スペクトル型
セルアナライザー
ID7000™
ライフサイエンスの
発展を加速させるもの
免疫学やがん、再生医療などの研究領域において、疾患の原因究明や医薬品開発の目的で広く使われているセルアナライザー(細胞分析装置)。
そのなかでソニーのID7000は、独自のスペクトル技術によって世界最高水準の44色以上の超多色細胞解析を実現し、
ライフサイエンスの発展を加速させる一台です。ソニーの最先端テクノロジーを世界中の研究者たちに届けるために、
ID7000に込められた想いとデザインの軌跡をメンバーが語ります。
ソニー
クリエイティブセンター
デザイナー
箱田
ソニー
イメージングプロダクツ&ソリューションズ
プロジェクトマネージャー・商品企画
二村
ソニー
クリエイティブセンター
デザイナー
立石
ソニー
クリエイティブセンター
統括部長
高橋
未知に挑む
ライフサイエンス
研究者の声に
応えること
レーザーと蛍光色素を用いて、細胞の特性を高速に分析するセルアナライザー。7つものレーザーユニットを搭載でき、44色以上の超多色細胞解析を実現したID7000はどのような背景から生まれたのだろうか。
二村セルアナライザーは再生医療やがん治療などの研究で欠かせない装置ですが、近年、新しいがん治療法として注目される「がん免疫療法」の研究などでは、がんにおける免疫系の役割や複雑なメカニズムを解明するため、免疫細胞やがん細胞をより高精度に、かつ一度に網羅的に調べたいという声があがっていました。そのような研究者の声に応えるため、世界最高レベルの細胞解析性能を目指し、企画したのがID7000です。より包括的な細胞情報を取得できるよう技術開発に取り組む一方、デザイナーにもプロジェクト初期から参加してもらい、「フラッグシップモデルとして相応しい風格を持ち、研究者がより使いやすいデザインにしてほしい」と依頼しました。
高橋セルアナライザーをはじめライフサイエンスや医療領域のデザインにおいて、私たちはプロのための道具をしっかりと提供することを第一に考えています。これらの領域は社会的役割が重大で、時に人の生命にも関わるからこそ、確実性が何よりも重要になります。一方で専門性が高く、自分たちがユーザーになり得ない領域でもあるため、現場を学び、深く理解することが必要不可欠です。「誰が、どこで、どのように使うのか」入念に観察し、「機能的で無駄がなく、使いやすくて信頼できる」デザインを常に目指しています。
また、ソニーのライフサイエンス製品群におけるデザインアイデンティティの確立も意識しています。多種多様な装置が置かれている研究室のなかで、ソニーの製品であることが一目でわかること。そのために、ソニーらしさの象徴であり、製造性・合理性も兼ね備えているブラック&シルバーを基調にしたトーンでラインアップ全体を統一しています。今回のID7000のデザインについても、現場を学びつつ、そのデザインアイデンティティを継承。さらに、最高峰のモデルとして「研究者の挑戦心を駆り立てる」ような新たなデザインのアプローチができないかと考えていました。
研究現場のために
できることすべてを
ID7000の超多色細胞解析を実現したコアテクノロジーのひとつが、7つまで増やせるレーザーユニット。この最先端テクノロジーの視覚化がプロダクトデザインのポイントとなったという。
箱田研究者の挑戦心を駆り立てるデザインとはどのようなものか。考えるうちにたどり着いたアイデアが、ID7000の性能の要となる7つのレーザーユニットの視覚化でした。このレーザーユニットは研究対象に合わせて増減でき、その搭載数が増えるほど高度な細胞解析が可能になります。レーザーユニットの数は研究の難易度を表しているとも言え、それを視覚化することで「最先端の研究に挑んでいる」ことの象徴になると考えたのです。
問題は、視覚化の手法でした。本体正面に擬似的にデジタル表示するなど様々な表現を考えましたが、どれもしっくりこない。悩んだあげく「中にレーザーユニットが入っている」ことを素直にそのまま視覚化することこそ、説得力のあるデザインになるのではないかと思い至りました。各レーザーユニットにそれぞれの波長の色味に合わせたカラーのシールを貼り、外装の該当部分にスリット窓をつくって、その内部のカラーが見えるデザインを考案。さらに、本体の左側面に斜めにカットした造形を採り入れることで、正面からもカラーが見えるように工夫しました。内部のレーザーユニットに手を加えることは、エンジニアにとってかなり手間がかかることでしたが今回は頼み込み、なんとか実現してもらいました。
