Sony Outstanding
Engineer Award 2023

Sony Outstanding Engineer Awardは、エンジニアの新たな挑戦を加速させるために設立した、
ソニーグループにおけるエンジニア個人に与えられる最も価値の高い賞です。
ソニーがお客様の感性に訴える商品・サービスを開発するためにチャレンジすべき技術課題は、
要素技術開発に加えて、独創的な技術の融合や複雑なシステムの最適化など、多様な範囲に及んでいます。
これらチャレンジングな課題に積極的に挑み、大きな価値創造を成し遂げた2023年度の受賞者をその功績とともに紹介します。

裏面照射型CMOSイメージセンサー向けChip-on-Wafer積層技術開発と商品化

裏面照射型CMOSイメージセンサーにChip-on-Wafer積層技術を導入することで、高速・高精細・低消費電力を低コストで実現した。光学サイズの大きなCMOSイメージセンサーの性能が進化するなかで、従来の積層型では、画素に対しロジック領域が小さく、余剰面積が発生する課題があった。そこで、ロジック回路を必要なサイズで切り出し、画素チップの光入射面側周辺領域に同技術を導入することで、性能進化と低コストを両立し、高性能なイメージセンサーの製品化に貢献した。

3Dビジュアライゼーションにおける骨格トラッキングと一点トラッキングのシームレスな移行を実現する、ハイブリッドトラッキングデータソリューションの開発

ビジュアライゼーションを最終化する際に、骨格トラッキングと一点トラッキングの双方を活用するシステムを開発。プレイヤーの動きを忠実に捉える骨格トラッキングは、一点トラッキングよりも好まれる一方、エラーが発生しやすくデータソースとして単独での使用が難しい。このシステムは、双方のデータストリームを処理し、検出されたエラーにもとづいて、フィールド上の各プレイヤーの最適なデータを継続的に選択する。これにより、オルタナティブ放送の視聴者に、エラーのない視聴体験を確実に提供することが可能になる。

PlayStation®5クラウドゲームサービス向け高速PCIeファブリックの開発

クラウドゲームストリーミング向け低遅延かつ高帯域幅のPCIeファブリックを開発。本ファブリックは、クラウド内のPlayStation®5(PS5)ストレージアーキテクチャをサポートし、数十のクライアントのラックに組み込まれた超高速SSDに対応している。また、99.999%のI/Oリクエストに対して10ms未満の予測可能なレイテンシーを実現し、PS5対応インターフェイスに対応している

ソニーミュージックアーティストポータルの開発:ロイヤリティ支払いサイクルとデータの透明性における変革

アジャイルかつ完全なソフトウェア開発ライフサイクルを実践するエンジニアリングチームを主導し、ソニーミュージックのアーティストポータルを構築。ストリーミングトランザクションのデータ量が急激に増加することを見越したデータウェアハウスソリューションを設計し、最新のオープンソースフレームワークとクラウドプラットフォームソリューションを活用してモバイルアプリとウェブアプリを展開した。30,000人を超えるアーティストに対し、リアルタイムのストリーミング・売上データレポート機能とトレンド分析機能、ロイヤリティ収益の現金引き出し機能、そして、予測モデルに基づく将来の収益予測機能を提供。結果、ソニーミュージックに対するアーティストの信頼が向上した。

正確なサイズ・距離感の映像提示と低遅延を両立するMRヘッドマウントディスプレイシステムの開発

肉眼同等のサイズ・距離感のパススルー映像と、輪郭形状の滑らかな仮想物遮蔽、低遅延な映像提示を両立するMRヘッドマウントディスプレイシステムを開発した。これらの技術はユーザーが映像酔いすることなく、また、周囲の人や壁にぶつかることなく安全にXR体験する上で重要な技術である。この成果を世界最大規模のXR学会であるIEEE VR 2023で発表し、最優秀論文賞を受賞。XR業界の発展に貢献した。

バーチャルプロダクションを活用したドラマ制作におけるテクニカルディレクション

バーチャルプロダクション(VP)を本格的に導入した大型歴史ドラマ制作において、VPスーパーバイザーとして参画し、実写撮影、照明技術からCG制作・VFX技術までの広い知見をベースに技術面でディレクション。「LEDに投影されるバーチャル空間とリアルセットを同じ空間に違和感なく見せる映像」 と「新しいドラマ表現」を番組制作陣と共創した。また、本プロジェクトは作品の約9割をVPで撮影、制作したことで、VPを活用したドラマ制作のDX化を推進。「働き方とつくり方」の変革、そしてVPの円滑な運用およびテクニカルマネジメントによる「サスティナブルかつ世界に通用する新しいドラマ制作」の実現に貢献した。

