本質と先駆を行き来しながら、
磨いていく
ソニーのデザインフィロソフィーについて、どのように受け止めていますか?
前提として、大きく2つ思っていることがあります。まず「常に新しいチャレンジを続け、それをコンセプトで終わらせない」こと。その上で、ちゃんと社会実装できるものに仕上げていくよう、個人的には常に心がけています。2つ目は、「人々から共感を得られるように、繰り返し積み上げていく」こと。積み上げていくことで、最終的に上質なものが残り、ソニーデザインの“仕組み”みたいなものができていく。そんなイメージを描いています。そして、それらの指標になるものがフィロソフィーなのだろうと思うのです。
私が携わっているUI/UXの領域は、さまざまなプロダクトに同じ作法を用いたり、同じビジュアル要素を用いたりといったように、横串の考え方でものを作ることが多い仕事です。加えてUIはソフトウェアと一緒に進化すべき領域で、共通化と進化の両輪を常に意識しながら取り組む必要があると思っています。同カテゴリーにおけるプロダクトでバラバラにやっていては、ソニーの意思のようなものが伝わりにくく、一貫したブランディングや使い勝手に繋がりません。
そのため、変える部分と変えない分を意識しながらユーザーの声に耳を傾け、常にアップデートしていくことの積み重ねが大切なのだと思います。それを具体的に言葉にしている人、していない人、それぞれいるでしょうけれど、自分たちの指標を持つことで、アウトプットの質が高められていくことは間違いありません。ソニーのデザイナーとして、それを芯に持っておくのは大事なことですよね。
本質とは、
ユーザーが体験する価値
具体的なプロセスは、まず「本質」を見極めること。課題によって何が本質かというのは変わりますから言葉にするのは非常に難しいですが、端的に言えば、本質とはユーザーが体験する価値だと私は捉えています。このサービス、このプロダクトを使う価値とは何なのか。その核となるものを抽出してユーザーに分かる形で翻訳していくこと。私たちのアプローチとしては、カスタマージャーニーを作り一連の体験を設計し、体験のピークとなる“頂点”をインサイトからいくつか見つけ出していくようなイメージです。その点を繋いでいくことで、大きな山脈のようなストーリーができあがる。
そして、そのストーリーをユーザーにどう受け止められるかをしっかりとデザインすることが「共感」を生むのだろうと思っています。
本質と先駆のもとで
共感が得られるデザインを
ソニーのデザイナーとして、大切にしていることは何ですか?
ソニーとして出すからには、本質と先駆のもと、共感を得られるデザインにしていかなければならないと常々考えています。特に「本質」を見極めるというときには、最終的にそれが「新しい」と言えるのかどうかをしっかりと検証しなければなりません。現代では新しいものは世の中に溢れています。それらをベンチマークとして、他社と差異化できるポイントになっているのかどうか、そこをきちんと探ることを特に大切にしています。アプローチが違うのではないかとなれば、また立ち戻って「本質」と「先駆」を行ったり来たり。そういうのが実際の現場でやっていることだったりしますので、「本質」と「先駆」はソニーのデザイナーとしてとても重要なキーワードです。
それと、“体験のピークを見つける”というところでは、ピークではないところとの強弱を作ってあげることも、また大切なことです。ピークばかりでは今の時代では「共感」が得られないと思うからです。今はフィードバックをもらいながら改善していくことができる時代でもあり、そういったプロセスも生まれてきているので、ちゃんと世の中とユーザーに目を向けていくことが必要です。
ソニー製品に魅力を感じたエピソードを教えてください。
大学時代に使っていたパソコン「バイオノート505」です。そのスタイリングも衝撃でしたが、今では当たり前でも、当時としては見たこともないような機能が実装されていて驚きました。プロダクトとアプリケーションのUI/UXがぎゅっと詰まったもの、というイメージです。そこからソニーって面白そうな会社だなと興味を持つようになりました。
実際に入ってみると、デザインと設計が一緒になってものづくりをしている様が印象的で、そうやってソニーのカルチャーの中で鍛えられることで現在のフィロソフィーのようなものができあがってきたのだろうな、と感じています。いい意味で泥臭いというか。今もそういった部分はありますけどね。
デザインにできるのは、
未来のビジョンを示していくこと
デザインが今後、世の中に寄与できるとしたら?
今、世の中が大きく変わっていることを実感していますが、個人としてもそれを実感していますが、社会が変化し、情報が見えるようになった一方で課題も多く生まれています。それらの課題を言語化することも大切ですが、デザイナーの一番の強みはその課題の先にある未来を想像し、それをビジュアライズすること。つまり多くの人に未来のビジョンを見える形で示していくことだと思います。
閉じこもってしまっているものを、いかに共感を得られるような形で開いていくことができるか。それこそが世の中に求められているデザインの価値だろうと、今、それを痛感しているところです。
赤川 聰
2002年ソニー入社し、ブラビアテレビ、パーソナルコンピューターVAIO®」、
「フルサイズミラーレス一眼カメラα™」などのUIデザインを担当。2008年から当時のデザインセンターアメリカに駐在。
2019年に現職に就任し、既存商品および研究開発領域のプロジェクトに従事。
最近では「VISON-S Prototype」のUI/UXを担当。