インタビュー
水野 大二郎
(京都工芸繊維大学
未来デザイン・工学機構教授)
「“人間を超えるデザイン”を
めぐる思索と実践」
世の中の先行きを予見し、未来の方向性を考えるソニー独自のデザインリサーチプロジェクト「DESIGN VISION」。
クリエイティブセンターのデザイナー自らがリサーチやインタビューを行い、分析や提言につなげる取り組みです。
2022年のリサーチでは世界の変化をいち早く捉えるため、世界各地でフィールドリサーチを行いました。
社会の変化を自分たちの目で観察し、分析を行っています。
本記事では、リサーチテーマのひとつである「Culture Flux」の紹介とともに、
京都でフィールドリサーチを行った際に訪問した、京都工芸繊維大学工学機構 水野大二郎教授のインタビュー記事を転載します。
水野教授の専門であるサーキュラーデザイン、スペキュラティブデザイン、ファッションデザインなどの幅広い視点から、
多様な文化の理解に基づくデザインの実践について考えていきます。
「DESIGN VISION Annual Report 2022」における位置付け
「DESIGN VISION Annual Report 2022」では、デザイナー自らが世界各地のフィールドでリサーチを行い、気付きや洞察からインサイトを抽出し、未来に向けて注目すべき4つのテーマを導き出しました。そのテーマのひとつが「Culture Flux 高まる文化の流動性と世界バランスの変化」です。
気候変動、格差や分断、テクノロジーと人間の関係など大きな転換点を迎えた現代社会において、文化には絶え間ない変化の流れが生まれています。こうして生まれた変化の表れを、「Culture Flux(流動する文化)」と名付けました。
この流れのなか、今まで交わらなかった人々が交わることで、人と人とのつながりにも新たな展開が生まれています。お互いの文化を理解し、知識を共有することで、年齢や能力、ライフスタイル、食生活、美意識などに対しても新たな展望が広がり、クロスカルチュラルなデザインが生み出され始めています。
水野教授のインタビューでは、文化盗用問題や今後求められるデザイナーの人材像、メタバースでのデザインに至るまで、多様な文化の理解に基づくデザインと今後の展望について語っていただきました。
“固有性を守り、
人間を超える”
デザインの潮流
文化盗用問題について
水野教授はデザイン研究者として、スペキュラティブデザイン*1をはじめとする未来志向型デザインの実践に取り組んでいます。その観点から、現在注目されている領域について教えてください。
私自身の研究領域は多岐にわたりますが、最近注目している領域を挙げるとすれば、開発途上国を中心とする開発や文化をめぐる問題でしょうか。例えば、文化の盗用問題に国を挙げて乗り出したメキシコ政府についてです。民族の文化的な模様や色柄、その他アイデンティティにまつわる要素を自国の所有アセットとして位置付け、企業などに使用料を要求しようとしています。*2 その背景には、先進国の"開発"によって搾取されてきた歴史や、トレーサビリティ技術の発展がある。今後はブロックチェーン技術を駆使して国家単位で文化、知的財産を産業資源化する動きも十分ありえます。
今後はブロックチェーン
技術を駆使して
国家単位で文化、
知的財産を産業資源化する
動きも十分ありえます。
今後はブロックチェーン技術を
駆使して国家単位で文化、
知的財産を産業資源化する動きも
十分ありえます。
今後はブロックチェーン技術を駆使して
国家単位で文化、知的財産を
産業資源化する動きも十分ありえます。
今後はブロックチェーン技術を駆使して
国家単位で文化、知的財産を
産業資源化する動きも十分ありえます。
今後はブロックチェーン技術を駆使して
国家単位で文化、知的財産を
産業資源化する動きも十分ありえます。
今後はブロックチェーン技術を駆使して
国家単位で文化、知的財産を
産業資源化する動きも十分ありえます。
今後はブロックチェーン技術を駆使して
国家単位で文化、知的財産を
産業資源化する動きも十分ありえます。
もう一つの土着的文化への注目ポイントは、フィリピンやインドネシアなどアジア圏におけるスマートかつサーキュラーな社会実現における土着的な文化と都市生態系との関係です。パリやロンドン、コペンハーゲンでは職住近接でネイバーフッドを固めた生活圏の取り組みが進んでいますが、「製造のリ・ローカライズ」を掲げてバルセロナの「Fab City」プロジェクトを主導していたトマス・ディアスは、西欧的な都市計画に限界を感じてインドネシアのバリ島へ移住したと聞いています。土着的な文化や住民の知恵を度外視した技術決定論的な進め方に違和感や限界を感じていると思われます。*3
とはいえ、グローバルなプラットフォームビジネスと、都市や地域ごとのオペレーティングシステムとの間をどう埋めていくのかは悩ましい点です。
水野大二郎・津田和俊 著『サーキュラーデザイン』(2022年) 地球環境の持続可能性が危機にある現在、経済活動のあらゆる段階でモノやエネルギー消費を低減する「新しい物質循環」の構築が急がれる。サーキュラーデザイン理論に至る歴史的変遷から、衣食住が抱える課題と取組み・認証・基準、実践例に加え、実践のためのガイドとツールを紹介した1冊。
KYOTO Design Lab[D-lab] KYOTO Design Lab[D-lab]は、デザインと建築を柱とする領域横断型の教育研究拠点として京都工芸繊維大学が設立した、コラボレーションのためのプラットフォーム。基礎研究を通した社会的課題の発見と解決のためのインキュベーターとして活動する。
そうした動きの一方で、日本には今後の社会に向けたグランドデザインがないと言われていますが、この点についてはいかがでしょう?
