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The Sony Research Award Program

未来のテクノロジーを支える知の共有
ソニーのオープンイノベーションプログラム

2024年3月29日

Sony Research Award Program(RAP)は、ソニーが関心を持ち、技術発展への貢献が期待できる先進的な研究提案を募集・採択し、大学教員や研究者に資金を提供するプログラムです。本プログラムについて、2016年の立ち上げ当初から関わっているMark Ortizに話を聞きました。

  • Mark Ortiz

    Senior Manager
    Innovation Strategy Group
    Corporate Technology Strategy Division U.S. (CTSD US)
    Sony Corporation of America

──まず、RAPの概要と、公募から採択までの流れを教えてください。

RAPの主な目的は、ソニーが関心を持つ技術分野における第一線の研究者と接点を持ち、大学・研究機関とソニーの研究者との協業関係を構築することです。本プログラムは、同分野における最先端の研究提案に対し、最大10万米ドルの資金を提供する「Faculty Innovation Award」と、より対象を絞った分野の研究提案に対し、最大15万米ドルの資金を提供する「Focused Research Award」の2つの賞で構成されています。研究提案の公募は毎年、夏の2カ月間に実施。提出された内容はソニーグループの研究者に共有され、外部の高名な研究機関と同水準の厳正な審査および採点を行います。得点が高かった提案については追加審議を行い、採択候補として選定。最後に、1月から3月にかけて、RAPのマネジメントチームによって受賞案件が最終決定されます。

多くの主要大学と協業関係を結んでいる

──RAPの規模はここ数年でどのように拡大してきたのでしょうか?

RAP は2016年にはじまり、初年度は6件を受賞案件として選定しました。翌年の2017年は8件を選定し、このうち3件が前年度からの継続案件でした。ソニーと受賞者側の双方が研究の進展状況に満足し、かつ研究内容が依然としてソニーの関心領域と一致している場合、支援を継続します。最初の2年間は「情報技術」分野のみの募集としていたのですが、2018年に「材料・デバイス」、「バイオメディカル・ライフサイエンス」も募集対象に加えたことにより、プロジェクトの勢いは一気に加速しました。同年には、マサチューセッツ工科大学やスタンフォード大学など、数多くの世界の主要大学を含む、21件(うち18件が新規、3件が継続)を選出しました。さらに、2020年には欧州の13カ国、2021年にはインドにまで対象地域を広げ、今では世界の多くの主要大学と協業関係を結んでいます。

最先端に立つためには、誰との対話が重要か

──なぜ、大学との協業が重要なのでしょうか?

ソニーの研究開発部門には各分野のエキスパートがいますが、今はどの分野も技術進歩が非常に早く、1つの企業がすべての領域で最先端の知見に精通することは困難です。企業が幅広い分野で研究開発を進める一方、大学・研究機関を含む外部組織と協業することで、新たな洞察や視点が得られ、イノベーション創出の可能性が高まります。

「There is no great genius without some touch of madness.(狂気を少しも含まない天才はいない)」という格言があります。私自身も、学術界で最も革新的なアイデアを持つ人々は、他人とはまったく異なる視点で物事を捉えるという点で、少しの狂気を兼ね備えていると考えています。つまり、彼らのアイデアは新しすぎるため、一般人には素晴らしいのか、狂気じみているのか、一見では判断がつかないのです。ソニーのウォークマンはその代表例です。ウォークマンの誕生は1970年代、あるエンジニアが「携帯型の音楽プレーヤーを作ろう」と提案したのがはじまりでした。今でこそ私たちはスマホでどこでも音楽を聴くことができますが、当時の人からしたら、彼はちょっとした“奇人”だったかもしれません。RAPで求めているのは、こうした既存の枠を飛び越えたアイデアです。もし、私たちがこうした革新的な人材と対話をしていなければ、今のソニーはなかったかもしれません。

RAPはソニーの新技術探索と獲得に貢献

──技術面に関して、ソニーはRAPからどのような恩恵を受けてきたのでしょうか?

RAPの共同研究を活用して、ソニーはさまざまな技術分野で飛躍的な進歩を遂げました。まず1つめが、メタサーフェスによる平面光学素子です。原理的には、メタサーフェスを用いることで、人の髪の毛ほどの超薄型構造でありながら、従来の複雑なレンズと同等の機能を持つレンズを実現できるようになります。同技術は、特に写真や画像処理の分野での応用が期待されています。ソニーはRAP設立前からメタサーフェス光学素子の研究を進めてきましたが、当時の知見は必ずしも最先端なものではありませんでした。しかし今では、当社は同分野で業界トップクラスの知識量を誇っていると思います。

2つめの例が、音響メタマテリアルです。音響メタマテリアルとは、音波を操作することで聴取環境を整える技術です。その技術の一つとして、物体を音響的に隠す「音響クローキング」があります。コンサートで席が柱の後ろになってしまい、音が聞こえにくくなったという経験はないでしょうか? この技術を使えば、柱を音響的に“消す”ことができ、柱を感じさせない音響体験を実現できるのです。ほかにも、さまざまな分野への応用が期待できます。たとえば、車内で、オーディオの障害となるパーツの影響を遮蔽することも理論上可能となるのです。

最後に挙げるのが、SPAD (Single-Photon Avalanche Diode)技術です。SPADは非常に高価でかさばり、使い勝手が悪かった従来のフォトンカウンターを、コンパクトで使いやすくしたものです。活用例としては、いわゆる「真っ暗闇」で写真を撮る状況を想定してみてください。SPADを使えば、高度な信号処理を施すことで、暗闇での撮影が実現できます。他にも多岐にわたる応用が考えられ、自動車の安全性向上への用途も期待できます。

以上の事例からも分かる通り、RAPによる共同研究を通じ、ソニーは、各領域における新技術を、効率的に学習し獲得することができました。

RAP発のイノベーションをきっかけに、新規事業部門を立ち上げたい

──最後に、今後の目標についてお聞かせください。

RAPは今後いくつかの節目を迎えます。現時点の共同研究数は166件に上りますが、今後数年以内に200件目の共同研究を達成することを目標に掲げています。また、できる限り多くの世界の主要大学と協業したいとも考えています。RAPは2025年で10周年を迎えますので、そういった意味でも今後の展開が楽しみですね。

長期的な展望としては、RAPから生まれたイノベーションをもとに、数多くの新たな部門が社内で生み出されるようになることが夢です。今までの枠組み内の特許出願や既存商品の改良といった類の貢献ではなく、完全な新規事業に特化した部門を新設することで、ソニーグループにイノベーションと成長、そして「感動(KANDO)」をもたらしたいと考えています。

最後に、私たちが追求するのは単なる進化ではなく、「革命」です。今、ソニーは革新的な製品やサービスを生み出すために、世界の主要大学や研究者と協働していますが、目指すのは「小さな進歩」ではなく、「大きな飛躍」。そして、RAPがこの「飛躍」の原動力になってくれると私は信じています。

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