ソニーでは、2050年という長期での環境計画「Road to Zero」のもと、「環境負荷ゼロ」の実現を目指しています。その達成に向けて5年ごとに環境中期目標を策定しており、現在は環境中期目標「Green Management 2020」 (2016-2020年度) のもと、着実な取り組みを進めています。「再生可能エネルギー導入の加速」を重点項目のひとつとして掲げ、事業活動での使用電力を100%再生可能エネルギーにすることを目指した国際イニシアチブ「RE100」に加盟。新たなエネルギー利用の可能性を追求するソニーの挑戦が始まっています。
RE100とは、地球温暖化防止に向けて、環境NPOのThe Climate Group※1がCDP※2とのパートナーシップの元で運営する国際イニシアチブです。加盟企業には、遅くとも2050年までに、自社事業所の事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで調達することが求められています。
ソニーは、「Road to Zero」の歩みをさらに加速させるために、2018年9月にRE100に加盟。全世界のソニーグループの自社オペレーションで使用する電力を「2040年までに100%再生可能エネルギーにする」ことを目標に定めました。
現在、ソニーグループ全体での再生可能エネルギー電力 (再エネ電力) 利用比率は約5%。欧州の事業所ではすでに2008年度に100%を達成するなど、グローバルでは再エネ電力利用の拡大が進む一方、半導体事業による電力消費量が多い日本での対応は課題です。ソニーグループから排出された全温室効果ガス (GHG) に対し、CO2排出量換算で日本から排出されたGHGが83%を占めるという現状を鑑みても、日本での取り組みを加速することが、目標達成には欠かせません。
RE100達成に向けたロードマップとして、まず2030年までに日本・米国・中国の事業所で再エネ電力の導入を拡大し、かつ他地域でも展開を進め、再エネ電力比率30%を目指します。米国については、グローバル目標より前倒しの2030年に100%達成という地域目標を掲げています。2030年以降は、さらに日本での導入を加速させることで、目標である2040年グループ全体での100%達成を実現します。
ソニーは、日本における再エネ電力の調達と拡大について、次の3つのアプローチで取り組みを進めています。
1つ目が、太陽光発電設備の導入です。ソニーでは世界のさまざまな事業所で太陽光パネルを積極的に導入しており、日本の半導体工場においても自家発電により再生可能エネルギー比率を高めています。2019年にはソニーセミコンダクタマニュファクチャリング 熊本テクノロジーセンターで5,760枚の太陽光パネルを設置し、年間見込み発電量124万kWhという大規模な発電設備の稼働をスタートさせました。
2つ目が、電力会社などからの再エネ電力の直接購入です。2017年度に東京電力エナジーパートナー (株) より、水力発電電力のみを販売する国内初のプランが提供され、ソニーはその最初の導入企業となりました。さらに、2019年5月には九州電力 (株) からも水力発電・地熱発電による電力の購入をスタートしました。
3つ目が、「グリーン電力証書」の活用です。「グリーン電力証書」は2001年にソニーが電力会社と共同開発した仕組みで、企業・自治体などがコストを負担し、再生可能エネルギーによる発電を日本各地の発電所に委託するものです。発電した電力は発電所の近隣地域で販売され、委託した企業・自治体などには「グリーン電力証書」が発行されます。これにより、企業・自治体などは遠く離れた場所でも再生可能エネルギーの普及促進に貢献できるとともに、発電相当分の再エネ電力を実際に購入・利用したとみなされます。ソニーは現在も、「グリーン電力証書」の日本最大規模の導入企業となっています。
ソニーの半導体デバイス事業においてCMOSイメージセンサーはIoTやAI、自動運転などの発展を支え、ソニーが長期視点で生み出す社会価値の創出には欠かせないキーデバイスです。
一方で、CO2排出量が最も多いのも主に日本にCMOSイメージセンサーを始めとする半導体デバイスの製造事業所を持つイメージング&センシング・ソリューション事業です。半導体デバイスは、製造時にクリーンルームでの空気中のごみやほこりの混入防止や温度・湿度の調整など厳密な管理が欠かせないため、大量のエネルギーを消費します。また、製品をつくる生産装置や設備そのものも大量の電力を必要とします。さらに、高い生産性を維持するため、安定した電力の確保が欠かせません。
このような背景もあり、太陽光発電は天候に左右される性質上、重要な生産設備などへの直接利用は避け、工場内でのその他のエネルギー源として利用しています。安定電源が求められるところにはグリーン電力証書を活用するなど、エネルギーの特性に応じた使い分けを行い、生産性と環境負荷削減を両立させる工夫をしています。