その通りだと思う半面、グランドデザインという考え方自体がヨーロッパ中心主義的な発想なのではないか、とも思います。ビジョンを描くことは重要ですが、必ずしもヨーロッパの成功事例を国・地域レベルで導入するだけでなく、地域ごとのスケールで土着的な文化や技術を応用することも重要です。多様な柔軟さを持つアジア地域の自律的な考え方をビジョン化できるなら、新たな可能性につながると思います。
マルチスピーシーズ人類学と
サーキュラーデザイン
昨年の「DESIGN VISION」では多様性の視野をさらに広げて、人間という種を超えた「マルチスピーシーズ人類学」*4の知見を取り込もうと試みました。しかし、従来の人間中心設計(HCD/Human Centered Design)から、人間を超える視点へどう到達すればよいかが課題となっています。
HCDからの脱却に関しては、世界的にも流れが整いつつあると見ています。HCDの提唱者の1人であるドナルド・ノーマンもHCDが限界を迎えており、より包括的な「Humanity(人類)Centered Design」への拡張を論じています。*5これはデザイン思考の限界を示すのとほぼ同義です。また、マルチスピーシーズ人類学ともつながる「モア・ザン・ヒューマン」の視点や、IoTデバイスなどのエージェント間連携が中心になる「Thing-Centered Design」など、「ユーザ」よりもネットワークやコミュニティ、環境をどう捉えるかという議論もすでに起きています。
私自身もこうした動きをふまえ、経済産業省の「これからのファッションを考える研究会〜ファッション未来研究会〜」で人材像の分析を行いました。具体的には、生分解性素材の開発や資材循環の探索などを行うサーキュラーデザイン人材や、インタラクティブなデジタル空間を物質化するためのデータ調整を行うデジタルデザイン人材などが想定されますが、その背景にあるのは「これまでのように"作って売る"だけではいけない」という意識の広がりです。
例えば、ターミナル駅周辺の再開発では、同じようなビルに同じようなテナントが入居して、同じような製品が大量に売られていますね。では、個性や唯一性が感じられる製品とは何でしょうか。イタリアの村に工場を作り、村人を雇用して村の中で製造を一元的に担い、それを高額で販売し、利益を村に美術館などの建設を通して還元しているブランドなどがあります。これは、ポスト・ラグジュアリーと呼ばれる超高付加価値化の動きの一例ですが、環境負荷のトレーサビリティのみならず地域開発にまで接続させ、新たな希少性、価値を創出するという点では面白いかなと思います。従来のユーザニーズを満たすだけではもはや価値創出にならないのが現状だということですね。
有識者会議「これからのファッションを考える研究会〜ファッション未来研究会〜」による、「ファッションの未来に関する報告書」表紙。国内外のファッション領域において生じている数々の変化の兆候を捉えながら、拡大する海外需要を獲得していくために必要な方策を検討するべく経済産業省にて設置され、計5回にわたり議論を行った。
メタバースをいかに
デザインするかが
問われている
京都で実践される人材育成
先ほど言及されたサーキュラーデザイン人材とデジタルデザイン人材の二つのうち、後者は今後のメタバースの発展に関わりがあるように思います。
その通りです。私自身も京都大学と一緒に価値創造人材育成プログラム「Kyoto Creative Assemblage(京都クリエイティブ・アッサンブラージュ)」に取り組むなかで、メタバース関連のカリキュラムを用意しようとしています。しかし、リアルタイムで3D空間を制作できるゲームエンジン「Unreal Engine」をはじめとして、メタバースの環境構築に必要な基本スキルを身に付けるには相当な時間がかかる。空間、衣服、サウンド環境、インタラクション……すべてを制作しなければならないからです。
しかし、多領域の制作を賄う流れはもはや不可避です。例えばファッションの世界では、現実ではあり得ないテクスチャーを表現したバーチャルファッションが発表され注目を集めました。デジタルデータをそのまま販売する方法から出力して販売する方法まで、全てが地続きになった中で新たなビジネスの生態系が必要となっていると感じます。ファッションに限らず、テキスタイルやグラフィックなど、幅広い分野を行き来する人材や生態系を構想する力が問われているのだと思います。
