新しい“熱意”には、先人の“知見”を。
新規事業立ち上げに必要なノウハウを伝授する
SSAP『イノベーション・アカデミー』がまもなく開校!
「熱意も、能力も、良いアイデアもある。だけど始め方が分からない……。」いざ新しいビジネスを始める決意が固まっても、そもそも何から着手すればいいのか分からない方も多いのではないだろうか。そんな悩みを抱える人を導き、独り立ちできるまで支えるための仕組みとして2014年に立ち上げられたのが、ソニーグループの新規事業創出プログラム「SSAP」。
これまでさまざまな取り組みを通じて、現時点(2023年2月末)で、国内外で23の新規事業をゼロから創出し、社外向けのサービス提供実績が300件を超えているSSAPは、2023年4月23日より「ゼロから事業を創る力」、そして「大企業を動かす力」を学べる場として『イノベーション・アカデミー』を開校する。
『イノベーション・アカデミー』では何を学ぶことができるのか? そもそもSSAPはどういうプログラムなのか?
なぜ貴重なノウハウを社内外に提供するのか?SSAPにまつわる数々の疑問を、『イノベーション・アカデミー』の講師も務めるSSAPの責任者、小田島 伸至(おだしま しんじ)にぶつけてみた。
1.【SSAPって何?】
Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)は、事業の立ち上げ・スタートアップの促進をサポートするソニーグループのプログラム。先が見えない現代において、大企業がどのように新規事業を創出するのか、新規事業組織をどう立ち上げるのかという課題に対して、小田島が始めた取り組み。
これまでも多様なバックグラウンドを持つ経験豊富なSSAPのアクセラレーターが、新規事業の課題に対して適切なソリューションを提供することで、多くの社内外の事業やチームを支援してきたが、そもそもどうしてこのようなプログラムがソニーの中にあるのか?
— SSAPを始めた経緯は?小田島:2012 〜13年、私は事業戦略部門のスタッフを務めており、当時はソニーのビジネスは赤字で課題も山積みでしたが、その中でも特に危惧していたのが、いよいよ黒字になった際に次世代を支える新規事業の議論があまりなされていないことでした。
小田島:さまざまな老舗企業のレポートやビジネス本を読んでいると、多くの欧米企業では、新規事業を生み出せない大企業が抱える課題に対してパッチワークではなく、体系化した仕組みを作って対策していると気が付き、「新規事業創出を持続可能にするにはソニー内にもそのような仕組みが必要なのでは」と着眼したのがきっかけでした。それを当時の経営陣に話したところ、2014年4月よりソニー株式会社(現:ソニーグループ株式会社) にて当時社長の平井 一夫さん直轄組織としてスタートし、CFO(現副社長 兼 CFO)の十時 裕樹さんが上司という形で始めることになりました。
2.【100人に話しかけた最初の1か月】
前職でも一度事業立ち上げの経験がある小田島は、もともとは営業職出身。「人にヒアリングをしながら、課題を見つけ、ソリューションを充てていく」という営業スキルが、SSAP設立の際に役立ったという。
— 最初SSAPはおひとりだったと聞きました。小田島:はい、私だけでした(笑)。最初は社内の現状を把握する必要があったので、私一人で、足繁く色んな人の現場の声を聞きながら、どういうプログラムにしていくか内容を具現化していくところから手がけました。手始めに同僚の方に新規事業やっている人がいないか聞き回り、あてが出来たらすぐメールでアポを取り付け、一人ずつ1〜2時間くらいお話ししました。
小田島:皆さんとお話ししてだいたい課題が分かった後に毎回、「私がもし何か始めたら協力してくれますか?」といった次に繋がる問いと、「こういう話に興味がある、いい人を誰か知りませんか?」と同志をご紹介いただく問いを投げました。そうすると輪がどんどん広がり、気が付いたら1か月で100人くらいの方と会っていました(笑)。
いよいよSSAPをスタートすることが決まった後は、同志たちに「一緒にやらないか?」と改めて声をかけて相談しながら、一人で組み立てていきました。
「新規事業と既存事業の違いは、まるで赤ちゃんと大人?」