半導体デバイス事業の成長と環境負荷の低減、特にCO2排出量削減についてトレードオフの関係ととらえるのではなく両立させるにはどうすればよいか、それを考えていくことが重要であるとソニーは考えます。
既存の3つのアプローチに加え、ソニーは電力会社とのパートナーシップのもと、再エネ電力の「自己託送制度」も実現する予定です。本制度は、太陽光発電設備などの自家発電設備で得た電力を、電力会社の送電網でつなぎ、自社拠点間で電力を融通しあう仕組みです。これにより、電力を必要とする拠点へその他の拠点の余剰電力を供給できるようになるなど、発電した電力を無駄なくタイムリーに活用することができ、再生可能エネルギーの使用比率をさらに高めることが可能になります。
また、ソニーは2019年、デジタルグリッド (株) へ出資し、同社が整備を進めるエネルギープラットフォーム事業に参画しました。同社は、家庭が太陽光発電などで発電した電気を任意の相手に販売し、企業が再エネ電力を選んで購入できるスキームを持ちます。プラットフォームにおける取引記録をもとに「ある条件下では、どれくらいの電力が必要か」など細密な需要予測も行い、需要に対する発電量が最適化されれば、より低価格な電力の提供も可能となります。このプラットフォームによる電力取引を通じて、低価格かつ大量な再エネ電力の有効利用を実現できるとソニーは考えています。
このようにソニーはさまざまなアプローチで再エネ電力の利用拡大に取り組んでいますが、国際的に見ると、日本における再生可能エネルギー市場や仕組みは、まだ十分に整備されていないという課題もあります。
一例として、国が定める送電線の系統利用ルールの制約が挙げられます。送電線に流すことができる電力容量には上限がありますが、現在の日本では、既存の火力発電などに優先的に容量が割り当てられています。また、発電所の全電源が最大出力となった場合を想定して空き容量を算出しているために、送電容量の上限が低く設定されています。このため地域によっては、実際の送電線には十分な空き容量がありながらも、再エネ電力を電力系統に流すことができない状況が起きています。結果として、再エネ電力の電力系統を通じた売買や活用が制限されるため、再生可能エネルギーへの投資が促進されず、普及の障害となっています。
このような課題はソニーを含む需要側だけで解決できるものではなく、エネルギー供給側である電力会社との協力や政府への働きかけも必要です。他のRE100加盟企業などとも協力し、政府や関係機関への提言を行い、状況の打開を目指すことで、再生可能エネルギーの普及拡大を実現していきたいと考えています。
企業が、100%再生可能エネルギーでの操業を目指すことは、世界的な潮流であり、これは取引先や投資家、市民社会などさまざまなステークホルダーからの期待の表れでもあるとソニーは捉えています。
長期的視点から、ソニーは再生可能エネルギーへの転換を将来への重要な投資と捉えており、この決断は企業価値向上にも必ずつながるものと確信しています。特に日本においては、再生可能エネルギーはコスト面でまだ通常のエネルギーより割高ですが、適切な政策や制度のもと、再生可能エネルギーが大規模に普及すれば、長期的に見て経済合理性があると考えています。日本における再生可能エネルギーの普及を加速させるためにも、ソニーは今後も志を同じくする他企業やステークホルダーとともに社会への呼びかけを継続していきます。
自社の環境負荷に対する責任としての活動にとどめず、グローバル企業として再生可能エネルギーへの転換にかじを切り、さらにけん引していくことこそがソニーに期待されている役割だと考えています。
サム・キミンス氏からのコメント (The Climate Group, RE100総括責任者)
RE100への加盟によって100%再生可能エネルギー電力の調達にコミットすることは、クリーンエネルギーへの転換をリードする証となります。ソニーをRE100のメンバーとして迎えたことは大変光栄です。世界有数のエンターテインメントおよびテクノロジー企業であるソニーは、まさにイノベーションを礎としており、リーダーとなることの価値を知っています。ソニーは、RE100への加盟を通じて、再エネ電力という未来に向かってまい進することが、ビジネスとして理にかなっているという明確なメッセージを発信しています。
日本で数を増やしているRE100のメンバーとして、ソニーは、再エネ電力需要へのシグナルを発信しており、再エネ電力は日本のエネルギー市場を大きく変えることになるでしょう。大手企業は、グローバル市場で競争力を維持するためには再生可能エネルギー調達をサポートするような政策的枠組みが欠かせない、という態度を明らかにしています。日本における再生可能エネルギーの普及を可能にする意欲的な政策を支持することで、ソニーは自社事業の枠を越えて、日本のクリーンエネルギーへの転換を真にけん引しています。多くの企業がこれに続くことを期待します。