ソニーは誰もが感動を分かち合える未来の実現を目指しています。実現に向けた活動の一環として、ロービジョンの方々がカメラを通じて被写体を鮮明に捉え、クリエイティビティの可能性を広げる「With My Eyes」プロジェクトにソニーは深く賛同しています。株式会社QDレーザのレーザ網膜投影技術を応用したビューファインダーを組み合わせたソニーのカメラ(以下「カメラ」)を実際に使用された平塚盲学校高等部1年生(2022年12月時点)の伴威吹さん、ソニーIP&S事業本部にてデジタルカメラのUI/UXデザインおよびアクセシビリティ推進などを担当する佐藤朱示乃さん、株式会社QDレーザ視覚情報デバイス事業部の中村学さんに話を聞きました。
中村:ロービジョンの方から、写真撮影時、焦点を合わせて撮影することが難しいので、スマートフォンで適当に何枚か撮影し、後から撮った写真を拡大して確認しているというお話を聞きました。それですと、「感動した瞬間を切り取る」という写真撮影本来の楽しみが得られていないのではと思いました。ソニーさんと弊社の技術を合わせればロービジョンの方々は写真撮影をもっと楽しむことができるのはないかという思いから「With My Eyes」プロジェクトがスタートしました。
佐藤:ソニーではあらゆる方々の創作意欲に寄り添い、技術で支援することを目指して、アクセシビリティを推進しています。カメラにおいても「撮る」「見る」「共有する」体験を障がいのある方を含め、より多くの方に提供したいという思いで活動を進めてきました。活動の過程で、私たちが提供してきたカメラ体験には思い込みや固定観念が存在し、それらによってさまざまな課題があることを知りました。あらゆる方々に寄り添うための支援方法を広く検討する中でQDレーザさんからお話をいただき、視覚障がいのある方々がカメラ体験によってクリエイティビティの可能性を広げることに少しでも貢献したいと思いました。
佐藤:私は普段、コンパクトカメラや一眼カメラのUI/UXデザインをしているので、ぜひカメラを初めて使ってみた感想を伺いたいです。伴さんにとってどのような体験になりましたか?
伴:自分が見たいものが鮮明に見えることに驚きました。私は眼皮膚白皮症(アルビノ)による弱視で、視力が低いことに加え、光をとてもまぶしく感じるので、外に出るときは専用のサングラスをかけています。すると視界が緑がかって見えるため、サングラスを外して自分の目で見たいけれど外せない…という葛藤がありました。でも、このカメラは自分にありのままの世界を見せてくれるんです。初めて使った時、ファインダー越しに青い空や飛んでいる鳥、街の"本当の"様子など、さまざまな情景が目に入ってきて、大げさではなく、世界ってこんなに綺麗だったんだと感動しました。
中村:第一声で「こんなに見える!」と喜びの声をいただいて、開発している私たちもとても嬉しかったです。
伴:サングラスなしで外の世界を見るということは今まで考えられなかったので、自分にもこんな見え方ができるんだと、とても興奮しました。また、「自分でちゃんと写真を撮れた」という手応えもあって、写真を撮るのってこんなに楽しかったんだ、と新しい体験を得ることができました。
中村:伴さんは、ここがもっとこうなるとよりまぶしさを防げるかもしれないですなど、具体的なアドバイスもくださって、非常にありがたいです。いただいたアドバイスをもとに今後もソニーさんと取り組んでいけたらと思っています。
佐藤:カメラを通じて、たくさんのワクワクに出会ってほしいですし、そういった体験を提供し続けていけるように、私たちも活動していきたいです。伴さんにはこれからもっと写真や動画を撮影する楽しさを体験していただきたいです。
伴:これからも撮ってみたいものはいろいろあります。富士山や森、海などたくさんあるのですが、特に海を撮影してみたいです。サングラス越しで見る海は、水面の光がすべて吸収されてただの水という感じに見えてしまうので、ありのままの海の情景をカメラに収めたいです。あと、月も撮ってみたいです。私にとって月は黄色い何かが浮かんでいるようにしか見えません。このカメラを使って、皆さんが見ているような月の模様を見て、撮影してみたいです。それから、集合写真を撮る側にもなってみたいですね。今までもみんなの写真を撮ってみたかったのですが、自分が撮る側ですと、うまく撮影できず、迷惑をかけてしまうかもしれないと思い、遠慮していました。これからは自分でみんなのいろんな表情を撮ってみたいです。
