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ソニーのデザイナー、前坂 大吾がソニーデザインフィロソフィーの「本質」について語ったものをコンピュータグラフィックスで表現したイメージ画像 ソニーのデザイナー、前坂 大吾がソニーデザインフィロソフィーの「本質」について語ったものをコンピュータグラフィックスで表現したイメージ画像

本質を突き詰めることで、
デザインのあるべき姿が
見えてくる。

前坂 大吾

コミュニケーションデザインを
手掛けてきたデザイナーが語る
ソニーデザインのフィロソフィー

前坂 大吾のポートレート写真

やり切ったと
感じるところから、
もう一歩踏み込みたい

ソニーのデザインフィロソフィーについて、どのように受け止めていますか?

「原型を創る」というフィロソフィーの下には「先駆」「本質」「共感」という3つの言葉がありますが、それぞれ独立した概念ではなく、互いに関係し合っているものだと捉えています。「先駆」を目指そうとすれば必然的に「本質」が試され、本質を考えた分だけ、デザインにストーリーが生まれる。そして、そのストーリーが「共感」へと繋がっていく。そんなイメージです。

ソニーでは
本質であること
脈々と受け継がれている

中でも私は「本質」がソニーらしさを表現する上で重要なキーワードになっていると考えています。ソニーには文化として本質であることが脈々と受け継がれていて、デザイナーそれぞれが高いレベルでそこを目指している。ソニーとはそういう集団です。私はソニーに入る前から、本質であることを意識してやってきたつもりでしたが、それまで考えていたレベルでは太刀打ちができないと思わされることが度々ありました。

今でも思い出す苦い経験があります。入社直後に担当した「BRAVIA」のコミュニケーションで、外国人の少女がテレビの横に佇んでいるというキービジュアルをデザインしました。クオリティの高いビジュアルになったと自信を持っていたのですが、特に海外では一切使ってもらえませんでした。それは、ビジュアルに込めたストーリーの甘さもありますし、海外の多様性や文化的背景を意識できていなかったからでもありました。これは本質をどう捉えるかの話であり、同時に共感力が足りていなかった側面もあったと、今振り返ってみて感じます。

先駆を目指そうとすれば
必然的に本質が試される

本質の中でも特に重視されていると思うのは、課題の本質とは何かという部分。デザインを始めるときには、まず企画書やリサーチなどの膨大な情報を取り込んで、ビジネスの本質がどこにあるのかを考え抜きます。ビジネスの本質がしっかりと掴めないと、デザイン的な本質にも辿り着くことは難しいですよね。

そうやって本質を突き詰めていった先には、最終的にデザイナーが手を動かす時間が必要なくなる、ということが起こっていくだろうとも考えています。本質を形にしたら自ずとそうなるというのが、究極のデザインだと思うからです。例えば「VISION-S」では、OVALというコンセプトを象徴する光のラインが車体のデザインに用いられていたので、そのラインをロゴに取り込むことで、電気自動車として新しいブランディングができるのではないかと考えました。そこで出てきたのが、Sからラインが広がる電気回路というコンセプトです。このストーリーが思い浮かんだ時点で、自然とロゴデザインは生まれていました。この、手を動かさなくてもデザインが現れてくるような感覚は個人としても大事にしており、ソニーデザインが目指す本質とも近いと考えています。

社会的な付加価値を
どうデザインしていくかが鍵

ソニーのデザイナーとして、大切にしていることは何ですか?

デザインをする時に思っているのは、「どんなに小さくても良いから、ユーザーに喜んでもらえるものや、良い意味で期待を裏切る要素を盛り込みたい」ということです。膨大な情報を整理して、突き詰めていくことで絞り出したものがデザインだとしたら、そこに起爆剤のようなものを一滴入れておきたいのです。与えられたミッションや期待に応えるのは当然で、それだけでは想像の範囲内で終わってしまって面白くない。だから、できたと思ったところからもう一歩踏み込んで考え、手を動かすんです。その作業の手前で止まることは簡単ですが、それをしないとソニーデザインとして誇れるデザインには到達できないと思うんです。

ソニー製品に魅力を感じたエピソードを教えてください。

20年ほど前に「QUALIA」というシリーズがありました。数百万円クラスの高級プロジェクターやオーディオを受注生産で展開していたのですが、当時の銀座ソニービルに展示されていて、それを眺めるのが好きでした。高級路線なのでもちろん最高の機能を有しているのですが、それ以上に感性に訴えるというコンセプトが特徴的で、プロダクトやコミュニケーションの質がすごく高かったんです。所有すること自体に意味を持たせるアプローチは、今の時代にこそ求められていると思います。

QUALIA 004の製品写真
QUALIA
前坂が関わった、人とAIとロボティクスが共生する未来像を示したAffinity in Autonomyのキービジュアル写真
ミラノデザインウィーク2019にて展示した‘Affinity in Autonomy’

デザインが今後、世の中に寄与できるとしたら?

今の世の中は機能が出尽くしていて、スペックで戦ってしまうと価格競争にならざるを得ない時代です。戦うべきはそこではなく、ソニーのプロダクトやサービスにはどういう意味があるのか、どう感性を刺激してくれるのか、ということを伝えていかなければ選ばれないだろうと思っています。

そのためには、ソニーという会社が、社員のこと、お客様のこと、社会のこと、環境のことをどう考えているか、という姿勢を伝えていくことが求められていると感じています。「デザイン」という言葉の定義も広がり、デザイナーに求められることもハイレベルになっているので、様々な分野に興味を持つことや学習意欲が重要になってきている気がしますね。

前坂と同僚たちの写真

前坂 大吾

広告制作会社を経て2008年にソニー入社。2010年から3年間イギリスへ赴任。ヨーロッパ向けのパッケージデザインやプロモーションに触れる。
2013年に帰国後、コーポレート、モバイル、ロボティクス領域のコミュニケーションデザインに従事。
最近では「aibo」のブランディングやプロトタイプEVモデル「VISION-S」のロゴデザインなどを担当。