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多様性とグローバル化の追求がソニーの技術をより強くする

2020年9月10日

ソニーのR&D担当の勝本 徹は、自身の海外赴任やさまざまな事業の経験から、多様なバックグラウンドや考えが組織や人を強くすると述べ、ソニーのR&Dのグローバル化を強力に推進しています。勝本自ら聞き手となり、ヨーロッパのR&D拠点から日本に赴任したマグダレナ・ワソウスカとガブリエラ・ネレス、他社や海外での経験も豊富な住山アランの4名が、ソニーのR&Dの強みや貢献について語り合いました。

プロフィール

  • 勝本 徹

    ソニー 副社長
    R&D担当、メディカル事業担当
    R&Dセンター長

    ソニーのR&Dおよびメディカル事業を担当。

  • マグダレナ・ワソウスカ

    ソニー R&Dセンター
    デピュティ・シニア・ゼネラルマネジャー

    セキュリティ、ブロックチェーン、AI、ヒューマンセンシングなどを担当。R&Dセンターブリュッセルラボラトリー統括も兼任。

  • ガブリエラ・ネレス

    ソニー R&Dセンター
    デピュティ・シニア・ゼネラルマネジャー

    材料科学、環境コンプライアンス、品質・不具合解析などを担当。R&Dセンターシュトゥットガルトラボラトリー2統括も兼任。

  • 住山 アラン

    ソニー
    コーポレートテクノロジー 戦略部門 部門長

    ソニーの中長期技術戦略の立案および推進を担当。R&Dセンター事業探索・技術戦略部門事業領域リエゾン室統括も兼任。

──勝本:新型コロナウイルスの影響で多くの方が在宅勤務となっていますが、このワークスタイルについて皆さん、どうとらえていますか?

ワソウスカ:メリットとデメリット両方を感じています。自分の仕事に集中しやすいというのはメリットですが、Face to Faceのコミュニケーションが少なくなっていることの淋しさも感じています。

ネレス:私も同感です。仕事が終わるとすぐ家という環境は魅力的ですが、私にとって社員の皆さんとの会話は日本語を学ぶ貴重な機会でもあるので、それがめっきり減っているのが残念です。

勝本:お二人は日本各地を旅することも好きなので、それができないのも残念ですよね。

ワソウスカ、ネレス:それは本当にそうですね。

ソニーの外で働いた経験から見たソニーのR&D

──勝本:皆さんはソニー以外の会社で働いたご経験がありますが、その観点からソニーのR&Dをどうご覧になっていますか?

住山:ソニーは事業だけでなく、テクノロジーにおいても非常に幅広いと感じています。また、ただ幅広いだけでなく、それぞれが深いことが特長だと思います。ソニーに来て半年以上が経ちましたが、多様性という点でこの会社は非常にユニークな存在だと思います。未だに学ぶことが多いです。一方で、組織的には日本で教育を受けた方々が中心であること、考え方もまだテクノロジー中心であることを時折感じており、そこは課題であるように思います。

ワソウスカ:私はソニーの人は皆 、ビジョナリーでパッションがあると感じています。日本人中心という点はその通りですが、日本人は互いを敬い、調和を大切にする傾向があります。異なる意見がある中でコンセンサスを得るのは時間がかかることもありますが、協調性を重んじ、コンセンサスを得るというプロセスはとても重要です。この協調性を重んじるという姿勢は日本企業では典型的と思いますが、個人的には非常によいことと考えています。また、勝本さんはR&D内のダイバーシティを強力に推進し、幅広い人々と関わりを持つことを可能にするマトリックス組織を導入しています。こういった環境をつくっていただいていることに感謝しています。

ダイバーシティは異なる意見や考えを闘わせることを可能にする

──勝本:ソニーのR&Dのグローバル化を進め、研究開発にとってよりよい環境をつくる上で、皆さんの経験からわれわれが学べることはありますか。

ネレス:ダイバーシティを推進するためには、マインドセットが重要です。そして、コミュニケーションと他者から学ぶという姿勢がカギだと思っています。人々の行動や考え方を正しく理解するにはトレーニングや言葉の勉強も必要です。コロナの時代はリアルな場での対話が難しい面もありますが、どのようなプラットフォームを使えばリアルに匹敵する意思疎通が可能かを考えることも大切だと思います。

住山:ダイバーシティは多様化することが目的ではなく、異なる意見や考えを闘わせることを可能にする手段ととらえています。R&Dで最も難しいことの一つがイノベーションを起こすことですが、課題やプライオリティを特定する作業にもダイバーシティは有効だと思います。他人の意見に反論することは難しい面もあります。しかしそれは意見に対してであり、人に対してではありません。この点を混同せず、互いが安心して心地よく議論できるようなトレーニングも必要かもしれません。私たちはチームを率いるリーダーとして、組織の中でそういった雰囲気を醸成する責任があると思います。多様性はソニーの強みと理解しているので、継続して意識していきたいと思います。

勝本:おっしゃる通りですね。私がR&Dセンター長に就任した当時も、周囲に気をつかうあまり、議論を避けているような雰囲気を感じたことがありました。現在はオープンに議論できる環境ができつつあると思いますが、さらによくしていきたいですね。

──勝本:今年4月開催のR&Dセンター・コーポレートテクノロジー戦略部門の全体会同で、脱グローバル化はCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の解決につながらないといった話をしました。皆さんの見解はいかがでしょうか。

