ビジネスとデザインの密接な連携で、
ソニーは新たな価値を創造していく
毎日のニュースと趣味のニュースを一つのアプリで閲覧・収集できる"2 in 1コンセプト"が新しいソニーの「ニューススイート(News Suite)」。2016年1月のリニューアル後、世界70カ国で展開し月間アクティブユーザー700万を達成するなど、その飛躍の原動力になったのはデザインです。開発の裏側で果たしたデザインの役割や、これからのアプリケーション開発の在り方などをビジネスの担当者とユーザーインターフェースデザイナー2人に聞きました。
ソニー マルチスクリーン
UXサービス部
担当部長 上木 建一郎
ソニー クリエイティブセンター
ユーザーインターフェース
アートディレクター 赤川 聰
ソニー クリエイティブセンター
ユーザーインターフェース
デザイナー 立石 知佳子
「幅広いニュースを楽しむうちに自分のニュース
アプリになっていく、という自然の流れをつくる」
— なぜ今ソニーはニュースアプリをつくろうと考えたのでしょうか。
上木:ニュースポータルアプリはグローバルでみると未開拓の市場で、日本ほど浸透していません。一番盛り上がっている日本も、そのユーザー体験の深化は現在進行形で、AIなどこれからの技術進化に照らして、まだまだ完成されたものではないと思っています。
私たちはこれまで、膨大なインターネットのコンテンツを自分に合った形で楽しめるようにするにはどうしたらよいかというテーマに取り組んできました。なかでもニュースは誰もが毎日利用するものです。今回、これを軸にしようと考えました。
赤川:ではどうやってインターネット上で自分の好きな情報を集めるかとなるのですが、実は多くの人にとって最初から興味のある情報だけを探すのは難しいもの。大抵は広くいろいろな情報を知った上で、自分が興味のあるものを見つけて深堀するのが自然な流れです。
そこから生まれたのが「Jモデル」というコンセプトです。広く情報の海を泳いで、興味のある場所に深く潜り、さらにそこから新しいアクションを起こす、というイメージを表すと「J」の字のように見えることからそう名付けました。
上木:人は、自分の好み自体それほど意識していないことが多く、まず一般的な情報がないとそもそも何をしていいか分からない。そのことにユーザーにヒアリングを重ねて気づいたのです。
赤川:自分の興味のある情報を見つけ、さらに深い情報を収集するまでをスムーズに行なうために、まず構造から考えました。とにかくいろいろなパターンをつくってユーザーテストをし、一番分かりやすかったのが「ニュース」と「お気に入り」をタブで切り替える構成でした。
「一見特徴のない作り。でも新しいことをやるのに、新しい作法はいらない」
— ブラウザなどによくあるベーシックなUIに見えますが、なぜこれにたどり着いたのでしょうか。
上木:一見あまり特徴のない作りに見えますよね(笑)。デザイナーには、できるだけ新しい操作感はなくしてくださいと常にお願いしていました。やはり全部が新しいと、ユーザーはその操作を覚えるのに時間がかかり、ストレスもかかります。理想は誰もが慣れた操作感で新しい体験を提供すること。デザイン側からはたくさんアイデアを提案してもらったのですが、一緒に突き詰めていった結果シンプルになりました。
立石:いままでは一般的なニュースアプリと自分の好みのニュースを登録するRSSリーダーを別々に立ち上げて使っていたのが、一つのアプリでできるようになったことがニューススイートの新しいところです。それが「ニュース」と「お気に入り」の2つのタブ構成によって、初めて使う人も見た瞬間にわかるのが今回のポイントです。「お気に入り」タブでは、トレンドのキーワードを揃え、選ぶだけでそのテーマの記事を集められるようにしています。面倒な作法の学習をすることなく、誰もが直感的に分かることを目指しました。
赤川:ユーザーがそれまで使ってきたアプリと同じ感覚ですぐ使えることはすごく大事です。奇をてらわず、タップやスワイプなどのスマートフォンの基本操作の延長線上でできることを常に心がけていました。新しいルールを学習するのは本当に大変ですから。
