SONY

ソニーのデザイナーが考える「心地よい空間」とは?
米国デザインイベント「NYC×DESIGN Festival」出展

ソニーグループのデザイン部門であるクリエイティブセンターは、グローバル家具ブランドのステラワークスと「NYC×DESIGN Festival(ニューヨーク・デザインフェスティバル)」(5/19-5/25)に出展。「STAYDREAM-a surreal reality <幻想と溶け合うリアリティ>」をテーマに、センシングテクノロジーを取り入れたさまざまなインタラクションや家具のプロトタイプを展示しました。
自らをソニーの“クリエイティブハブ“として位置づけ、今やプロダクトデザインにとどまらず、グループ内外の事業間連携も推進するクリエイティブセンター。今回は本プロジェクトをリードした田幸宏崇に詳しく話を聞きました。

ー今回なぜ、ニューヨークのデザインイベントに初出展したのでしょうか?
グローバル家具ブランド・ステラワークスさんとのコラボレーションの経緯を教えてください。

これまで、クリエイティブセンターでは、「ミラノデザインウィーク」や「ロンドンデザインフェスティバル」に参加し、人に寄り添うテクノロジーのあり方や、そのインタラクションはどうあるべきかという問いに取り組み、展示を行ってきました。

ソニーグループが、拡張現実や仮想現実、さらにはモビリティや宇宙にまで事業領域を広げる中、最近では、感動空間の拡張をテーマにしています。昨年は「ロンドンデザインフェスティバル」でVRゴーグルをかけずにバーチャル世界を体験できる「INTO SIGHT」という展示を行いましたが、今回はそれをさらに具体的な形で生活空間へ展開することに挑戦しました。

ただ、生活空間に欠かせない家具についての知見をソニーは持っていません。そこで、長年に渡り親交があるステラワークスさんとコラボレーションしてプロトタイプを制作し、またインテリア業界やホスピタリティ業界の方々の反応を知るため、ホスピタリティのビジネスの本場であるニューヨークのデザインイベントに出展しました。

田幸宏崇(たこう ひろたか)Creative Director / Head of Sony's Design Centre Europe
2003年にソニー入社。06年から4年半英国に駐在し、欧州向け製品の開発やデザイン、2度のミラノサローネ出展に携わる。帰国後はテレビなどホーム・オーディオカテゴリー、R&Dおよび新規カテゴリーにおけるプロダクトデザイン、コミュニケーションデザイン、ユーザーインターフェースデザインを含む包括的なクリエイティブディレクションを担当。20年より現職。

ーどのような展示を行ったのでしょうか?

展示のテーマは、「STAYDREAM - a surreal reality <幻想と融け合うリアリティ>」です。
“STAY”は現実や滞在、“DREAM”は白昼夢や夢空間が由来です。

一般的にホテルのようなホスピタリティ空間は、少し現実から離れた夢のある空間ですよね。ソニーの音響やセンシングなどのテクノロジーを使って、リアルだけど現実から少し解き放たれた空間を生み出すことに挑戦しました。ステラワークスさんのブランドのビジュアルの中に、自然の中に家具が置かれているものがあるのですが、そこからヒントを得て、屋内空間に屋外の自然の雰囲気をバーチャルな形で持ち込む、というコンセプトを生み出しました。

具体的には、ステラワークスさんのショールーム全体を使った展示会場を7つの体験ゾーンで構成し、各所にソニーのデザイナーがデザインし、ステラワークスさんが制作した家具のプロトタイプを展示しました。「BYOBU BED(Concept)」や「BYOBU Display (Concept)」、「BYOBU Partition (Concept)」と名付けられた一連のプロトタイプは、日本の伝統的な屏風の機能性にインスパイアされたもので、センシングや音響・映像のテクノロジーを取り入れています。現代のインテリアにシームレスに溶け込むように、穏やかな風景、起伏のある丘など自然界で生まれた彫刻のようなフォルムからインスピレーションを得てデザインしました。

「BYOBU Bed (Concept)」は、ベッドの中にテクノロジーによる心地よい体験が溶け込み、それすらも感じさせないというものを目指しています。ベッドで楽しめるデジタルコンテンツはいずれも自然を想起させるもので、さらに来場者の動きに合わせてリアルタイムで映像や音響が変化するようなインタラクションも取り入れています。また、ベッドに使われるファブリックの質感や寝心地、足の伸ばし方やマットレスのサイズ感、枕の角度に至るまで、ステラワークスさんから学びつつ、体験全体として心地よいものになるように吟味しました。

ステラワークスCEO・堀さんの長年の夢でもあったという「BYOBU BED(Concept)」。ベッドにホームシアター機能がインストールされていれば、ベッドを置くだけでダイナミックな音響と映像に包まれながらお酒なども一緒に楽しめて、且つそれがプライベートな空間となり、そのまま眠ることもできてしまう、という贅沢な体験を形にしている。

また、「BYOBU Display (Concept)」は一見何の変哲もない石の板のように見えますが、ディスプレイが内蔵されていて、人が近づくと、石の壁から外の風景や雨が映し出されます。「BYOBU Partition (Concept)」は木やファブリックの板に内蔵されたサウンドテクノロジーによって、まるで自然の中にいるかのような心地よいアンビエントな音と雰囲気を生み出します。いずれも木や石の板にテクノロジーを溶け込ませるイメージでつくりました。

「BYOBU Display(Concept)」は一見、大理石のような仕切りだが、室内にいながらもまるで外の世界をのぞき込んでいるかのような幻想的な体験ができる(写真左)。来場者の動きに合わせて都会的なアートが映し出される(写真右)。ソニー株式会社技術開発研究所と協力して制作された。

