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クリエイターが捉える「真実の価値」を守りたい 〜リアルタイム技術でフェイク画像に挑む〜

ソニー株式会社 クラウドサービス・アプリケーション技術部門 プラットフォーム2部の平塚 陽介さん、ソニー株式会社 イメージングエンタテインメント事業部 クラウドビジネス室の下川 僚子さん

目覚ましいAIの進化により新しい表現の可能性が広がる一方で、フェイク画像や虚偽情報の拡散が世界的な社会課題となっています。今年の経営方針説明会で会長 CEOの吉田は、「撮影する人、クリエイターが現実世界を『ありのまま』に捉えることの意義は大きい」と述べ、ソニーが注力するリアルタイム技術によって、撮影データの「真正性(Authenticity)」を検証する「真正性カメラソリューション」を紹介しました。今回は、その開発の背景や担当者の想いをお届けします。

本物とフェイク 〜真実を捉える写真の価値

近年、AIを活用した写真加工アプリケーションソフトウェアの進化や普及が進み、誰もがパソコンやスマートフォンなどで手軽に高度な加工を画像に施せるようになりました。これにより、新しい表現の可能性が広がる一方、フェイク画像の拡散は社会的な課題となっています。ソニーでカメラの撮影・加工・暗号機能の開発に取り組んできた平塚 陽介は、「本物」を検証することの重要性を考えるようになりました。

「もし本物とフェイク画像とを見分けられなくなるとどうなるか——」。平塚の頭に真っ先に浮かんだのは、カメラ開発を通じて、長年交流を深めてきたフォトグラファーたちの顔でした。「彼らが撮影した写真には、真実を伝えたいという想いや、その一瞬を捉えるために費やしてきた膨大な時間や努力など、これまで彼らが積み上げてきたすべてが込められています。しかし、本物とフェイク画像の区別がつかなくなると、その価値は一瞬で崩れ去ってしまう。彼らの写真に宿る真実の価値、すなわち『真正性』を守らなければなりません」と、平塚は使命感を口にします。

カメラクラウド事業を統括する下川 僚子は、真正性を検証する意義を、「カメラメーカーとして、クリエイターのために、ソニーの技術を使ってどう貢献するかは大事なミッションです。また、表現の可能性を広げるAIを、より安全に活用してもらうことにもつながります」と話します。

真正性のカギを握るリアルタイム

こうした背景をきっかけに開発されたのが、一部の報道機関向けに提供を始めている「真正性カメラソリューション」です。これが導入されたフルサイズミラーレス一眼カメラ『α1』、『α9 III』、『α7S III』、『α7 IV』では、撮影時、「実際にカメラで撮影された」ことを示す情報がカメラ内で画像にデジタル署名として埋め込まれます。この署名技術の特長は撮影時にリアルタイムで付与されることであり、それこそが真正性を証明する重要なカギであると平塚は語ります。
「例えば、撮影後に一度パソコンに画像を取り込んで署名を付与する場合、その間に加工・編集されてしまう可能性があります。撮影時にカメラ内で即座に署名が付与されればその懸念はありません」。

下川はリアルタイムの価値について、「撮影の瞬間から時が経つほど、フェイクが生成される隙ができます。その隙を与えぬよう、被写体がイメージセンサーに映った瞬間のリアルタイムな処理を実現できるのは私たちの強みです」と強調します。

さらに、写真が本物であることを検証するには、署名技術に加えてもう1つの欠かせない要素があります。それは、撮影している被写体が「本物」であるか否かを判断できるか、という点です。この要素を実現できないと、フェイク画像や映像を、カメラで撮影しているにも関わらず、「本物」だと認識してしまうという落とし穴があります。

それを解決したのが、ソニー独自のセンサー内技術によって実現した3D深度情報の識別処理でした。ソニーセミコンダクタソリューションズで手掛けているCMOSイメージセンサーの強みが発揮されています。「署名技術に加えて探求していたミッシングピースが埋まった」と平塚が振り返るこの技術は、実存する三次元の物体か、もしくは二次元の画像や映像か、どちらを撮影したのか検証することができます。

下川は「ソニーには、それぞれの開発者が互いの技術で何ができるのか議論できる環境が整っています。このリアルタイム技術は、まさにグループ間のつながりで実現したものです」と、グループの強みを語りました。

※ 2024年6月28日現在

クリエイターと真摯に向き合い続けたい

ソニーはフェイクニュースという喫緊の課題に取り組むクリエイターや報道機関のフォトグラファーたちに寄り添い、現在も真正性カメラソリューションの更なる改良に向けて、現場からのフィードバックを生かしています。下川は「真実の価値を守りたい。そして、更に多くのユーザーに提供できるように彼らと検討を続けていきます」と、今後を見据えています。

さらに、この真正性カメラソリューションは、デジタルコンテンツの出所と信ぴょう性に対し、オープンスタンダードと技術仕様を策定する標準化団体であるC2PAの規格に対応。これにより、C2PA準拠のソフトウェアで画像の編集作業を重ねても、編集来歴情報とカメラで撮影されたことの真正性情報を維持できるようになりました。これはC2PAの運営委員会に参画し、業界標準の策定に貢献してきた成果と言えます。

包括的なサポートで、コンテンツの透明性を、受け手に届く最後の瞬間まで守りたい——。想いの裏にあるのは、ソニーの企業文化として根付くクリエイターファーストの姿勢です。「私たちの生み出した商品を使ってくださる方々を理解するため、直接対話する機会を増やしています。真剣に創作活動に向き合っているクリエイターを間近で見ているからこそ、貢献したいという気持ちが自然と沸き上がります」(下川)。

フォトグラファーに寄り添う想いと、グループの技術を結集したリアルタイム技術によって実現した真正性カメラソリューション。ソニーは今後もリアルを追求するソリューションを育て、クリエイターや社会に貢献していきます。