Sony’s Motion Logoソニーの「進化」を
示すために
モーションロゴとは、テレビCMのエンディング、映画の冒頭やソーシャルメディア上のプロモーションビデオなど、
映像コンテンツの前後に付け加えられる企業のロゴのこと。一般的に定型のものが多い中、
ソニーの新しいモーションロゴは、社内外のクリエイターと共に創り、グループ各社の多様な映像コンテンツに無限のバリエーションで調和するという、
今までにないブランディングの取り組みです。このモーションロゴは、どのような発想から生まれ、
どのようにつくられたのか。デザイナーたちが今回のプロジェクトを振り返ります。
(写真左から)ソニーグループ クリエイティブセンター:
前坂大吾、藤田すずか、
山浦賢一、中尾由美、柴田竜、北原隆幸
ソニーのPurposeを
表現すること
ソニーのPurpose(存在意義)ビジュアル
2019年のPurpose策定、2020年のソニーグループ株式会社発足の発表。ソニー全体の変化を受け、このプロジェクトは立ち上げられた。当時、ゲーム、音楽、映画、エレクトロニクス、半導体、金融など各事業のシナジーを高める新体制のスタートに際し、グループの象徴であるモーションロゴを改変するべきか社内で議論が起こっていた。
前坂実は当初、従来のモーションロゴを変える必要があるのかという社内の声もありました。そこでまず、私たちは「なぜモーションロゴを変えるのか」、その意義から考えていきました。そうして行き着いたのが、グループ全体の指針であるSony’s Purpose/Identity/Directionを表現すべきだという結論。当時、Purposeによって進む道が明確になり、様々な事業領域の間でシナジーを強化するべく新しい動きが出始めるなど、グループ全体がさらなる進化を遂げようとする気運が高まっていました。だからこそ、社内外の多くの人が目にするモーションロゴで、Purposeという旗印をより強く示す必要があると考えたのです。
そこで、ソニーならではの「クリエイティビティとテクノロジーの力」を感じさせつつ、「世界を感動で満たす」という壮大なイメージを数秒間のモーションロゴでいかに表現するか、その難問に挑戦しようと思いました。そのようなモーションロゴを各社共通で使用していくことで、グループの様々な事業活動に一体感を与え、ソニーのアイデンティティを改めて確立し、未来に向けてソニーブランドの価値を一層高めていけるのではないかと青写真を描いたのです。
ソニーの多様な事業、人、社会とのシナジーの関係図
人や社会とのシナジー
こそ、最も大切なこと
北原プロジェクトを進めるに際し、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というPurposeの本質的な意味は何か、メンバーで議論を重ねました。ソニーの多様な事業と人材は価値創出の基盤ですが、感動はソニーだけで生み出せるものではありません。感動するのも、感動を作り出すのも人です。グループ会社だけでなく、パートナー、クリエイター、ユーザー、そして社会と響き合う、つまり「シナジー(相乗効果)」が起こることではじめて感動が生まれます。これは「人に近づく」というソニーの経営の方向性にもつながっています。そこで、人や社会とのシナジーこそが大切であるという思想をモーションロゴで示すことが大事なのではないかと考えました。
そこから、新しいモーションロゴでは、従来のように「自分たちはこういうものである」という自己を表すのではなく、Purpose(存在意義)である「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」、その様子を表現するべきだと思い至りました。これまではソニーのロゴタイプ自体を使った表現が中心でしたが、今回は「ロゴタイプの外側=人や世界」と捉え、画面全体を使った表現にしようとデザインの方向性を定めていったのです。同時に、モーションロゴと映像コンテンツの世界を分断せず、多様なコンテンツ自体と響き合うことを目指しました。
SENSE
描くのは、
感動が生まれる瞬間
