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ソニーのデザイナー、フィリップ ローズがソニーデザインフィロソフィーの「共感」について語ったものをコンピュータグラフィックスで表現したイメージ画像 ソニーのデザイナー、フィリップ ローズがソニーデザインフィロソフィーの「共感」について語ったものをコンピュータグラフィックスで表現したイメージ画像

未来のニーズから、
コンテキストを
紡ぎ出していきたい。

フィリップ ローズ

シニアープロデューサーが語る
ソニーデザインのフィロソフィー

フィリップ ローズのポートレート写真

原型を創るとは、
新しいパラダイムの創造

ソニーのデザインフィロソフィーについて、どのように受け止めていますか?

「原型を創る」を初めて見たとき、ソニー創業者の1人である盛田が掲げた「人のやらないことをやる」を現代にアップデートしていると思いました。不可能だと思われていることへの挑戦、あるいは新しいパラダイムの創造ということです。

先駆は、
常に一歩先を見ること

先駆・本質・共感のうち、「先駆」はデザイナーすべてが目標とすべきもので、常に一歩先を見ることが求められます。それも、実現可能かどうかを見極めたうえでのことです。

本質とは、
日々参照すべき基準点

「本質」は、伝統的なデザインのフィールドに新しい方法論を導入したり、人々の常識や体験を常に再発明したりしようとする態度です。仕事の上では、日々参照すべきベンチマーク、基準点として重要なものです。

「共感」については、社会的コンテキストや消費者ニーズの把握、また人々を理解することです。人の生活をよりよい方向に変化させるには共感が欠かせません。

これら3つの言葉の中では、個人的には「本質」を重視しています。それは私が大切にしている「誠実であること」と密接に関わっていますし、ソニーデザインのフィロソフィーであれ、プロダクトの企画書であれ、モラルや倫理感をもって妥協せずブレずに遵守する文化がソニーにあると信じているからです。

人の生活を
よい方向に変化させるには、
共感が欠かせない

ソニー製品に魅力を感じたエピソードを教えてください。

私が初めてソニー製品を認識したのは『TR-63』というラジオでした。この製品は私と同年に誕生したので、その当時を物語るプロダクトとして特に印象深いです。『TR-63』 でデビッド・ボウイやイギー・ポップなどを深夜に聞いていました。

さまざまな領域のデザインを手掛ける今、体験が重要になっています。その意味で、2018年のミラノ・デザインウィークでの展示「Hidden Senses」は、ソニーデザインらしさが最もよく具現化されたものだと感じています。

トランジスタラジオ TR-63

デザイナーはオープンかつ
謙虚に学び続けることが必要

ソニーのデザイナーとして、大切にしていることは何ですか?

ソニーのデザイナーには、実用的なソリューションだけにとどまらず、象徴的あるいは情緒的(もしくはエモーショナル)なレベルでユーザーとコミュニケーションすることが求められます。様々な人に刺激を与え、価値を創造する能力ということです。その一方で、ソニーではディテールの詰めや最終的なデザインへと仕上げるプロセスにも時間をかけます。これが「本質」の追求のために必要であり、ソニーのデザイナーに求められる重要な資質のひとつです。デザイナーが集うミーティングで幾多の議論を通して身に付けていくものなので、オープンかつ謙虚に学び続ける姿勢が大切です。そして「本質」を身につけることができれば、その成果が結果的に「よりよい」や「誰も見たことのない」ものへと結実していくと信じています。

2016年の映画『パッセンジャー』(原題: Passengers)*では、作品の世界観に合う先進的なコミュニケーションツールをデザインしました。数百年後の生活がどうなっているのかを形作るためのイマジネーションが求められたので「先駆」が主軸となった仕事でした。

そしてインタラクティブでデジタルな領域においては、先に触れた「Hidden Senses」のような「共感」を呼ぶ仕掛けが重要な役割を担います。デザイナーは、人の体験を扱うことになるわけです。そこでは深い理解、つまり「共感」が鍵となります。また、パンデミック以降、ニューノーマル環境下で人々の生活がどうなるかを私たちが理解するために「共感」は重要です。

*2017年に日本で公開されています。

ミラノデザインウィーク2018にて展示した「Hidden Senses」

デザインが今後、世の中に寄与できるとしたら?

未来を理解するためには多様な意見の汲み上げが必要で、そのためにチームワークは不可欠だと思います。異なる国籍、性別、固有の才能やスキルをすべて集結し、共通の目標に取り組めるのはソニーデザインの大きな強みです。偉大なアイデアというものは、チームワークによって生まれるのです。

また、最近は空間デザインに関わることが増えており、パンデミックによる制約がこの分野における可能性を更に広げ、興味深いものにしていると感じます。居心地のいい環境、人々のオフィスへの復帰促進といった課題について、リサーチと実践を通したニーズの理解をもとに、空間計画やサステナビリティを考慮に入れた適切な素材を選択しながら白紙からデザインするのです。私はいま、人々の未来のニーズからコンテキストを抽出することに一番関心があります。

ファウンダー盛田さんとソニー本社にて

フィリップ ローズ

1991年入社。プロダクトデザイナーとして入社後、様々な分野のデザインを手がけてきた。現在はロンドンのデザインセンター・
ヨーロッパでクリエイティブ・チームの一員として、シニアマネージャーを務めている。