SONY

ドローンAirpeak

まだ開拓されていない
空の創造領域へ

ソニーがこれまで築き上げてきたイメージングとセンシング、AIロボティクスを結集させたドローン「Airpeak」。
その第一弾として、未知の感動体験を追い求める映像制作クリエイターに向けて、『Airpeak S1』を発売しました。
フルサイズミラーレス一眼カメラα™が搭載できる機体や空撮システムのUI/UXデザイン開発からAirpeakの魅力を伝えるコミュニケーションデザインまで、
プロジェクトの軌跡をメンバーが語ります。

ソニーグループ
クリエイティブセンター
デザイナー 柴田
(コミュニケーションデザイン)

ソニーグループ
クリエイティブセンター
デザイナー 木村
(コミュニケーションデザイン)

ソニーグループ
クリエイティブセンター
デザイナー 石津
(プロダクトデザイン)

ソニーグループ
クリエイティブセンター
統括課長 清水

ソニーグループ
クリエイティブセンター
アートディレクター 石井
(UI/UXデザイン)

ソニーグループ
クリエイティブセンター
アートディレクター 小松
(UI/UXデザイン)

これまでの制約を
解き放つものを

ソニーのテクノロジーを生かして、ドローンの限界を押し上げることはできないか。そんな想いのもと、Airpeakとして開発が決まったのが映像制作クリエイターの創造力を広げるためのドローンだ。

清水目標としたのはセンシング技術で周囲の環境をリアルタイムに把握しAIで状況に応じた判断を行いながら、ロボティクスで安定した飛行をして、ソニーのフルサイズミラーレス一眼カメラαを搭載できるというもの。さらに、世の中のフルサイズ機を搭載できるほとんどのドローンが大型なのに対し、それをできる限り小さな機体で実現することに挑戦しました。私たちデザイナーも、エンジニアが試作を繰り返している初期段階から参加し、デザイン開発に取り掛かりました。

デザインする際に大切にしたのが、まずプロフェッショナル機器として、安心して効率よく使える機体やUI/UXをつくりだすこと。そのうえで、映像制作クリエイターの視点に立ち、彼らの声に真摯に耳を傾け、そのクリエイティビティを拡張させるようなデザインを生み出すことでした。これらの指針のもと、これまでの制約を解き放ち、ドローンの本質を突き詰めながら、機体やUI/UXのあるべき姿を模索していきました。

無駄を削ぎ落とし、
本質だけを残すこと

機体のプロダクトデザインに際しては、デザイナーもエンジニアもドローンの開発に初めて挑むなか、試行錯誤を繰り返し、理想を追い求めていった。

石津飛行するプロダクトをデザインするのは初めてでしたが、やるからにはドローンに対するソニーの本気度が伝わるようにしたいという気持ちで取り組みました。私たちがエンジニアとともに目指したのは、空を安全かつ自在に飛び回り、αの描写性能を余すところなく引き出しながら、かつてない自由な視点で撮影ができる機体。そのためには、ドローンの基本要件である「軽量化の追求」や「空気抵抗の低減」に加え、飛行時でもαの撮影に影響を与えない「カメラの安定性」や、周囲の環境を感知する「複数のセンサーの搭載」など、ソニーのドローンならではの要件を乗り越える必要がありました。

そこで、私たちデザイナーは機体の基本構造から率先して提案しながら、軽量で剛性に優れた素材を用いて機体の表面積を最小限にし、安定した高速飛行を可能にする剛性ある構造を追求。同時に、機体とαの重量バランスに細心の注意を払いつつ、機体の全周に配されたそれぞれのセンサーの邪魔にならないよう、アームの角度やプロペラの位置などを細かく調節していきました。

今回のプロダクトデザインにおいて最大の課題は何だったのか?

石津実は幾度もデザインをやり直すなかで、ほぼ完成していたプロトタイプがあったのですが、テスト飛行の際に事前のシミュレーションでは表れなかったプロペラの共振が発生してしまいました。これでは撮影に影響を与えてしまうため、エンジニアが基本構造から再検討。プロペラの振動がカメラに伝わらぬように、デバイスを中央部に集約して緩衝材の役割も持たせた設計に刷新されたのですが、それに合わせてデザインも練り直さなければなりませんでした。

その際に改めて目指したのが、無駄な要素をそぎ落として最後に残った本質の部分によって構造の強さを作り出し、視覚的にも精度感や安定感を感じさせること。そこから、安定して見えるバランスや角度、精度感をもたらす円と直線でできたジオメトリックなフォルムで全体をまとめていきました。また、機体のスタンドを跳ね上げ式にし、カメラが360度横回転してもスタンドが映り込まないようにするなど、使い勝手のよさにも配慮しながら細部までつくり込んでいきました。

機体を操作する送信機はどのようにデザインしていったのだろうか。

石津送信機については、「良い道具が良い作品をつくる」という私自身の想いから、映像制作クリエイターの創作意欲を高められるような、手に馴染むデザインにしたいと考えました。そこで、国内外のクリエイターが実際に送信機をどのように持って操作しているかをリサーチ。その中でクリエイターによって三者三様の握り方があることに気づき、あらゆるユーザーが持ちやすい形状を目指しました。

