Microsurgery
Assistance Robot

微細な外科手術を支援する
ロボットの技術開発

マイクロサージャリーを
より身近に

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本手術支援ロボットの精密な動きを紹介するデモンストレーション動画です。ロボットを使った精密作業のトレーニングとして、とうもろこしの粒の皮を、12-0と呼ばれる極小の針付縫合糸を用いて縫合している様子です。
参考 : Fernandes, M., Tramontin, D., Pimentel, A., Costa, L., Neto, D., Xavier, D., Bentes, L., & Santos, D. (2022). Low cost and easy acquisition: corn grain in microsurgery training. Revista do Colégio Brasileiro de Cirurgiões, 49.

マイクロサージャリーとは、手術用顕微鏡などを用いて微細な人体組織に外科的処置を施す手術のことです。この手術には高度なスキルが要求されるため、実施できる医師や施設は限られます。ソニーはテクノロジーの力で「治療を行う人、必要とする人の双方に、この高度な手術をより身近なものにしたい」という想いから、手術支援ロボット技術の研究開発を進めています。

本ロボットシステムは主に、術者が扱う卓上型のコンソールと、患者に処置を行うロボットで構成されます。コンソール上での術者の両手の動きは、ロボットアーム先端の手術器具で1/2倍から1/10倍程度に縮小されて再現されます。このモーションスケール機能は、身体的限界に依存しない精密な操作を可能にするための技術です。コンソールとロボットの筐体デザインは、より多様な施設や手術シーンでの活用を想定し、可能な限りコンパクト化しています。

01
術者の指先の精密さを活かす

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術者の精密な指先の動きを活かして、ロボットを遠隔操作する様子を表す動画です。

マイクロサージャリーは、細径な血管に針を刺すといった超微小な動作や、糸を引っ張るといった比較的大きな動作の組み合わせで行われます。モーションスケール機能は、超微小な動作を簡単にする一方、比較的大きな動作の効率を下げてしまう危惧がありました。

そこで、従来の手術器具と近い操作感を目指し、「指先で扱える」小型かつ軽量の操縦デバイスを開発しました。人の優れた指先の動きを最大限に活かすことで、必要以上にモーションスケールを大きくすることなく、超精密操作ができるように設計しています。これにより術者が、ハンドレストに手を接地させた安定した姿勢のもと、多様な精密操作が行えるようになります。

02
滑らかで直感的な遠隔操作

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ロボットの複数の関節が低摩擦で滑らかに動く様子を撮影した動画です。
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人の入力に従ってロボット先端が低遅延で滑らかに動作する様子を撮影した動画です。

外科医と患者の間にロボットが介在することで、より微細な動きが可能になる一方、器具動作の遅れやカクつきのようなものが少なからず生じます。これらの現象は、ロボット操作の直感性を低下させ、ロボット支援手術をより複雑化させる懸念がありました。

このような課題に対し、本手術支援ロボットでは人の肩や肘にあたる関節から、器具先端の超小型な手首関節まで、ロボットアームの全ての関節を低摩擦化することで、滑らかでカクつきのない動きを実現しました。さらに低遅延を追求した電気・制御システムと、軽量さを追求した機構システムによって、ロボット動作の応答性を高めています。これらの施策によって生み出された滑らかで低遅延な器具先端の動きは、ロボットの介在を感じさせないような直感的な遠隔操作体験を提供します。

03
独自の自動器具交換機能

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自動器具交換機能の実機動作の様子を撮影した動画です。

小型に設計した手首関節付きの器具

手術は様々な工程から成り、各工程に適した器具が使われます。例えば、組織を掴むにはピンセット、糸を切るにははさみのような器具があります。実際の現場では、術者や助手がこれらの器具を素早く何度も交換しながら手術が行われています。