— 100人と話して見つけた共通の課題とは?小田島:新規事業と既存事業を両立させるのがすごく難しいことですね。私が思うのは、新規事業と既存事業の違いというのは、子どもの身体と大人の身体みたいな感じで、赤ちゃんと大人は中に入っているものは一緒ですが、規模が全然違う。大企業も新規事業も、ビジネスを回すために必要なファンクションは変わらないのに、大企業だと沢山の人が分業して仕事を回すことができます。例えるなら、肺なら肺専用担当がいて、さらには右の肺役と左の肺役まで分かれている状態。一方、新規事業の場合はスモールチームで回すため一人が何役もやることになります。同じ人が肺も心臓も胃腸も担当して、みたいな感じなんですよね。
あとは、物事を判断する速さも、大企業の場合はたくさんの人を束ねなきゃいけないので、ゆっくりじっくり間違いがないように進めていく。それに対して、スタートアップの場合はその日その日に決めて、決まったらとにかく調整していくっていうスピード感が求められますよね。
規模とスピード感の大きな違いがあって、なかなか共存するのが難しい。だからなかなか大企業の中から新規事業は生まれてこないのです。
「どんなに運動神経が良くても、泳法を知らないと泳げない」
—それでSSAPでは新規事業を始める社員にノウハウを提供するようになったと。小田島:SSAPを始めた当初は、ヒエラルキーや年齢の壁といった色んな問題にぶつかっている優秀な人を見て、そういう人にはチャンスさえ提供できれば、限界突破して自由奔放に事業立ち上げができるのではないか、と思っていました。
ただ、始めてみてわかったのは、その人がすごく優秀で情熱があったとしても、初めから何でもひとりで出来るわけではない。知らないことも多く、サポートが得られない環境にいると、止まって先に進めなくなってしまうことがあって、「これはちゃんとした教育と支援が必要なんだ」という気づきになりました。例えるなら、めちゃくちゃ運動神経はいいのに、泳ぎ方が全然わからない人を海の中に投げ込む感覚に近いなと思って。
ひとつ例として、当時新人だった社員が開発したスマートウォッチの「wena」という商品がありまして、手掛けたのは非常に優秀なメンバーだったのですが、当時はまだまだ若手だった彼らにとっては知らないことだらけでした。
そこに我々からノウハウを提供し、人脈を広げる手伝いをしたことによって、アイデアがどんどん具現化してくるんです。そうすることで新人でも商品が出せるっていうのが見えたので、これを一つの契機で、アクセラレーションプログラムっていうものを充実させていくきっかけになりましたね。
その時に、もうひとつ気づいたのが、「wena」を手掛けた担当者はその年に入ったばかりの新入社員、つまり、半年前まで大学生だったことを考えると、実質「ソニーの人」ではなく「外の人」なんですよね。言い換えると、ソニーが10〜20年かけて育てた人ではないと。そうすると、これは外部の方への育成支援とほとんど一緒だ、外部の方向けにも支援を提供できるかもしれないと思うきっかけになりました。
当時、社内向けの取り組みで留めていたところ、外部からの取材が殺到して、その結果色んな企業から「どうやっているんですか?」「サポートしてくれませんか?」といった声が沢山届き、本格的に外向けにも視線を向けるようになりました。
3.【どうして貴重なノウハウを外に持ち出すのか?】
こうして社内に限らず、他社への事業支援のサービスも展開するようになったSSAP。しかし、社内の貴重なノウハウはいわば、会社にとっての「秘伝のタレ」。それを社外に提供してしまっていいのだろうか。
— 社外向けにもノウハウを提供する意図は?ソニーとして損はしないか?小田島:社内だけじゃなく、社外の方もサポートした先に一緒に組むことができる、と思うようになりました。新規事業というのは、結局は「アイデア」と「熱量」だと私は思います。そして、<span class="fb">ソニーの中だけでやっていると社員10万人規模のアイデアで留まってしまいますが、社外の方を巻き込むことによって、アイデアも熱量も億単位に変わりうる</span>のです。
そうなると、優れたアイデアや人材に出会う確率が高くなりますし、その中で、外部の新規事業開発に関わることができるので、SSAP自体の経験値やスキルも物凄く増えていくのです。
