SONY

Feature Design

Negative Space

プレミアムオーディオの
本質を表現する

プレミアムオーディオがもたらす良い音による上質な音楽体験。
その価値をもっと多くの人に届けるために、
新しいデザイン言語の開発に挑みました。

良い音を世界に広げたい

近年スマートフォンなどのモバイル機器の普及でmp3 やAACなどによる圧縮音源でのカジュアルな音楽視聴が広がり、原音に近いハイレゾ音源などの高音質での鑑賞は一部のユーザーに限られたものになっていました。デジタルオーディオ技術が発展し、かつ大容量で高解像のデータが配信可能となったいま、ソニーは圧縮音源に加え、CDを超える高精細な音による感動体験をもっと多くの人に届けたいと考えました。一方で、ワイヤレスでの音楽鑑賞スタイルが広まるなど、時代の価値観はよりシンプルで簡便なものを求める方向へ変わりつつあります。そこでプレミアムオーディオの本質を見つめ直し、高音質による音楽体験の価値を伝えるための、これからの時代にふさわしい新しいデザイン言語の開発に着手しました。

「プレミアムオーディオに求めるデザインとは?」音楽のプロフェッショナルやオーディオファンを対象に東京とロンドンでリサーチやワークショップを実施。音に強いこだわりを持つ人たちの感性にあったデザインを模索しました。改めて気づいたのは、音への信頼感やその技術的な裏付け、そして高解像な音質が、見た目や素材からしっかりと感じられることの重要性。そこで未来をイメージさせるような薄さ・軽さではなく、音の確かな価値を伝える重厚な存在感や質の高さを表現することにしました。

圧縮・凝縮して残る余白

高精細な音の体験を届けるために何が必要で、何が不要なのか。その本質を見極め、たどり着いたのが「compress(圧縮)& condense(凝縮)」という発想。オーディオを構成するさまざまな要素を一つの塊に圧縮し、素材が溶け合うまで凝縮していくと、本当に必要なものだけが自然と残ります。見えてくるのは、本質的な機能を残すために必然的にできる余白=Negative Space。ならば、この余白部分をデザインすることで、プレミアムオーディオの本質的な価値をより強く表現できるのではないかと考えました。

各オーディオ機器にとって最適なNegative Spaceを考える上で意識したのは、圧縮することで生まれるシンプルでアイコニックな造形「Simple & Iconic」、音への高い信頼性を感じさせる塊感や頑丈な佇まい「Solid & Durable」、高精細な音を感じさせるファインピッチやテクスチャー「Precise & High-Density」です。

価値を表すものを記憶として残す

時代はモノをよりミニマルに、要素を無くす方向へと変化しています。しかし一方で、プレミアムオーディオは趣味性の高いものなので、良い音を生む機能の価値や設計思想、その背景のストーリーを語れるデザインであるべきです。ハイレゾ音源は従来であれば消されてしまうような音のディテールを残し、粒感や立体感のあるサウンドを再現しますが、デザインでも同じように、すべての要素を無くしてしまうのではなく、本質的な価値を表すものを記憶として造形に残し、いかに美しく表現するかを追求しているのです。

チーフアートディレクター 詫摩

NW-ZX2

高音質を凝縮して生まれたフォルム

ウォークマン®NW-ZX2は、高音質を実現するのに必要不可欠なアンプブロックを象徴的に残し、それ以外のボディ部分を圧縮。そうして生まれたのが背面下部の隆起した独特な形です。ボタン類はすべて筐体に押し込み、それによって生じる段差(=Negative Space)で、ボタンの位置が触るだけで分かるようにしました。また、筐体の剛性が高いほど音質が良くなるため、アルミフレームにふくらみを持たせることで一層剛性を高めています。仕上げにショットブラスト加工を施し、テクスチャーで音の解像感を表現。専用のクレードルは、高音質を出力する大きなプラグを無理なく挿せる高さと、そのために必要な余白を計算しデザインしています。

