Cutting Edge
ソニーのイメージング&センシング技術で実現したい未来
~人に感動を、社会に豊かさを
世の中のメガトレンドがモバイルからモビリティへと変化する中で、ソニーのイメージング&センシング技術は今後さらに重要性を増していきます。2020年5月には、世界で初めてAI処理機能を搭載したインテリジェントビジョンセンサーを発表し、イメージセンサーを活用したソリューションビジネスの展開も進めています。イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)事業を率いる清水、積層型CMOSイメージセンサーの開発に大きく貢献した梅林、車載向けイメージセンサー開発を担当する中堅社員が、ソニーのイメージング&センシング技術で実現したい未来を語りました。
※この座談会はオンラインで実施しました
-
清水 照士
-
梅林 拓
-
アルバート・トゥメウ
-
青木 真実
積層型CMOSイメージセンサーは万能なプラットフォーム
──積層型CMOSイメージセンサーの強みと、半導体業界や社会に対して積層技術がもたらした価値について教えてください。
梅林:積層型の強みは、幅広いイメージセンサーに使える構造であることです。この技術は、高速化や多機能化、消費電力やコストの削減など、何を追求し、どういった機能を搭載するかの選択を可能にします。結果として商品開発の選択肢が増えたことで、汎用性の点から、積層型CMOSイメージセンサーはプラットフォーム開発に近かったと考えています。
清水:積層型CMOSイメージセンサーは、カメラを使用する世界中の人の利便性を向上させ、日本の半導体産業全体を活性化させました。たとえば、ソニーはモバイル向けイメージセンサー市場において50%以上のシェアを持っていますが、スマートフォンのカメラの性能が著しく進化したのは、この積層技術の貢献が非常に大きいと考えています。積層技術はイメージング領域において「高画質な写真を撮る」ことに大きく貢献し、人びとに感動体験を提供してきました。これらの実績が、梅林さんの令和2年春の紫綬褒章受章というすばらしい功績にもつながったと思います。
安心・安全を実現し、社会に貢献する
──I&SS事業はソニーグループ全体の収益はもちろん、社会に対してもその技術力で貢献しています。イメージング&センシング技術を通じて、今後どのような社会貢献を実現していきたいと考えていますか。
清水:Sony's Purpose & Values(存在意義と価値観)を受け、ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)グループのMissionを「テクノロジーの力で人に感動を、社会に豊かさをもたらす。」と再定義しました。SSSは、イメージングだけでなくセンシング領域でも、世界シェアNo.1をめざしています。イメージング&センシング技術を通じて、人を支え、社会の安心・安全を実現し、社会貢献をしていきたいと考えています。また、車載向けイメージセンサーの開発は、車の自動運転化が進むこれからの社会への貢献につながるSSSの重要な取り組みの一つです。
青木:車載向けイメージセンサーには、暗いトンネルから明るい場所へ出た際の逆光下や暗い夜道といった環境下で、「人間の目を超える機能」が求められます。そこで生かされるのが、ソニーのイメージセンサーの強みである「高画質を実現する画素設計技術と回路設計技術」です。カメラ用イメージセンサーでは、人間の目で見た通りの画像を撮影する機能が求められるので、2007年、高画質化を実現するカラムA/D変換回路が搭載されたイメージセンサーが商品化されました。低ノイズで暗い場所でもきれいな画が撮れるこの技術は、車載向けイメージセンサーにおいてダイナミックレンジ(画像認識の明暗差の幅)の拡大に転用されています。このように、車載向けイメージセンサーの開発においても、積層技術を始めとしてI&SS事業がこれまで培ったノウハウやアセットが生かされています。
トゥメウ:このようなソニーが持つ幅広いアセットに加え、他部門とのブレインストーミングや顧客からのフィードバックといったコミュニケーションも開発を大きく前進させてきたと考えています。
清水:車載領域におけるSSSの車載向けイメージセンサーの存在感は日に日に増してきているように感じています。開発に携わる皆さんはどう思われますか。
青木:完成車メーカーなどの顧客にわれわれの製品を説明すると、デモ依頼だけでなく具体的なカスタマイズのご要望をいただくこともあります。自分たちが開発した製品にこうした反響が返ってくるのはとてもうれしいですね。
トゥメウ:ニュースでも開発に関わった製品が取り上げられていて、やりがいを感じました。自らが携わった製品を通じて、SSSのMissionにあるような社会貢献の一端を担い、社会にインパクトを与えていると思うと感動します。
