SONY

あらゆる人がイメージセンサーを活用できる世界をつくる

ソニーセミコンダクタソリューションズとマイクロソフトの共創

第7回は、イメージング&センシング技術を強みとし、半導体事業を手がけているソニーセミコンダクタソリューションズ(以下、SSS)とマイクロソフトの共創について紹介します。インテリジェントビジョンセンサーをはじめとするイメージセンサーによるエッジAI技術を活用したソリューション開発を加速させるプラットフォーム「AITRIOS™(アイトリオス)」。この展開において、クラウド技術に強みを持つマイクロソフトと協業しています。便利な社会・産業の実現にむけて、パートナー企業が簡単にイメージセンサーを使ったソリューションを構築できるように2社は「共同イノベーションラボ」を立ち上げました。AI倫理のルール作りのためのアプローチも検討を進めています。マイクロソフトで共同イノベーションラボを運営する山﨑 隼さんと Sony Semiconductor Solutions America でAITRIOS担当の渡邊 翔太の二人に話していただきました。

【AITRIOS】とは?

「AITRIOS(アイトリオス)」とは、SSSが展開する新たなエッジAIセンシングプラットフォーム。IoT*端末の増加に伴い、多種多様かつ膨大なデータをクラウドで処理するため、プライバシーリスク、通信・処理・分析のレイテンシー、電力消費、セキュリティの保持といった運用上の負荷が増大しています。それらの課題を解決するために、クラウドのみで情報を処理するのではなく、カメラやセンサーなどエッジデバイス(エッジ=クラウド上ではなく利用の現場に設置される機器)側でAI処理を行い、必要な情報のみクラウドに送信する仕組みがエッジAIです。「AITRIOS」を通してエッジとクラウドが協働可能なシステムの構築や、パートナーによるエッジAIを用いたセンシングソリューションの普及・拡大を支援し、さまざまな産業に対する新たな価値提供や課題解決に貢献することをめざしています。

  • *IoT=Internet of Thing「モノのインターネット」と呼ばれ、さまざまなモノがインターネットに接続されることで情報交換が可能となる

PROFILE

【共創パートナー】
Microsoft Corporation
AI ビジネスデベロップメント担当
「共同イノベーションラボ」運営
山﨑 隼さん

Sony Semiconductor Solutions America
「AITRIOS」ビジネスデベロップメント担当
渡邊 翔太

共同イノベーションラボとは

ーソニーとマイクロソフトのAI/IoTの専門家が協力する『共同イノベーションラボ』とはどのようなものでしょうか。

山﨑 隼さん(以下、山﨑):「共同イノベーションラボは、ソニーとマイクロソフトが共同で作りました。ソニーのIMX500やAITRIOSと我々のAZUREの技術を組み合わせることによって新しいソリューションの構築が可能となります。ただ、もう一つ足りないものがあって、それがお客様のユースケース(活用事例)です。その3者によるソリューション作りのための「場」が必要だったので、共同イノベーションラボを作ったという経緯になります」

渡邊 翔太(以下、渡邊):「ソニーのエンジニアとマイクロソフトのエンジニア、そしてお客さまのエンジニアとがみんな集まって、ワイワイガヤガヤとこうしよう、ああしようというのを積極的かつ建設的に皆さんと議論して進められてきたと思います」

画像とAIを誰でも活用できるプラットフォーム

ー世界のテクノロジー最先端企業がAIとIoTを活用する、現在の状況と課題は何でしょうか?

渡邊:「IoTと言うと、例えば温度センサー等がクラウドに繋がりそれらの機器のモニタリング・分析をしているようなさまざまなアプリケーションがあると思うのですが、イメージセンサーの捉える画像、という情報源もあたかもIoTセンサーのような使い方ができると、今までなかったような新しい価値提供ができると考えています。しかしながら、イメージセンサーから出る画像は、情報量が多いためデータ量として大きくさらに、非構造化データでもあります。何百万個もの画素それぞれがとらえた「光の強弱」の値が並んでいるものなので、そのまま何も加工せずにデータをクラウドに送って処理するというのは(処理量やネットワーク負荷等を考慮すると)なかなか難しいと思っています」

山﨑:「この数年で、共同ラボから出てきているユースケースでは、例えばエンジンのデータをクラウドに送りたい、映像に加えて振動のデータや電圧など様々な種類のデータをリアルタイムで処理したい、大量のデータを送らないといけないけれど、ネットワークに負担をかけてしまうという悩みは多いと私達も聞いております」

