SONY

菊田省吾

菊田省吾

ソニーミュージックグループ 株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ
第3レーベルグループエピックレコードジャパン
A&R

A&R(アーティスト&レパートリー)としての日々

2016年にソニーミュージックグループの株式会社ソニー・ミュージックマーケティング(現ソニー・ミュージックソリューションズ)に入社し、6年間音楽ビジネスに従事しています。入社当初はCDのセールス担当として全国各地を飛び回り、その後は販促マーケティングを担当しました。約3年前より株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ(SML)に異動し、A&R(アーティスト&レパートリー)として働いています。
具体的には、「いきものがかり」や「宇多田ヒカル」のプロモーション、またデビュー前の新人アーティストの創作活動サポートが主な仕事です。A&Rとしての日々の業務は、担当アーティストとの楽曲制作、楽曲を世の中にどう展開するかというマーケティング戦略の起案、ミュージックビデオのコンセプトの企画立案から実際の制作に至るまで、コンテンツのヒットを目指してあらゆる手法を考え、実行することです。華やかな職種に思われがちですが、アルバムのタイトルを決めるにあたり、会議室に数時間こもることもあります。ヒットのためにできることを全力でこなす仕事です。
最近では、新しいチャレンジもしています。テクノロジーを介して、アーティスト、コンテンツ、ユーザーの3者が交錯するバーチャルの世界を創ってみようというアイデアから、XR※1の技術を用いたライブプロジェクト、「Revers3:x(リバースクロス) 」を立ち上げ、コンセプトの立案、アーティストのブッキング、イベントのプロモーションに携わりました。その結果、ソニーの所有するボリュメトリックキャプチャスタジオにて、最新のボリュメトリックキャプチャ技術を用いた仮想空間を創り上げ、新進気鋭のヒップホップアーティスト、KEIJU(ケイジュ)のライブを実現しました。これはまさにグループシナジーによる新しい音楽カルチャーの創出で、まだ見ぬ感動を世界に届けることへの挑戦は、ソニーグループの一員であるからこそできる最高のやりがいだと実感しています。

  • ※1:XR(クロスリアリティ)とは、現実世界と仮想世界を融合するVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合)などの現実にないものを知覚する技術の総称
いきものがかりのライブ

「アーティストの発するメッセージは、時空を越えて人々の琴線に触れる」という実体験が、私のA&Rとしての原点です。

野球少年が音楽業界を志すまで

私の父は、とあるシンガーソングライターの大ファンで、その音楽性や強いメッセージ性を敬愛しています。父の影響もあり、幼少期より、楽曲だけでなくアーティストがそこに込めたメッセージも感じ取り、理解しようとする癖が自然と身に付いていたように思います。(そのシンガーソングライターへの父の思いは、私の名前にも色濃く反映されています。)
幼少期より音楽は身近にありましたが、実は高校までは野球に打ち込んでいました。12年間の野球人生のうち11年はキャッチャーのポジション。キャッチャーは試合中、グラウンド全体を見渡せる位置に座って、相手チームの選手の表情や所作から意図や感情を想像して、戦術を組み立てて味方に指示を出すのが役割です。俯瞰的な視点で考えてみると、この時に培った観察力や、自分の思いを伝えるコミュニケーション術が今のA&Rという仕事に生きていると感じています。
大学進学後は、路線を変えてストリートダンスサークルに入りました。サークルで仲間と練習に明け暮れる中、気づけばクラブカルチャーにのめり込む毎日でしたが、ダンスミュージックやHIPHOP、R&B、SOUL、FUNKなど、さまざまな音楽のジャンルへの造詣が深まった時期でもありました。
当時はよく中古レコードショップ巡りをしていたのですが、ある時Bobby Brown(ボビィ・ブラウン)のアルバム「REMIXES」(国内盤)に出会ったことが人生の転機だったように思います。そのアルバムが自分の生まれた93年にリリースされたものだったので何気なく手に取ったのですが、開けてみると自分の誕生日の数ヶ月前に日本で行われたライブのチラシと、アーティスト本人からのメッセージが入っていました。それが「時空を越えて届いたメッセージ」を手にしたと感じた瞬間です。アーティスト自身から発せられた思いが時を越えてもなおそこに存在し、数十年後に偶然にも中古レコードショップで自分が手にする、小さな一個人に起きた一連の巡り合わせに心が動きました。そしてこの体験が、音楽業界を志すきっかけとなったのです。

人生の転機となったBobby Brown(ボビィ・ブラウン)のアルバム「REMIXES」(国内盤)

自身が携わった作品が後世まで残るものであってほしい。

目指すは「時を越えるメッセージ」を届けること

中古レコードショップでの原体験から、今度は自分自身がそういう体験を届ける側になりたいという目標が生まれました。 先述の「Revers3:x」は、その「時を越えるメッセージを届けたい」という思いに挑戦したものでした。ライブのコンセプトも、少し先の未来から見た『架空の若者文化を牽引していた都市』で、2020年代に活躍していたアーティストの映像データが再生され、そのメッセージを受け取った人々や街がきらびやかによみがえるというストーリーを持っています。
「時を越えるメッセージ」は、この時は“ラップ”にフォーカスが当たることになりましたが、いつの時代も色褪せず、誰かの心の琴線に触れる言葉の本質をラップという表現から感じているからでもあります。Bobby Brownの作品と思いが時を越えて自分の手元に届いたような感動を、さまざまなアーティストの姿や作品を通じて視聴者の方に届けられていたらうれしいです。
私たちが生きる現代社会は変化が激しいと感じていて、身のまわりの形あるもののほとんどが100年後には存在していないかもしれないと思いを巡らせることがあります。しかし、音楽に限らず、朽ち果てずに時代を越えて愛される物は存在します。例えば、100年前に書かれたJ. D. Salinger(J・D・サリンジャー)の「ライ麦畑でつかまえて」は今でも名作として世界中の人々が愛読しています。日本の作家でも宮沢賢治の作品は、誰もが一度は読んだことがある名作ばかりでしょう。私が携わった作品も後世まで残るものであってほしいという思いで仕事をしています。

Revers3:x(リバースクロス)

個性的な同僚たちと共に、成功を目指して走り続ける

もしSMLでA&Rという職種を目指す方に私が伝えられることがあるとすれば、興味のままに遊んで、たくさん経験して、自分の好きな「瞬間」や、好きな「モノ・コト」を増やしてほしいということです。そして、同時に他人の好きな「瞬間・モノ・コト」に対して、オープンマインドであって欲しい。身近な人々と価値観を共有して大きな「好き」になった結果、いずれ誰かの「好き」に変わっていく、そのような瞬間をA&Rとして経験してきました。
私が所属するSMLは、多様な人、異なる視点でより良いものをつくるという考えが社内に浸透しているなと感じます。実際、同僚たちはさまざまなバックグラウンドや個性を持った人ばかりで、お互いにその個性を決して否定せず、むしろ興味を抱く人々が多い気がします。そしてひとたび「同志」が見つかると加速的に目標へ突き進んでいってしまうような、パワフルさもあります。個人の熱量がお互いを刺激し合い、チーム一丸となって成功を目指していける熱いカルチャーを強みに、頼もしい仲間と共に今後も走り続けられればと思います。