PHA-3のノブとヘッドホンジャックの写真
PHA-3

隙間に収められたインターフェース

従来ポータブルアンプは、アンプを収めた筐体にインターフェースや操作部を守るガードを付け足すという考え方でデザインされていました。しかしPHA-3では、すべての機能を圧縮・凝縮し一つの塊にする中で、必要な機能だけが形を残すという発想に。圧縮していく過程で筐体の一部をガードとして残しつつ、ノブやヘッドホンジャックなどが収まるスペースを兼ねるデザインとしました。よりシンプルな一つの塊と見えるように、ネジを外装から見えないようにする工夫も。筐体は切削したアルミの質感を高めるブラスト加工を採用。ボリュームのノブには細やかな間隔でローレットを刻み、手にした時や操作した時の感触からその価値が感じられるようにしています。

本質を追求することで、必然的に
生まれるもの

プレミアムオーディオのデザインは、高音質であることが形として現れていることが重要です。音や体験に影響を及ぼす本質的な機能を見極め、その機能を残すときに生じる必然的な余白がNegative Spaceといえます。本質的なものを追求していった結果生まれる形であり、そのすべてが高純度な音と体験に紐づいているのです。

デザイナー 矢代

XBA-Z5

2つのドライバーユニットを物語る溝

大口径のドライバーユニットに加えて、より透明度の高い中高音を実現するためのBAユニットを新たに2基搭載したXBA-Z5。これらの機能を一つの塊に圧縮・凝縮する過程で、2基のユニットを隔てる溝(=Negative Space)をあえて残し、高音質の要となるユニットを2つ持っていることが外観からも分かるようにしました。また、ハウジングには剛性の高いマグネシウムを採用。さらにプロット塗装を施し、高い解像感を感じさせるテクスチャーにしました。

MDR-Z7の写真
MDR-Z7

ハウジングの面に現れる性能

70mmの大口径ドライバーユニットを搭載し、自然な響きを体感できるヘッドホンMDR-Z7。音を広範囲で均一に耳に届けるため、ドライバーを外耳道に対向するように角度を付けて配置。それを覆うハウジングを圧縮する(音質を損なわずに限界まで小さくする)ことで大口径ドライバーの形を残し、高音質に欠かせないその存在感を表現。外装はプロット塗装を施し、手触りからも音の価値を感じられるテクスチャーに。また、ハンガーもアルミを採用することで強度を確保しつつ薄さを追求しています。

ユーザーに最も伝えたいものを
表現する

圧縮・凝縮して残る本当に必要な機能のなかでも、その重要度は異なります。音質に影響するもの、見た目の印象や操作性に影響するものなど、オーディオの種類によっても何を重視するかは変わってきます。ユーザーに一番に伝えるべきものは何か、最も本質的なものは何かを、余白や隙間といったNegative Spaceをデザインすることで、明確に表現することができるのです。

デザイナー 栗原

MHC-V7D/
SHAKE-X7D

音圧を表現する
ウーファー中心のデザイン

パーティーシーンで使われることが多く、場を盛り上げる圧倒的な音圧と迫力あるデザインが求められるホームオーディオシステム、MHC-V7D / SHAKE-X7Dにもハイレゾオーディオで築いたNegative Spaceのコンセプトを踏襲。着目したのは音圧の高さを象徴するウーファーです。存在感を高めるため、ウーファーを中心にミッドレンジ、トゥイーターを一つの塊に圧縮する過程で生じた溝の幅をそれぞれ変えることで、各機能の見せ方に強弱をつけました。

※MHC-V7D / SHAKE-X7Dはハイレゾ非対応です

MHC-V7D / SHAKE-X7Dのフォルムを真横から見ると、凹凸のない美しい輪郭が現れます。表面に少し張りを持たせたこのフォルムで、圧倒的な音圧を凝縮した存在であることを表現。また、平行面が少なくなるため音響を高める効果もあります。操作部も天面から飛び出さないよう圧縮してつくり込み、持ち運びの際にぶつけることのないよう配慮しています。

※MHC-V7D / SHAKE-X7Dは海外でのみの発売です。日本国内での発売予定はありません(2015年3月現在)

求められているのは、
信頼し続けられるデザイン

プロフェッショナルやオーディオファンがプレミアムオーディオに求めているのは、ずっと信頼し続けられるものであるということ。だからこそ、佇まいからも音への技術的な裏付けが読み取れるデザインでなければなりません。音楽と真剣に向き合うユーザーから選ばれること、それが何よりも大事だと思います。

デザイナー 森本

良い音による上質な音楽体験を、もっと簡単に、
もっと多くの人が楽しめる時代を見据えて、
プレミアムオーディオのデザインはいま
新たな一歩を踏み出しました。