Purposeに内在する思想を改めて掴み、デザインの方向性も定まった後、デザイナーたちは新しいモーションロゴの表現の核となるストーリーやコンセプトメイキングに取り組んでいった。
中尾「ソニーが人に近づき、響き合う」「世界を感動で満たす」様子を新しいモーションロゴでいかに表現していくか。私たちは「ロゴタイプ=ソニー、ロゴタイプの外側=人や世界」とし、まずは自由な発想で、ソニーが人や世界をどのように変えていくのか、いくつものモックアップをつくり、それをもとに議論を繰り返しました。アイデアを拡散させ、進むべき方向を見定めていったのです。外部パートナーも交えて議論する中で、当初は世界が感動で満たされていく状況をどう表現するかに囚われていたのですが、フォーカスすべきは、ソニーが人と触れる瞬間なのではないか。その方が人や社会、世界とのシナジーが感覚的に伝わると気づきました。
そこから、「ソニーが人に近づき、社会、世界と響きあう」というモーションロゴのストーリーを考案。さらに発想を進め、ソニーと人の間に「界面」があると仮定し、ソニーがその界面を超えて、人と触れ合い、両者が共鳴することで感動が世界を満たしていく様子をモーションロゴで描こうと考えました。そうして、界面を超えるきっかけを人が感じる瞬間とし、「SENSE」というデザインコンセプトを導き出していきました。
人と触れ合うことで広がる感動
(モーションロゴの構造)
中尾実際のモーションロゴの動作としては、ソニーロゴタイプが仮想界面の向こう側に見え、その界面に人が触れた瞬間、ロゴタイプが界面を突破し、人の感動とその共鳴の余波が世界に広がるなかで、最後にフレーム中央に固定されるという流れにしました。また、従来のモーションロゴは画面内で完結していたのですが、私たちは今回、ユーザーが映像コンテンツをリアルタイムで見ている時間こそ、ソニーと人の触れ合う瞬間だと捉え、実際の画面を界面とし、ユーザーがいる現実の空間全体を使ったモーションロゴにしようと発想を広げていきました。
モーションロゴの初期段階モックアップ
誰も見たことのない世界観を
いかに具現化するか
藤田モーションロゴで伝えたいコンセプトは決まったのですが、「ソニーが人に近づき、社会、世界と響きあう」というストーリーの具現化は至難の業でした。この世界観は、私たちメンバーの想像の産物で、誰も見たことがありません。そこでデザインコンセプトである「SENSE」が内包する、自然や人の中に感じる温もりや柔らかさ、生命力を感じるようなしなやかさ、誇張しないありのままの自然な存在感といったトーン&マナーを手がかりにし、トロリとした液体や、柔らかな質感のファブリック、木漏れ日の光といったモチーフを使いながら、様々な世界観のモックアップを制作し「界面に触れて突破する」「共鳴の余波が世界に広がる」という表現を練り上げていきました。
実写素材の撮影・制作風景
柴田さらに今回こだわったのが「界面に触れて突破する」表現でした。リアリティを追求するため、CGのみで制作せず、実際に撮影した映像を使用することにしました。界面の向こう側にぼやけて見えるソニーロゴタイプ、界面にロゴタイプが触れた瞬間のハリやテンションの変化などを個別に撮影し、それらの映像を組み合わせています。特に界面を突破する際のテンションは痛々しい印象を与えてしまうこともあったため、突破する心地よさ、共鳴が広がっていく表現に十分に配慮しながら、モーションロゴの世界観や基本動作を作り上げていきました。
「調和するモーションロゴ」
という挑戦
デザイナーたちが外部パートナーとの共創によって細部までこだわりぬき、モーションの基本動作が完成した。つぎの難問は、このモーションをグループ各社の多様な映像コンテンツにいかに調和させるかということだった。デザイナーたちはPurposeの「テクノロジーの力」を体現するためにも、ソニーならではの答えを探した。
山浦完成したモーションロゴの基本動作をグループ各社の多様な映像コンテンツにどのように調和させていくのか。私たちが構想したのは、定型のものを一方的に提供するのではなく、それぞれのグループ会社において、テレビCMやWEB動画などを制作しているクリエイター自らが自身のコンテンツと調和する最適な表現にモーションロゴをカスタマイズできる、共創のスタイルでした。そこから、ソニーの先進的なテクノロジーを取り入れつつ、映像制作の現場でモーションロゴをカスタマイズできるアプリケーション「Motion Logo Generator」の開発に着手していきました。
