Perspectives vol.6

The resonance of nature

ソニーのデザイナーが、各分野の豊富な知見や知識がある人のもとを訪ね、
多様な思考に触れつつ、クリエイションを通じて学びを得る「Perspectives」。

今回の舞台はデンマーク。コペンハーゲン生まれの兄弟によるデザインスタジオ「ザ・イノウエ・ブラザーズ」の兄、
井上聡（さとる）さんに、スウェーデンのオフィスで働くソニーのプロダクトデザイナー、本石拓也が会いに行きました。

日本と北欧というふたつの文化に根ざす“スカンジアジアン”デザインを標榜し、
最高級のアルパカニットを手がける井上さんとの会話のなかから、本石が得た気づきや学びとは？
さらに新たな気持ちで挑んだものづくりについて話します。

本心からサスティナブルで
オーガニック

ソニープロダクトデザイナー本石拓也

井上さんは、とても熱い人でしたね。ザ・イノウエ・ブラザーズというファッションブランドも、コペンハーゲンにある「Jah Izakaya & Sake Bar」というレストランも、一貫したコンセプト。ブレがありません。サスティナブルやオーガニック、エコという言葉は、日本ではややトレンドのような風潮があるなかで、井上さんは本気で実践しています。本心からそれらの言葉を発して、実際にものを生み出し、ビジネスにしている。当たり前のようにより良い社会を考え続けていることが、言葉の端々や態度から伝わってきました。

ザ・イノウエ・ブラザーズのニットを見て感動したのが、ニットのつなぎ目の補強パーツ。縫製上、「ニットがもし破れるとしたらここから」と井上さんが教えてくれた縫い合わせ部分を、再利用の牛革パーツで補強しています。この補強パーツが、どんなにニットの質が高くても、すぐ破れて買い換えるようではものづくりの意味がないというブランドのメッセージであると同時に、一目でザ・イノウエ・ブラザーズのニットだとわかるアイコンになっています。ロゴを縫い付けるのではなく、ものづくりの姿勢が形となって、そのままブランドのアイデンティティになっていることが、とても本質的でかっこいいと思いました。

素晴らしい魅力をそのままに

井上さんとの会話には、服の形についての話はほとんどなくて、代わりに、自然の素材をどうやって見つけ出し、どう育て、それを世の中の人へどのようにプレゼンテーションするかといった内容が多かったですね。先につくりたいものがあるのではなく、あるものの良さや価値を最大化する。料理にたとえるなら、旬の食材が収穫できたから、それを生かしたメニューを組み立て、友人を呼んで一緒に楽しむような。自分が見つけた素晴らしい自然の魅力を、いかにそのまま社会に還元できるかという、問いかけのようなデザインです。ソニーでも、デザインの力で社内の新しい技術をどうやって世に出そうかと考えることがありますが、近い感覚だと思いました。

今回改めて、ものづくりって何だろうと考えました。ユーザーの使い勝手や製造方法といった複合的な課題を整理して、人々に届けるのがデザイナーの仕事ですが、絶対にブレてはいけない“核”のような要素があることを、井上さんとの話のなかで再認識しました。また、どんな状況でも、最適な素材や表現を責任を持って追求するのがデザイナーの役目です。手にした人々の生活が豊かになるものづくりでなければ、意味がありません。

見つけたままの素直な佇まい

キャンプで山や川に行ったときに聞こえるのはすべて自然がつくり出した音で、そんな時間こそが贅沢だったり豊かさだったりしますよね。音楽と共に歩んできたソニーにも通じるところがあると思い、今回石や木の枝、葉っぱといった自然素材を麻の紐でぶら下げた楽器のようなものをつくりました。これが風に吹かれて揺れたり、身につけた人が歩くと石と木が揺れてぶつかったりしてリズムが生まれ、耳元で心地よい音色を奏でます。