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インタビュー/講演

インタビュー

「STAPLE」
クリエイティブディレクター
ジェフ ステイプル氏

世の中の先行きを予見し、未来の方向性を考えるソニー独自のデザインリサーチプロジェクト「DESIGN VISION」。
クリエイティブセンターのデザイナー自らがリサーチやインタビューを行い、分析や提言につなげる取り組みです。
世界が新型コロナウイルス危機に覆われた2020年の「DESIGN VISION」。そのリサーチレポートから、
ファッションブランド「STAPLE」のクリエイティブディレクター、ジェフ ステイプル氏のインタビュー記事を転載します。

ジェフ ステイプル氏のポートレート写真
ジェフ ステイプル/Jeff Staple クリエイティブディレクター。1975年、アメリカ・ニュージャージー生まれ。97年にステイプル・デザインを創設し、ストリートブランドの「STAPLE」や、オンラインメディア「HYPEBEAST」のポッドキャスト発信などで世界中の若者からリスペクトを集める。スポーツメーカーからラグジュアリーブランドまで、幅広いブランドとのコラボレーションプロジェクトでも知られる。
「STAPLE」公式サイト

ユースカルチャーから学ぶ
ブランドの未来

ストリートファッションブランド「STAPLE」の創設者として、スポーツブランドからテックカンパニーまでさまざまなコラボレーションを実現し、若者から絶大な支持を集めるジェフ ステイプル。日本のストリートファッションシーンを代表するクリエイターの藤原ヒロシ氏とも協働するなど、長年にわたりユースカルチャーを牽引してきた視点から、今後のクリエイティブやブランドコミュニケーションのあり方について話を聞いた。
(2020年10月発行「DESIGN VISION Insight 2020」レポート冊子より転載)

コロナ禍で伝染する
ポジティブなビジョン

ご自身のブランドのビジョンについて教えてください。

創立から23年にわたって掲げている「STAPLE」のブランド・ステートメントは「ポジティブ・ソーシャル・コンテージョン(社会へのポジティブな伝染/波及)」。ポジティブやソーシャルというと社会貢献など慈善的なことだと思う方が多いのですが、ここで意味しているのは「自分を幸せにすること」。多くの人は友達や家族など他者を幸せにすることを義務だと思っており、自分をないがしろにしがちな結果、個で構成されている社会が壊れていく。それに対してソーシャル・コンテージョンとは、ポジティブな行為が周りの人に波及していくこと。ファッション、小売、ブランディング、マーケティングなど、私の活動は多岐にわたりますが、このビジョンはすべてにおいて一貫しています。

積極的に人々の人生を変えようとしているわけではないですが、自分のために必要なことに集中し、それを共有することが、結果として他人の人生に影響を与えている。そして、コロナウイルスの感染が拡大する社会のなかで、このビジョンはより強い意味を持ち始めたと感じています。

「STAPLE」の展開アイテムより、
「A positive social contagion」の
メッセージがプリントされたトップス。

長きにわたって若い世代の支持を集めてきた秘訣はなんでしょうか?

「STAPLE」の主な顧客は15〜25歳の若者たちです。この層は好き嫌いが激しく、カルチャーもどんどん変化していくため、非常にターゲティングしにくいといわれています。また、彼らが年を取るたびに次の世代をターゲットにしないといけない。それだけに、信頼やリアルさの継続、嘘をつかないことが重要だと考えています。

大企業は若い子たちをあまり重要視しない一方で、若者は企業のマーケティングの対象になるのを嫌う傾向があります。ブランドは若い世代のガイド役やメンターになる必要があるのです。知識を与え、支援する代わりに若い世代の生のエネルギーをもらうという、等価交換的なコミュニケーションのできる関係を築いていくことが重要ではないでしょうか。

若者文化やコミュニティと
信頼関係を構築する方法

ソニーはかつて、ウォークマン®をはじめとしてユースカルチャーを牽引してきました。若者からもう一度、注目を集めるためにはどうすればよいでしょうか。

私自身もソニーファンとして成長した一人です。でも上の世代と比較すると、最近の若者のソニーへの愛は薄れてしまっているようにも感じます。それは、若者とコラボレーションする機会を逃してしまっているからかもしれません。ソニーは学校の年配の先生のように信頼できる存在ではあるが、友達として付き合いたいとは思わないという感じですね。

