SONY

Perspectives vol.9
ISSEY MIYAKE 宮前義之氏との対話を通じて得た学び

本質から想いをつむぐ

ソニーのデザイナーが、各分野の豊富な知見や知識がある人のもとを訪ね、
多様な思考に触れつつ学びを得る「Perspectives」。

今回、プロダクトコミュニケーションやコーポレートブランディングに携わるコミュニケーションデザイナーの
北原隆幸が訪れたのは、東京・富ヶ谷にあるイッセイ ミヤケの本社。

2011年から「ISSEY MIYAKE」のデザインチームを8年間にわたって率いた宮前義之さんに、
デザインとテクノロジーをつなげることによる、ものづくりの革新について尋ねました。
取材後も続いた対話の内容を含めて、出会いから得た気づきや学びを、北原が改めて振り返りました。

デザイナーは、
形をつくって終わりではない

コミュニケーションデザイナー 北原隆幸

自分の仕事は、プロダクトやサービスをどうやって世の中に伝えていくかというプロダクトコミュニケーションがメインで、ここ数年はコーポレートブランディングにも関わるようになっています。宮前さんとお話した内容を振り返ると、デザインやクリエイティビティの役割について再確認できたことが多く、それが一番の学びになりました。

というのも、今は、企業も商品をつくって売れば終わりではなく、同時に、デザイナーの仕事も何かの形をつくって終わりということが少なくなっているからです。それよりも、なぜその商品をつくるのかまで遡って、そのためにどのようなストーリーを伴って、何をどのように伝えるべきかを考えること。ものごとの本質を捉え、新たな視点をもたらすことに、デザインが求められるようになっています。

協業が新しい価値を生む

とても印象的だったのが、「自分で表現しすぎるとチームのクリエイティビティを制限することにつながるから、自分ではスケッチを描かないんです」という、宮前さんの言葉でした。自分の想像を超えるものをつくってもらいたいという意図を持ったディレクションがあるからこそ、チームの力を最大化できるのだと思います。

服づくりにはまず原料があって、そこから糸をつくって、さらに織り方や編み方があって、ようやくできた生地を服に仕立てていきます。どの工程が欠けても目指すものづくりができない状況のなかで、要素を1本の糸のように編み上げて、いかにしてものづくりを実現させていくか。こうすることで、関わるスタッフが自分ごと化できて、同じ方向を向いて、共通のゴールを目指すことができると感じました。

もう、協業なくして、ものをつくれない時代です。自分も、異業種の方を含め社内外のエンジニアやプランナー、販売など、周囲のスタッフを巻き込むことの重要性を再認識しました。

ISSEY MIYAKE 宮前さんが手がけた生地の数々

新素材Triporous™
(トリポーラス)の
共感を促すコミュニケーション

最近手がけた仕事のひとつが、ナノからマイクロレベルの特徴ある微細な穴が無数に空いていて、臭いなどを吸着するソニーの「トリポーラス」という新素材を、外に向けてどのように発信していくか。BtoB向けや、もっと言えば一般の方々にも知ってもらうには、技術や機能を羅列するだけでコミュニケーションが成立できるわけではありません。いかに優れた技術であっても、その特徴を捉え、かつシンプルに表現しなければ、なかなか理解されにくいのです。

ソニーが開発したTriporous™(トリポーラス)は、籾殻から生まれた天然由来の多孔質カーボン素材

トリポーラスを繊維やフィルターに使用するなど幅広い分野での応用が可能

トリポーラスのコミュニケーションでは、一般の人々に興味を持ってもらいたいという視点から、米の籾殻が原料であることを記したり、「水や空気を磨く新素材」といったコピーを考えたり、ウェブサイトのビジュアルを選定したりと、魅力をわかりやすく伝えることを心がけました。

ソニーには、他にもさまざまな技術があります。機能も可能性があるこれらの技術をコミュニケーションによって世の中に浸透させ、ビジネスをサポートできればと思っています。

本質はあくまでも、
「人の気持ちを動かす
服をつくりたい」

宮前さんは、ものづくりにおいて、小さく畳める服をつくりたいとか、環境にやさしい服をつくりたいとかではなく、あくまでも、「人の気持ちを動かす服をつくりたい」と話していました。それを着ることでワクワクして出かけられるとか、「この服いいでしょ」と新しいコミュニケーションが生まれるなど、いつも大切にしているのはユーザー視点。その延長上に、旅行に持っていくにも便利だったり、環境にもやさしかったりという機能を生み出しています。

これは、トリポーラスのコミュニケーションにも共通する考え方で、ソニーの商品もサービスも、使われて初めてその人のものになります。コミュニケーションも、使うシーンを想起できるようなユーザー視点に立ったものであるべきです。

まったく新しいものは、もうなかなか生まれにくい世の中です。それでも、宮前さんは、単にユニークなだけとか、単に面白いだけのものをつくるのではなく、ものづくりの持続性を捉えたうえで技術に向き合い、素材開発まで遡って、新しい発想で、今、求められているものをつくり出しています。課題にまっすぐ、真摯に向き合おうとする宮前さんの姿勢に、深い共感を覚えました。

宮前義之/みやまえ・よしゆき
株式会社イッセイ ミヤケ
デザイナー

北原隆幸/きたはら・たかゆき
ソニー株式会社クリエイティブセンター
コミュニケーションデザイングループ
シニアアートディレクター