さらに、ステラワークスのベストセラーの「エブリデイ」というペンダントライトと、ソニーのセンサーを組み合わせた「FEAST OF LIGHT」という体験ゾーンでは、天井に設置したセンサーが人の動きを感知してペンダントライトの照明が移り変わり、それに合わせてリアルタイムで生成された優しい音楽が、「BYOBU Partition (Concept)」から流れます。人の動きによって変わるので、毎回毎回、流れてくる音楽が違います。これは、鳥の群れが止まっている大きな木の下で食事をするようなイメージでデザインしました。

「BYOBU Partition (Concept)」とステラワークスの「エブリデイ」ペンダントライトの演出によって、あたかも鳥の群れが集う大木の下にたたずんでいるかのような安らぎの雰囲気に包まれる。

「エブリデイ」のような既存のインテリア商品も、テクノロジーによって、全く新しいインタラクティブな体験をつくれることを示したかったのです。インタラクティブな体験は、ゲームやバーチャルの世界では当たり前ですが、日常の現実世界にもインタラクティブな仕掛けがあったら楽しいですよね。例えば、机で仕事をしていて、一休みするときに腕を上げて伸びをしたら、鳥がバタバタと飛んでいくような音がするとか…。

「会場に入ってまず見えるのが、「BEYOND WALLPAPER」というリビングルームをイメージした展示。テーブル上のコーヒーカップを動かすと、壁に投影された月が動いたり、砂時計を覆すと壁の映像が切り替わるなど、現実とバーチャルを融合させた没入型コンテンツ。サラウンドサウンドによって、ダイナミックで幻想的な風景が楽しめる「BYOBU Partition (Concept)」はラグジュアリーなホテルやクリエイティブなオフィス空間の共用部での使用を想定しているという。

ー展示の反響はいかがでしたか?

おかげさまで大変好評でした。インテリア/ホスピタリティ業界の方に興味を持って頂いたり、あるホテル経営者の方が、当事者として、「この体験を自分のホテルに取り入れたい」と言ってくれたのは、素直に嬉しかったです。ニューヨークには、新しい体験に対して積極的で、価値あるものを認める環境があるのだと改めて実感しました。

ーどのような学びがあったのでしょうか?

今までソニーとあまり直接関わりがなかった、ホテルやレストランなどを始めホスピタリティ業界の方からのフィードバックを通じて、ベッドや椅子など歴史のあるインテリアというジャンルでも、デザインやテクノロジーで貢献できることが、まだまだたくさんあることが分かりました。

また、来場者の方の体験の仕方を拝見すると、映像や音といったデジタルコンテンツを体験しながら、同時に肌に触れているベッドの素材を確かめたり、木やファブリックの質感を確かめるなど、五感をフルに使って体験を楽しまれているようでした。

これを見て、体験全体のデザインを考えた際、ソニーは映画のコンテンツやそれをお届けするプロダクトはつくっているものの、それを楽しむ空間である映画館をつくっていないことに気がつきました。今後映画館のようにコンテンツを体験するための空間全体が、デザインの対象になるのかも知れません。ソニーでは、モビリティ空間のデザインも手掛けていますが、それに近いのかも知れませんね。

ー今後の展開を教えてください。

今後も引き続き、インテリア業界やホスピタリティ業界など社外の方との対話を通して、デザインとテクノロジーが人の生活に貢献できる部分を見つけていきたいと思っています。
また、今回得られたフィードバックを、クリエイティブセンターだけでなく研究開発や事業側にも共有して、事業間連携の“クリエイティブハブ“として、製品/サービス開発にも生かしていきたいと思います。

今回に限らず、デザイナーやエンジニアにとって、他社とのコラボレーションや海外イベントの出展は、外からの刺激を吸収して、自分たちのことを改めて知る非常に良い機会です。今後も、社内外の方とのコラボレーションを通じて、人とテクノロジーの心地よいあり方を探っていきたいと思います。

ステラワークス創業者、CEO 堀雄一朗氏からのメッセージ

ステラワークス創業者、CEO 堀雄一朗氏(左)、
本プロジェクトをリードしたCreative Director / Head of Sony's Design Centre Europeの田幸宏崇(右)

今回のコラボレーションを通じて、プロダクト開発のアプローチが全く違うことに驚きました。例えばソニーでは、製品づくりの際、内部にどのコンポーネントを使い、それに合う部材のサイズや規格を検討し、その内部設計に合わせて外装のデザインを構築しますが、これは我々とは全く逆のプロセスです。こうした異業種間での開発アプローチの違いから生まれる気づきを、どのようにイノベーションにつなげていくかが、今後新規事業をする上で非常な重要になると思います。また当然ながら、発想力、推進力、スピード感、情熱、ディテールへの拘り、そして人と違う価値観を持つメンバーでチームを編成することが大切です。そういった意味でも、今回田幸さんをはじめソニーの皆さまと、異業種間コラボレーションを実現できたことに大変感謝しています。

イノベーションの実現には、単に新しい技術を開発するだけでなく、既存の技術を違う業界や用途で使うことにも、多くの潜在的なチャンスがあると思います。また、バーチャルとリアルの世界の融合は、現実的な生活空間に夢を与え、デザインの領域を更に広げます。我々のインテリアデザイン業界は、主には空間系とモノ系のデザインで構成されますが、これに五感で感じられるソニーのデザインと技術が加わることで、より深みのある体験型の空間創造につなげられるのではないかと感じています。