ワソウスカ:このようなパンデミックの状況下、脱グローバル化は解ではないと考えます。現在は問題が複雑化しており、人々は先が見えない不安のあまり、科学者や専門家の意見でさえ耳を傾けない状況も見られます。しかし、感染拡大を本質的に抑えるための真の防御は、信頼できる科学的根拠に基づく情報の共有と人々のグローバルな連帯によってのみ、なし得ます。R&Dセンターでは、センシングからコンピューテーションにわたり、プライバシー保護技術の研究開発を行っています。また、ブロックチェーン技術を強化することによって、ユーザーデータが活用される多数の場面におけるソリューションを実現したいと考えています。人々の健康状態を追跡しウイルス感染者との接触の可能性を早期警告することは、非常に興味がある案件の1つです。これらのソリューションは、新型コロナのような病気の蔓延を防ぐために不可欠です。同時に、疫学者が適切な治療法を開発するためにも、感染拡大に関する匿名または個人が特定できない情報が必要です。

住山:私も同感です。ソニーは持続可能性を会社のValues(価値観)の一つにしているので、持続可能な社会にとって本当に何が必要かを考えることが大切だと思います。また、ヒューマンエラーはどんな局面でも起きるので、技術を活用し、そのようなエラーを回避することが大事です。こういった探索は、現状の解決策だけでなく、次世代を担う子どもたちにも大切な、長期視点のソリューションにもつながると思います。

ネレス:現在は地政学的な変化が起きていますが、歴史を見てもそれは長くは続かないと考えています。優れたアイデアやイノベーションの創出はこういった異常事態の中で生まれるので、まさに今、新しいアイデアを一緒に生み出していくことの重要性を感じています。

持続可能な社会にテクノロジーが貢献できること

──勝本:吉田さんは社長就任時から環境および社会への貢献の重要性を述べています。ソニーが持続可能な社会への貢献をしていくために、R&Dを担当するわれわれはどのような貢献ができるでしょうか。

ネレス:世界的に大きな影響を与えている気候危機の問題は、特に貧困層への影響が甚大です。また、新型コロナウイルスにより、現在は人と人との距離の保ち方、物流や資源の供給などにも課題があります。このような領域でもソニーの技術が貢献できる余地があると考えています。

ワソウスカ:ソニーには優れたセンサーテクノロジーがあります。この技術を活用したビジネスに社会貢献への大きな機会があり、また社会の一員として貢献していく責任があると感じています。加えて、AI技術の強化は、この分野への貢献を加速すると思います。AIはソニーでもすでにさまざまな取り組みをしていますが、農業分野や安心・安全な自動運転を実現するマネジメントシステムへの注力も期待できます。

住山:4月にソニーが発表した「新型コロナウイルス・ソニーグローバル支援基金」を通じたアーティストやクリエイターへの支援はすばらしいと感じています。事業の持続可能性、社会への重要性という点でも彼らの存在は大切です。コロナ禍が終息した後も、テクノロジーを通じて彼らを支援していきたいと思います。また、ソニーのテクノロジーを活用して、人々の感動の背景にある“感性”を刺激し、人々の暮らしを変えるような貢献も形にしていきたいですね。

──勝本:技術開発には長期視点が必要です。皆さんやそれぞれのチームは長期的にどのような貢献をしていきたいですか。

ワソウスカ:二つ役割があると思います。一つは、他のチームリーダーとともに組織全体が向かう道筋を定める役割。エンジニアが創造力を存分に発揮できる環境を導き出すには、世の中のメガトレンドを理解し、ソニーのビジネスにポジティブな影響を与える技術を考え抜くことが大切です。これには先ほども話のあったダイバーシティが重要な役目を果たします。もう一つは私自身とチームとしての役割です。AIやバイオメトリックス、デジタル認証、ブロックチェーン、データ透過伝送機構、ドローン、ロボティックスなど、これらの分野を注意深く考察し、競争力を維持しながら、ソニーがどの領域で貢献できるかを見極めていきたいと考えています。

ネレス:私が管轄するマティリアルサイエンスラボでは、かねてから半導体開発と密接なつながりがあります。この分野の研究は継続しながら、農業、ライフサイエンス、ユーザーエクスペリエンスの研究などの分野にも視野を広げていきたいです。

住山:テクノロジーに関する戦略はロジカルな視点が必要ですが、あえて非ロジカルな面の話もすると、人々がどのようなことでパッションや楽しさを感じるかという点はとても大切です。ソニーのエンジニアが高い関心を持って研究開発に打ち込めて、個々の成功イメージを持つことができるような領域を見定めていきたいと考えています。

ソニーの事業の中心は人
小さな失敗は気にせず自分を信じて進む

──勝本:最後に、ソニーで働くことを考えている、学生の皆さんへのメッセージをお願いします。

住山:状況が変われば古い知識は役立たなくなります。変化の激しい現在は若い学生の皆さんが新しいアイデアを創出する絶好の機会だと思います。自分が関心のある分野の課題を見つけ、アイデアが浮かんだら、小さな失敗は気にせず、自分が必要と感じたら、たとえ反対されても信じて進む。こういった姿勢が自身の成長にもつながっていくと思います。

ネレス:私の学生時代を振り返ると、多数の人と意見交換を行った経験がイノベーションを生む鍵になったと思います。また、R&Dには学び続けるという姿勢が大事。健康を保ちながら、好奇心を持ち続けることが大切ですね。

ワソウスカ:ソニーの事業の中心には常に「人」がいます。私は20年以上もソニーにいますが、今でもそんなソニーが大好きです。グローバル規模で、よりよい世界を模索している人にはソニーという会社はとてもよいところで、変化を起こせる場所だと思います。そんな場所を探している人はぜひジョインしてください。一緒に頑張りましょう。

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