INZONE限界に挑むプレイヤーの
力となるために
家庭用ゲームマシンから、ゲーミングPC、eスポーツまで、ゲームを愛するすべての人のために、
エンタテインメントの世界で培ってきたソニーの技術を結集して生み出した、
ゲーミングギアブランド「INZONE™」(インゾーン)。
今回、ゲーミングヘッドセット3機種、ゲーミングモニター2機種を発表しました。
INZONEブランドの立ち上げから、それぞれのプロダクトのデザイン開発まで、一連のプロジェクトをデザイナーが振り返ります。
(写真左から) ソニーグループ クリエイティブセンター
松島 正憲、辻 哲郎、大西 民恵、白川 実祐樹、
唐澤 才、渡辺 智也、田中 聡一
プレイヤーのために、
ソニーは何ができるのか
今回のプロジェクトではデザイナーが企画の初期段階から参加したという。当初、どのような思いを抱いていたのだろうか。
辻今回のプロジェクトについてはじめて聞いたとき、正直「難しい挑戦になるな」と思いました。私自身も日々ゲームに熱中するプレイヤーで、世界的に盛り上がるゲーミングPC市場から学びを得ています。eスポーツについても、心技を磨き上げたプロプレイヤーたちが戦い、ファンたちが熱狂する、一般的なスポーツと同様の感動が味わえるものだと考えています。そこには時代を切り拓いてきたプロプレイヤー、彼らを支えるファンや他社ブランドが築き上げたカルチャーがあり、新たにチャレンジするのは簡単なことではないと思ったのです。そのような前提に立ち、プレイヤーのためにソニーは何ができるのか、自分たちのブランドの在り方についてメンバーと議論を繰り返していました。
渡辺プレイヤーに受け入れられるブランドになるためには、彼らのカルチャーを深く理解しなければなりません。今回のプロジェクトメンバーはほぼ全員、筋金入りのプレイヤーなのですが、先入観が目を曇らせることもあります。だからこそ、私たちは商品企画やエンジニアのメンバーとともに、他社ブランドの研究や、プロプレイヤーへのインタビューなど入念なリサーチを実施。同時に、実際にゲーミングPCを自作したり、メンバー同士でさまざまなPCゲームをやり込んだりすることで、プレイヤーの気持ちを自分たちの中に再インストールしようと考えました。このプロジェクトに際し、個人の思い込みを無くし、どのようなときもプレイヤーの気持ちに寄り添う姿勢を整えることが今回のデザインの重要なポイントでした。
挑むプレイヤーに、
かつてない没入感と勝利を
デザイナーたちはこの先のブランドの指針となるコンセプトやデザインの世界観を設定していったという。
辻ソニーならではの強みとは何か。そして、プレイヤーにどのような体験を提供できるのか。メンバーと議論を続けるなかで、これまでオーディオ&ビジュアル領域で培ってきた独自の高音質・高画質技術はもちろん、音楽や映画などエンタテインメント領域でもクリエイターの情熱を受け止め、彼らの理想や要望にテクノロジーの力で応え続けてきたソニーの姿勢こそが強みではないかと思い至りました。
これまで音楽や映像鑑賞の没入体験のために築き上げてきた高音質・高画質技術を活かせば、プレイヤーの能力を拡張し、プレイへのさらなる没入感を実現できるのではないか。その状態とはスポーツの世界でいうアスリートが極限の集中状態に入る「ゾーン」現象にそっくりだと気づいたとき、クリエイティビティとテクノロジーの力によってプレイヤーの感覚を研ぎ澄まし、想像以上のパフォーマンスを発揮できる「ゾーンに入る」体験を提供することがブランドのコンセプトだとメンバーの気持ちが一致しました。
辻そして「ゾーンに入る(Get Into the Zone)」というコンセプトをそのまま「INZONE」というブランドネームで表現。ブランドの根幹となるロゴタイプでは、自分の限界を突破する「境界線」を意識させるデザインを目指しました。境界線の先にゲームプレイの未踏領域があることを示すように、INZONEの文字列の中央にスラッシュを入れ「境界線を超え、限界を切り拓くゾーンの中に入っていく」というブランド体験を象徴的に表しています。また、文字列だけのシンプルなロゴタイプにすることで、多種多様な製品が並ぶ店頭でプレイヤーがすぐに認識しやすいようにしています。