このような医療現場での円滑なワークフローを参考に、独自に開発したのが自動器具交換機能です。これは、従来のロボット支援手術において人の手で行っていた先端の器具交換を自動化し、より安定かつ短時間で行うための技術です。具体的には、器具全体を超コンパクト化し、2本のロボットアームのすぐ近くに複数の器具を収納できる機構を設計しました。これにより、左右どちらのロボットアームからでも小さなモーションで効率的に器具を交換できます。この機能により、ロボットの器具を交換する際の一時的な作業の中断が不要となり、ロボットによる手術支援がより円滑になることを目指しています。

04
高精細4K映像

ロボット試作機に設置された4K3D ステレオカメラ

1.3型4K OLEDマイクロディスプレイを活用したステレオビューワー

微細な組織の拡大視は、マイクロサージャリーにとって欠かせない要素です。

患部や手術器具の動作を高精細かつリアルタイムに確認できるように、微小な組織を高倍率で立体撮影可能な4K3Dステレオカメラと、1.3型4K OLEDマイクロディスプレイを活用しています。

Medical Worker’s Voice

本機を使用した医療従事者の声

スペシャリストの声

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スーパーマイクロサージャリーのエキスパートが、本試作機を非臨床試験にて操作した感想などについて語る動画です。

むくみクリニック 院長 形成外科専門医

三原誠 医師

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スーパーマイクロサージャリーのエキスパートが、本試作機を非臨床試験にて操作した感想などについて語る動画です。

JR東京総合病院 リンパ外科・再建外科 医長 形成外科専門医

原尚子 医師

実証実験

2024年2月には、愛知医科大学により本試作機を用いた実験が行われ、マイクロサージャリーを専門としない医師および医療従事者によるスーパーマイクロサージャリー※1領域の動物の血管(直径約0.6mm)の吻合に成功しました。これは、自動での器具交換が可能な手術支援ロボットを用いて微小血管吻合に成功した世界初※2の事例です。

今後も、ソニーは大学の医学部や医療機関などと協働し、手術支援のためのロボット技術の開発とその有効性の検証に取り組みます。そして、独自のロボット技術の提供を通じて、医療現場の課題解決や高度医療の普及に貢献することを目指し、研究開発を進めていきます。

※1 直径0.3~0.8 mmの極めて小さな血管や神経を扱う手術は、特にスーパーマイクロサージャリーと呼ばれます
参考:Masia J, Olivares L, Koshima I, Teo TC, Suominen S, van Landuyt K, et al. Barcelona consensus on supermicrosurgery. J Reconstr Microsurg (2014) 30(1):53–8. 10.1055/s-0033-1354742
※2 2024年5月9日時点、ソニーグループ株式会社調べ

愛知医科大学 解剖学講座
内藤宗和 教授

ヒトは脳と手が他の動物よりも極めて優れており、緻密で繊細な動作を行うことができます。マイクロサージャリーはこの能力を最大限に活かした手術の一つですが、特別な才能を持った医師でさえ、数ヶ月から数年の長い修練を必要とします。今回の共同研究では、ソニーの手術支援ロボット技術が、マイクロサージャリー未経験医師の技術をどれだけ拡張させることができるのかを検証しました。その結果、微細作業に慣れていない医師の動きが見事に制御され、熟練医に近い緻密で繊細な動作を行うことができました。このような手術支援ロボット技術を用いた未来には、ヒト(医師)の能力が拡張された高度な医療が待っていると期待しています。

愛知医科大学 解剖学講座 呼吸器外科医
大久保友人 医師

私は呼吸器外科専門医として主に肺がんの手術に携わってきました。肺がんの手術では顕微鏡下で微細な血管や神経を吻合することがありません。そのため、今回のソニーの手術支援ロボットを用いた実験で行った微細な血管吻合は、私にとって初めての経験でした。ロボットを操作してまず感じたのが、大きな血管を手で吻合しているのと同じような感覚で微細な血管を吻合できるということです。この経験を他のマイクロサージャリー非熟練医に伝えて操作を体験してもらった結果、彼らも同じようにロボットの支援により微細な血管の吻合に成功しました。この姿を間近で見て、このような手術支援ロボット技術によってマイクロサージャリーがさらに普及する未来を感じました。

2024年5月9日