Perspectives vol.8
写真を五感で楽しむ
ソニーのデザイナーが、各分野の豊富な知見や知識がある人のもとを訪ね、
多様な思考に触れつつ、学びを得る「Perspectives」。
今回、デザイン部門長の長谷川 豊が向かったのは、2019年9月14日〜11月10日まで開催中の
「浅間国際フォトフェスティバル2019 PHOTO MIYOTA」(以下 PHOTO MIYOTA)。
長野県の浅間山麓にある御代田町を中心としたこのアートフォトの祭典に、
ソニーデザインは写真家の鈴木 崇氏とコラボレーションした体験型展示「YOU and BAU」を出展しました。
会場を訪れた長谷川は、PHOTO MIYOTA実行委員会の副委員長を務める
株式会社アマナの代表取締役社長 兼 アマナグループCEOの進藤 博信さんと対談。
その中で話題に上がったアマナの取り組みやソニーデザインとしてのイベント出展の意義などについて、
改めて振り返りました。
テクノロジーをデザインで翻訳し、伝える
長谷川 豊
今年はソニーデザインとしてPHOTO MIYOTAに初出展しました。私は昨年のプレ開催も見学しましたが、第一回となる今年はプレ開催以上に体験型の作品が多くなったと思います。私たちが出展した「YOU and BAU」で来場者のみなさんが楽しんでくださる様子を見て、改めて体験することの魅力を感じました。
YOU and BAUの展示会場の様子
写真家の鈴木崇さんの「BAU」という作品に入り込むことができるYOU and BAUは、ソニーの映像制作支援ユニット「Edge Analytics Appliance(エッジ・アナリティクス・アプライアンス)」のCGデジタル合成機能技術「クロマキーレスCGオーバーレイ」によって実現しています。これは、いわゆるブルーバックやグリーンバックと呼ばれる背景の前にいなくても、映像から人物だけを自動的に切り抜き、他の映像にリアルタイムで合成できるという技術です。
テクノロジーは難しいものとして受け取られることが多いですが、デザインによってそれらをわかりやすく、親しみやすいものに翻訳して伝えることがわれわれの役割ではないかと考えています。YOU and BAUでは新たな写真体験を提供できたと実感しましたし、テクノロジーとデザインの掛け合わせによる感性価値創造の手応えと、さらなる可能性を感じました。
写真作品にリアルタイムで入り込むことができる
クリエイティブなアウトプットにつながる仕組み
進藤さんご自身がクリエイターということもあり、クリエイティブな組織のつくり方についても意見を交わしました。アマナでは、グループ内の人材や仕事内容を、社内向けに配信するインナーコミュニケーションの仕組みがあると聞きました。誰がどのプロジェクトを、どのようなチームで担当したかを社内で共有しているのです。約17,900人もの社外クリエイターのデータベースもあり、1,000超の社員のチームビルディングやプロジェクトマッチングに役立てているそうです。
われわれソニーでも社内デザイナーの刺激になればと考えて、社外から多様な領域の有識者を招いての講演会や交流会、研修を行っています。しかし、今回、進藤社長からそのような仕組みを説明していただいたことで、社内のデザイナー同士で学び合うこともできそうだと思いました。
同じ組織にいても、互いがどんな仕事をしているかは意外と把握していないものです。誰がどんな経験や専門性を持っているかを認識することができれば、例えば新たなプロジェクトチームを立ち上げる際に、組織を超えて、多様な人材を集めることができます。これまで、どんなクライアントとどんな仕事をし、どのように課題解決をしたかといった情報を共有することが、よりクリエイティブなアウトプットにつながると感じました。
PHOTO MIYOTAの会場風景。屋内外でアートフォトの展示を楽しめる。
企業のデザインは社会にどう貢献していけるか
PHOTO MIYOTAは、ビジュアルコミュニケーションのプロフェッショナルであり、人の五感を震わせる「五感満足」を目標に掲げるアマナと、御代田町が共催する国際フォトフェスティバルです。企業の強みを生かしたイベントを開催しながら、それが写真文化の醸成や御代田町の活性化という地域貢献にもつながっている点がすばらしいと感じました。
ソニーの商品やサービス、空間などのデザインを手がけるわれわれクリエイティブセンターは近年、デザイン活動の発信の場として国内外のイベントに出展しています。多くの企業が、商品やサービスの背景にある情報を発信している時代です。われわれも、イベントへの出展やそこでの体験を通じて、姿勢や思想を伝えられればと考えています。通常業務だけではデザインが特定の領域に偏る傾向にあるため、世の中に対する力試しや他流試合のような意味合いもあります。
デザイナーは、普段の業務ではお客様との直接の接点が少ないという側面があります。デザインを発信する場を介して、そこから何が生まれるかにフォーカスした取り組みをここ数年続けてきました。さまざまな場に出展することで、直接のフィードバックや気づきを得ることができ、それらを次のクリエイションにつなげることができます。
さらに、その先にあるテーマのひとつが社会実装です。ミラノデザインウィークで発表した「Hidden Senses」がホテルの一部に導入されたように、展示や試作だけで終わらせないことに大きな意味があります。企業のデザインが、社会にどのように貢献していけるかは引き続きチャレンジしていきたいところです。今回の出展は、それらを改めて考える機会になりました。
進藤 博信/しんどう・ひろのぶ
株式会社アマナ 代表取締役社長 兼
アマナグループCEO
長谷川 豊/はせがわ・ゆたか
ソニー株式会社 クリエイティブセンター
センター長
構成/「AXIS」編集部
文/Junya Hirokawa