高橋このレーザーユニットを視覚化したデザインは、挑戦心を駆り立てるという難題をうまく突破していると思いました。さらに「細胞という小世界に挑む研究者をソニーのテクノロジーでサポートしたい」という開発メンバーの想いも表現されていて、プロダクトでストーリーを語るソニーらしいデザインだと感じました。
箱田さらに現場の情報を収集し、得られた研究者の声や意見を真摯に取り入れながら、全体のデザインを詰めていきました。ID7000は最高レベルの細胞解析を目指し、最大7つのレーザーユニットや186個もの光検出器、それらを稼働させる大型の電源などを搭載しているため、本体が大きくなるのを避けられません。そこで研究室の限られたスペースにも置けるようサイズを検証しつつ、外装には大型の本体を支える堅牢性や、研究室内の強力な消毒にも対応できる除菌性を考慮して3mm厚のアルミ材を採用しました。また実際の研究室では、左側に装置、右側に解析情報を映し出すPCを置いていることが多いため、その状況下で容易に使えるように操作部をレイアウト。加えて、操作・表示部をブラック、その他をアルミの素材感をそのままいかしたシルバーにし、デザインアイデンティティを踏襲しつつ、初めてこの装置を導入される方でも分かりやすく操作できるようにしています。
今回のデザインの過程で最も苦心したのは、装置が高温になるのを防ぐ吸排気の動線設計でした。従来モデルは背面に排気口があったのですが、ID7000は本体が大きく「背面を壁につけて設置したい」というリクエストがあったため、背面に排気口を設けないように設計。本体の正面と右側面から吸気し、左側面から排気する動線とし、装置の右側にいることの多い研究者の作業にも影響がでないようにしました。ただこの設計の難点は、ID7000の顔となる本体正面に吸気口がきてしまうこと。ならば、この吸気口をデザインの一部として表現しようと、空気を吸い込む開口率に注意しながら、アルミ材を使ったシャープなスリット状にし、造形のアクセントにしました。このように現場の要求を取り入れつつ、デザインの完成度を上げていきました。
二村箱田から提案されたプロダクトデザインを目にしたとき、細部まで考え抜かれていて、これこそフラッグシップモデルの風格だと感じました。個人的に最も気に入っているのが、正面にある吸気口のスリットです。ID7000は設計的にどうしても横長のサイズになってしまうのですが、実用性とデザイン性を両立したスリットによって横長の間延びが抑えられています。ディテールにまで機能的な意味があり、シンプルさを突き詰めたこの造形はID7000に相応しいものだと思います。
(写真左)研究者の作業に影響を与えない吸排気の動線設計(写真右)造形のアクセントにもなっている正面中央のスリット状の吸気口
(写真上)研究者の作業に影響を与えない吸排気の動線設計(写真下)造形のアクセントにもなっている正面中央のスリット状の吸気口
膨大な細胞情報を
いかに分かりやすく
伝えるか
ID7000で解析された細胞情報は、PC上の専用アプリケーションに表示される。今回、そのユーザーインターフェース(UI)デザインに求められたのは、研究者たちに対し、膨大な情報をいかにわかりやすく整理し表示するかということだった。
立石従来モデルから続くソニーのセルアナライザーのUIデザインで最も大切にしているのは、研究者がより効率的に、確実に使えること。UI画面は研究者のワークフローをもとに設計しています。具体的には、Quality Control(精度管理)、Preparation(準備)、Acquisition(測定)、Analysis(解析)といった実際のフローに合わせて、必要な機能をタブに並べ、タブの順番に添って操作していくだけで迷うことなく自然に使えるようにしています。ID7000ではこのUIを受け継ぎつつも、従来の要素を細かく見直し、改善点を見つけていきました。
例えば、Quality Controlなどのタブの表現。これまでは画面上部のメニューの下にタブがあるように見えていたのですが、実際は逆でタブの方が上位。そこでタブに合わせてメニューが切り替わるUIを改めて検討しました。また、メニュー内のアイコンも修正。これまで機能が増えるたびにアイコンが追加され、一貫性がとれていない部分が出始めていたため、すべてのアイコンを洗い出して作成ルールを整理し、見た目はもちろん意味的にも整合性をとり直しました。このようにユーザービリティの観点から、小さな改善を積み重ねていきました。
