SONY

UNOPS・ルンド大学とのデザイン教育プロジェクト

地域の未来を拓くデザイナーを育てる

ソニーでは、事業運営とさまざまな社会支援活動を通じて、人、社会、地球環境に貢献し続けることを目指しています。
ソニー デザインセンター・ヨーロッパは、地域社会の未来を担う人材育成を支援するため、
国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)、スウェーデンのルンド大学インダストリアルデザイン学部とともに
三者協業の教育プロジェクトを立ち上げました。
そこで同大学同学部のデザイン専攻国際修士課程の一環として5カ月にわたる特別コースを開設し、
学生たちとともに世界の課題解決をテーマに据え、そのソリューションデザインに取り組みました。

マティアス・キエーシュ
シニアデザイナー
ノルディックスタジオ
ソニーデザインセンターヨーロッパ

竹村 萌
シニアプロデューサー
ノルディックスタジオ
ソニーデザインセンターヨーロッパ

トーマス・ワールドナー
ディレクター
ノルディックスタジオ
ソニーデザインセンターヨーロッパ

サービスデザイン思考を
インダストリアルデザインの教育に

今回のプロジェクトを立ち上げた経緯と狙いは何だったのだろうか。

ワールドナーこのプロジェクトは、2019年春に地域と連携し、未来のデザイナー育成に貢献する目的で始めました。ルンド大学はスウェーデンで最も古い大学のひとつであり、ソニーのルンドオフィスの近くにあります。私たちは地域社会の発展のため、ルンド大学に未来志向の課題解決型デザインコースを開設してはどうかと提案しました。インダストリアルデザイン学部の教授陣と話し合いを進めるなか、彼らもいかにカリキュラムを時代に即した内容にしていくかという課題に直面しており、このプロジェクトにすぐに関心を寄せてくれました。

竹村私たちは、デザイナーに求められる考え方やスキルは社会の進化とともに変わってくると考えています。サステナビリティに対する意識が高まっている現在、消費者の製品寿命への期待値は高まっており、商品を頻繁に買い換えるのではなく、修理やメンテナンスをして同じものを長く使い続けることに関心が集まっています。また、自ら所有する物を減らし、共有できる物は共有したいと考える人も増えています。問題は、社会のこうした変化に合わせながら、企業としてビジネスをどう維持していくかということです。そのなかで私たちデザイナーは、消費者の新たな期待に応えるために、新しい視点からデザインにアプローチしていくことが重要になっています。

同時に、商品の認知から購入、使用、修理メンテナンス、廃品となった時の処理・リサイクルまでのユーザージャーニー全体について改めて考え、いまユーザーが求めているサービスやコンテンツを見極めなければならないと思います。ハードウェアはもはや、パッケージの一部であるという考え方が広がっている中で、私たちデザイナーの考え方やスキルもこの潮流に合わせていく必要があります。そのような観点から、この教育コースでは世界の課題解決をテーマに置き、サービスデザインや製品デザインに包括的な形で取り組むことに決めました。

UNOPSから学ぶ世界の課題とSDGsに基づく考え方

デザインセンター・ヨーロッパは今回のプロジェクトにおいて、UNOPSにも協力を求めたという。そこにどのような狙いがあったのだろうか。

竹村教育コースのテーマを「世界の課題解決を目指すサービスデザイン」に定めたとき、世界中で起こっているさまざまな課題について豊富な知見を持つUNOPSを第三者パートナーとして迎え入れたいと考えました。実は2020年2月に、ソニーはUNOPSとイノベーション領域における協業契約を締結したのですが、デザインセンター・ヨーロッパではその契約の前から、オフィスから徒歩10分の場所にあるUNOPSイノベーションセンターのスウェーデン・ルンド拠点の方々と協業の可能性について話し合っていました。そういった経緯もあり、ソニーとUNOPSとの協業が決まった際、自分たちの視野を広げられる機会になると大いに喜びました。今回のプロジェクトは、UNOPSとの関係を築き、彼らの取り組み方を知るのに最適な場であり、学生たちとともに持続可能な開発目標(SDGs)についての理解を深める機会にもなると思いました。

