ゲームやアニメの事業の成長に向けて、クリエイターやプラットフォームとどう向き合うか?
ソニーグループでは、社長の十時裕樹がホストを務めるトークライブ動画番組「T time」を社員に向けて配信しています。昨年12月初めにはゲームやアニメの事業の担当者が出演し、「事業の成長に向けて〜クリエイター、プラットフォームとの向き合い方〜」をテーマに十時社長と語り合いました。「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というソニーのPurposeを実現していくために欠かせないパートナーであるクリエイターやプラットフォームに、ソニーグループの社員たちはどう向き合っているのか。社内で配信されたプログラムの内容をダイジェストでお届けします。
出演:十時裕樹 ソニーグループ(株)社長COO 兼 CFO
若井宏美 (株)ソニー・インタラクティブエンタテインメント グローバル商品企画部 部長
西本修 (株)アニプレックス 執行役員 兼 海外事業部/国内配信事業部 本部長
司会:マトゥセヴィチューテ・ノルガイレ ソニーグループ(株)COO室
ゲームのクリエイターと一緒にデバイスを開発
マトゥセヴィチューテ・ノルガイレ(以下、ノル):若井さんはゲーム、西本さんはアニメという領域で、クリエイターの方々とのお付き合いが多いと思います。今までの仕事の中で嬉しかったことや学びになったことを、エピソードを交えてご紹介いただけないでしょうか。
若井宏美(以下、若井):プレイステーションの商品・システム機能・サービスは、それぞれ単体では成立しておらず、ゲームコンテンツとセットで、初めて体験として成立するものになっています。例えば、「DualSense ワイヤレスコントローラー」というPlayStation 5のコントローラーについていうと、どういう機能を搭載しようかと企画の段階で検討します。
DualSenseは、アダプティブトリガーやハプティックフィードバックといった、ゲームへの没入感を深める機能を搭載しています。これらの機能について検討している際に、エンジニアのメンバーやR&Dのメンバーから「こんなデバイスあります」というものを、いろいろとプレゼンしてもらい試すのですが、実際にそれだけを触って、どう使えるか、本当に素晴らしいかは、わかりづらいことが多くあります。
ですので、(ゲームコンテンツの開発を手がける)プレイステーションスタジオのメンバー等にも、検討のかなり初期の段階から一緒に入ってもらって、そういったデバイスが動くようになると「クリエイターの目線からどう使えるか」というアイデアを出してもらい、ちょっとゲーム性があるサンプルデモみたいなものを作ってもらいます。そのサンプルデモと試作機を合わせて使ったときに初めて、「ああ、これは面白い」といったことが分かるのです。この驚く瞬間はいつも印象に残っていますし、仕事していて楽しい時間でもありますね。
十時裕樹(以下、十時):最初に考えた機能やコンセプトを試作して、実際にクリエイターの人に使ってもらって、「こういう使い方ができるんじゃないか」とか「こういうクリエイティビティを発揮できる余地があるのではないか」というフィードバックをぐるぐる回しながら、商品を良くしていくのだと思いますが、そういうインタラクションは大事ですね。自分たちだけでは思いつかないようなことが、クリエイターやユーザーから出てくる可能性も十分あるわけで、それはすごく大事な接点だと思います。
西本修(以下、西本):クリエイターとの向き合い方でいうと、アニプレックスはグループ会社に、A1ピクチャーズやクローバーワークスといったアニメの制作スタジオがあります。そこでは、監督さんやクリエイティブディレクターさん、あるいはキャラクターデザイナーさんといった作り手の方と一緒に仕事する機会がありますが、アニメの作り手側の思いや作品に対する考えをファンの方々にしっかりと伝えていくというのは、アニプレックスの方針として、大切にしていることです。
一つの例として、例年ロサンゼルスで開催される「アニメエキスポ」という海外で一番大きなアニメのイベントでのエピソードを紹介します。そこに、ある作品のキャラクターデザイナーの方をゲストとしてお呼びして、作品のプロモーションをやったんですが、そのクリエイターさんは、直前まで過酷な仕事をされていて、疲れ切った状態でロサンゼルスに到着して、イベントに参加されました。イベントの開始前は、本当にこのイベントが成立するのかというくらい関係者が心配するほどでした。
でも、実際やってみると、約3,000人の観客が集まったイベントは大成功に終わりました。その後にそのクリエイターさんと話をしたところ、アニメのファンの方々と直接触れ合って、歓喜の声を聞いたり、「よくアメリカに来てくれました」という感謝の言葉を直接聞いたりして、「モチベーションのアップにつながった」と語っていました。 「今回のイベントで英気を養えたので、また日本に戻って頑張っていきます」というようなコメントもいただきました。
そういったコメントを聞くと、我々もアニメに携わっている冥利に尽きますし、モチベーションにつながります。そういう点は、作り手さんと一緒に仕事をさせていただくという意味で、大事にしているところです。