渡辺さらに、私たちはこのコンセプトをプロジェクトメンバーの意識に深く浸透させるため、ブランドの世界観を示すコンセプトビジュアルも制作しました。アスリートを支援するスポーツブランドのように、プレイヤーの挑戦を支え、彼らの能力を最大化するブランドであることを示すため「プレイヤー・セントリック」の考えのもと、勝利を追い求め、感覚を研ぎ澄まし、集中するプレイヤーの挑戦心をエモーショナルに感じられるようなビジュアルに仕上げました。
また、今回のコミュニケーションデザインで、私たちが重視したのがブランドカラーの選定でした。カラーはプレイヤーのブランド認知を左右する大切な要素で、INZONEに相応しいカラーとして、私たちが最終的に選んだのが青と紫のグラデーション。心理学的に青には「物事に集中する」、紫には「感性を研ぎ澄ます」という意味があり、まさにINZONEの体験そのものを物語っています。このようにブランドのコンセプト、世界観、トーン&マナーを固めることで、プロジェクト全体の進むべき道を明確にしていきました。
常識にとらわれず、
「勝つ」ための
ヘッドセットを
FPSゲーム(一人称視点シューティングゲーム)やTPSゲーム(三人称視点シューティングゲーム)などで、忍び寄る敵の足音など音で状況を判断するときに欠かせない、ゲーミングヘッドセット。INZONEのヘッドセットはどのようにデザインされたのか。
田中実は、これまでもソニーの音楽リスニング用ヘッドセットは多くのプレイヤーたちから「敵の足音など、音で状況を判断するFPSゲームで、ノイズキャンセリング機能が役立つ」と高評価を得て愛用されていました。そのような背景を踏まえ、商品企画やエンジニアはノイズキャンセリング機能をはじめ、足音が聞こえる方向まで再現できる360立体音響技術などを投入しつつ、プレイヤーが求める音作りに一から挑戦。プロダクトデザインにおいても、音楽リスニング用ヘッドセットで培った知見を総動員しながらも定石にとらわれず、「プレイヤーが勝つためのヘッドセットをつくりたい、そして、エンジニアたちの開発姿勢をデザインで伝えたい」という強い想いがありました。
エンジニアたちが最先端の音響技術をゲーム用に特化させ、生み出した「静寂のなかで、集中力を高め、周囲の音をいち早く察知できる」というINZONEのヘッドセット体験。そのプレイへの没入体験をプロダクトの形状自体で感じさせるにはどうすればいいのか。思考を巡らせ、たどり着いたのがF1のピットクルーやヘリコプターのパイロットが装着する防音イヤーマフの造形でした。騒音下で正確に使命を果たすためのギアをモチーフとすることで、遮音性を極めたノイズキャンセリング性能をはじめ、最先端の音響技術を体現。同時に、ソニーのゲーミングヘッドセットとしてのデザインアイデンティティを確立しました。
オーバルなハウジング部において、ハンガーの付け根とマイク可動部の位置を正円の平滑面でカット。
ヘッドバンドの付け根のサークルと併せ、3つのサークルが並ぶようにし、シンプルながら印象に残る個性をつくりだしている。
田中イヤーマフという基本形状を決めた後は、ゲームミングギアとして「勝つ」ための機能性を積み重ねていきました。プレイの状況に合わせて音量を瞬時に変えることが求められる音量ボリュームスイッチは、プレイヤーがハウジング部に左手を置いたときに親指が自然にくる位置に据えるとともに、指先ですぐに見つけられるように球状の突起ダイヤル形状に。さらに、マイクは跳ね上げると自動でミュート状態にするなど、操作の手間を最小限に抑え、プレイの一瞬一瞬に集中できるようにしています。
また、ゲームは暗い画面のシーンも頻繁にあり、そのなかで周囲の状況を掴むために部屋の照明を落としているプレイヤーも多いため、ワイヤレス接続タイプのINZONE H9ではハウジングのリング部分を発光させることによって、暗い部屋でも接続状態がわかるようにしようと提案。ゲーミングギアらしい照明演出にこだわり、発光の仕組みを自作したりしてエンジニアと試行錯誤を繰り返し、実装しました。ハウジング部の工夫として、INZONE H9/H7ではハンガーを内蔵し、ハウジング面に部品のつなぎ目を一切なくすことで、例えば、eスポーツチームのロゴを入れるなどキャンパスとしても使用できるようにしています。
