インタビュー

吉田田タカシ氏
(アトリエe.f.t./
トーキョーコーヒー代表、
まほうのだがしや
チロル堂 共同設立者)
「創造性を育む
コミュニティのつくり方」

世の中の先行きを予見し、未来の方向性を考えるソニー独自のデザインリサーチプロジェクト「DESIGN VISION」。
クリエイティブセンターのデザイナー自らがリサーチやインタビューを行い、分析や提言につなげる取り組みです。
2023年のリサーチでは世界の変化をいち早く捉えるため、世界各地でフィールドリサーチを行いました。
日本のリサーチでは奈良県生駒市を訪問し「まほうのだがしや チロル堂」や「トーキョーコーヒー」など、
教育やコミュニティのあり方を問う取り組みを行っている吉田田タカシ氏に、
子どもと大人がともに創造性を育む場や、コミュニティデザインのヒントを求めてインタビューを実施しました。

吉田田 タカシ/よしだだ・たかし
アトリエe.f.t./トーキョーコーヒー代表、まほうのだがしや チロル堂 共同設立者
1977年、兵庫県生まれ。98年、大阪芸術大学在学時にアートスクール「アトリエe.f.t.」を開校し、独自の教育を実践。2017年、奈良県生駒市への転居を契機に生駒校を開校、放課後デイサービスなどにも取り組む。21年に「まほうのだがしや チロル堂」を共同設立、22年には「トーキョーコーヒー」を立ち上げ、全国へ活動の輪を広げている。クリエイティブディレクター、大学講師などの肩書きに加え、大学時代よりスカバンドDOBERMANのボーカルとして音楽活動を継続、21年には木梨憲武との合作シングル「ホネまでヨロシク」をリリースした。 アトリエe.f.t. まほうのだがしや チロル堂 トーキョーコーヒー

意識を変え、
教育を変えるムーブメント

「まほうのだがしや チロル堂」が2022年のグッドデザイン大賞を受賞されました。この活動を始めたきっかけについて、教えてください。

僕は元々、大阪で「つくるを通していきるを学ぶ」ためのアートスクール「アトリエe.f.t.」を運営していたんですが、自然に近い場所を求めて奈良県生駒市へ引っ越したのをきっかけに2拠点の展開となり、生駒で放課後デイサービスを始めるなど、地域の子どもたちの創造性を伸ばす活動を続けてきました。

転機になったのは、コロナ禍で「生駒の公民館で実施されていた子ども食堂が休止に追い込まれた」という話を聞いたこと。そこで、福祉事業に携わる石田慶子さんとデザイナーの坂本大祐さんとともにその活動を受け継ぎつつ、貧困や孤独を抱える子どもたちを地域で支える拠点として2021年8月に立ち上げたのがチロル堂です。
従来の子ども食堂のあり方をリデザインし、子どもと大人の両方に向けていろいろな取り組みをしています。子ども向けに、18歳以下専用の"まほうのカプセル自販機”"を設置して、駄菓子や、カレーなどを購入できる通貨「チロル札」を手に入れられるようにしたのもその一つ。一方、大人たちはお菓子や食事を購入することで寄付ができます。これを「チロる」と呼んでいて、夜に開催される「チロル酒場」でも交流を深めながら「チロる」ことが可能です。

チロル堂の入り口 子どもが使えるカプセル自販機と駄菓子

その後、登校拒否の子どもを持つ親などが集まる場をつくり、教育について考え直す活動「トーキョーコーヒー」も展開。こちらは全国に拠点が広がっています。

はい。活動名は「登校拒否」のアナグラムですが、そもそもの問題は子どもではなく、大人の無理解だと考えています。
子どもが学校へ行かなくなったとき、一般的に親は、自分自身か学校に問題を求めます。でもそうではなく、現在の教育のあり方、さらにはそれを良しとしてきた日本の社会や文化にこそ問題があるというのが僕の考えです。その意識を、不安を抱える親や賛同する大人たち自身が集まり、友達や親戚のように楽しく"学び合う"ことで変えていきたい。親が楽しんでいれば、子どもも安心して思いきり遊ぶことができるわけですから。