十時:やっぱり直接反応があるっていうのはすごく嬉しいことですよね。西本さんがおっしゃる通り、我々の側が熱量や思いをどう伝えるか工夫することは、すごく重要なことですね。
配信プラットフォームとアニメを共同制作
ノル:今度は、視点をクリエイターからプラットフォームに切り替えたいと思います。若井さんと西本さんが向き合っているプラットフォームは、ゲームとアニメということで性質がだいぶ違うと思いますが、向き合う際にどういうところを念頭において取り組んでいるか、ぜひ聞きたいなと思います。
西本:アニメの配信プラットフォームはいろいろとありますが、我々は取引先様とフラットなお付き合いをさせていただいています。具体的には、作品にとって一番いい形での展開ができることを最重視しています。それぞれの作品の特性とプラットフォームのユーザーの特性を踏まえた上で、作品にとって最善な展開を心がけてやっています。
もう一つは、我々のグループに、クランチロールという世界有数のアニメ専門プラットフォームがあります。アニプレックスの作品を海外展開していくときには、クランチロールとも協業していますが、お互いに適度な距離を保ちながら、いいパートナーとして展開していきたいと考えています。
十時:プラットフォームがグループの中にあるというのは、いいことだと思います。それによって得られるデータやフィードバックがあると思いますが、活用していますか。
西本:データを生かして、クランチロールと一緒にアニメを共同制作していこうという動きも、去年あたりからやっています。海外向けの作品もクランチロールのデータを使っていたりしますし、そういった取り組みは、これからも続けていこうと思っています。
若井:お話を聞いていて、プラットフォームといっても、私たちとだいぶ違う捉え方をしているなと感じました。私にとって、プレイステーションのプラットフォームは、土台や場、裏の仕掛けみたいなものが動く「基盤」、となっているように感じています。その上で、いろんな遊び方ができたり、いろいろな種類のゲームコンテンツが出てきたりと、クリエイティビティを制限せず、いろいろなものが現れることを想定して考えていくことが、商品企画という立場で気をつけているところです。
「プレイステーションのプラットフォームに来ると何か面白いものがある」という信頼感は、長い年月をかけてできたもので、この先も確保していきたいと考えています。その一方で、チャレンジというか、新しいジェネレーションのプラットフォームを考える際は、先のことを考えなくてはいけない。4年も5年も先に、どういったようなものを準備するとユーザーの皆さんが楽しんでくれるかと想像し、分析しながら、ひとつひとつ決めていく。そこは、バランス感覚やフレキシビリティも含めて、チャレンジの部分だと思います。
ノル:十時さんにお聞きしたいのですが、経営において、長期と短期といった課題にどう対処されているのでしょうか?
十時:それはいつも抱えるジレンマですよね。大事なのは、ゼロイチのバイナリーな議論にならないように、最適解をそのときそのときで求めるようにする、ということだと思います。そのために、たくさんの人を巻き込んで意思決定をしていくことが、非常に重要なプロセスだと考えています。
いろいろな新しいアイデアを世の中に出していきたい
ノル:西本さんと、若井さんに、今後、挑戦してみたいことや仕事でやってみたいことをうかがいたいと思います。
西本:アニメの海外展開はまだできてない地域がありますので、展開を強化していきたいと思っています。具体的には、グローバルサウスといわれる東南アジアやインド、南アフリカといったところですね。まだアニプレックスの作品の展開が十分でないところがありますので、そういったところを強化していきたいです。
我々の作品を現地のファンに届けていくために、配信プラットフォームのほか、イベントに参加したり、グッズを作って現地のお客さんに届けたりして、現地のファンとの接点を持つようにしていきたいと思っています。
十時:アニメの海外市場の伸びは著しいですね。国内は昔から人気があって伸びてきたのですけど、ある程度成熟してきていて、今の成長はもっぱら海外が牽引しています。最初のころは、海外市場がここまで伸びてくるとは思わなかったですけどね。
若井:私の場合は、働き方やマインドセットの話になりますが、いろいろな新しいアイデアをどんどん世の中に出して、フィードバックをいただくようなことを、もっとできるようにしたいです。自分自身もチームの環境も、そうしていければと思っています。
十時:テストできるような仕組みがあるといいですよね。ハードウェアの場合は難しいことも多いですが、ソフトウェアは比較的やりやすいですね。アルファ版、ベータ版という形で。
ノル:アニメは、商品としても変わってくる可能性がありますね。グッズだけではなく、現地での体験だったり、いろいろなところにたくさんの可能性があると思います。
プラットフォームには「その中でなんでもできる」というクリエイターからの期待もあると思います。それはある意味、すごくいいプレッシャーでもあって、次に何を実現してくれるかというところは楽しみですね。また、ゲームというコンテンツの消費はグローバルを含めて拡大していると思うので、成長領域として今後も期待したいと思っています。