世界最大規模の
家具・デザイン見本市
ミラノサローネについて
デザインのトピックスに取り上げられる機会が増えた「ミラノサローネ」。
同時期にミラノ市内全域で催される数多のデザインイベント「フオーリサローネ」と共に、
「ミラノデザインウィーク」として世界のデザインを牽引する存在であることは間違いありません。
近年ではインテリアブランドに限らず、電機メーカーやIT企業などの参加も増え、暮らしにまつわるあらゆる可能性を広げる場となりつつあります。
そのおおもとである「ミラノサローネ」とは何か? ここでは基本的な側面からご紹介します。
ミラノサローネとは
ミラノサローネとは、毎年4月にイタリアで開催される世界最大級規模の国際家具見本市のこと。正式名称は「Salone del Mobile.Milano(サローネ・デル・モービレ・ミラノ)」。イタリア語のままだと少々長いので、ミラノサローネが通称となっています。
会場は、ミラノ郊外のロー市に位置する「fieramilano(フィエラミラノ)」。一般的には「フィエラ」と呼ばれるこの会場で、20万5,000㎡を超える総展示面積に約1,800社のインテリア関連企業が出展し、卓越した技術力や品質、革新性、クリエイティビティによって生み出す新作を披露します。
デザイン及びラグジュアリー系とクラシック系の家具を取りまとめる「サローネ国際家具見本市」と「サローネ国際インテリア小物見本市」、オフィス環境に焦点をあてる「Workplace3.0」、2019年に新設されたエリア「Sプロジェクト」、隔年で開催される照明「エウロルーチェ」またはキッチンとバスルーム「エウロクチーナ(キッチン見本市)」「サローネ国際バスルーム見本市」、そして若手デザイナーが自ら参加する「サローネサテリテ」、といった種別の見本市によって構成され、その全体をミラノサローネとして、イタリア家具業界の元締めであるFederlegno Arredo Eventi(フラ・エヴェンティ)社(イタリア家具工業連盟イベント会社)が運営しています。
出展者の半数以上をイタリア企業が占めるなか、日本から継続して出展を果たすメーカーも数社あります。和家具ではなく現代の生活に適した家具づくりを目指し、海外のデザイナーとも協業しながら新しいデザインを発表する日本のメーカーは、数は多くありませんが、確実に知名度を広げているといえます。
6日間の会期中の来場者は、40万人前後にものぼります。バイヤーを中心に、建築設計者、職人、インテリアコーディネーター、ジャーナリスト、トレンドリサーチャーなど、デザイン業界に関わるあらゆる職種の人々が世界中から訪れる場には当然、各メーカーのために新作を手がける世界的に活躍するデザイナーたちも集まり、巨大な見本市会場内のあちらこちらでインタビューを受けたり、立ち話をしたりする姿に出くわすこともしばしば。一見すると華やかさばかりが目立ちそうですが、ミラノサローネはあくまでもビジネスのための見本市。イタリア経済においても重要視される催しであることは、会場にイタリア大統領や首相をはじめ多くの政府関係者や関連機関からの来訪が多い点からもうかがえます。
ミラノサローネの歴史
ミラノサローネが創設されたのは1961年。イタリアの家具製造会社300社余りが集まって見本市を始めた当時、現在のようなモダンデザインが主流ではありませんでしたが、世の中は家具の量産時代を迎え、新たなインテリアデザインが台頭しはじめていました。歴史的に家具産業が発展していたミラノとその近郊に位置する企業が、イタリア製家具やインテリア小物の輸出を促進する目的で、商用見本市を実施したのがきっかけとなったのです。
1967年からは本格的に国際化し、現在のような「国際家具見本市」を称するようになり、照明とキッチン・バスルームの見本市を隔年で開催する方式を取り入れるなど、住宅環境にまつわる複数の見本市を包括する組織として成長していきます。そして1998年には、厳選な事前審査によって選ばれた若手デザイナーが自主的にプロトタイプの展示を行う会場「SaloneSatellite(サローネサテリテ)」が併設され、プロのデザイナーとして道を拓くチャンスを与える場としても機能するようになりました。
2018年には、ミラノサローネの目的意識を改めて明確にする9項目(現在は10項目)からなる「マニフェスト」を発表し、ミラノ市との相互協力によって、さらなる家具産業の発展およびデザインにおけるリーダーシップを維持する姿勢を表明しています。
ミラノサローネ2019
2019年4月9日から14日まで開催された、第58回ミラノサローネ。主催者の発表によれば、来場者数は世界181カ国と地域から38万6,236人で、これは隔年の照明見本市「エウロルーチェ」と「Workplace3.0」が開催された前回2017年に比べ12%増加という盛況を表す記録です。総出展者数は、若手デザイナーにとっての登竜門「サローネサテリテ」参加550人を含めて2,418。出展企業1868社のうち34%が海外(43カ国・地域)からの参加でした。そのなかで独立した展示スタンドを構えた日本企業は、わずか5社です。その一方で、厳しい事前審査を通過した35歳以下の若手デザイナーにのみ出展が認められるサローネサテリテには14組が参加し、さらに「サテリテ・アワード」では1位と3位に日本人デザイナーが選出されました。
また、会期前から注目を集めていたのが、今回初の試みである「Sプロジェクト」です。フィエラ本会場の14,000㎡を使った新エリアで、これまで他のホールに出展していた企業から選出されたコントラクト市場に強い87社により、インテリアからアウトドア、照明や音響に至る多領域のプロダクトを横断的に紹介する場が創出されました。
