Perspectives vol.2
時間軸から解き放たれた物語を、AIはどう解釈するのか
各分野の、豊富な知見や知識がある人のもとを訪ね、多様な思考に触れつつクリエイションを通じて学びを得る「Perspectives」。
今回は、かつて講談社で「ドラゴン桜」や「宇宙兄弟」などの作品を担当し、
現在は漫画家や小説家といった作家らのエージェント機能を担うコルク代表取締役であり編集者の佐渡島庸平さんを訪ねました。
aiboに関心を寄せた佐渡島さんの言葉を受けて、投資がテーマの漫画「インベスターZ」をUXデザイナーの坂田がAIで解析し、
それをムービーで表現。なぜ漫画を解析したのか、なぜ漫画を解析したのか、またその結果から、どんな気づきがあったかを紹介します。
学びは体験からしか
生まれない
「実験:人工知能が『インベスターZ』21巻を読む」は、「インベスターZ」の最終巻である21巻を一般向けに公開されているAIにインプットし、解析結果をムービーにしたものです。画面に渦巻く、主人公の「財前」に関係するセリフを追っていくと、21巻はこんな感じかなと作品の雰囲気がなんとなくわかってくると思います。そのなかでAIが前後のコマやストーリーとの関係性が最も希薄と認識したのが、財前くんにプレッシャーのかかるシーンでした。それまであまりプレッシャーを感じる描写のなかった財前くんですが、所属する投資部の存続という局面で最も大きな重圧がかかるシーンがあるのです。
そこで、財前くんが「重ーーーーっ!」「なんだこれえっ!」と言って、祈っているようなポーズをとっていることをAIは理解できなかった。佐渡島さんの言葉通り、「学びは体験からしか生まれない」のであれば、AIはこうしたプレッシャーを感じたことがないし、このシーンを読み解ける体験やバックボーンがないから、わからないというわけです。一方でこのシーンは、人間が読むと最も盛り上がりを感じるエモーショナルな場面。このギャップに今後に向けたAIの課題があるのではないかと思います。
佐渡島さんの思考パターンをあぶり出す
解析のプロセスとしては、まずAIへのインプットを行いました。「インベスターZ」の21巻の全ページをスキャンして画像データにし、コマをばらして、切り出したセリフで文字データを作成。コマに印をつけて、時系列でAIに読み込ませました。あらかじめ、主人公が財前くんであるということもインプットしたうえでキーワードを整理・区分させ、次に財前という主人公とセリフとの関連性を見出していきました。「財前というキーワードが42ありました」といった単純なカウントや、シーンごとの関係性は、AIがおおむね理解できているとわかりました。しかし、あのワンシーンだけは、関係性において極端に低いスコアが示されたのです。
今回は21巻だけでしたが、1巻から全巻インプットすると結果はまた違ったかもしれません。もしくは、「ドラゴン桜」や「宇宙兄弟」といった別の作品もインプットすることで、佐渡島さんの思考パターンをあぶり出せたら面白そうだと感じました。リバースエンジニアリングではないですが、ヒットメーカーである佐渡島さんのノウハウをAIに映し取れないかなと思ったのです。
佐渡島さんはインタビューの中で、「学びは体験からしか生まれない」に加え「フィクションに学ぶ」とも話していました。彼は、若い頃から膨大なインプットがあって、思考してきた時間がとても長いと思います。だから、理屈だけではなく、肌感覚でコンテンツの面白い面白くないを理解しているのが佐渡島さんの強みではないかと。作品や作品づくりのプロセスをAIを使ってノウハウ化できれば、テクノロジーで次の作品づくりをサポートしたり、忙しい佐渡島さんの思考パターンをAIで再現して、周囲が質問したり相談できるようになると面白いと思います。
AIがパートナーになっていくとしたら?
最近、AIが音楽をつくったり絵を描いたりしていますが、そこに人を感動させるような強さが足りないのは、冒頭に話したギャップの部分にあるのではないでしょうか。それがわかったのが今回のいちばんの学びです。今のAIは、ある環境下での効率化を目的に使われることが多いですね。例えば、囲碁用AIは常に最適な解答を導き出し、人間に勝つことはできます。でも、囲碁で学んだことを別の何かに活用するのは、まだ難しいようです。
AIの次のステップは、映画に出てくるパートナーのような存在にいかに近づいていけるか。暮らしに取り入れた際に、AIが見守るといったような利便性を追求した使い方ばかりではなく、エンターテインメントやホビー、クリエイティブの領域でAIを使ったエモーショナルな価値を生み出せたらよいのではないかと思っています。
- 写真左:佐渡島庸平/さどしま・ようへい
- 株式会社コルク代表取締役社長、編集者
- 写真右:坂田純一郎/さかた・じゅんいちろう
- ソニー株式会社クリエイティブセンターUXデザイナー
構成/「AXIS」編集部
文/Junya Hirokawa