清水:車載向けイメージセンサーに加えて、AI処理機能を搭載したインテリジェントビジョンセンサーも積層技術によって開発された製品で、社会貢献が期待できます。イメージセンサー自体がAI処理機能を持つことで、スマートカメラの開発を可能にし、小売業界や産業機器業界での利用が期待されています。たとえば小売店であれば、店舗の入口での入店者数のカウント、陳列棚での商品の欠品の検知、人が多く集まる場所を検知するヒートマップ作成などの用途に用いて、消費者の行動を分析できます。産業機器であれば、危険察知のアラームや侵入者の検知、危険物の取扱検知にも使えます。その他にも、マスクの着用を確認したり、感染症対策としてもセンサーのユースケースが増加していくと考えられます。
ソニーの文化、価値観が開発の追い風となる
──なぜ、ソニーが世界で初めて積層型のイメージセンサーを開発することができたのでしょうか。
梅林:理由は大きく二つあります。一つ目は、ソニーが2009年に商品化した裏面照射型CMOSイメージセンサーとの、製造プロセスの相性のよさです。裏面照射はシリコン基板の裏側から光を照射することで高感度と低ノイズを実現する技術ですが、光を裏側から照射するにあたり極限までシリコン基板を薄膜化するため、画素と回路が形成されたチップ自体の強度を保つためには、支持基板との貼り合わせが必要です。ここに貼り合わせ技術が用いられていました。積層型はこの時とは異なった技術を採用しましたが、こうした既存概念をうまく応用することで、実用化により早く近づけたと思います。二つ目は、目的を絞ったことです。半導体業界で三次元半導体というと、多種多様なチップを重ね合わせた超多機能な製品をつくるという流れがありました。しかし、あえてそこは追いませんでした。あれこれ機能を詰め込まず、小型化にこだわり、性能は従来のイメージセンサーと同等程度にしたことが成功の要因だと思います。
トゥメウ:そのような開発秘話があったのですね。開発をする際、いろいろな機能をどう詰め込むかという考え方になりがちなので、この逆転の発想は非常に参考になります。
青木:難題に直面することも多々あったと思いますが、どのように解決していったのですか。
梅林:課題認識と異文化交流を大切にしました。日頃から何か課題を見つけては、異なる分野の方と話をして、一見、直接関係なさそうな技術や考え方でも、自分の課題に応用できないかを考えるようにしました。そして、見つかった課題に対して、焦らずに一つひとつ向き合ってブラッシュアップしてきました。
清水:ソニーが積層型のような開発を成功させてきた秘訣は、これまで受け継がれてきたチャレンジ精神にもあると思います。「誰もやらないことをやる」というのがソニーの文化です。たとえ結果が出なくても、そのチャレンジ精神は評価されます。
青木:確かに、リスクが高い仕事でも、上司の方々は「まずはやってみよう」「経験を積んでみよう」と言ってくれます。開発をする上でも、そういった言葉が非常に追い風となっています。
トゥメウ:自分が信号処理に携わった際も、難題に直面し開発スケジュールが何度も変わったことがありましたが、まわりの方々が柔軟に対応してくれました。
清水:また、特に若手社員には「誰に対しても誠実でありなさい」と言っています。誠実な態度で自分の考えを誰に対してでも発信するべきだと。
梅林:ソニーは役職に関係なく、相手のことを「さん付け」で呼ぶという習慣が昔からあります。誰に対しても自分の考えを発信しやすい企業風土がありますよね。
──今後のI&SS事業の展望を教えてください。
清水:ハードウェア、ソフトウェア戦略を両輪で考えています。センサーというハードウェアに加え、ソフトウェアを搭載した「コト売り」を拡大していきます。また、ソフトウェア戦略としてはインテリジェントビジョンセンサーなど、デバイスとエッジAIの融合を図ったソリューションに注力していきます。マイクロソフトとスマートカメラソリューションにおける協業も進めており、彼らが持つクラウド上のAIサービスとソニーのエッジAIを連携させることで、より高度なセンシングソリューションビジネスの確立をめざしています。また、イメージング&センシング技術は、人に感動を与え、社会の安心・安全に大きく貢献できると思います。皆さんには社会を担う大事な仕事をしているという自覚と誇りを持って、開発を進めていただければと思います。
梅林:ハードウェアにソフトウェアを加えることで“システム”をつくり出し、社会に新たな価値を提供していきたいです。SSSのMissionである「テクノロジーの力で人に感動を、社会に豊かさをもたらす。」を念頭に、社会的な意義を考えながらこれからも皆さんとともに開発を進めていきたいですね。