そもそもの問題は子ども
ではなく、大人の無理解
そもそもの問題は子ども
ではなく、大人の無理解
そもそもの問題は子ども
ではなく、大人の無理解
そもそもの問題は子ども
ではなく、大人の無理解
そもそもの問題は子ども
ではなく、大人の無理解
そもそもの問題は子ども
ではなく、大人の無理解
そもそもの問題は子ども
ではなく、大人の無理解

立ち上げは22年の夏ですが、それから1年足らずで拠点が全国300カ所以上に増えました。開設条件は動画研修を受けてもらうことと、年に2回リアル開催しているカンファレンスに最低1回は参加してもらうこと、それだけです。要は人同士が感情を共有して助け合い、楽しむための仕組みづくり。目標はいったん500カ所まで広げることですが、僕の手を離れてどんどん盛り上がっていってくれればと思っています。

産業化で失われたものを
取り戻すために

生駒では古い屋敷を譲り受けて「アトリエe.f.t. 森の家 MITERI(ミテリ)」も運営されています。

ここはアトリエe.f.t.やトーキョーコーヒーの活動とも連携する拠点であり、「新感覚ストア」と題して年に1回のお祭りを開催しています。高校生、大学生が企画から運営まで全部携わって、屋台を並べてアートを展示し、音楽やダンス、落語などのライブ、ワークショップなどを開催する。県外の人も含めて1200人くらい集まるので、この土地の関係人口を増やすことにもつながっているかもと思います。

生駒市にある「アトリエe.f.t. 森の家 MITERI(ミテリ)」

こうした活動の原点は、僕自身の体験にあります。そもそもe.f.t.とは、高校時代に立ち上げたアートチームの名前です。僕の地元は兵庫県の山あいにある小さな町で、子どもながらに田舎の狭いコミュニティに息苦しさを感じていました。それを打ち破るべく、アート運動の「ダダイズム」に触発されてチームを結成し、文化祭で巨大な壁画を描いたりしました。事前に提出した下絵と違う絵を、ゲリラ的に描いたりして(笑)……社会を変えるのに必要なのは戦いじゃなくて"たのしさ"だというのが、その頃から変わらぬ僕の信念です。
ちなみに「吉田田」という名前も「ダダイズム」から取ったもの。今でも「ダダさん」の呼び名で、子どもも大人も分け隔てなく、楽しみながら活動に取り組んでいます。

社会を変えるのに 必要なのは
戦いじゃなくて"たのしさ"
社会を変えるのに必要なのは
戦いじゃなくて"たのしさ"
社会を変えるのに必要なのは
戦いじゃなくて"たのしさ"
社会を変えるのに必要なのは
戦いじゃなくて"たのしさ"
社会を変えるのに必要なのは
戦いじゃなくて"たのしさ"
社会を変えるのに必要なのは
戦いじゃなくて"たのしさ"
社会を変えるのに必要なのは
戦いじゃなくて"たのしさ"

ご自身もクリエイティブディレクターとして活動されていますが、どの活動にも人の関わる余地が見事にデザインされていると感じます。

確かにデザインではあるのですが、あえてデザインしていることがバレないようにしたいと思っています。というのもデザインとは本来的に、水の循環のように人知れず支えになっているものであるべきだと考えているので。

アトリエe.f.t.にしても、アートという看板を掲げつつ、やっていることはいわば"生き方教室"です。つまりアートはあくまで教材であって、目的は自分の生き方を開放していくこと。僕の実感として、日本社会は近代から100年をかけて、あらゆるものをビジネスや産業に置き換えてしまった。近頃になって物質的な豊かさを疑い、日々の暮らしを見つめ直す動きが出てきたのは、そういう流れへの反動ではないでしょうか。
僕が取り組むどの活動も、行き着くところはその問題に尽きますね。

デザインとは
本来的に、
水の循環のように
人知れず支えに
なっている
ものであるべき
デザインとは本来的に、
水の循環のように
人知れず支えになっている
ものであるべき
デザインとは本来的に、
水の循環のように
人知れず支えになっている
ものであるべき
デザインとは本来的に、
水の循環のように
人知れず支えになっている
ものであるべき
デザインとは本来的に、
水の循環のように
人知れず支えになっている
ものであるべき
デザインとは本来的に、
水の循環のように
人知れず支えになっている
ものであるべき
デザインとは本来的に、水の循環のように
人知れず支えになっているものであるべき

失われた豊かさを取り戻すために、テクノロジーをどのように活用していくべきだと考えますか?