「Motion Logo Generator」のアプリ画面
山浦まず手がけたのは、あらゆる映像コンテンツに自然に溶け込むような「調和のデザイン」。社内の多種多様な技術の中から、私たちはソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)の研究員アレクシー・アンドレが開発した、コンピュータ技術で配色を自動的に生成・創造する技術「Omoiiro™(オモイイロ)」に注目。この技術を応用して、各映像のラストフレームの色を抽出し、その色味に沿った固有のグラデーションを生み出し、映像との親和性の高いモーションロゴを自動生成する。そんな全体像を描きながら、社外パートナーと共に、様々な映像に沿った色味の多様性と、視聴体験やブランド体験の統一性という二律背反の課題に向き合い、アルゴリズムを細かく調整。映像コンテンツに合わせて、無限のバリエーションを生み出せるアプリケーションを作り上げていきました。
「Omoiiro™(オモイイロ)」は、ソニーCSL研究員のアレクシー・アンドレが開発したカラーパレット抽出システム。「Motion Logo Generator」では、映像のラストフレームの印象を保持するカラーを生成し、実際の画から最後のソニーロゴタイプまでを自然なグラデーションでつなぐモーションロゴの生成を実現しています。
山浦さらに、「Motion Logo Generator」では最終的に3つのパターンを提示し、クリエイターが制作意図に合った最適なモーションロゴを選べるようにしました。また、映画のスクリーンからスマートフォンの画面まで対応できる幅広い画角サイズ、ファイル形式を用意し、様々な事業領域の多様な映像コンテンツに適用できるようにしています。あらゆる制作現場を想定し、導入しやすいよう配慮することで、社内外のクリエイターがソニーのアイデンティティを共に創り上げていく新たなブランディングの土壌を整えています。
中尾「Motion Logo Generator」を実現させたいと考えた背景には、これまでの定型のモーションロゴにあった映像との分断感を払拭したい、多様な事業活動をしているソニーのモーションロゴもまた多様であるべきだ、という思いがありました。モーションロゴは一つのものに統一するというのが通例ですが、今回は、映像をつくるクリエイターと共にブランドをつくり上げたいと強く思い、課題を一つずつ解決し、今までにないブランディングに挑戦したのです。
映像コンテンツに調和するモーションロゴ
モーションロゴに込めた
思いを伝える
Purposeの思想を体現するコンセプトビジュアル
藤田新しいモーションロゴを導入するにあたり、今回のコンセプトを世に伝えるべく社内外のプロモーションにも力を入れました。Purposeを体現している新しいモーションロゴのコンセプトを、社員に深く理解してもらうことはグループの一体感につながりますし、社外の方にも伝えることで共鳴の輪を広げたいと考えたからです。ソニーグループの幅広い事業や多様なユーザーを意識しながら、Purposeの思想をより分かりやすいメッセージとビジュアルによって紹介するコンセプトムービーやWEBサイトを制作し、公開しています。
前坂2022年春、「Motion Logo Generator」が社内外に公開され、今回のプロジェクトはひとつの区切りを迎えました。これまでの道のりを振り返ると、「この先のソニーグループはどうあるべきか」を自分たちなりに考え続けた日々で、デザインしたのは「ソニーそのもの」だったのではないかと感じています。新しいモーションロゴはこれから多様な映像コンテンツに合わせて無限のバリエーションが生み出されていく唯一無二のもの。いまソニーグループはいくつもの新事業を立ち上げるなど活発に動いていますが、そのようなグループの進化に合わせて、このモーションロゴも進化していきます。私たちもどのようなモーションロゴがでてくるのか楽しみにしています。