていないようなAIの開発も考えられます。そういった研究や開発を率先してできるのはイメージセンサー技術を圧倒的な強みとして持つ会社にいるからこそだと思いますね。

—浴さんが考えるセンサー×AIの今後の展望について教えてください。

様々な光の捉え方をして、『IMX500』をさらに進化させたデバイスを作れると思っています。エッジの分野と言えばソニーと言われるようにしていきたいです。

<編集部のDiscover>
インタビューを終えた後、想像をはるかに超える壮大な話を聞いてしまったなと思いました。そもそもこの企画を思いついたきっかけは、私自身大学院でAIについて学んでいる立場から、センサーにAIを搭載したら消費電力が多くなり熱暴走を起こしてしまうのではないか?という疑問からで。そこから世界にまで話が広がるとは…と、『IMX500』のプロジェクトの規模の大きさと浴さんの新しい領域に踏み込むパワーに終始圧倒されました。私も浴さんのようなパワフルさを身につけていきたいです。


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