— 具体的にUIデザインを詰めていくなかで、最も大事にしたことは何ですか。
赤川:やはりニュースを読むアプリなので一番大事なのは記事。コンテンツファーストという考え方を徹底しています。
立石:読みたい記事を見つけやすくするために、一画面にどれだけ並べるのがベストか等の検証は当然しており、その上で文字の大きさや読みやすさをいかに担保するかを徹底的に追求しました。フォントサイズや行間をちょっと変えるだけで読みやすさは全然違いますし、最適なところを何度も検証して探っています。
赤川:ニューススイートは日本だけでなく海外でも使われるため、記事の見出しが平均で何文字くらいあれば内容が分かるかなどはグローバルで調査しています。企画担当とそこを毎日話しながら詰めていったのですが、ロシア語やドイツ語は一単語の文字数が多いので苦労しました。
「自然と日常に溶け込めるアプリであること」
— 記事を見やすくする工夫はその他にありますか。
立石:どんな記事が表示されるか分からないので、どう並んでも見やすいように配慮しました。例えば、メインの記事は写真の上に帯を引いて見出しを載せていますが、この帯の色は写真から自動抽出しています。帯と写真の一体感があり、違和感なく読めると思います。また顔写真があるものは、しっかり顔がアップで中心にくるように顔認識を使って自動でトリミングするなど、ユーザーが気づかないような細やかなチューニングが、自然な読み心地につながっているのです。
上木:私が一緒に作っていて驚いたのは、アイコンがほとんどなくテキストベースのUIになっていること。ここは頑にデザイナーが譲らなかったポイント(笑)。試しにアイコンをつくってもらったのですが、やはり違和感がありました。
赤川:記事にまず目がいくようにするには、それ以外の場所は目立たない方がいいですよね。ですからアプリの操作画面上にはニューススイートのアイコンすらありません。毎日使うものなので見飽きないことも大事で、存在感を感じさせずにしっかり付き合っていける。それを目指してどんどん削ぎ落としました。
上木:ストイックなくらいシンプルさを徹底しているので操作に迷わないし、アプリ自体の主張が強くないので自然と日常に溶け込んで使えるものに仕上がっていると思います。
「アプリの世界観がエコシステムの
信頼構築につながる」
— ビジネス的な視点でもデザインが貢献していることはありますか。
赤川:今回、アイコン、ロゴ、テーマカラーなどを一新し、すべてにおいてきっちりとしたブランドガイドラインを制作しました。
上木:ニューススイートをビジネスとしてみると、メディア事業ということになります。コンテンツファーストというテーマの下、楽しく洗練されたスタイルをユーザーにお届けすると同時に、記事を提供してくれる世界中のコンテンツパブリッシャーや事業を支えてくれる広告主にとって信頼感・満足感のある優れたブランドイメージを有するメディアになりたいと思っています。
「デザインの領域を越え、一体となって課題解決していく」
— 今回、プロジェクトの根幹から常にデザインが関わっていた理由はなんでしょうか。
上木:アプリは機能がデザインに直結していて、デザインが直接問題を解決することが他のプロダクトよりも多い気がします。例えばボタンが押されてないケースは、ボタンに気づかれていないから。それは色なのかフォントサイズなのか、操作性なのか、デザインに起因することが多い。
だから、こういうビジネス背景があって、数字的にこうなっているからどうしたら良いのだろうと、デザインと一緒になって考えるのはごく当然なことでした。
赤川:確かにアプリケーションはもはやサービスとイコール。そこは切っても切れない話しだと思います。ですからデザイナーが一緒になってビジネス課題の解決策も考えるし、事業部がデータを基にデザインの方向性を探る。今回はその連携が一つのチームになることでうまくできました。それこそがソニーの考えるサービスの作りかたであり、アプリの作りかただと思います。
デザイナーが一緒にビジネス課題の解決策を考え、
ビジネスもデータを基にデザインの方向性を探る。
従来のデザインの枠に留まらない領域を越えた
連携で、ソニーは新たな価値を創造していく。