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©Tateyuki Adachi

クリエイターに寄り添う高城剛氏のアフリカ撮影で
見つめたデザインの使命

2023年夏、タンザニア。ドローンなど最新鋭のロボティクス機器とともにソニーのデジタル一眼カメラ「α1」を携えた一団が、
これまで誰も見たことがないような、夜のライオンたちの表情を撮影することに成功しました。

映像作家・高城剛氏や写真家の安達建之氏らの撮影クルーに、ソニー クリエイティブセンターから2名が同行。
その目的は、デザイナー自らがクリエイターの創造の現場を体験し、新たなデザインの糸口をつかむこと。
サバンナの暗闇の中、望遠ではなく驚くべき近さからライオンたちの姿を写し出す、かつてない試み。
貴重な撮影体験を振り返り、「クリエイターに寄り添う」姿勢が切り拓くデザインの可能性を展望します。

(左から)ソニーグループ クリエイティブセンター:清水 良広、今村 昌二

最新機材 × 創造的アイデアで
野生動物に迫る

映像制作をはじめ、最先端のテクノロジーを駆使して多彩な創造活動を行う高城剛氏と、ビーントゥバー・チョコレート・ブランド「green bean to bar CHOCOLATE」を主宰し、世界中のカカオをハンティングする傍ら、ネイチャーフォトグラファーとしても活躍する安達建之氏。彼らは近年、サンゴ礁に抱かれた海の生き物たちや、100万頭もの大群でアフリカのサバンナを移動するヌーの姿など、最新技術を駆使した大自然の撮影プロジェクトに力を注いできました。

そして2023年。その第4弾の撮影先として向かったのが、タンザニア北部に広がる世界遺産「セレンゲティ国立公園」。ドローンやラジコンカメラなど最新鋭のロボティクス技術と、ソニーのデジタル一眼カメラ「α1」を駆使し、夜のサバンナで活動するライオンたちの姿を至近距離から捉えようというのです。
この一大プロジェクトに、2名のデザイナーが同行。彼らは何を求め、何を体験し、どんな手応えを得たのでしょうか。本プロジェクトのクリエイティブディレクションを担った高城剛氏のコメントを交え、同行の経緯から撮影秘話、今後のデザインに向けた想いを語ります。

高城剛氏と安達建之氏の撮影クルーに、デザイナーとして同行することになった経緯について教えてください。

今村高城剛さんは、自ら脚本・監督・撮影を務めた2022年公開の映画作品『ガヨとカルマンテスの日々』を従来のシネマカメラではなく、「α1」で撮影されました。その手法や考え方に学ぶべく、社内のデザイナー向けに講演をお願いした際、「何か一緒に取り組みをさせていただけませんか」とご相談したのが最初の接点でした。そうしたところ、「タンザニアで野生動物を撮影するから同行しますか?」と、思いも寄らないお声がけをいただいたというわけです。

清水高城さん自身、気になった撮影機材に関してはメーカー各社の製品をすべて実際に購入して比較検討されています。その上で、「α1」は動画撮影においてもシネマカメラ相当の画質を達成していると評価してくださいました。「α1」はサイズも小さいため、これを複数台揃えることで、従来の発想を覆す動画撮影や画づくりに挑戦されています。さまざまな気づきにつながる機会だと思い、ぜひ同行したいと手を挙げたのですが、初めてのアフリカ、しかも野生動物撮影ということで、個人的には相当な覚悟が必要でした。

今村さんはカメラ関連のアプリケーションのUIを手がけたり、清水さんはセンサーやカメラなどのコミュニケーションデザインに携わりながら動画クリエイターとしても活動していますが、その経験からしてもまったく初めての現場だったということですね。

今村このプロジェクトにおいて高城さんは全体のプロデュースから渡航の段取り、撮影方法、作品化のプランなど、あらゆる計画を取りまとめてくださっています。撮影アシスタントやドローンパイロット、写真集のアートディレクターなども、すべてご自身の人脈から選ばれていて、チームとしての結束や手際の鮮やかさなど、驚かされることばかりでした。

清水機材の選び方やカスタマイズ方法にも驚かされました。例えば、撮影用のラジコンカーはメーカーの方と調整を重ねて、走行時の安定性を高めつつ、機内持ち込みできるよう分解できる仕様になっています。「タンザニアアーム」と名付けられたお手製の撮影用のクレーンも、短いカーボンパイプを多数連結し、長さを変えられるよう工夫したものです。

今村準備には、テレビ局で特殊機材制作の経験を持つ方も参加されていました。それだけの工夫を重ねた上で、実際にどうやって撮影を行うのか……私たちもデザイナーとして興味津々でしたね。

見たことのないアングルで
捉えたライオンの姿

この撮影は、特殊なLEDライトを装着したドローンなどを駆使して夜間の野生動物に迫る初めての試みでした。印象的だった出来事はありますか。

清水何もかもが濃密な体験でした。撮影は、まず対象となるライオンの群れを選び、日没と同時に追跡を開始します。月夜とはいえ、日が沈むと真っ暗闇で、ライオンの群れと私たちの車列だけが見えている状況です。群れを見失ってしまった場合は、赤外線カメラを搭載したドローンを飛ばして探知する。その上でライオンの様子を見計らって、車内から撮影を行いました。

今村通常、こうした野生動物の撮影は離れた場所から望遠レンズで行うもの。それが今回はサファリカーから「タンザニアアーム」を伸ばして、ライオンのごく間近で撮影をしています。車との距離は最大で1メートル程度でしょうか。一度はライオンにカメラを引っかかれて、ケーブルがちぎれてしまいました。それに、闇の中でポールを腕で支えての撮影ですから、通常の撮影方法であればブレてしまう。静止画の時はシャッタースピードを遅くして超高感度で撮影する一方、並行して動画でも撮影を行いました。

