Initiatives
総括
AAAI-20とはThirty-Fourth AAAI Conference on Artificial Intelligenceの略称です。AI(Artificial Intelligence、人工知能)系の最大学会の一つで、この学会では、現在大流行しているディープラーニングに関する技術だけでなく、画像、言語、など幅広いAI技術領域のトレンドを見ることができます。
まずは、Opening Remarksで発表された数字からAAAIの規模を確認してみたいと思います。レジストレーションの数は4000件以上にのぼり、テクニカルセッションでは、パラレルトラックが12から13本、チュートリアル、ワークショップはそれぞれ23個ずつ開催されたとのことです。また、8,843本もの論文投稿があり、1,591本が採択、採択率は約21%となっています。これらの数字からもAAAIが大変大きな学会であることがわかります。一方で、800名以上の方が新型コロナウィルス、もしくはビザの問題で入国できなかったというコメントもありました。実際、当時のニューヨークは、新型コロナウィルスによる影響はほぼない状態でしたが、中国からの入国が制限されていたため、参加できない方も多く、ポスターセッションでは掲示されていないものも多く見られました。
下のグラフはOpening Remarksで発表されたAAAIの論文投稿の経年変化を再構成したものです。昨今のAIブームの波にのって、年々論文投稿の数が増えてきている傾向がわかります。この学会の特徴は、学生の投稿が多いことだそうで、実に70%が学生の投稿であるということでした。採択率はだいたい20%くらい、この数字からもAIのトップ学会といっても良いかと思います。
また、投稿者の出身別でみてみると、AI領域の中国のプレゼンスが非常に高いということがグラフから見て取れます(こちらもOpening Remarksで発表されたものを再構成しています)。私が聴講したNLPの分野でも中国からの発表は大変多くあり、1セッションで10件ほどある発表のうち、発表者が登壇したのはたった2件で、残りはビデオによる発表ということもありました。
こちらは技術エリア別の投稿/採択状況のグラフです。もちろんAIブームの波に乗っている急先鋒は機械学習ですが、学会参加者の方々と話をしていると、「強化学習」というキーワードをよく耳にしました。また個人的にはNLPの分野で特にDialogueの発表が多いと感じました。正直に言えば、これほどたくさんの対話システムの現実的な課題についての発表があることに驚きました。Amazon AlexaやSiri、Google Homeなどで一般に使われるようになってきた効果なのではないかと思います。
さて、AAAI-20ではTuring Award Winners Eventという特別イベントがあり、2018年にチューリング賞を受賞したGeoffrey E. Hinton(Google, The Vector Institute, and University of Toronto)、Yann LeCun (New York University and Facebook)、Yoshua Bengio (University of Montreal and Mila)という3名のディープニューラルネットワークの大御所の発表とパネルセッションが開催されました。こちらのイベントは大盛況で大きめの会場(写真を参考にしてください)が満員になるほどでした。Geoffrey E. Hinton氏は、現状のCNNは人間の認知メカニズムとは異なっていると指摘し、その一例として1枚の絵から3次元構成できないということを話されていました。これを解決する枠組みとして積層カプセル・オートエンコーダを提案されています*1。Yann LeCun氏は、現状の教師あり学習は大量の「正解ラベル付きデータ」を必要とする、という課題を指摘し、教師なし学習/⾃⼰教師あり学習(Self-Supervised Learning)こそが未来であると主張されていました。また⾃⼰教師あり学習の本質はBERTに代表されるような「穴埋め」、すなわち(隠れた部分の)予測であるとおっしゃっていました。Yoshua Bengio氏は、AIがより人間に近づくためには、というテーマで発表されていました。Daniel Kahnemanの著書『Thinking, Fast and Slow』による認知タスクの分類を引用し、System1に対応する視覚や聴覚などの無意識下の認知扱う現在のディープラーニングから、高次の概念や意識を扱うSystem2にアップグレードさせていくためには意味表現や因果関係の表現を獲得する必要があり、「意識」の実現の肝となるのはattentionであるとおっしゃっていました。3人とも現状のディープラーニングの先をどう発展させていくべきか、ということを真剣に考えていることが伝わってきて、とても興味深く聞くことができました。
おわりに
最後に、今回AAAI-20を聴講した上での私個人の感想をいくつか書きたいと思います。まず、学会全体の発表を通して、現実的なタスクや研究テーマにシフトしてきているという印象を受けました。そして、AI技術が私たちの実世界にも浸透してきているのは、アカデミアの世界でのこういった努力の成果なのだと感じました。今回はビデオによる発表が多くあり、その場合質疑が実施されないために、現場でのディスカッションが発生せず、少し寂しさを感じました。繰り返しになりますが、新型コロナウィルスの影響はとても大きかったと感じています。最後になりまずが、チューリングアワードイベントは大盛況で、私もとても楽しめました。将来のAI技術について色々と考える良いきっかけをもらえたと思っています。
2021年のAAAIはカナダ、バンクーバーで開催されるそうです。一刻も早く新型コロナウィルスの感染拡大が収束し、通常通りの学会が開催されることを願ってやみません。
レポーター
名前 : 青山 一美
専攻 : 知識情報工学
現在の仕事 : AI技術調査、音声・言語・対話系技術の技術開発