最先端のテクノロジーを、
医療の現場に届ける
ソニー、オリンパス、そしてソニー・オリンパスメディカルソリューションズ(SOMED)の3社協業から生まれた、新手術用顕微鏡システム。
その背景には「最新のテクノロジーをいかに翻訳し、医療の現場に使いやすく届けるか」というデザインの挑戦がありました。
新システムに込めた想いやこだわりを、ソニーとオリンパスのデザイナーが語ります。
ソニー株式会社
クリエイティブセンター
デザイナー 井関
ソニー株式会社
クリエイティブセンター
統括部長 大場
ソニー株式会社
クリエイティブセンター
アートディレクター 箱田
ソニー株式会社
クリエイティブセンター
統括部長 大場
ソニー株式会社
クリエイティブセンター
デザイナー 井関
オリンパス株式会社
デザインセンター
グループリーダー 野原
オリンパス株式会社
デザインセンター
チームリーダー
GUIデザイナー 菅谷
オリンパス株式会社
デザインセンター
GUIデザイナー 甘利
高度なデジタル映像技術で、緻密な手術をサポートする
手術用顕微鏡システム
脳神経外科などの繊細で高度な手術で、肉眼では見えにくい微細な組織の拡大画像を提供する手術用顕微鏡。しかし、従来の大型で接眼レンズを覗く光学式モデルは、長時間に渡って手術を行う必要のある執刀医の身体的な負担が大きく、また、手術の作業空間や助手の介助作業にも制約を与えていました。そこで、ソニーのデジタル映像技術とオリンパスの医療機器開発のノウハウを融合し、SOMEDが技術開発したのが新手術用顕微鏡システム。大型モニターに4K 3Dの高精細デジタル映像で立体的に患部を表示し、執刀医が無理のないリラックスした姿勢でモニターを見ながら手術を行える、これまでにないユーザビリティーを提供するシステムです。
術空間全体から、
プロダクトの細部まで
デザインする
新手術用顕微鏡システムのプロダクトデザインはソニーが担当し、オリンパスが持つ医療分野における知見を取り入れながら、検証・改良を繰り返すというプロセスがとられた。それは、医療機器としてだけでなく、デザインプロセスにおいても新たな挑戦だったという。
大場:ソニーはこれまでテレビ局の放送機材をはじめ、さまざまな業務用機器をデザインしてきました。その中で大切にしてきたのは、現場の声に基づいた「安心、信頼、必然」です。それは、誰もが分かりやすく使える「安心感」、長期にわたって使用できる「信頼性」、そして現場で必要とするものが必要な箇所にある「必然性」のあるデザインです。今回の新手術用顕微鏡では、医療分野における豊富な経験と深い知見を持つオリンパスの方々と互いに刺激し合いながら、最新のテクノロジーを医療現場が本当に求める形で届けられるよう、新しい手術用顕微鏡のデザインに挑みました。
箱田:どんなに優れたテクノロジーでも、それが手術の現場で使いづらければ、その真価を発揮できません。そこで私たちは実際の手術室を見学するとともに、現場をより深く理解するため、1/6のスケールモデルで手術台や麻酔などの機材も含め、手術室を忠実に再現しました。執刀医や助手はどこに立ち、看護師たちはどのような動きをするのか。オリンパスの方々の知見に基づき、術中だけでなく、術前のセットアップから、術後の片付けまで手術のワークフロー全体を理解しながら、「どうすれば手術に関わる方全員が手術しやすくなるのか」を徹底的にシミュレーションしました。
スケールモデルから見えてきたのは、術式によって執刀医や助手の立ち位置、手術用器具も決められているなど、術空間に多くの制約があることでした。そのため、システムのボディ(架台)はできるだけ小型化。側面をフラットにして、看護師や器具の動線の邪魔にならないようにしています。小型化することで設置場所の自由度を高めるとともに、顕微鏡部を支えるアームを執刀医の邪魔にならないよう後方の架台から延びる機構にしています。また、観察用モニターの配置についてもドクターだけでなく、看護師からも見やすい位置を検討するなど、手術スタッフ全員のユーザビリティー向上を目指し、術空間そのものをデザインしています。
井関:スケールモデルによって、現場での使い勝手も具体的にイメージでき、その改善点をプロダクトの細部まで落とし込んでいきました。新手術用顕微鏡システムはアーム先端の顕微鏡を動かして観察するのですが、どの角度からでも握りやすいよう顕微鏡部をすっきりとした円筒形にし、さらにすべてのボタンやダイヤルは、滅菌ドレープの上から手袋をしていてもしっかりと操作できる形状を追求しました。また、アーム部は剛性の高い素材を使用して極力細くし、モニター画面を遮らないようにしています。