二村実は立石が検討してくれたタブの表現変更について、マーケティング担当をはじめ他のメンバーともかなり議論したのですが、慎重な意見もあってなかなか決定に踏み切れませんでした。そんなとき立石が「ユーザーの利便性向上のためにはこれが正しい」とUIのプロとしての観点からはっきりと意見してくれたのが後押しになり、結果、より分かりやすいUIに進化できたと思います。
(写真左)メニューとの関係性を分かりやすく改善したタブのナビゲーション
(写真右)比較しやすいよう検討を重ねた7つのレーザーのグラフ表現
新たな作成ルールによって改善されたID7000のアイコン
立石また、ID7000で大きな課題となったのは、新機能である7つのレーザーで取得した情報の見せ方でした。現場から「7つのレーザーから得たデータをきちんと比較したい」という要望があり、新たなリボンプロット(グラフ)の見せ方を模索。7つのグラフをただ並べるのではなく、グラフ同士が隣り合わせる罫線を太くしたり、グラフの間隔を開けたりするなど何パターンもシミュレーション。さらに、各グラフのタイトルの位置なども綿密に検証しつつ、研究現場に精通したメンバーに試作をチェックしてもらいながら、比較しやすいグラフの見せ方を検証していきました。
さらに、グラフをそのまま論文に掲載できるように、学術的な観点から目盛りの打ち方などを細かく確認しながらブラッシュアップするなど、研究作業の効率化も目指しました。今回、一連のデザインを通じて心がけていたのは、現場を知ることはもちろん、話を聞くだけでは見えてこない潜在的なニーズをいかに掴むかということ。いろいろな可能性を探るために、議論の種になるようなUIの試作をつくり、経験豊富な開発メンバーたちに見てもらって意見を聞き出し、取り込んでいく。それを繰り返しながら、研究者の方々が作業に集中できるUIを追求しました。
高橋一般的なコンスーマー製品のUIデザインでは直感的な操作性に重きが置かれますが、ライフサイエンス領域では確実性のほうが重視されます。立石はこの領域のデザインセオリーを守りながら、さらに「こうした方がもっと使いやすいのではないか」とコンスーマー製品のUIデザインで培った経験から、さまざまな提案をしてくれました。そうした工夫は、はじめてセルアナライザーを使うユーザーにとっての分かりやすさにもつながっていると思います。
現場を学び続け、
ライフサイエンスの発展に
貢献していく
ID7000は2019年6月に国際サイトメトリー学会(CYTO2019)に出展。そこでどのような評価を受けたのだろうか。さらにメンバーたちは今後のライフサイエンス市場において、どのような展望を抱いているのだろうか。
二村CYTO2019でID7000のプロトタイプによるデモンストレーションを披露したところ、多くの研究者から反響や問い合わせ、注文をいただき、ID7000への期待をひしひしと感じています。そして今、世界ではグローバルな規模での共同研究がより一層加速しており、今後はさらに高度な解析性能とともに世界中の誰もが使いやすいセルアナライザーが求められると予想しています。その際、ソニーがコンスーマー分野で培ってきた強みのひとつである、操作性や利便性に関するノウハウや技術が大きな効果を発揮するはずです。また私自身の目標としては、研究者を支える存在であり続けることです。世界中で発表される論文など最先端の情報を常に把握しつつ、直接研究者の皆さんと会話するなかで「何を求めているのか」を引き出し、それをエンジニアやデザイナーと一緒に次の製品につなげていくことが大事だと思っています。
高橋現在、ソニーでは「人に近づく」という経営の方向性を打ち立て、その中でライフサイエンスや医療領域では「世の中に安全・健康・安心を提供する」ことを目指しています。私たちもデザインの力でこの目標達成にしっかりと貢献していきたいと考えています。そのとき重要だと思うのは、現場を学びながらも、デザイン領域のプロであり続けること。商品企画、エンジニア、デザイナー、それぞれの視点が交錯することで新たな創造のきっかけが生まれると考えるからです。今後はさらに、社外の研究者の方々を含め、多様性をいかしたものづくりを意識し、社会的価値の創出に挑戦していきたい。ソニーのライフサイエンス事業の今後にぜひ期待していただきたいと思います。
世界最高水準となる44色以上の超多色細胞解析を実現したセルアナライザーID7000。
ソニー クリエイティブセンターは今後も、研究現場の声をデザインで形にし
ライフサイエンスのさらなる発展に貢献していきます。