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Motion Sonic Project

Transforming body movement into sound

風切り音「増幅するマイクは、
何を拡張したのか?

ブレスレットに埋め込まれた3つのマイクが拾う風切り音を、「ノイズ」として消すのではなく「音」として増幅する。
そんな逆転の発想を生かしたMotion Sonic Projectは、これまでとは
違ったカタチで身体の動きを顕在化させるデバイスとして期待されています。
身体の動きに新たな意味をもたらす技術に、デザインによって
ストーリーを与えるべく模索した2人のデザイナーに聞いた、開発ストーリー。

いかにして「風切り音」を
デザインしたか

Motion Sonic Projectはどのような経緯を経て現在のカタチに至ったのでしょうか。

鈴木(デザイナー):腕につけたマイクを使って風切り音を取得し、それにエフェクトを掛け、身体の動きに合わせた直観的な音を出すという、エンジニア・金 稀淳(キム・ヒスン)さんのアイデアが基になっています。

詫摩(チーフアートディレクター):当初は、若いエンジニアたちが新しい体験価値の創出にチャレンジするプロジェクトでした。そこで生まれたアイデアをビジュアライズする部分を手伝うべく、鈴木をアサインしたんです。でも立ち上がってしばらくは、「UXとして実際のところ何をやるんだっけ」という試行錯誤を見守る時期が続きました。

鈴木:「カラダの動きを音へと変換するとはどういうことなのか」と、マイクだけではなく、曲げセンサーや加圧センサー、ジャイロセンサーといったさまざまなセンサーをダンサーに付けていただき、どこに落としどころがあるのかをしばらく模索していたのですが。

詫摩:「カラダを動かせば音が鳴る」デバイスはそう珍しいものではないということで、だとしたら単にセンサーをトリガーにして音が鳴るだけではなく、風切り音という原点に立ち戻って、「風を音に変える」部分をしっかりやろうと。そこにフォーカスできたことで、デバイスとしてのコンセプトが明確になりました。

エンジニアが特にこだわったのは、「プロのダンサーやアスリートの俊敏な動きによってすごくいい音が出る」といった点だったので、お客様向けの使いやすさとは異なる精緻さみたいなものも今回のポイントになったと思います。

鈴木:最初はひとつのマイクで色々な方向から風切り音を取得できる形状を研究していたのですが、複数のマイクを使えばより繊細な風切り音を取得できるのではないか、という仮説に基づき、パフォーマンスの妨げにならない位置で、かつ最大限の風切り音を取得できる位置と数を、実験を重ねることで導き出しました。

ブレスレットのプロトタイプの写真 プロトタイプをテストしている鈴木の写真

未来のパーソナルオーディオへの
布石として

デザインをする上でこだわった部分や難しかった部分を挙げていただけますか?

鈴木:マイクの数は最終的に3つに絞られたのですが、既成のマイクとは違う表現をしながらも可能な限りシンプルに見えるように削り落とす、必要な要素は強く見せるという造形バランスは重視しました。

詫摩:マイクにおける風切り音といえば、通常は排除するべきノイズです。それを増幅して生かそうという逆転の発想がこのデバイスの肝でもあるわけですが、一番風切り音を拾いやすい形状を求めて、マイクに施すスリットを様々に変えて実験を積み重ねました。

最終的に鈴木が描いたデザインは、ベルトはサラッと描き、マイクの部分をしっかり描き込んでいました。それはプロトタイプ感が溢れていて、まだまだ伸びしろのある「実験的な感じ」を表現していて、求めるカタチにたどり着いた印象を受けました。

鈴木:今回出展したSXSW2017に来場された方々の反応を見ていても、大きな手応えを感じています。早速「使わせて欲しい」という問い合わせがいくつも来ているそうです。

詫摩:今後のパーソナルオーディオは、ただ音楽を部屋で受け身で聴くというパッシブな存在ではなく、どんどんアクティブになっていく予感があります。Motion Sonic Projectも、最終的にはそういうところへ繋がるといいなと考えています。

共感型プロトタイピングが、
未来をたぐり寄せる

今回Motion Sonic Projectに携わって改めて見えてきた「デザインの役割」とは?

鈴木:ぼくらデザイナーがゴールを定義していくことも、今後は増えていくのだろうと思います。エンジニアやビジネスマネージメントだけでは前に進まない……といった時に、デザインが加わることで、具体的なUXとしてビジュアル化を促し、チーム全体の思想をまとめることができます。ドライブを促す役割を、デザイナーが担うケースが増えていくのかもしれません。

詫摩:たとえばヘッドフォンやスピーカーといった既存のカテゴリーの商品なら、前の機種からのフィードバックを次に繋げることができますが、新しいカテゴリーだとなかなかそれができません。その点Motion Sonic Projectは、東京デザインウィークとSXSWの2回にわたってプロトタイプを出展し、フィードバックをもらう機会を得ました。こういう共感型のプロトタイピングは、なかなかできるものではないと思います。

Motion Sonic Projectは、もう少し進めていくとさらに可能性が広がると思いますし、今回得たインスピレーションが、ほかのオーディオ商品等にもつながっていけばいいなと個人的には思っています。その意味でも、プロトタイプをデザインしオープンにしていくという一連のプロセスは、複雑で先が読めない未来において必要となる「何か」にカタチを与えることを責務とする我々デザイナーにとって、重要な示唆をもたらしてくれる機会であり、積極的にその知見を生かして行かなければならないと思います。

写真左から、デザイナー鈴木、チーフアートディレクター詫摩