また、ソニー内では最も新しいアイデアも、実は既に他社に先を越されていて、ここから追い抜くのは厳しいなぁ、と諦めてしまう時があります。それも視点を変えれば、外部で成功例があるのであれば、そこと組んでソニーの強みを提供し、さらに新しいものを創っていく、というやり方に変えるべきだと常々思っていました。
ひとつの良い例としては、グループ会社のソニー・イノベーションファンド(SIF)の投資先ベンチャー企業への支援ですね。SIFの投資案件がSSAPの支援によって成長すれば、事業の成功確率が上がり、事業の価値が高まる。結果的にSIFはリターンを得られることになります。他にもSSAPが支援している企業に、投資先の会社のサービスを紹介したところ採用された、というありがたいことにも繋がりました。
つまり、外部にノウハウを提供することの一番のメリットは、
1.事業開発のノウハウとスキルが強化されて、それをソニーに還元できることと、
2.ソニーと他社の結合の機会を創れること、ですね。
実はこれらの取り組みが評価され、政府からもオープンイノベーション推進企業と認められて、今年度経済産業省の特許庁から賞をいただきました。私たちの働きを見てもらえていることがとても嬉しかったです。
4.【新規事業の仕組みの作り方から学べるイノベーション・アカデミー】
これまではさまざまな要望に応じて支援を提供していたSSAPが、ついに今年の4月より新たなサービスとして『イノベーション・アカデミー』を開校する。プログラム参加者は大企業内で新規事業を生み出すために必要な、「ゼロから事業を創る力」と「大企業を動かす力」を半年間で学ぶことができるとのことだが、具体的にはどういうことを教わるのか、内容について迫った。
— 『イノベーション・アカデミー』ではどういったノウハウが学べるのでしょうか?小田島:私が講師を務めますが、本プログラムにご参加いただける方にはできるだけ私の実経験で培ったノウハウを提供できればと思っております。ひとつ目にご提供できるものとしては、私自身がソニーの既存事業の中で、ゼロから3年で300億円事業立ち上げをする中で学んだノウハウです。ふたつ目は、大企業の中で新規事業が生まれる仕組みを作り、23の新規事業を創出した実体験から得た新規事業創出の「仕組み」の創り方と、新規事業を創出し拡大するためのフレームワークと実践テクニックです。これらの内容を2冊の専用テキストにまとめたので、イノベーション・アカデミーでは私の20年以上の経験を6か月間に凝縮して皆さんにしっかりとお伝えできるのではないかと思います。
新規事業で重要なことはイノベーションを起こすオリジナリティあるアイデアであることも事実です。ただ、それを実現するためには、そのアイデアを事業化する術を理解することが大切です。
「社内起業家に必要な五つの“能力”」
小田島:一人でできることは限られているので、新規事業に対しても組織として総合的に体系立てて対処していくことが必要なのだと思います。日本サッカーの飛躍的な成長を例にあげるならば、一人のスーパープレイヤーだけの力ではなく、Jリーグという「仕組み」を導入して30年の歳月をかけて徐々にサッカー選手の底上げを図ることによって成長を実現しましたが、老舗企業や成熟した社会における新規事業はまさに同じアプローチが必要だと思います。
それに加えて、個人が社内起業家として身につけるべき能力は以下の5つあると考えています。
「起業力」は大企業の中にいると身に着ける機会は少ないですが、まだ世の中にない枠組みを創っていく新規事業には必須です。
また、多くの関係者とさまざまなことをひとつずつ擦り合わせながら進めなければならないので、「協働力」も重要です。企業の中で活躍されているマネジメントにはこうした協働力・調整力が優れている方が多いと思います。
「実行力」はソニーの真骨頂で、ソニーのファウンダーの一人である盛田 昭夫氏の言葉を借りるなら「アイデアを思いつく者はたくさんいるけれども、それを実際にやる勇気を持った者が少ない」ということですね。
そして、目の前のことを部分的に取り組むことが得意な方は多いですが、総合的に全体を組み立てるスキルが「構想力」。これも事業の拡大において避けて通れません。