日本初 無人航空機 第二種型式認証の取得(『Airpeak S1』)

企画・設計・製造・品証の各部署から選出されたメンバによる無人航空機第二種型式認証取得活動を主導。要求される安全性基準への適合が『Airpeak S1』ではどのように証明されうるのか、という証明論理の構築から、中盤ではメンバで分担した大量の証明文書作成のディレクション、終盤では各種実機試験の運営を実施。直接霞ヶ関に出向いて議論するなど国土交通省航空局および登録検査機関と密に連携をとり、数十回にわたる折衝の末『Airpeak S1』を同制度における日本初の取得事例とすることができた。

画素並列型ADCを用いた世界初の民生用グローバルシャッターを搭載したフルサイズイメージセンサーの開発

画素並列型ADCを用いて民生用途としては世界初のグローバルシャッターを搭載したフルサイズイメージセンサーを開発し、ミラーレス一眼カメラ『α9III』の商品化に大きく貢献した。本CMOSイメージセンサーは、画素並列型ADCをベースとしたアーキテクチャを採用し、グローバルシャッター駆動と高画質、低消費電力、高速読み出しを高いレベルで両立し、搭載カメラの圧倒的な差異化を実現した。

4K/HDRマスターモニターの高輝度・高コントラスト化を実現したパネルモジュール開発と商品化

4K/HDRマスターモニター『BVM-HX3110』向けに、新型二層液晶パネルとそのパネル性能を最大限生かすアルゴリズム制御を開発。全白時1,000cd/m2とピーク輝度4,000cd/m2(従来比4倍)の高い輝度表現を実現した。さらに独自のパネル制御を加えることで、動く被写体・テロップの動画応答性を圧倒的に改善した。
マスターモニターの正確さや高い信頼性、安定性を維持しつつ、高輝度、高コントラスト化と動画応答性能を向上させた。これにより、クリエイターの映像制作の自由度を高めるとともに、カメラやTVなど他商品の可能性を拡大し、映像文化の価値向上に貢献した。

疑似的な力制御の導入によるaibo™の静音歩行と段差踏破を実現

エンタテインメントロボットaibo™において、歩行時の足音の静音化と段差の踏破を実現。民生品ロボットならではの厳しいハードウェア制約のもと、位置制御と力の”いなし”を組み合わせたセンサレスのアプローチを民生品で初めて採用し、実現が難しいとされていた静音性とロバスト性をFOTAのみで実現した。この革新はオーナーコミュニティから絶大な支持を受けるとともに、継続的な収益獲得とファン獲得に貢献した。

ホークアイ(Hawk-Eye)ビデオリプレイ技術のクラウドネイティブデプロイメントへの移行に対する貢献

さまざまなスポーツやユースケースへのビデオリプレイソリューションの展開に従事。通常、スポーツのリプレイ映像を配信するためには、現場に多数のサーバーが輸送、設置、運用されなくてはならない。そこで、AWSのコンサルタント会社と協力し、AWSのサービスを最大限活用して、ホークアイビデオリプレイ技術のコア要素をクラウドネイティブデプロイメントへ移行した。拡張性のあるデプロイメント、運用、キャプチャメカニズムの利用により、AWB上でリプレイ映像が作成され、現場での配信を一般化することに貢献した。

ダンジョン攻略体験施設『THE TOKYO MATRIX』の開業・運営

2023年4月に開業した新しいエンタテインメント施設『THE TOKYO MATRIX』を手掛けた。ソニー・ミュージックソリューションズとソニー・ミュージックエンタテインメントが運営する当施設では、IPの世界観の中で、プレイヤー自身が仲間とパーティーを組んで肉体、頭脳、運、チームワークを駆使してミッションやトラップをクリアすることに挑む体験型アトラクションを展開。社内外のクリエイター/エンジニアと協力し、音声合成技術やボディトラッキング、非接触ICチップなど、さまざまな技術を活用したユーザーのリアルな「ダンジョン攻略体験」を実現した。

PlayStationⓇVR2の没入感を支えるトラッキング・センシング技術の開発及び商品化

PlayStation(PS)独自のコントローラトラッキングシステムを開発。加えて、VRヘッドセットとコントローラのトラッキング・3次元センシングを統合するPS5システムソフトウェアアーキテクチャの開発を主導。高性能・低コスト・高いデザイン性を実現するトラッキングシステム、没入感を阻害しない安心・快適なVR体験、そしてゲームが作りやすいSDKを実現することで顧客価値の向上に貢献した。

