SONY

UXブランディング
プロジェクト

ブランド体験の深化へ、
共通UXという挑戦

製品の操作画面やアプリケーション、ウェブサイト、取扱説明書や店頭カタログなど、
お客様とのさまざまなタッチポイントで一気通貫したビジュアル表現を目指した、
ソニーのUX(ユーザーエクスペリエンス:顧客体験)ブランディングプロジェクト。
それはソフトウエアにおける共通プラットフォーム化が進む現在において、
いかにソニーのブランド体験を際立たせ、体験価値をより豊かにするかという挑戦でした。
メンバーたちがこのプロジェクトの目的やデザインに込めた想いを語ります。

Sony Europe Limited, Design Center Europe,
Designer Jacob Fyge

ソニー クリエイティブセンター
アートディレクター 守屋

ソニー クリエイティブセンター
シニアマネージャー 宮澤

ソニー クリエイティブセンター
デザインマネージャー 伊東

製品のコモディティ化に、
新たなUXで挑む

お客様とのさまざまなタッチポイントで一気通貫したビジュアル表現を目指したソニーのUXブランディング。このプロジェクトはどのようにしてはじまったのか。

宮澤私はスマートフォンのアプリケーションや製品のUI(ユーザーインターフェース)デザインを統括していたのですが、以前より、もっとソニーらしいUXをお客様に提供できないかと模索していました。その背景には、他社もスマートフォンなどにAndroidを用い、OSが共通化された結果、アプリケーションの表現が画一化しがちで、ユーザビリティを考慮した独自のカスタマイズや、ブランドの差異化が難しいという状況がありました。

ソニー製品を見渡すと、担当組織が異なるためか、1つの製品に関するものでもアプリケーションやウェブサイト、取扱説明書や店頭カタログなど、お客様とのタッチポイントごとに色の使い方やイラストのトーン&マナーといったビジュアル表現がバラバラでした。これでは、製品がお客様に本来届けたいメッセージが揃えられていないため、製品の訴求力や操作性の低下を招き、お客様を混乱させてしまいます。そのとき、今までデザインを担当してきたアプリケーションや製品のUI/UXだけでは、この問題を解決できないことに気づかされました。

お客様を混乱させることなく、使いたい機能にナビゲートし、製品本来のメッセージや価値を届けるためには、組織の垣根を越えて、すべてのタッチポイントでメッセージを揃える必要があります。それはつまり、ソニーならではのコミュニケーション表現や作法をつくる、UXブランディングの創造でした。

つくりだすのは、
ソニーのUXの原形

あらゆるタッチポイントのビジュアル表現を一気通貫させるためには、色やイラストなどのUXの基本要素をすべて定義する必要があった。どのようなデザインプロセスを踏んだのだろうか。

守屋今回のプロジェクトのテーマは、ソニーのブランド体験を強く印象づけながらも、ユーザビリティを向上させること。それを踏まえ、私たちはグローバルかつ複数のタッチポイントで共通して使えるシンプルさを突き詰めつつも、どこかソニーらしい遊び心を感じさせるような、ソニーのUXの原型をつくろうと考えました。まず製品のタッチポイントをすべて洗い出し、現状のデザインを検証。同時に海外拠点のデザイナーたちも巻き込み、議論を重ねながら、色やイラストなどUXの基本要素についてデザインの方向性を決めていきました。

例えば、ソニーらしい色の使い方とは何だろうか。その課題に対して導き出した答えが、ソニー製品の伝統色ともいえるブラック&ホワイトをベースにし、各製品のブランドカラーをアクセントにすることでした。例えば、Xperia™スマートフォンのUIでは、ブラックまたはホワイトを背景色に用いてソニーの世界観を感じさせながら、アクセントカラーで意図する個所や機能へとお客様の視線をナビゲートします。また、製品のアクセントカラーを1つに絞ることで、背景の色が変わっても常に目的の個所が分かりやすく、視認性の高いUIをつくることができます。

Fygeアプリケーションやウェブサイトに使用されるイラストは、製品のメッセージを伝える重要な要素です。そのイラストをいかにソニーらしくするかは大きなチャレンジでした。ヒントとなったのが、ソニーデザインに息づく、一切の無駄を削ぎ落し、本質を追求するという考え方でした。そこで「その線がないと絵が成り立たない」その一本の線を見出しながら、極限までシンプルなイラストを追求。そのなかで、ビルの窓の灯を描くだけで街の全景を表したり、空間に飛行機雲の線を引くだけで青空を表現したりするなど「描かないで、描く」ような、ソニー独自のトーン&マナーをつくりだしていきました。