京都大学、京都市立芸術大学、京都工芸繊維大学を中心とした、社会人向け創造性育成プログラム「京都クリエイティブ・アッサンブラージュ」。 人文社会学、デザイン、アート分野で京都を代表する3大学の講師と創造的実践の第一線で活躍する実務家が集結。6カ月の課程を通して社会を読み解き、新しい時代を表現するための考え方や方法を学ぶ。
メタバースカルチャーの理解
今年の「DESIGN VISION」ではソーシャルVRアプリ「VRChat」を活用するなど、メタバース空間上のリサーチやエスノグラフィ*6にも取り組んでいます。そうしたメタバースと私たちの関わりについて、バーチャルとリアルのバランスをどのように設定すれば、人間としてよりよい生活を送ることができると思いますか。
そのバランスを作り出すことこそが、今後のデザイナーの仕事になるでしょう。思い浮かぶありがちな方向性としてはメタバースのソーシャルメディア化を理解すること、でしょうか。韓流アイドルが行ったような遠隔ライブも、メタバースの楽しみ方として受け入れやすいかと思いますが、ここで重要なのはファンダム(特定のファン集団やその世界観)の形成に関わる人々の経験です。
バランスを作り出すこと
こそが、今後のデザイナーの
仕事になるでしょう。
バランスを作り出すこと
こそが、今後のデザイナーの
仕事になるでしょう。
バランスを作り出すこと
こそが、今後のデザイナーの
仕事になるでしょう。
バランスを作り出すこと
こそが、今後のデザイナーの
仕事になるでしょう。
バランスを作り出すことこそが、
今後のデザイナーの仕事になるでしょう。
バランスを作り出すことこそが、
今後のデザイナーの仕事になるでしょう。
バランスを作り出すことこそが、
今後のデザイナーの仕事になるでしょう。
ソーシャルメディア化するメタバース環境の理解には、デジタル・エスノグラフィ(バーチャル・エスノグラフィ)が有効だと思います。調査協力者にバーチャル上の様子を撮影してもらうだけでなく、リサーチャー自身が彼らの生活世界をともに体験する姿勢が大切だと思います。例えばバーチャル上の"セカンド・ライフ"で結婚したものの、相手が現実世界で亡くなったためにバーチャル空間に墓を建てた人を対象に、リサーチャーがアバターを介してセカンド・ライフ上でインタビューを実施するなどの研究事例がすでに出ています。*7地域や文化によるメタバースとの関わり方の違いも含め、とても興味深いものがあります。
国・地域ごとの差異に関しては、バーチャル世界で中年男性が美少女アバターに変身する「バーチャル美少女受肉(通称:バ美肉)」など、日本の特異性がメタバース上でどう評価されていくかが気になるところです。
「バーチャル美少女受肉」などにも見られる日本のサブカル文化のコンテクストにそったアバター、例えば胸の大きさが極端に誇張されたアバターのデザインなどはルッキズムのみならず、性差別やインターセクショナリティの問題とも関連する「炎上要因」となりえます。どの立場の人が、どの文脈に立って、アバターをどのようにデザインし、使うのかが重要になる可能性は高いですね。ゲーム内世界からソーシャルメディアとしてのメタバース空間まで、プラットフォームごとの性質を考えることになると思います。ある動画配信サービスのドラマでは、歴史改変された世界観である特定の人種が貴族になる設定が人気を博しています。このような背景も含めて、アバターのデザインは重要な倫理的課題になると考えています。
自分にアバターを似せる場合は「不気味の谷現象」*8が問題になることもあり、むしろ現実世界とはまったく違うキャラクターのほうが受け入れやすいかもしれません。その上で、アバターの造形性やアイテムに何か面白みを感じさせる要素を取り入れることが、他人とのコミュニケーションにもつながるように思います。