田中一方で、1日中プレイに打ち込むプレイヤーのために、長時間使用しても疲れない装着性を追求しました。これまで音楽リスニング用ヘッドセットの開発で培ってきた知見をもとにしながら、「ヘッドバンドの幅が広いと安定はするが重量は増えてしまう」「ヘッドホンの側圧が強いと頭が痛くなってしまう」といった課題に対し、ヘッドハンドの幅やカーブの角度について試作を繰り返し、最適解となる形状を導き出しました。耳に接するイヤーパッドの素材についても、触感や質感にこだわりながら、各モデルに最適な生地を選んでいます。
さらに、INZONE H3にも独自のこだわりがあったという。
大西INZONE H9/H7はワイヤレスタイプですが、INZONE H3は小型軽量化を追求した有線タイプです。H9/H7と構成しているデバイスは違いますが、同じINZONEのゲーミングヘッドセットシリーズとして強い群で見えるように工夫しています。イヤーマフをモチーフにした基本形状を踏襲し、ボリュームダイヤルは上位モデル同様の操作感を得られるようになっています。シンプルなハンガー構成はデュラブルで使い勝手がよく、またエンジニアとも試行錯誤した通気性のよいナイロン素材のイヤーパッドは、長時間使用にも蒸れることなくプレイに集中できるようにしています。
(写真左より)INZONE H9、INZONE H7、INZONE H3。
プレイヤーのスタイルに合わせて選べるように3モデルをラインアップしている。
デザインするのは、
モニターではなく、
プレイ環境
ゲーミングモニターINZONE M9/M3はどのようにデザインされたのか。デザイナーはブランドコンセプトである「ゾーン」へとプレイヤーを誘う、ゲーミングモニターのあるべき姿を模索したという。
※INZONE M3は2022年内発売予定
唐澤エンジニアたちがINZONE M9の開発において、4K/144Hzという高いスペックを保ちつつ、テレビのBRAVIA(ブラビア®)で培われた直下型LEDバックライト技術まで搭載しようとしているという話を聞いて「このスペックを発揮させるゲーミングPCを持つ人は日常的にゲームをやり込んでいるプレイヤーだろうな」とすぐに思いました。そのようなコアなプレイヤーたちを極限の集中状態である「ゾーン」へと誘うために、どうすればデザインで貢献できるのか。まずはゲームへの没入感を邪魔しないプレイ環境を考えることから始めました。
FPSゲームのプレイヤーの中にはキーボードを斜めに置くプレイスタイルを取る人が一定数いるのは知っていましたが、実際のプレイ環境をリサーチするとゲームをやり込んでいるプレイヤーの多くが画面を抱え込むようなスタイルで、画面下左にキーボードを斜めに置き、右に大きなマウスパッドを置いてプレイしていました。ただ従来のゲーミングモニターのスタンドは設置面積が広く、斜めに置いたキーボードや大きなマウスパッドに干渉しやすいため、設置環境にある程度妥協しているというプレイヤーも少なからずいました。
唐澤そこで、モニター下の左右に大きなスペースを確保するため、手前を1本、後方に2本という新しいスタンド形状をエンジニアとともに考えました。さらに、ケーブルマネジメントに配慮し、モニター奥のスペースまで自由に使えるようにすることで、どのようなプレイスタイルにも対応できるようにしています。同時に、INZONEのゲーミングモニターが映し出す高解像度映像への没入感をさらに高めて目の前にゲーム世界が広がるように、ベゼルのソニーロゴや電源ライトの見せ方にも配慮しました。
さらに、イルミネーション部のデザインにもこだわったという。