AIをはじめ"テクノロジーはあくまで道具である"という意識を保ち続けることでしょうか。例えばお金は人類史上の大発明ですが、いつの間にかそれ自体が権威になり、多くの人を不幸にしてきました。現代の問題の多くがお金と幸せをイコールで結び付けてしまったところにあるとすれば、変えるべきは制度ではなく、人々の意識に他なりません。
ただ難しいのは、人間は大勢になるとブレーキが効かなくなること。都市や経済の発展と同じく、一人ひとりは「もういい」と思っているのに止まらなくなる。ここが最大の問題だと思います。

その上で僕自身は、社会や政治、経済のことも含めて、もうやれることは教育しかないと感じています。人々の心の一番奥にある、一番大切にするべき意識を変えること。子どもたちに向けて「自分で自分の生き方をつくっていいんだよ」と伝えること……。要は、何を幸せと感じるかの問題ではないでしょうか。

小さなコミュニティを
通して日本を変える

メタバースについて質問です。リアルな人間関係に疲れた人がバーチャルな世界に支えを求める傾向について、どう思いますか。

ゲームにせよそれ以外にせよ、"遊ぶ"のか"遊ばされる"のか、能動的に楽しんでいるかどうかではないでしょうか。トーキョーコーヒーでも、入院したり引きこもったりしている子どもたちがバーチャルに集える場所をつくろうと考えています。
大人たちにしてみれば、子どもには自然の中で駆け回ってほしいという想いがあるのは確かです。でも子どもの視点に立ってみれば、ゲームなら上達した分だけ褒めてもらえるのに、リアルな世界で誰も褒めてくれないという、現実世界が抱える問題が見えてくる。コロナ禍でオンライン会議が普及したように、リアルでやるべきこと、オンラインのほうが良いこと、両者のバランスをどうデザインするかが問われているのではないでしょうか。

このように、今やあらゆる仕組みの根幹部分を問い直す仕組みがあり、それをどうつくり直すかという点で、"デザイン"という言葉の意味がかなり多岐にわたる領域へと広がってきています。
現代のデザイナーの性分として、経済的な価値よりも幸せにつながるものを作り出すことに手応えを感じる傾向があるとすれば、今の若者たちの意識もまた、同じ方向へ向かいつつある。そんなふうに感じますね。

最後に、ソニーにメッセージをお願いします。

まず僕自身についていえば、大きな問題を見据えつつ、小さなところでやっていくことが重要と考えています。「日本を変えるぞ!」という流れは、結局は小さい動きが集まって生まれる。だからこそ、トーキョーコーヒーのような小さなコミュニティがどんどん広がっていくやり方がいいんじゃないかと思っていますね。
それとは反対に、大きな企業にいるからこそ、できることがあるはずです。その上で、大きなビジネスの仕組みで得た利益を、人の心を豊かにする文化やアートに回していく仕組みへつなげていってほしい。そう思いますし、ぜひ僕たちの活動とも何かご一緒できたらうれしいですね。

(2023年7月12日 アトリエe.f.t.森の家 MITERIにて実施)

取材者コメントソニーグループ クリエイティブセンター
ストラテジックプランナー/デザインリサーチャー 永谷 実紀

圧倒的な想いと行動力で、周りを巻き込んで新たなムーブメントを次々と生み出していく吉田田さん。その根底にあるのは、楽しく社会を変えていきたい、様々な人が住みやすい社会にしていきたいという温かさ、優しさです。デザインとは「本来的に、水の循環のように人知れず支えになっているものであるべき」という言葉も印象的でした。
メタバース世界が拡大している現在、私たちのテクノロジーもリアル、オンライン共に様々なコミュニティに寄り添い、支えとなるように進化していければと思います。