若者とコラボレーションする上で私が大切にしていることは、ワークショップです。例えば、シルクスクリーンのワークショップ。作業をとおして互いに心を開いて話をするようになり、信頼関係が生まれ、さまざまな気付きを得ることができます。マーケティングでよく用いられるフォーカスグループインタビューでは、信頼関係を築くことができず、有用な情報を得ることはできません。どうしても誘導質問のような形になり、被験者はこちらが聞きたいと思うことをそのまま答えるようになってしまいがちです。だからこそ、若者を知るためにはワークショップなどを通じて、一緒に何かをすることが一番いい方法だと思います。

ライブコマース・プラットフォーム「NTWRK」上で開催された
トークショーでの一コマ。

また、最近では「NTWRK」というサービスも活用しています。これはSNS版のテレフォンショッピングのようなライブコマースのプラットフォームで、ユースカルチャー好きのZ世代やミレニアル世代から支持を得ています。私の友達が始めたサービスということもあってローンチ当初から利用していますが、このサービスの良いところは、オーディエンスに直接語りかけることができる点です。比較的長いビデオやストーリーテリングを通じて、若者と直接コミュニケーションを取りながら商品を販売することができます。

それに、ドロップというストリートブランド独自のカルチャーをうまく取り入れているのも良い点です。ストリートブランドは伝統的なファッションブランドと違い、シーズンごとに決まったタイミングで商品をリリースするのではなく、限定品を場所や時間限定でドロップリリースします。「NTWRK」は、本来は時間的な制約から自由であるはずのネット上で、あえて決まった時間に限定して商品を販売するため、購買意識が高まるのです。ナイキとのコレクションも「NTWRK」でドロップしたところ、回線がパンクしかけるほどの反響がありました。

企業として
社会的スタンスを
打ち出す重要性

Z世代にとって、サステナビリティはどんな意味を持つとお考えですか?

Z世代がお金を使う判断基準のうち、重要な一つになっていると思います。彼らは倫理、人権、民主主義、環境に対して悪影響を与えない会社かどうかを厳しく見ています。サステナビリティはもはや選択肢ではなく、使命といえるレベルのものなのです。ファストファッションが登場し、誰でも低価格で高品質なものが作れるようになり、差別化がとても難しくなってしまった。消費者にとっては選択肢が増えている状況ともいえますが、品質で差別化できない以上、そのブランドの社会的な問題に対する姿勢に自分が共鳴や信頼できるかどうかが鍵になる。つまり、企業やブランドにとって何もスタンスを表明していないということが、逆にリスクになってしまう時代なのです。

「Black Lives Matter (BLM)」関連の取り組みにも力を注いでいますね。

BLMの問題が始まった当初は静観していましたが、しばらくして何も言わないのは決して中立ではないということに気付きました。そこで、長年の友人であるデザイナーの藤原ヒロシ氏に連絡して、BLMを支援する限定Tシャツを作って販売し、2500万ドルの寄付を集めました。私のブランドはアフリカ系アメリカ人のカルチャーから大きな影響を受けているため、長期的なサポートプランも発表しました。一つは「One for Equality」で、人種 の不平等を根絶する活動を行う団体に対し、永続的に利益の1%を寄付することを表明しています。また、ニューヨークのパーソンズ美術大学で学ぶマイノリティの学生に対して12万5000ドルの奨学金を設立したり、マイノリティの若者に表現の場を提供している非営利団体にプロボノでクリエイティブを提供したりしています。

ニューヨークで2018年に開催されたストリートカルチャーイベント「Hypefest」でのディスカッション風景。

日本でも音楽、ファッションなど、さまざまなカルチャー由来のものが文化に深く浸透していると思います。そのなかには、アフリカ系アメリカ人のクリエイティビティからサンプリングされたものもあるでしょう。ソニーのエンタテインメントコンテンツでも、さまざまなところで彼らのカルチャーが取り入れられていますよね。そのカルチャーに敬意を払い、創造的な方法を通じて何かしらお返しをすることは、とても自然なことだと思います。このようにソニーはグローバルブランドとして、社会的なスタンスを示すことが大事ではないでしょうか。

(2020年7月30日 オンラインインタビューにて)