唐澤ゲームの世界では、様々なゲーミングデバイスのイルミネーションの色を統一することでプレイへのモチベーションを上げるという文化があります。INZONE M9にもモニター背面に13色から選べるLEDイルミネーションを搭載しているのですが、その光らせ方として排熱ダクトを間接的に照らす方法を取りました。これは、イルミネーションを必要としない時にも「光っていないイルミネーション部品」が外から見えないようにするためです。光っていない時の美しさも念頭に置きながらデザインしました。
勝利のために、
必要な機能を迅速に提供する
今回のUI(ユーザーインターフェース)デザインでは、ゲーミングモニターのOSD(画面上の操作パネル)に加え、ゲーミングモニターとヘッドセット両方の各種設定が簡単に行えるPCソフトウェア「INZONE Hub」を手がけた。
松島UIにおいても、プレイヤーをいかに「ゾーン」に導くかをデザインの指針にしています。まず基本的な考え方として、プレイ中にすぐに調整が必要な設定はヘッドセットやモニターのハードウェア側、プレイ前にじっくりと画面をみながら調整する設定は新たに開発したPCソフトウェア「INZONE Hub」で行えるように情報を整理しました。例えば、ゲーミングモニターのOSD(操作画面)では、画面の色調整設定などをすぐに呼び出せるようにしつつ、設定項目を一覧できるようショートカットメニューを用意して、プレイ中でも瞬時に目当ての設定に調整できるようにしています。
ゲーミングモニターのOSDのスケッチ。
ショートカットメニューからすぐに目当ての設定に調整できる。
白川さらにPCソフトウェア「INZONE Hub」では、ゲーミングモニターとヘッドセットの設定を細かくカスタマイズできるようにし、多様なプレイヤーがそれぞれベストなコンディションを整えられるようにしました。また、シューティングゲームやロールプレイイングゲームなどのタイトルごとに最適な設定が違うため、それらの設定を保存できるようにし、ゲームを選ぶ際に最適な設定をすぐに呼び出し、プレイに集中できるようにしています。画面のデザインにおいては、ブランドカラーをUIのアクセントカラーとして使用。ボタンのデザインにロゴタイプの形状を取り入れるなど、一貫したブランド体験を提供できるようにしています。
INZONE Hubでは「わかりやすさ」にもこだわったという。
松島INZONEでは、没入と勝利に導く性能としてヘッドセットに立体音響バーチャライザーなどの新機能を搭載していますが、それらはプレイヤーにとって馴染みの少ない機能でもあります。これらの機能のメリットを理解し、使ってもらうことで、INZONEのモニターやヘッドセットの真価を発揮できるようになるので、主要な機能にその効果を説明するガイド機能をつけ、誰もがハードウェアの性能をフルに活用できるようにしています。
「INZONE Hub」の画面
どんなときもプレイヤーの
側に立つこと。
それが、
ブランドの深化に
つながる
一連のプロジェクトを振り返った感想は。さらに今後、どのような展望を抱いているのか。
白川今回、私たちデザイナーはブランドコンセプトの策定から、プロダクト、UX/UI、コミュニケーションまで全方位で関わってきたわけですが、最も重要だったのは常にプレイヤーの側に立つということでした。例えば、プロジェクトの過程で、私たちが必須だと考えていた機能があり、商品企画やエンジニアに実装を提案したのですが、その際に彼らと一緒にゲームをプレイしながら「この場面で必要になります」と実用性を伝え、納得してもらいました。自分の領域にとらわれず、ユーザーのことをどこまで考えられるかがデザインの本質だと改めて感じました。
辻今回のINZONEのデザインの原動力となったのは、限界に挑むプレイヤーへのリスペクトであり、自分たちに大きな影響と豊かな経験を与えてくれたゲームカルチャーに貢献したいという思いでした。勝利のために努力を重ね、精神性を鍛えるプレイヤーたちを支えるゲーミングギアを届けること。それこそが「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というPurpose(存在意義)を持つソニーの役割だと思います。これからもINZONEをゲーミングギアの揺るぎないブランドへと成長させるべく、全力で取り組んでいきたいと考えています。