中村:伴さんとお話しさせていただくといつも感じますが、すごくポジティブで前向きですよね。伴さんは手芸や陶芸などモノづくりにも積極的に取り組まれていますよね。
伴:何かを創ることは好きです。今まで他の人の力を借りていろいろなものを創ったのですが、できれば自分ひとりで完成させたいですし、自分が満足できるところまで突き詰めてやりたいです。写真を撮影する際もついこだわってしまうのですが、これまではピントを合わせて撮るというのが難しく、何枚か撮った後にうまくとれている写真があるかを確認していました。このカメラですと、ありのままの世界を見ながら自分でピントを合わせることができて、納得いくまで写真を撮影できました。「自分でこんなことができるの?」かと、本当に新しい体験でした。
佐藤:ソニーはあらゆるクリエイターの創作意欲を支援することを目指しているので、そういった"自分が満足できるところまで突き詰めたい"という一人ひとりの思いに、これからも寄り添っていけたら嬉しいです。今後、伴さんが挑戦してみたいことはありますか?
伴:動画の撮影や編集に挑戦していきたいです。誰かの誕生日を祝っているシーンなど撮影してみたいですね。また、実はプログラマーを目指していまして、PythonやJavaScriptを少しずつ勉強しています。今後Webサイトなどをつくる時は、自分のカメラで撮った写真を活用して、自分がイメージした通りの世界観を表現したいです。
伴:いろいろな方と私が見た世界を共有したいですし、写真を見せ合ったりもしたいですね。私より重い症状の方もいらっしゃるので、自分がこのカメラを通じて得た新しい体験を、もっと多くの方と分かち合えたら嬉しいです。例えばですが、私は子どもの頃から健常者の兄とよくPlayStation®で遊ぶのですが、兄は視力が良いので、迷惑をかけているのではないか、もうちょっと自分が見えたら対等に戦えるのではないかと考えたことがあります。このカメラの技術を応用してPlayStation®でも使用できるようになると、撮影以外にも幅が広がりそうな気がしますし、いろいろな方に同じ感動を味わってもらうきっかけになるかもしれないと思いました。
中村:伴さんやロービジョンの方のご意見をいただきながら私たちも知恵を絞りたいです。ソニーさんの技術はひとつのプロダクトというだけではなく、横断的にも繋がっていくものだと思いますし、そのような新しいシステムの開発が今後もできるとよいなと思いました。
佐藤:今回、多くの可能性を秘めた世代の伴さんにお話を伺えたことで、カメラ体験によって世界が拡がり、新たな体験に繋がるきっかけになるもしれないことに気づき、ワクワクしました。
新たな価値や意義に気づかせていただき、カメラ体験を多くの方にご提供したい思いをより強くした一方で、視覚障がいのある方々はスマートフォンのカメラを目の代わりの生活ツールとして使われている中、特に一眼カメラは「自分には縁のない」「使いこなせない」商品だと思われているといったお声を度々いただいてきました。しかし、実際にカメラを試していただくと、ファインダー越しに被写体がよく見えることや、オートフォーカスなどの撮影アシスト機能によって「カメラは身近なもので自分にとっても楽しめるもの」と気づかれ、喜んでくださったり、他にも、私たちが取り組んでいるインクルーシブデザインの中で、開発中の試作品に触れていただいた際に喜ばれたり、興奮されたりしている様子は、どれもこちらの想像を超えるものばかりで、さまざまな課題への気づきと同時に、この活動を進めていくことの意義を日々感じています。
引き続き、カメラ体験においてさまざまな障がいがある方も楽しんでいただくために、より多くの方の声に耳を傾け、寄り添い、ひとつひとつの課題に取り組んでいきたいと思います。
今後もソニーはあらゆる立場のクリエイターに寄り添い、誰もが自分らしく、そして感動を分かち合える世界を目指して、製品、サービス、体験のアクセシビリティを高め追求していきます。