アバターの造形性で自分を表現する方向性については多様化の傾向がみられます。自分でDIYする人もいれば、安価なアセットを購入してアバターを作り出す人もいますし、ラグジュアリーブランドのアセットをはじめとする高額アイテムを購入して差別化を図る人、さらにはそうした高額アイテム、とくにバーチャルスニーカーをNFTとして投資目的で購入する動きもあります。現実世界でブランドのアイテムを購入するよりも、リセールバリューが上がるNFTのほうを購入するという若者の動きも興味深いですね。このあたりは、もともとの「スニーカーヘッズ」と呼ばれていたコレクター文化との接続もあり、ファッション研究におなじみの話とも接続するでしょう。「人と違っていたい/人と同じでいたい」という相反する自己表象願望をもつのが人間です。
“マルチスピーシーズ ×
デザイン”の向かう先
水野教授が実践する
マルチスピーシーズのプロジェクト
様々な動きがあるなかで、水野教授ご自身はマルチスピーシーズの観点からどのような実践に取り組んでいますか。
京都工芸繊維大学で私が指導している修士の学生たちのプロジェクトから、幾つか例を挙げてみましょう。
気候変動などによって荒廃した地球をUnreal Engine上にシミュレートし、そこに自律型太陽光発電所を効率的にどこに設置、建設するかを探してサバイブすること目指すシリアスゲームxエコロジカルデザインx人新世。農地の土壌改良を担うミミズたちの住みかを鶏糞入りの土フィラメントを用いて3Dプリンターで出力し、土中に埋め込むことで人間、土壌環境、野菜の間の調停を目指すアグリテックxファブxエコロジカルデザイン。京都北部の山から北山杉と呼ばれる木材を切り出して京町家などで活用するための域内循環構築を目指し、上流でCNC加工を施して船として仮設的に組み上げ、それを街中で陸揚げして分解して使う、といったかつての水路を復活させるファブxサーキュラーデザイン。琵琶湖で発生する藻を原料としたバイオプラスチックを、アパレル向け3Dツール「CLO」の型紙で起こして洋服に仕立てる、バイオxサステナブルファッションを掲げる学生もいます。博士課程後期の学生の1人はコミュニティデザイン系の研究に携わっており、竹が生えすぎて困っている地域で、何も経済的利益がないのに自主的に竹を伐採する人を中心に活動の輪が生まれた事例を調査しながら、"生えすぎる竹によって生まれた自律的地域コミュニティ"について考える研究など。社会問題の解決を掲げるだけでは燃え尽きやすい領域において、いかに地域コミュニティが楽しく自然と向き合い続けていけるかを探求する試みです。
私自身は株式会社ワコールの研究開発部門である人間科学研究開発センターと、生分解可能な3Dプリンタフィラメントを作成し、3Dプリンタで衣服の型となる形状を出力し、そこにキノコの菌糸を培養してバイオレザー下着をつくりだす研究をしました。使用後は土に埋めて容易に生分解できますし、滅菌しなければキノコも生えてきます笑。フィラメントの物性評価やアルゴリズム開発、キノコの生育条件などに関する先行研究を調査し、実際に我々が開発したプロトタイプをSci-Fiプロトタイピングの手法でシナリオ化しました。このシナリオはスペキュラティブ・フィクションとして成立させるために、モノの話だけではなくサーキュラーデザインとしてのサービスデザインの視点も導入しています。現在は、探索した要素技術を実装する段階へと進めているところです。
ワコール人間科学研究開発センターとの共同研究によるバイオレザーアンダーウェア ©京都工芸繊維大学 京都デザイン研究室 / Photo: 米山知樹
参考とした事例の1つが、あるスポーツブランドによる100%リサイクル可能な単一素材によるスニーカー制作の取り組みです。単一素材を用いることでゴミを減らし、リサイクルもしやすくなる。こうしたプロダクトを、さらに3Dプリンター単体で出力したい、さらにいえば易生分解性能を備えたいと考えています。
また、サステナブルかつコンピュテーショナルなスニーカーのデザインの動向に関していえば、再生素材であることを強調するために、あえて雑多な素材が混じっている風合いに仕上げるなどの動きが見られます。また、別のスポーツブランドのスニーカーシリーズでは、アウトソールやファブリックに工場などで産出される廃棄対象物を混合した材料が使われており、モダンデザイン的な美しさから脱した非均質的な表現に振り切ったことに感心しました。このような非均質的要素が反映されていくと、デザインの流れにも大きな影響がもたらされるでしょう。ただし、こうした取り組みがグリーンウォッシング*9 にならないようにするために、トレーサビリティを注視していく姿勢が大切だと思います。