写真集『LION NIGHT』(NEXTRAVELER BOOKS)より。

清水紛れもなく、これまでに誰も見たことがない画角でライオンを捉える試みです。高城さんは「なるべく多くライオンの表情を捉えたいから、30fps(1秒間に30フレーム)で動画を撮り続けて、その中からブレていない瞬間を切り出そう」とおっしゃっていて、動画から高精細な静止画を切り出すことを見越した上で「α1」を選んでいただいたのだと実感できました。

そうした撮影において、技術者ではなくデザイナーが同行するのは珍しい試みのように感じます。

今村もちろん、私たちも臨機応変に照明のサポートをしたり、手持ちカメラでの撮影をしたりしています。そもそもテレビ局などがこれまで数十名体制で臨んできたところを、現地ガイドや運転手を除けば8名でこなしているわけですから、驚異的です。ライオンの群れが岩の上に集結した千載一遇の場面では「今だ!」と、それぞれがカメラを手に必死でシャッターを切りました。

清水全員、カメラの設定を最適化して、一人ずつレンズの焦点距離を変えて撮ることで、少しでも良い表情を捉えたいと必死でしたね。結果的に、誰が撮ったかわからない写真も結構あります。それで光栄にも、写真集では私たちの名前も「アディショナル・フォトグラファー」としてクレジットしていただきました。

2023年11月に刊行された写真集『LION NIGHT』(NEXTRAVELER BOOKS)。
24年1月には東京・表参道のスパイラルガーデンで写真展も開催された。

「クリエイターに寄り添う」
デザインの可能性

今回の撮影を振り返って、高城氏からコメントをいただきました。以下にご紹介させてください。

高城剛氏からのコメント

夜間のサファリ撮影を実現するには、高感度かつ高精細なセンサーが必要でした。
今回の撮影のアイデアは以前からありましたが、納得できる画質を持つカメラの登場を待たなくてはなりませんでした。この度、満を持して撮影の機会を得ました。
数年前では考えられない高感度センサーならではの表現が可能になりました。また、8K動画の書き出しも多用しており、動物が見せる一瞬の表情を捉えることができました。
このような手法は、今後、次世代の写真撮影の新しい技法として定着するでしょう。

なお、ソニーのカメラはフルフレームのαシリーズ登場から10年ほど使っており、この数年で素晴らしいレンズも揃いました。個人的には24mmの「G Master」を愛し、映画からポートレートまでほぼこれ1本で撮っており、今回のサファリ撮影でも多用しています。
また、新機種が出るたびに持ちやすくなっていますが、忌憚なくお話し申し上げれば、本体もレンズも「もっと小さく!」に尽きるところです。それによって、まだ眠っている次のアイデアを現実化できそうです。期待しています!

また、今回のようにハードウェアとしてカメラ開発に関わる人たちとコンテンツ開発に関わる人たちが、アフリカのサファリで半月近く行動を共にしていると、撮影時間以外でも、全員で今までにないハードやコンテンツを思案する日々が続きます。
数年後、今回の旅路のなかから生まれたアイデアが、現実化することを願ってやみません。

今村とてもありがたいコメントをいただきました。高城さんが求めるクオリティの機能をできるだけ小さなサイズに収めつつ、"いい画"をいかに実現するか。第一線で活躍するクリエイターの方が求める条件として、画質と"いい画"が撮れることは最低限の条件であり、その上でデザインや使い勝手を高めていくことの必要性を強く感じます。

清水"いい画"についてはメーカーもそれぞれに特色を打ち出しており、私もフォトグラファーとして多くのカメラを使ってきました。そのなかでソニーのカメラは忠実かつピュアに情報を記録し、クリエイターの方々にクリエイティビティを最大化していただくことに重きを置いていると感じています。その点が、高城さんに「α1」を評価していただいたポイントかもしれないと思います。

現地での撮影準備の一コマ。

制作準備から現地での撮影、写真集や写真展に至るまでのプロセスを振り返って、どんな気づきがありましたか。

今村完成した写真集を手に取った時は、クオリティの高さはもちろん、元の写真を大胆にトリミングしていて、撮影時には思いも寄らない構図に驚かされました。手がけた製品のデザインが現場でどう使われているかだけでなく、それがどんなアウトプットや反響に結び付いているかを見届ける、極めて意味のある体験だと感じました。

清水興味深いのは、高城さんが自身のファンコミュニティを的確に把握し、どう情報発信をすればどんな反応につながるかを確実に見極めていること。撮影チームのメンバーもそのコミュニティの一員であり、作り手も受け手も含めて大きな一体感が生まれるのだと思います。

今回のような「クリエイターに寄り添う」体験は、今後のデザインの可能性とどのようにつながっていくのでしょう。

今村最高の技術を、最高の道具に仕立ててクリエイターに渡すこと。かつての上司が教えてくれた、デザイナーの使命についての言葉です。その上で、"最高の技術"をいかに"最高の道具"として使いやすい形に整え、クリエイターの創造性をさらに高めることができるのか。これこそがデザイナーの役割であり、デザインという行為の持つ大きな可能性でもあると思います。

清水ソニーの製品やサービスには、エンジニアや商品企画、営業担当者など、領域ごとに力を発揮する人々の存在が欠かせません。こうしたさまざまな担当者、時には経営層とも対話を重ね、各領域の魅力を存分に発揮できるよう、全体をチューニングしていくこと。それがデザイナーにできることだと感じました。その上で、今後はクリエイターの現場で一緒に制作に臨む機会を増やしていきたい。そうすることで、真の意味でクリエイターに寄り添ったプロダクトやサービスを作ることができるはず。そう考えています。

(2024年1月10日 クリエイティブセンターにて実施)