Single Shot 3D Face Modeling技術開発とゲーム事業への貢献

独自の顔データベースを用いることで、1枚の2D顔画像のみからリアルな3D顔モデルを生成するSingle Shot 3D Face Modeling技術を開発。ソニー・インタラクティブエンタテインメントのサンディエゴスタジオと協業し、Face Scan機能として2023年より『MLB The Show』シリーズに技術導入した。ユーザーのスマートフォンを利用することで、従来のFace Edit機能では実現できなかった、誰もが気軽に3D顔モデルを作れる新しい顧客体験を提供し、ソニーのゲームビジネスの商品力向上に貢献した。

ソニーグループ全社における生成AIの民主化を加速する企業向け生成AI Platformの構築

急速に進化する生成AI領域において、グループの全社員が安全にビジネスで生成AIを実践できるEnterprise LLM/Generative AI Platformを構築した。マルチクラウド/マルチLLMによる分散処理アーキテクチャを確立し、市場のGPU不足の状況下においてもグループ全体での一定の経済性を保持。そのうえで、制約なくすべての社員が生成リクエストを自由に実行できる環境を実現。安全に生成AIを活用するためのガードレールも牽引し、エンタープライズレベルで生成AIを活用できる環境を提供するとともに、ビジネスへの適応と生成AIの民主化を推進することでグループ経営に貢献した。

高精度変曲ガラス非球面レンズの開発による交換レンズの小型・軽量・高解像度化の実現

ガラスモールド製法を用いて、一つのレンズの中に凸レンズと凹レンズの要素をもつ変曲ガラス非球面レンズの量産化に世界で初めて成功。これにより、光学系の歪曲収差や像面湾曲などの収差を効果的に補正することができ、交換レンズの大幅な小型軽量・高画質化を実現。本技術は『FE 16-35mm F2.8 GMII』に搭載され、商品力向上に大きく貢献しクリエイターに新たな写真・映像表現の機会を提供した。

ソニー初の背面開放型プロ用モニターヘッドホン『MDR-MV1』の開発・設計と立体音響制作への貢献

ソニー初の背面開放型モニターヘッドホン『MDR-MV1』を開発。立体音響信号処理の効果を最大限に引き出したスタジオ同等の制作環境を再現し、クリエイターに新たなワークスタイルを提供。開放型ヘッドホン特有の低域再生における課題や汎用的な材料と加工法に制限されるプロ用モデル特有の制約、長時間作業に適した軽量で快適な装着性の両立などの課題があるなか、自社の音響技術を活用して形状、構造、材料等を見直し、プロが求めるスタジオスピーカーと遜色のない音質と、長時間作業においての快適な装着性を実現した。

グランツーリスモ®7における深層強化学習エージェントの導入

チームメンバーとともに、社内で開発した深層強化学習AIエージェント、Gran Turismo Sophy™(GT Sophy)を商業用ゲーム『グランツーリスモ®7』に導入する取り組みを主導。GT Sophyは、2023年2月の期間限定リリースと2023年11月の正式リリースにおいて実装され、9つのコースで9種類のタイヤコンパウンドを使用して、300台を超える車種を運転することが可能。

人体検出技術の開発とソニー製品への貢献

画像に含まれる人の顔や体の一部分を検出するためのコア技術を開発。基礎となるAIモデルはこのタスクに優れており、スピードと正確性の両面を実現している。この技術によって、空間再現ディスプレイ(Spatial Reality Display)では、リアルタイムのアイトラッキング(視線追跡)が可能となる。また、この技術はリハビリテーションやヘルスケアにも役立つことが分かっており、姿勢を測定することで、利用者の手や足を適切な位置に誘導することができる。

『SONY PICTURES CORE』の開発およびPlayStation®への展開、ソニーのストーリーを伝え、顧客への価値提供の機会を創出

ソニーグループを横断して展開する独占ストリーミングサービス『SONY PICTURES CORE』を通じて、組織を横断する顧客維持や売上を促進するためのコラボレーション環境を整備。『SONY PICTURES CORE』は、ソニーグループ会社との継続的なコラボレーションを通じて高品質の音声と映像を消費者に提供している。

損害保険事業のダイレクトマーケティング分野におけるAI・データアナリティクス技術の応用と展開

ソニーが開発したAI予測分析ツール『Prediction One』を取り入れ、ダイレクトメールやアウトバウンドなどのマーケティング施策や、コールセンターにおける入電予測、対応オペレータのリソースを踏まえた顧客の待ち時間の最適化や寄与度を用いた分析オペレーションの効率化などを図った。規制が厳しい金融業界において成功例を積み重ねて、その高い効果と活用事例を社内外に示すことで、グループ連携を通じた技術活用の可能性を広げた。