手で握ったときにフィットするように丸みを帯びたフォルムにしつつ、親指の付け根のラインが引っかかるエッジをつけることで、しっかりとホールドできるように考慮。さらに、さまざまな持ち方に対応するべく、グリップの凹凸の形状や位置を調整していきました。また、スティック操作に集中したいときの指休めエリアを設けるなど、より快適に撮影に没頭できる工夫を随所に盛り込んでいます。

クリエイターの
クリエイティビティを
最大化するために

機体デザインと並行してUI/UXデザインも進行。Airpeakでは、事前に飛行計画を立てるWebアプリ『Airpeak Base』と、撮影時に現場で操作するモバイルアプリ『Airpeak Flight』から成るシステムを採用している。

石井ドローンというソニーとして新しいカテゴリーのUI/UXを固めていくにあたって、アプリ画面の中だけをデザインするのではなく、「クリエイティビティを最大化する空撮システム」を目指して、全体を見ていこうと考えました。そこで、まずは国内外の映像制作クリエイターの方々にヒアリングを実施。その中で彼らがいちばん多く語っていたのが「撮影機会を逃したくない」ということでした。それを実現するために、UI/UXはどうあるべきなのか。機器セットアップから、撮影の事前準備、現場での操作、撮影後のチェック、データ管理まで、実際の撮影ワークフローを検証し、Webアプリとモバイルアプリそれぞれの重要なポイントをあぶり出しながら、それぞれのアプリをデザインしていきました。

Webアプリはどのようにデザインしていったのか。

石井Webアプリは、撮影時の効率化を支えることにポイントを置きました。映像制作クリエイターに撮影だけに集中してもらうため、Web上のマップで事前に綿密な飛行ルートを設定できるようにしています。これによって、ドローンを自動飛行させながら、手元のモバイルアプリで撮影チャンスに対応することが可能です。また、過去の飛行ログをもとに次の飛行ルートをつくれるようにすることで、より確度の高い飛行計画を立てられるようにしました。

一方、モバイルアプリはどのようにデザインしていったのか。

石井送信機で操作するモバイルアプリは、現場での撮影チャンスに即応するため、誤動作を防止し、即時性を優先することをポイントにしました。アプリ画面では、使う人の認知負荷を軽減するため、画面上部にバッテリー残量などの「状態表示」、左に「飛行操作」、右に「カメラ操作」と情報を整理してレイアウト。また、送信機をデザインした石津と連携し、左右に振り分けたアプリ内の操作体系は送信機と整合をとっているため、映像制作クリエイターの方はデバイスとアプリの一体感を感じながら、より直感的に操作できます。

さらに、「飛行操作」「カメラ操作」のタッチエリアを画面の下部と両端に配置することで、操作する手が画面を遮らないように考慮。また、カメラ操作のUIについては、αの文言やアイコンを受け継ぎ、同じような操作体系にすることで、αのユーザーが違和感なく自然に撮影操作を行えるようにしています。このように操作のストレスを減らすべく、細部まで工夫を重ねています。

さらに、今回こだわったのは操作時のUI/UXデザインだけではなかったという。

小松今回のUXデザインとして、映像制作クリエイターの方により映像表現だけに注力してもらえるように、購入初期のセットアップや、機体の精度を維持するキャリブレーション(調整作業)を容易にすることにも心を砕きました。例えば初期のセットアップでは、部品の取り付けや、機体とアプリのペアリングなどをモバイルアプリ上でアニメーションを使って紹介し、マニュアルなどを読まなくとも簡単に設定できるようにしました。

また、日々のキャリブレーションは非常に大事な作業ですが、使い慣れていない方にとっては難しい作業でもあります。そこで、初めての方でもわかりやすく行える新たなUIを作成。例えば、機体のコンパスの精度を維持する工程では、作業をイラスト化し、対象となる機体の部位のLEDを点滅させるなど、誰もが迷わず操作できるように工夫。さらに、難易度が高いカメラのジンバル調整についても、イラストで「DO」「DON’T」と明確に指示するなど、キャリブレーションをより確実に行えるようにしています。

メンバーたちの想いを
世の中に届ける

プロダクトデザイン、UI/UXデザインとともに、このブランドを社内外に伝えるコミュニケーションデザインも動き出していった

木村ブランド立ち上げ時にコミュニケーションデザイナーが手がける重要な仕事として、ブランドのメッセージを言語化するステートメントとネーミングがあります。今回Airpeakのステートメント作成では、この事業に込められたメンバーたちの想いをありのままに伝えるため、日々行われる打ち合わせでの彼らの発言に注目し、その中から「空」「頂」「創造」など重要だと思われるキーワードを拾い集め、メッセージの土台をつくり、関連部署の力を借りながら内容を詰めていきました。同時に、これらのキーワードから「Airpeak」というブランド名も導き出しています。