さらにこだわったのが、共通のイラスト素材を一方的に支給して使ってもらう、というやり方ではなく、各タッチポイントのビジュアルはその製品の担当デザイナーに自ら描いてもらうようにしたこと。担当デザイナーこそが製品やアプリケーションの魅力を熟知し、自分で描くことで想いが込められ、製品のメッセージをより深く届けられるはずだからです。しかし、異なるデザイナーがまったく同じトーン&マナーで描くことは非常に困難です。そこで個人差が極力でないよう、円と直線という幾何学形態をベースにした作画方法など、基本的なイラスト作成のプロセスを設定することで、イラストの整合性を担保しています。また、イラストを3Dやムービーに展開した際のモーションやインタラクションなどについても細かく設定しています。

今回のプロジェクトでは、UXの基本要素を「つくる」だけではなく、グローバルかつ複数のタッチポイントにいかに「浸透させるか」が大きく問われた。その役割を担ったガイドラインづくりにはどんな難しさがあったのか。

伊東これらUXの基本要素をUIだけでなくウェブサイトや取扱説明書、店頭カタログにも展開できなければ、ソニー全体のブランディングにはつながりません。そのため各タッチポイントのビジュアルを担当するデザイナーに向けて、イラスト等の基本方針から制作のフローまで、分かりやすく説明したガイドラインを作成しました。タッチポイントごとにさまざまな課題があったのですが、とくに難題だったのがカラーイラストの世界観をモノクロの取扱説明書でどう表現するかでした。イラストの線幅を調整したり、注目させたい部分以外を省略したり、色が無いことで足りなくなる要素を追加するなど、多くの解決事例を考えガイドラインに掲載し、カラー・モノクロ問わず、どんなタッチポイントでも同じトーン&マナーを保てるようにしました。

今回のガイドラインはデザイン部門だけでなく、マーケティングなど幅広い部門の方にも参考にしてもらうため、さまざまなシチュエーションの見本事例を多く掲載するとともに、「DO(可)」「DON’T(不可)」の図を添えることで誰が見ても正解が分かるよう配慮しました。日本はもちろん、海外のデザイナーにもガイドラインをチェックしてもらい、地域レベルでの疑問や問題点をヒアリングしました。例えば、人物の肌の露出に対する配慮など、世界各地域の文化・社会的背景も取り入れながら、ガイドラインの完成度を高めていきました。

社会的課題を解決する
デザインへ

今回のガイドラインは完成形ではなく、随時アップデートされていくという。今後、プロジェクトメンバーはどのような展望を抱いているのか。

守屋今回の取り組みは、ほぼすべてのXperiaスマートフォンに導入され、液晶テレビ ブラビア®やデジタルスチルカメラのUI・取扱説明書の一部にも導入されています。現在、コンスーマー製品だけでなく、メディカル製品などのプロフェッショナル機器にも展開するために、ガイドライン等の改善に取り組んでいます。また、各デザイナーが描いたイラストをアーカイブし、製品や地域を横断して使えるようにすることで、要素の共有化やクリエイティブの相乗効果を発揮できる環境整備をしています。このような施策を続け、ソニーのUXをブラッシュアップしていきます。

宮澤今回のプロジェクトは、ビジネス環境の改善などをテーマにしたソリューションデザイン分野で2018年のグッドデザイン賞を受賞しました。そこでは「大企業における縦割り組織の弊害を乗り越え、一貫したユーザーエクスペリエンスを追求した」ことが評価されました。さらにうれしかったことは「共通プラットフォーム化が進む時代において、アイデンティティをいかに打ち出すか。日本企業が共通して抱える課題へのソリューションを示してくれた」という審査員の声でした。今後もビジネスを取り巻く状況がいっそう複雑化していくなか、私たちはデザインの力でソニーのブランド体験の深化とお客様に提供する体験価値の向上に取り組んでいきます。

ソフトウエアの共通プラットフォーム化によって、
製品のコモディティ化が避けられない現在、その社会的なジレンマに新たな解決策を示した
今回のプロジェクト。
ソニーデザインは今後も、デザインの力で
お客様に提供する体験価値の向上を追求していきます。