SONY

Bank × Design

ストーリーが、
ビジネスを加速させる
- Sony Bank WALLET

円やドルなどを含めて11通貨が使えるインターナショナルなVisaデビット付きキャッシュカード「Sony Bank WALLET」。
ソニー銀行から誕生したこの画期的なサービスをお客さまに届けるために、デザインに求められた役割とは何か。
そのデザイン開発の裏側を、ソニー銀行の石井とソニーのデザイナー2人が語ります。

写真左から、ソニー銀行 石井、ソニークリエイティブセンター 前坂、東出

「貯める」「増やす」という機能から、「使う」までの体験を提供したい

石井:金融業界では顧客体験を大事にしたサービスを提供していかないと、銀行は単なるインフラ産業でしかなくなってしまうという危機感が醸成されつつあります。ソニー銀行でも「貯めて」「増やす」だけでなく、お買い物など「使う」体験までを一貫してお客さまに提供する必要性を感じていました。

今回、Sony Bank WALLETという新しい商品のデザインに際し、お客さまの行動や利用体験までを大きくとらえて、お客さまとのタッチポイントを設計することが重要でした。単なる装飾的なグラフィックではなく、UX(ユーザーエクスペリエンス)デザインやサービスデザインなどの視点を大切にしてカードやアプリを開発すべきだと考え、その機能と役割を兼ね備えているソニークリエイティブセンターにデザインをお願いしました。

東出:ユーザー調査やワークショップなど、デザイン視点からさまざまなアプローチを行いました。実際にお客さまのお宅に訪問して、金融についての不満やどんなサービスを期待しているかをヒアリングし、中心となるターゲットの価値観を理解しながら、ペルソナの設計や顧客体験をどうデザインすべきか模索しました。

前坂:ペルソナの議論をしながらも、一方で自分が数年前にイギリス赴任していたときにデビットカードを使っていた体験があったので、それをデザインに生かさない手はないと思いました。現地ではショッピングはもちろん、割り勘でもデビットカードが使われていて、現金を出すと嫌がるショップもあるほど欧州ではデビットカードが一般的でした。自分自身もデビットカードを現金感覚で使っていて、「まさに紙幣を超越したものだ」と感じたことを思い出しました。こうした経験をもとに、『世界中の紙幣が一枚のカードに集約される』というストーリーが生まれました。

カードがもたらす「体験」や「ストーリー」をデザインする

前坂:カードをデザインするにあたって、世界中の紙幣を眺めながら、紙幣らしさの構成要素がどこにあるのか分析しました。その結果、各国の紙幣から抽出した色と、緻密に描かれたパターンを並べるというグラフィックにたどり着きました。ストライプの幅をランダムにしたのは、即時決済できるデビットカードの「スピード感」を表現するためです。また、上質なモノを持つことの喜びやスマートさを感じられるように、紙幣のようなマットな質感を再現。カードがもたらす「体験」をデザインに落とし込んでいます。

印刷にもこだわり、色面の上に色帯とパターンを重ね、パターンの下にはラメインクを敷き、最後に文字の可読性を高めるようにグレーを乗せた5層構造です。光の加減でラメインクが反射し、紙幣のホログラムのように見えると思います。それで、マット仕上げを印刷会社にお願いしたところ、デビットカードでは「前例がない」と断られたのですが、そこはソニーですから前例を作りましょうと『チャレンジ精神』を発揮してもらいました。その結果、国内初のマット仕上げのデビットカードが誕生しました。カード自体を簡単に真似できないユニークなものにするため、細部まで徹底してつくり込み、高いクオリティーとストーリー性が感じられる奥行きのあるデザインを目指しました。

※2016年2月現在。ソニー銀行調べ

東出:「残高照会アプリ」は、カードと対となるような存在です。今回のサービスではカードが「体験」のキーアイテムとなるため、一連のユーザー体験の中でカードが象徴的に見えるように、シンプルなUIデザインを心がけました。要素を最小限にまとめ、アプリでの体験にもカードが持つスマートさを感じられるよう配慮しています。

石井:カードのデザインが決定するまでには、社内でもいろいろな議論があったのですが、お客さまがソニー銀行に期待しているのは『自分たちの想像を超える何か新しいこと』ではないかと。その期待に応えるためには、いままでに見たことのないものをつくるべきだと、最終的に全員がこのデザインに賛同してくれました。

サービスと顧客体験をつなげ、ビジネスそのものをデザイン

前坂:カードの持つ世界観をお客さまに伝えるためには、社内のブランディングも重要です。社内で共通認識を持っておかないと、外部に発信したときに世界観がぶれてしまうからです。そのため、カードがもたらす体験やストーリーを視覚化したブランドブックをご提案しました。

石井:このブランドブックがあったことで、デザインに関わっていない人でも背景となるストーリーや世界観を共有でき、社内の合意形成もしやすかったですね。漠然としていたペルソナや顧客体験が視覚化されることで、自分たちがやるべきことがとてもクリアに見えてきました。業務を担う全員が「自分が使うならこうしたい」と自分事として考えることができ、ビジネスを自然と加速させました。

前坂:顧客目線でビジュアライズすることが、私たちデザイナーの役割なので、ビジネスに有効に機能したことは素直にうれしいですね。

石井:今回のコラボレーションにおける最大の成果は、ビジネスをプランニングしていくような抽象的な世界と、デザインという具象的な世界を行ったり来たりしながら、サービス提供側だけでなくお客さま側からの視点で物事をとらえられたことです。どちらか一方の視点ではビジネスは成功しにくいと思います。ソニー銀行の原点に立ち返って、顧客視点でビジネスを考えられたのではないかと思います。

東出:プランニングとデザインが同時に進んだことが重要で、マーケティングだけが先行して最後にデザインとなると、表面的なスタイリングになりがちで、本質的な差別化が難しくなりますね。

前坂:クライアントとデザイナーの関係ではなくて、スタート地点からチームで一緒になって「お客さまが求めるものは何か」を追求できたこと。本質を突きつめて考えることができたからこそ、お客さまが本当に喜んでくれる体験をつくり出せたのではないかと思います。これはソニーのインハウスデザイナーだからこそできたことだと思います。

石井:カードの申し込みや利用率にもその成果が表われていて、お客さまからも非常にポジティブな反応が多く、実際に「イノベーティブだ」と言う声をたくさん頂きました。まさに、ビジネスそのものをデザインできた結果だと思います。

金融サービスがもたらす顧客体験を、
デザインによって可視化。
ストーリーや世界観をチームで共有することで、
ビジネスはさらに加速する。

ソニー銀行
Web企画部長
石井 徹

ソニー
クリエイテイブセンター
アートディレクター
前坂 大吾

ソニー
クリエイテイブセンター
デザイナー
東出 元輝