さらに、UNOPSとの協業によって、世界中の課題を学生たちにリアリティを持って提示できるという利点もあります。プロのデザイナーは、身近なユーザーのためにデザインをすることばかりではありません。自分とは全く異なる課題を抱えている人たちを念頭にデザインできることはとても大切なスキルです。よってこのコースでは、現地の状況を掘り下げて検証し、課題の複雑さを理解した上で、複数のユーザーや利害関係者に配慮した現実的なソリューションやサービスを考案する機会を提供できたら、と考えました。

ワールドナーUNOPSは世界各地で現地の人々を相手に活動しているため、その地域の人や社会が直面している課題について、私たちの経験の範囲を超えて深く理解しています。今回のプロジェクトでは、UNOPSの提案でSDGsをもとに「強靭なインフラ、緊急時の対応、安全な水へのアクセス、廃棄物処理、サービスへのリモートアクセス」という5つの大きなテーマを課題とし、学生たちにいずれかを選んで取り組んでもらいました。

(左)UNOPSのスウェーデンイノベーションセンター長サラ・エモンド氏による持続可能な開発目標(SDGs)の講義と
UNOPSからのデザイン課題の発表
(右)国際修士課程の学生たちと、ルンド大学インダストリアルデザイン学部の修士課程長アンナ・パーソン氏

(上)UNOPSのスウェーデンイノベーションセンター長サラ・エモンド氏による持続可能な開発目標(SDGs)の講義ととUNOPSからのデザイン課題の発表
(下)国際修士課程の学生たちと、ルンド大学インダストリアルデザイン学部の修士課程長アンナ・パーソン氏

学生たちをサポートし、自ら課題を解決させる

実際の教育コースではどのような内容の授業を行ったのだろうか。また、学生たちはどのような成果を得たのだろうか。

竹村スウェーデンの学校教育のアプローチはかなりユニークだと思います。学校側は学生に規律と熱意を求めながらも高い自由度を与え、学生たちに自らの学習に大きな責任を担うことを要望します。教育者は学生たちを指導しながらも物事を解決するサポート役に徹し、学生たちは壁に直面したら、先生に答えを尋ねるのではなく、クラスメイトと協力して助け合いながら解決方法を導いていくのです。

この原則にもとづき、私たちは開講1週目にSDGs、サービスデザイン、ビジネスモデルキャンバス、IoTテクノロジー、リサーチとデザインプレゼンテーションスキルに関する講義を行った後、学生たちに主導権を渡し、自らプロジェクトの計画を立て、プロジェクトを進めてもらいました。社会人として、関係者と緊密に連絡を取りながら、細かい計画に沿って作業を進めることに慣れている私たちにとって、スウェーデンの学校教育の原則に沿った自由度の高いアプローチは非常に難しいものでしたが、私たち自身も学ぶことが多かったです。数週間おきに学生たちとレビューやプレゼンテーションの場を設け、彼らが課題に取り組み自ら答えを見出していく過程を見届けるのはとても楽しく、意義深い経験でした。

キエーシュ私自身インダストリアルデザインを学んでいたこともあり、デザイン教育の変化と発展に積極的に貢献していきたいと思っています。教育は世界を良い方向に変えていくために使える最も強力なツールのひとつです。デザイナーには新しいものを創造し、現状を変え、より良くしたいという内なる欲求がもともと備わっています。このプロジェクトを通じて、学生たちには美学、人間工学、機能性にとどまらず、もっと大きな次元でデザインに取り組みたいという高い意識が芽生えたと思います。未来を担うデザイナーとして、新しいスキルと考え方が身についたことで、従来のデザイナー以上に研究、共創、課題解決の促進に力を発揮できると考えています。

昨年の各プロジェクトの成果はこちらをご覧ください
(参加した学生たちの作品への外部リンク)

講義、ワークショップ、個別ミーティングの様子。技術的な質問や議論については、
ソニーのエンジニアが参加してサポートしました。

コロナ禍による制限に合わせたコース設計

最初の修士コースが昨年夏に終了した。次はどのような取り組みを行う予定だろうか。

竹村この3者協業によるプロジェクトを継続し、今年度も同じコースを修士課程の学生向けに実施します。コロナ禍の中での実施になるため、学生たちは自宅でプロジェクトに取り組み、講義やレビューミーティングはオンラインで行うことになります。こうした状況に鑑み、学生たちとのミーティングの頻度を増やしてフォローするなど、必要な調整をしていく予定です。また、昨年の教訓を生かしてコース内容を改善したほか、より集中的なメンタリングを行えるよう受講者数を制限しての実施となります。