そして2019年は、イタリアの至宝である芸術家レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年にあたり、ダ・ヴィンチの「インジェヌイティ(創意工夫)」に敬意を表した2つの記念展も併催されています。2018年に発表されたミラノサローネのマニフェストにも新たに加わった、この「インジェヌイティ(創意工夫)」とは、「未来を見据えた新たな目で常に全てを再発明し、再発見できると考え、その場で満足せず、先を見越すこと」だと記されています。万能の天才であるダ・ヴィンチへのオマージュとして、ミラノ市内で催された「アクア:レオナルドのウォーター・ビジョン」には1日平均2,000人を超える来場者が訪れ、フィエラでは「DE-SIGNO(デ・シーニョ)」と題し、ルネッサンス時代の天才に捧げられた現代のインスタレーションが披露されました。ミラノサローネは見本市であると同時に、イタリアデザインの根源に通じるイタリア芸術文化との結びつきを、ますます強めています。
ミラノサローネ2020、2021年へ延期
世界的に感染拡大した新型コロナウイルスの影響は、ミラノサローネへも及びました。本来の開催予定だった2020年4月21日から26日までの会期が、6月開催へと変更になるという告知があった後、緊急事態が長引く中でさらに厳しい検討が重ねられた結果、3月27日に正式発表された新たな会期は、2021年4月13日から18日です。2020年はミラノサローネ未開催の年となりました。
しかし、2021年はミラノサローネ60周年の記念すべき節目でもあります。その特別開催年にふさわしく、従来は隔年で開催していた各見本市が初めて同時開催されます。つまり、毎年開催の「サローネ国際家具見本市」、「ワークプレイス3.0」、「サローネ国際インテリア小物見本市」、「S.Project」、「サローネサテリテ」に加え、2年に1度の「エウロルーチェ」はもちろん、2020年に催されるはずだった「エウロクチーナ/FTK」と「サローネ国際バスルーム見本市」までもが一堂に会すことになります。
ミラノサローネは2019年に、ミラノ市との文化的連携およびミラノ・スカラ座とも戦略的パートナーシップを3年計画で結びました。2021年へ向けて、インテリア業界から発信する大規模な試みは、ミラノの街を再び活性化する一翼を担うに違いありません。
ミラノデザインウィークとは
ミラノサローネが世界的に唯一無二の特別なイベントと評されているのには、「フオーリサローネ」の存在が欠かせません。毎年同時期の約1週間、ミラノ市内全域では同時多発的に、数多くのデザインの展示が行われます。フオーリサローネ("サローネの外"の意味)あるいは略して「フオーリ」と呼ばれるこうした展示は、家具ブランドのショールームで発表される新作展や、特設会場で作り込んだインスタレーション展など、工夫を凝らした会場構成まで話題となります。ほとんどの展示が無料で、誰でも自由に入場できるため、学生や一般のデザイン愛好家で賑わうことも、ミラノが他とは違う熱狂に包まれるゆえんでしょう。ミラノサローネとフオーリサローネが両軸となるこの期間が、「Milan Design Week(ミラノデザインウィーク)」と総称されています。
市内各所で個別に行われる展示を取りまとめて情報発信するようになったのは、1991年、イタリアの雑誌『INTERNI(インテルニ)』が最初でした。出展者からの登録によって情報を掲載したガイドブックを無料で配布し、展示会場前には雑誌ロゴ入りの旗を立てて目印とするスタイルは徐々に広まり、2010年以降、「ヴェンチューラプロジェクト」や「アルコーヴァ」など新たなイベント主催組織が増え続けています。
惜しくも、10年間続いた「ヴェンチューラプロジェクト」は、新型コロナウイルスの影響により、2020年に未開催のままプロジェクト全体の終了が宣言されました。若手デザイナーが集まる「ヴェンチューラフューチャー」、実力あるクリエイターの刺激的な展示を集めた「ヴェンチューラセントラーレ」が今後は運営されないという決定は残念ですが、ミラノデザインウィークには必ず次世代のプラットフォームが現れると期待します。
ミラノ市内で展示が集中しているエリアは、老舗家具ブランドのショールームが立ち並ぶドゥリーニ通り一帯、「ブレラ絵画館」周辺のブレラ地区、セレクトショップも多いガリバルディ地区、『インテルニ』誌主催のカンファレンス会場にもなるミラノ大学、そして2019年までヴェンチューラプロジェクトがコーディネートしてきたミラノ中央駅高架下の旧倉庫など。毎年のように新たなスポットが登場し、新しいクリエイターが新作を発表する機会が生まれています。ソニーが2018年から2年連続で出展している、運河に隣接するトルトーナ地区も、大小さまざまな展示がひしめくように行われ、連日賑わいの絶えないエリアのひとつです。
また近年では、家具デザインに縛られない幅広いクリエイティブな展示が行われるようになったことも見逃せない傾向としてあげられます。電機メーカーやIT関連サービスなど異分野の企業が、趣向を凝らした独自の空間でブランドコンセプトを発信することで、ミラノデザインウィークにおけるフオーリサローネはさらに創造的な刺激に満ちた場へと成長してきました。出展企業にとっては、独創的な世界観をダイレクトに発信できる場であり、来訪者にとっては、近い未来を予感させる取り組みをいち早く体験できる場になっています。
1週間で40万人以上もの来場者が訪れ、市内の1,300ヶ所を超える場所で一斉に展示が開催される状況は、他都市では今のところありません。ミラノサローネとフオーリサローネの相乗効果によって、ミラノが世界的なデザイン発信地となり得ています。
ソニーは、2018年に「Hidden Senses」、2019年には「Affinity in Autonomy」と題してミラノデザインウィークに出展してきました。
デザインとテクノロジーの融合によってもたらされる新価値の創造と、より豊かなライフスタイルの実現を目指し、
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