渡邊:「そうですね。なるべく情報のソースに近いところで必要な情報だけを抽出して、軽くなったデータでクラウドと連携するのがいいと考えています。例えば映像でいうと、目的の用途に応じて、画像の中に含まれている、今回の目的にあった有益な情報と、その用途では不必要な情報とが混在しています。この状態(映像そのもの)だと、ものすごく大きなデータになってしまいますので、本当に必要な情報だけをエッジで抽出してクラウドと連携するのが理想的な姿だと思います」

山﨑:「映像は(データ量が)大きいですよね。カメラで撮影した映像をそのままクラウドに送って処理するとなると、リアルタイム性に欠けてしまう。私も元々は映像業界で働いていたのですが、映像を使って何かしらAIの処理をするためには、データそのものをクラウドに上げなければいけない。その時に(データが大きくて転送速度が遅延するとレイテンシーを起こし)リアルタイム性がなくなってしまうので、そこを何とかして解決していきたいとずっと思っていましたね」

AITRIOS プラットフォーム

SSSのエッジAIセンシングプラットフォーム『AITRIOS』とマイクロソフトの『AZURE』について、それぞれ教えていただきました。

渡邊:「私たちはAITRIOSというエッジAIセンシングプラットフォームに取り組んでいます。イメージセンサーなどをIoTデバイスとしてクラウドにつなげられると、さまざまなユースケースに対応することができます。しかし開発するためには、画像処理もできて、組み込みのソフトウェアスキルもあって、クラウドのネットの知識もある等、非常に多岐にわたったスキルを持ったチームが必要になります。AITRIOSは、これらのIoTデバイスを活用するための技術を容易に使える形で提供することで、誰でも自分のやりたいユースケースにクラウドベースのエッジAI処理を活用いただけることを目指すプラットフォームになります」

山﨑:「AITRIOSと同じ志でマイクロソフトクラウドを作っています。できるだけローコード、ノーコードでエッジ側から吸い上げてきたデータにインテリジェンスを加えて、ユーザーメリットの高いユースケースを作るためのツールをたくさん用意しているのがAZUREサービスです。AIやビジョン系のサービス、スピーチ系のサービスなどたくさん揃えています」

渡邊:「エッジというコンセプトを作り出したのはクラウドコンピューティングが出てきたからだったのかもしれません。クラウドで何でも処理をする構造から、より大規模に分散的な処理を行うような設計に向けて徐々にローカル(現場)寄りのエッジ側に処理を移していくような動きがあったと思っています」

環境認識 多種多様なIoTデバイスがクラウドにつながる世界 様々なデバイスから膨大な情報とデータがクラウドに流れ、データ爆発が起る

山﨑さん:「画像の処理で、クラウドに全部データを上げるのではなく、その手前一歩のところで何かしら処理できないか、というのをマイクロソフトでは『インテリジェントエッジ』と呼んでいます。ソニーは『エッジAI』と言っていますね。実際の活用現場では数10台、数100台、数1000台のカメラが店舗にあります。店舗の中である程度処理をしてから、結果をクラウドに上げる。このクラウドに上げる前の処理実施デバイスを“エッジ”と呼んでいます」

新しい価値を生み出すユースケース

ー「共同イノベーションラボ」のリテール分野や、スマートビルディング分野における、具体的な活用事例をおしえていただきました。

渡邊:「今までラボの中からですと、例えばリテール向けに、棚のモニタリングをして在庫の補充をするソリューションや、会議室の人数を把握して空調をコントロールし、CO2削減を目指そうというケースがありました。カメラを使って商品棚に、ちゃんと在庫が補充されているか、予定通りの位置に予定されている商品が置かれているかを確認することで、店員さんが在庫補充の頻度を最小限にすることができます。逆に補充を忘れることによる売り上げ機会の損失を最小化するような活用方法も考えられています」

山﨑:「そうですね。リテールのケースでもエッジ側で処理をしていきたいけれど、プライバシー対応や、そのインフラのコストも気になる。どうやって新しいソリューション作りをしたらいいのかという声がありました。ビルの空調管理のケースもエネルギー使用量とCO2排出量の削減に貢献できたというのは素晴らしい結果になったなと思っていて、マイクロソフトとしても誇り高いユースケースだと考えています。」