柴田キービジュアルについても「頂」などのキーワードから、山脈をテーマにビジュアルを探していきました。その際にイメージしたのが、高く険しい山々をさらに上空から俯瞰しているビジュアル。山を見上げるのではなく、俯瞰しているようなビジュアルを用いることで、ステートメントのキーワードを象徴的に表現しました。

木村また、Airpeakのユーザー体験に一貫性を持たせるため、プロダクト、UI/UX、コミュニケーションの3つのデザイン領域を束ねる社内向けのコンセプトが必要だと考えました。それまでメンバー間では「ソニーが目指すドローンはこういうものだ」という意識を漠然と共有できていたのですが、この先プロジェクトが進んでいく過程でデザインの軸がブレないように拠り所があった方が良いと思ったからです。

そこで改めて、プロダクトやUI/UXのデザイナーはもちろん、商品企画やエンジニアなどのメンバーにも、このプロジェクトに込めた想いやこだわりをヒアリング。それらの会話から本質的な部分を抽出し、それまで曖昧だったメンバー間の共通意識を「A peak of Integrity 〜 機能を追求することで浮かび上がる本質」という短い言葉で定義し、デザインの指針を明確化しました。

石井木村たちがまとめてくれた「A peak of Integrity」というデザインのコンセプトは、まさに自分たちが伝えたかったことでした。実は私自身、社内で「このプロジェクトで一番大事にしているものは何か」と尋ねられたとき、一言で伝えきれないことが多かったのですが、この言葉によって思考を整理することができました。また、このコンセプトをもとに、自分たちのデザインもさらに本質を突き詰め、洗練していくことができたと感じています。

ロゴタイプをはじめ、コミュニケーションデザインの工夫は?

柴田AirpeakのロゴタイプはAirpeakの「A」をコンパスの矢に見立て、このブランドが目指すドローンの「頂点・成長・上昇」を表現したデザインになっています。さらに、プロモーション映像で使われるモーションロゴにおいても、ステートメントのキーワードで挙がっていた「上昇感」や、Airpeakの精密な操作性を感じさせる動きに仕立てました。

また、Webサイトはもちろん、登録者向けのメールマガジンについても掲載写真のディレクションや記事のレイアウトの隅々まで徹底的にこだわり、Airpeakブランドを統一したトーンでデザインしていきました。新しいブランドを世の中にローンチするときは、最初の印象が肝心です。人の目に触れるものはすべてブランドのイメージにつながるという考えのもと、ユーザーとのコミュニケーションに関わる制作物をつくり込みました。

また、映像制作クリエイターにAirpeakの魅力をいかに伝えたのだろうか。

木村実は当初より、社内でソニーが提案する電気自動車VISION-S PrototypeをAirpeakで撮影することが計画されていました。そこで、実際にその撮影のメイキング風景を記録し、映像制作クリエイターの方々に向けてAirpeakの性能や可能性を伝えるプロモーション映像をつくろうと考えました。製品の概要を紹介する一般的なプロモーション映像ではなく、プロのクリエイターによるAirpeakを使った撮影メイキング映像こそ、最も説得力のある映像になると思ったからです。映像の中に機動力を示すようなシーンやαを装着しているシーンなど、映像制作クリエイターの方々が気になるような場面を入れながら、彼らに「使ってみたい」と思わせる映像を目指しました。

柴田完成した映像を見た方々が動画サイトなどで「Airpeakを使えば、こういう表現もできるのではないか」などの感想を語ってくれていたのを見て、本当にうれしかったですね。そのとき、私たちが目指していた「映像制作クリエイターのインスピレーションを触発するもの」という目標を達成できた手応えを感じました。

そしてAirpeakは
進化を続けていく

Airpeakでは、プロフェッショナルサポーターを募集し、彼らからフィードバックを受けて改善を重ねていく共創活動がとられている。いったいどのような改善を行ったのか。また、今後の展望は?

石井例えば、UI画面の上部にはバッテリーや飛行時間などの様々な情報が表示されますが、サポーターの方々からのフィードバックを受けて、飛行中に一番に見たい項目を特に目立たせたり、インジケーターをピクセル単位で拡張したりと、現場での判断が瞬時にできることを目指してデザインの精度を上げていきました。

石津プロダクトデザインについても、サポーターの意見をもとに、本当にギリギリの段階まで機体や送信機のデザインの微調整を繰り返しました。この『Airpeak S1』はこの先、Airpeakの「種」になるもの。だからこそ、新しい未来を切り拓くためにも限界までこだわりぬきました。

清水この先、このブランドを大きく育てていくために、私たちデザイナーも積極的にアプローチしていきたいと考えています。ソニーのデザイナーの強みのひとつは、コンスーマーからプロフェッショナルまでのエレクトロニクス、エンタテインメント、金融など幅広いソニーグループの事業領域に深く関わっていること。これらグループ各社とAirpeakの相互における技術活用などを提案し、新たなドローンの価値創出に貢献していきたいと思います。

「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」
というソニーのPurpose(存在意義)のもと、
これからもクリエイティブセンターはデザインの力で
クリエイターをサポートしていきます。