さらに、術前の準備から術後の清掃にまで配慮しています。アーム部は感染防止用の滅菌ドレープを掛けやすいように、ケーブルを内蔵するとともに凹凸をなくし、一人でも簡単に脱着できるようにしています。また、段差や溝や穴を極力なくすことで、拭き取りなどの清掃作業を容易にするなど、医療の現場に求められる「必然の形」を導き出していきました。
多くの先進機能を
迷わず使いこなせるGUI設計
新手術用顕微鏡システムのGUI(グラフィックユーザーインターフェース)は、医療機器を長年手がけてきたオリンパスのデザイナーが担当した。最新のテクノロジーをドクターたちに使いやすく届けるために、どのような難しさがあったのだろうか。
菅谷:オリンパスでは医療機器をデザインする際、「安全で安心して使うことができるデザインであること」「使う人の立場で考えたデザインであること」そして「患者さんの快適な生活に貢献できるデザインであること」を意識しています。今回、新手術用顕微鏡システムは光学式からデジタル化への技術進化によって、毛細血管が鮮明に表示されるNBI観察や、医療現場で研究が進んでいる赤外光観察などの画像強調技術をはじめ、新しい観察手段を提供する機能が多く加わりました。これら多くの機能の中から、ユーザーとなるドクターやスタッフの方々がいかに目的の機能に迷わずたどりつき、操作できるか。それがGUIをデザインする上での最大の課題でした。
甘利:手術中に使いたい機能が見つからず、手術を中断するようなことはあってはなりません。そのような姿勢で、私たちは改めてユーザーのワークフローを理解することからはじめました。術式ごとに、誰が、どんな場面で、どういう操作を行うのかを細かく分析し、シーンごとに必要な機能を整理したのち、それをどのような形でユーザーに提供するか検討しました。例えばトップ画面にどの機能を配置するか、GUIの情報設計や画面遷移をどうすべきかです。開発初期段階からモックアップをつくり、現場に詳しい方や開発メンバー間で議論を重ね、修正を繰り返しながら研ぎ澄ませていきました。画面レイアウトは、術中のスタッフにとって大きな手間となるスクロール操作を主要画面では極力させないような工夫をしています。
菅谷:術式やドクターの好みに合わせて、GUIをカスタマイズしやすくするのも大事なポイントでした。手術前に術式に合わせて適宜設定を変える必要がありますが、新手術用顕微鏡システムでは術式ごとの設定をプリセットすることができ、手術前に呼び出すだけでセッティングを完了できるようにしました。これにより手術前設定の手間が省け、さまざまな医療科での共用もしやすくなります。また、自分の好みの設定があるドクターにも、より最適化された形で機能を提供できます。このように設定や操作に負担を感じさせず、ドクターやスタッフが手術に専念できることを最優先に考えました。
異なる企業文化の融合による、
医療のイノベーションへの挑戦
ソニーとオリンパスという異なる企業文化が交差する中で、どのような気づきがあったのだろうか。また今後、医療分野に向けて、どのような貢献をしたいと考えているのか。
野原:確かに企業文化は違うかもしれませんが、モノづくりに対する姿勢に違いはありませんでした。当然オリンパスは医療機器メーカーとして、我々デザイナーも多くの現場やドクターとの関わりを経験してきました。今回はその経験を最大限生かし、ソニーのデザイナーとともに多くの検討評価を繰り返し行いました。お互いの企業文化にとらわれることなく、切磋琢磨して新製品をつくり上げることに集中しました。だからこそ、手術用顕微鏡を「ただの見る機器から、手術の可能性を広げる機器」にする新たな提案ができたのだと思います。
今後も、安全性や操作性を一貫して追求しながら「現場が本当に使いやすい医療機器を提供するソニー・オリンパス」と世界の人々から思ってもらえるように、デザインの品質向上に取り組んでいきたいと思います。
大場:オリンパスデザインとの協業で学んだことは、医療機器という命に関わるデザインの重さと深さです。ドクターや患者さんのために「どんな問題も残してはならない」というオリンパスの方々の姿勢が新製品の原点になり、これまでにない新たな手術顕微鏡のデザインを生み出すことができたのだと思います。
私は、デザインとはテクノロジーを翻訳する力だと思っています。ドクターやスタッフ、患者の方々のさまざまな要求に応える技術や機能を、デザインで形にし、ソリューションとして現場に提供していく。医療の世界はまだまだ広く、デザインの力でより多くのことに貢献できると思います。今後もソニー、オリンパスの相乗効果で、新たなイノベーションに挑戦していきたいと思います。
ソニーとオリンパスのデザイナーたちが互いに
刺激し合う中で生まれた、新手術用顕微鏡システム
今後も両社のデザインの力を融合し、
医療の分野で新たな製品やソリューションを提供していきます。