山﨑:「ビル管理をされているお客様で、ミーティングルームに人が入って来ないのにずっとエアコンが稼働している課題を解決したいという案件でしたね」

渡邊:「あの案件はIMX500を搭載したカメラで、誰がいるではなく、部屋に何人いますという情報だけを抽出してAZURE側に送っています。AZURE側では部屋の人数、時間などの変化に応じて最適な空調のオンオフの制御をするという仕組みのソリューションを構築しました。実際に本当に必要な時にだけ適切に空調をオンオフするというところが画期的でしたね」

山﨑:「コロナ禍でのチャレンジ、そして、温暖化といったサステナビリティなどの課題に取り組めたという、私の印象にずっと残っている案件です」

プライバシー保護を最優先AI活用のありかたとは

ーソニーとマイクロソフトの二社で『共同イノベーションラボ』を運営するにあたり直面した課題やそれを解決するためにチャレンジしたことは何ですか。

山﨑:「最初にソニーと今回のパートナーシップの話を始めた時に、とても面白いコンセプトだなと思いました。一番チャレンジングだなと思ったのが、カメラから入ってくる映像をプライバシーにも配慮しながらどのように扱うべきかというポイントだったと思います」

渡邊:「そのチャレンジングな課題に向けては、マイクロソフトと、ソニ—の専門家のチームのみなさんに集まっていただいて、一緒にラボの運用におけるルール作りをしました。お客様に対してもどのようなアドバイス・情報を提供していこうか、という議論に時間がかかりましたが、このようにして予めベースを作った上で運用を始められて良かったと思っています。マイクロソフトもソニーもかねてよりAI倫理に力を入れていた会社だと思いますが、双方の専門家チームがタッグを組んで(運用ルールを)作り上げられたっていうのは大きかったと思います」

山﨑:「かなり熱い会話が毎週続いていたのはよく覚えていますが、あれがあったからこそ、この素晴らしいラボがあるのかなと考えています」

渡邊:「一般的には『AI倫理』と呼ばれていますが、私の仕事においてもAIを使った技術を提供する人、利用する人、どちらも不快だったり嫌な思いをしないために、作る側が一生懸命考えていますね。カメラなどビジョンを使ったアプリケーションだと、やはり、プライバシーはクリアすべき大きな要素だと思っています。私たちとしてはエッジで処理することでプライバシーに配慮したいと思っており、プライバシーを配慮するための技術的な施策と運用的なAI倫理のルール作りを一緒にやったという、この二本立てで攻められたのがよかったかなと思っています」

山﨑:「素晴らしいパートナーシップだと思います」

ビジョンセンサーの可能性

ーソニーとマイクロソフト、両社がお互いに期待していることについて教えていただきました。

渡邊:「ソニーはどちらかというと、エッジ側が強い会社で、我々の強みはデバイス側にあります。一方で、マイクロソフトはデバイスも手がけながらも、クラウド側に強みがある会社です。私たちはそのお互いの強みをうまく相互補完的に組み合わせられるパートナーシップだと思っています。今後、よりたくさんのIoTデバイスが、それぞれエッジで必要な情報を抽出してクラウドに繋がるという世界が来た時に、膨大かつ有益な情報を不都合無くきちんと分析して、ユーザーに活用していただきたい。これを10台、100台、100万台、1億台で実現していくために、AITRIOSをどんな要求、要望、ユースケースがきても対応できるプラットフォームにしていきたいなと思っています」

山﨑:「マイクロソフトからソニーへの期待としては、たくさんのセンサーをこれからも作っていただいて、それらをAITRIOSを介し、マイクロソフトのAZUREクラウドでいろんなデータをつかってお客様のニーズに合うようなソリューション作りをこれからも一緒に作っていきたいなと思っています。新しい技術を使って、ソニーさんと共創して、今までにないような新しいソリューションを作っていきたいなと考えています」

ソニーにとって「共創」とは?

ーSSSのAITRIOSチームがマイクロソフトとのラボの取り組みを通して考える「共創」について教えていただきました。

渡邊:「私にとって共創とはまさに『Co-Innovation』のことだと思っています。このラボがCo-Innovation Labと呼ばれているように、エッジに強みのあるソニーとクラウドに強みのあるマイクロソフトがお互いの強みを持ち合ってお客様と一緒に『Co-Innovation』を創り出すというのが共創なのではないかと思います」

ーありがとうございました。