最後の「人間力」は、チームで物事を進めるには欠かせない能力ですが、培うためにはやはり自分事として真剣に取り組み、苦労しなければなりません。これらをどう身に着けることができるのか、詳しくはイノベーション・アカデミーでお話しできればと思います。
「誰もがイノベーティブなアイデアを生み出す可能性を秘めている」
— 最後に、新規事業に挑戦する一番の魅力を教えてください。
小田島:新規事業支援に挑戦し始めて自分の中で大きな変化がありました。それは“世の中の森羅万象が全部ヒントに見える”こと。まさに、世の中が10倍ぐらいカラフルに見える感覚ですね。間違いなく人生が百倍楽しくなります。これらは新規事業に関わるうえで一番の醍醐味ではないかと思います。
というのも、クリアなVisionとPurposeさえあれば、苦労は苦労でなくなり、全てが“学び”に変わるんです。日々さまざまな課題にぶつかりますが、それらはVisionに向かうまでの布石であり、必然として出くわす学習ネタと感じられるようになります。その楽しさをぜひ皆さんに感じていただきたいです。
あとは、新規事業を通じて、ある種のトーレランス(=耐久力、寛容さ)が備わりますね。未知のものや新しいものに直面した時に感じる不安への耐性がつくようになり、先を読む、あるいは先を作っていくというマインドになります。
今まで長々とお話してしまいましたが、改めてSSAPのPurposeは「あらゆる人の発想を実現させ豊かで持続可能社会をつくる」ことです。これを実現可能にするために、誰でも実践できるシステムを作りあげることがSSAPのVision。2018年からは社外にもサービス提供を開始、ソニーがきっかけで社内社外関係なくグローバル全体でアイデアの実現に貢献しています。SSAPでこうしたアプローチを続け、関わる人々が増えれば増えるほど、アイデアと熱量は膨らみ、新規事業の事業化への確率、スピードを上げることができるのです。
さらに、もうひとつの重要なポイントとしては、こうした活動を続けることで社会全体で個人の心が豊かになり、幸せになるということです。目の前の課題を解決することで会社や社会の役に立つと実感できることは、本人にとって計り知れない原動力となり、充実感を与えます。そして、間違いなく言えることは誰もがイノベーティブなアイデアを生み出す可能性を秘めていることです。みながこれを解き放ち活用することでイノベーティブかつ、クリエイティブな解決策を社会に提供できると思います。
—まさに、ソニーのPurpose「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」にも通ずる考え方ですね。
小田島:多くの方の頭の中でタンス預金化してしまっているクリエイティブなアイデアを世の中へ還元してほしいと強く願います。SSAPとしてその支援を行うことで最終的に日本一新しい“もの”を生み出すプログラム、組織となることを狙っていきたいです。
5.【イノベーション・アカデミー、まもなく開校!】
SSAPは、大企業で新規事業を生む仕組みと人材を創る『イノベーション・アカデミー』の参加受付を2023年4月2日まで行っております。
『イノベーション・アカデミー』は今回が初めての開催です。企業で新規事業に携わる方々を対象に、これまでSSAPが蓄積してきた新規事業のノウハウを共有します。より多くの企業が新規事業の専門組織を立ち上げ、新たな事業を創出することにより、共に新しい社会を創ることを目指しています。
参加者は、大企業内で新規事業を生み出すために必要な、「ゼロから事業を創る力」と「大企業を動かす力」を半年間で学ぶことができ、講師はSSAPの責任者 小田島 伸至が務めます。実体験に基づいたノウハウや事例をまとめたオリジナルテキストを使用し、「新規事業の専門組織の立ち上げ方法と社内稟議の通し方」や「新規事業の立ち上げに不可欠な施策と心構え」など、SSAPだからこそお伝えできるさまざまなコースを用意しています。
【『イノベーション・アカデミー』概要】申込期間:2022年12月12日(月)〜2023年4月2日(日)
開催期間:2023年4月24日(月)〜9月28日(木)
開催方法:オンラインLIVE配信(一部リアル同時開催)
コースや申込方法の詳細はこちら