情報の流通はグローバルに、
しかし物質化はローカルに
展開し、物質化した
先の循環系も
できるだけローカルに
する、という観点が
必要になると思います。
情報の流通はグローバルに、
しかし物質化はローカルに展開し、
物質化した先の循環系も
できるだけローカルにする、
という観点が必要になると思います。
情報の流通はグローバルに、
しかし物質化はローカルに展開し、
物質化した先の循環系も
できるだけローカルにする、
という観点が必要になると思います。
情報の流通はグローバルに、
しかし物質化はローカルに展開し、
物質化した先の循環系も
できるだけローカルにする、
という観点が必要になると思います。
情報の流通はグローバルに、
しかし物質化はローカルに展開し、
物質化した先の循環系も
できるだけローカルにする、
という観点が必要になると思います。
情報の流通はグローバルに、
しかし物質化はローカルに展開し、
物質化した先の循環系も
できるだけローカルにする、
という観点が必要になると思います。
情報の流通はグローバルに、
しかし物質化はローカルに展開し、
物質化した先の循環系もできるだけローカルにする、
という観点が必要になると思います。
ローカルに活動し
グローバルに接続する
水野教授にとって、京都や関西に拠点を置いていることは土着性を表現する上でもメリットがありますか。それとも、グローバルな活動のほうを重視されていますか。
どこにいても、ローカルに活動しながらグローバルに接続する姿勢は変わらないです。デジタルファブリケーションを前提とした研究活動においてネット上の情報交換は欠かせませんし、手がけた制作物のプロセスを公開するなどの形で、自分としても貢献していきたい思いがあります。キノコ菌糸を原料とする生地の培養方法は「BioFabForum」をベースとしたものです。今後もグローバルな情報を活用しつつ、その土地ごとにデザインを最適化していくことになると思います。情報の流通はグローバルに、しかし物質化はローカルに展開し、物質化した先の循環系もできるだけローカルにする、という観点が必要になると思います。
日本企業のインハウスデザイン組織の反省点として、グローバルを志向するあまり地域性が失われたことが挙げられます。この点について、アドバイスをお願い致します。
サーキュラーデザインの文脈において、動脈から静脈へ移り、さらに動脈へというように循環する仕組みを考える必要があるでしょう。動脈の最適化は従来型のユーザーリサーチとして、地域固有の文化に根差した使い方を提案する。地域最適化した製品開発に続いて必要なのは、静脈として仕組みを維持し循環させるためのインフラです。他社のサービスと協業したり、再資源化に向けた収の仕組みを構築したりと、循環全体を捉えながら製品やサービスを開発する視点が重要になっていくでしょう。製造拠点の国内回帰だけでなく、循環拠点の回帰も含めてデザイナーに何ができるのか。中国の企業が「日本のほうが人件費が安いから工場を移転した」という話がNHKでも特集される状況です。これを好機と見て、地域最適化した動脈産業のみならず、静脈産業にも踏み込んだ日本における各地域の産業生態系全体の最適化を目指すことは大きな影響力のあるビジネスに結び付くのではないかと期待しています。
(2022年6月22日 京都工芸繊維大学 水野研究室にて実施)
取材者コメントソニーグループ クリエイティブセンター リサーチプロデューサー 尾崎史享
グローバルとローカル、メタバースと物理空間など場所を行き交い、ダイナミックに混交する現代文化を、様々な切り口で解説してくれ、デザインがその中で担うべき使命や役割を示してくれた水野教授。我々は、こういったトレンドをCulture Fluxと名付けて具体的に解説いただいた文化盗用の問題、サーキュラーデザイン人材、アバターデザインの倫理的課題まで視座を拡げて、レポートしました。VUCAと呼ばれるという時代においてこのCulture Fluxのトレンドは、ますます加速し、文化を大きく変容させていくと我々は考えていますが、その変化をしっかり捉え、多様な観点でバランスの取れたデザインを検討していきたいと思っています。