アフリカ大陸の南部内陸部に位置するマラウィには、古くから口頭で伝えられてきた民話や民謡がたくさんあります。しかし「口伝」のため、書物や音声など記録として残されているものがほとんどありません。語り部の高齢化が進むなど、伝承が難しくなっているこの貴重な無形文化を保護し、次世代の子どもたちに伝えるために記録に残す、それがマラウィ民話プロジェクトです。
マラウィ共和国は、南部アフリカ内陸部に位置し、東にタンザニア、南にモザンビーク、西にザンビアと国境を有する人口約1500万人の国です。国民の約40%が1日1USドル以下で暮らしており、15歳から24歳までの人口の識字率は約82%。労働人口の約80%以上が村落部に暮らし、農業に従事しています。
(情報ソース:UNDP 国際人間開発指標)
マラウィには約16の異なる言語を持つ民族が共存し、各民族が先祖代々伝わる民話を持っています。これらの民話や民謡は、マラウィに住む人々にとって生活の中心であり、暮らしにおいて重要な役割を担っているのです。しかし、そのほとんどはコミュニティの中で社会的モラルの教育や幼児教育の手段として口頭で語り継がれてきているもので、書物や音声で残されているものは少ないのが現状です。
近年、これらの民話あるいは民謡の「語り」を実演可能な人材の老齢化や生活習慣の変化により、口頭伝承の文化は、衰退、消滅の一途をたどっています。そしてまた、このような伝承芸術文化を保護する活動が行われてこなかったため、今まさに文化消滅の危機を迎えてようとしています。
自然、そして伝統に対する敬意
「もともとマラウィの人々は自然、そして伝統に対する敬意を大切にしてきました。伝統に対する敬意とは、木々、動物、川、石、山々など、全てのものに命があるという長老たちの世界観における信仰に基づくもので、民話においては、人間とそれ以外のものの間での意思疎通を意味し、山々、木々、あるいは石は魂の住処だと信じられていました。今日、このような敬意が失われてしまったため、理不尽な樹木の伐採や聖地の破壊、口頭伝承への無関心が始まったのです。」
無形文化遺産専門家 ムズズ大学 ボストン ソーコ教授
※ソーコ教授は本分野の専門家として、マラウィユネスコ国内委員会のアドバイザーをつとめています。
マラウィの民話や民謡の多くには、古くから先人たちが大事にしてきた自然や伝統に対する敬意が込められています。民話や民話の実演を記録として残すことは、この貴重な文化 ー民族の伝統ー を次の世代へ引き継いでいくという意義があります。ソニーはこのようなプロジェクトの主旨に賛同し、ユネスコおよびGFCTからの要請のもと、映像や音声記録を残すための機材提供をはじめ、それらの機材を現地のエンジニアが扱えるように技術指導を行っています。
■マラウィ国立図書館 館長
グレイ・ニャリ
民話は私たちの文化を伝承する上で、重要な役割を担っています。記録されたマラウィの民話により、国立図書館の情報資源が充実し、デジタル化により利用者のみなさんと共有できることを大変嬉しく思います。これらの民話が国内でテレビ放送される日を楽しみにしています。
■マラウィ国立図書館 開発情報センター長
ジョージ・キシンド
民話や寓話は、各文化でその価値観や知恵を代々受け継ぐために使われてきた最も古い教育手段の一つです。伝統的な民話に基づく口頭伝承は、賢い行動・愚かな行動双方の顛末を、創意工夫に富んだシーンで示すことにより、若者たちにとって価値観や自己を形成するための「しるべ」となっているのです。
■マラウィ国立図書館 ICTスペシャリスト
チムウェムウェ・スマニ
私が6歳の頃、初めて我が家にテレビが来るまでは、家族みんなで火を囲み、母が語る民話に耳を傾けたものです。そんな民話の数々を今度はテレビで放送する。このプロジェクトは最新の技術と伝統を融合し、民話口伝の伝統を次の世代へと受け継いでいくものだと思います。
■技術チーム
トリストラム・ジョンソン、ボストン・マチカ、マシュー・カトレザ、
チムウェムウェ・スマニ、シェファード・ピリ
ソニー提供の映像機器は、記録の質的向上だけではなく、技術チームの知識向上にも貢献しています。
■マラウィユネスコ国内委員会
C J マゴメロ
文化なき国家に価値はありません。民話には、私たちが守るべき、この文化の基本原理があります。
■グローバル フューチャー チャリタブル トラスト(GFCT)
荒尾 静
ソニーの技術トレーニングを受けたプロジェクトチームは約2年間をかけて全国をまわり、口頭伝承の民話の収集、記録活動を行っています。記録された映像、音声は今後マラウィにおける幼児教育、初等教育の分野で子ども達のライフスキル教育にいかされるだけでなく、アフリカの大地で語り継がれてきた英知とメッセージを世界へ向けて発信するツールとして活用される予定です。マラウィでの経験を基に周辺の南部アフリカ地域にもこのプロジェクトを広げていきたいと考えています。
■グローバル フューチャー チャリタブル トラスト(GFCT)
GFCTは人々の人生におけるチャンスを増やし、自己決定能力を伸ばす手段として、継続的な人間開発を通した社会変革を目指しています。
■マラウィユネスコ国内委員会
マラウィユネスコ国内委員会は、教育・科学・社会人間科学・文化・コミュニケーション等のユネスコの専門分野において、ユネスコと関連省庁、高等教育機関、市民社会団体の間の交流を調整するために設置された法定団体です。