SONY

VENICE

クリエイターと共創し、
シネマの未来を創造する

次世代の映画撮影用カメラとして、新開発36×24mmフルフレームセンサーを搭載し、
映像表現の幅を飛躍的に広げるデジタルシネマカメラVENICE(ベニス)。
すでにハリウッドの映画スタジオなどで使用されているこの高性能シネマカメラは、現場での使いやすさを追求するため、
映画制作に関わるクリエイターたちとの共創から誕生しました。
VENICEに込められた想いとそのデザインが生まれるまでの軌跡をプロジェクトメンバーが語ります。

ソニー クリエイティブセンター
デザイナー フォレスト

ソニー イメージングプロダクツ&
ソリューションズ 商品企画 岡橋

ソニー クリエイティブセンター
アートディレクター 平野

ソニー クリエイティブセンター
アートディレクター 横山

現場の視点から、
シネマカメラのあり方を問い直す

VENICEの開発プロジェクトは、シネマカメラのあり方をユーザー目線でとらえ直すため、社内メンバーとのワークショップからはじまった。撮影現場を理解する中で見えてきた課題とは何だろうか。

岡橋ソニーのシネマカメラの歴史は、2000年に発表した世界初のデジタルシネマカメラHDW-F900にはじまります。このカメラはジョージ・ルーカス監督の『スター・ウォーズ』シリーズの撮影にも採用され、その後CineAlta(シネアルタ)ブランドとして多くの機種を開発してきました。しかし、現在のハリウッド映画制作の現場では、他社のシネマカメラが使われることが非常に多い状態でした。そこで、これまでの先入観を捨て、新たにチャレンジャーの立場で、映画制作に特化したカメラの開発に挑みました。

ハリウッドなどの予算規模の大きな映画では俳優のスケジュールもタイトで、一刻を争う撮影現場ではカメラの操作ミスは絶対に許されません。また、シネマカメラは撮影の際にレンタルハウスで借りてくるのが一般的なので、見た目もシンプルで初めての方でも簡単に操作できるものが現場には求められます。こうした映画制作の現場の視点から、徹底的に使いやすさを追求したカメラをつくろうと考えました。

フォレスト現場での使い勝手を改善するため、ユーザーへのヒアリングや現場を観察しながら商品開発につなげる「ユーザーセンタードデザイン」の手法を提案しました。デザインを考察するにあたり、改めて撮影現場を深く知ることが重要でした。そこで映画業界に長年携わってきた社内のメンバーを集めて、実際にどのように映画が制作されるのか、撮影のワークフローを把握しながら課題を共有しました。

大規模な映画撮影では、通常4、5人でチームを組んで1台のカメラを操作するのですが、撮影の指示をだす撮影監督、フレーミングを決めるカメラマン、絞りやフォーカスを調整するアシスタントカメラマンなど、そこには明確な役割分担があります。「誰が、いつ、どのような操作するのか」すべてマッピングすることで、改めて撮影中にカメラ設定を変更し、REC(録画)ボタンを押すアシスタントカメラマンにストレスが集中することが分かりました。そのような業界特有の環境で、映画制作のプロフェッショナルたちが撮影に集中できるシネマカメラとはどうあるべきか、さまざまな視点から検証し、仮説を導き出しました。

無意識の行為を読み解き、
デザインを導く

デザイナーたちはいくつもプロトタイプをつくり、ハリウッドなどの映画スタジオを訪れ、現場のクリエイターの意見をもとに改良を繰り返した。その積み重ねから見えてきたシネマカメラのあるべき姿とは。

フォレストワークショップでの仮説に基づき、カメラの操作部やUI(ユーザーインターフェース)をスケッチしたペーパープロトタイプを作成し、ハリウッドやロンドンの現場を訪れて映画制作者たちとの検証を繰り返しました。一見シンプルで「これは使いやすいだろう」と思っても、実際に試してもらうと「手元を見ずに操作するときにミスタッチしやすい」など、現場に即した意見をもとに機能やボタン数を徹底的に絞り込み、ミスなく操作できるシンプルなボタンレイアウトとメニュー構成を突き詰めました。

さらに、クリエイターの要望をそのまま形にするのではなく、インタビューや現場を観察する中で、潜在的な課題を発見し、その解決策もすべてデザインに落とし込んでいます。例えば、当初パラメーターの設定はボタンとダイヤル操作で行っていたのですが、観察する中で「ダイヤル操作がストレスになっているのでは?」と、カメラアシスタント自身が気づいていない無意識の行為を読み解き、最終的に6つのボタンだけで基本設定が完結できるシンプルなUIにたどり着きました。

平野プロダクトデザインでは、シンプルな操作性に加え、「堅牢性」や「フレキシビリティ」にも注力しました。シネマカメラは、太陽が照りつける屋外や砂埃の舞うようなロケーションなど過酷な環境でも安心して撮影できる堅牢性が不可欠です。ここで重要なのは、ただ剛性の高い素材を使用するだけでなく、見た目や手触りからも信頼性を感じさせること。そこでマグネシウム合金の外装に4層コーティングを施すことで、何年使っても壊れない日本の南部鉄器のようなテクスチャーに仕上げました。また、記録メディアを守るスロットカバーにもマグネシウム合金を使い、厚みを持たせた堅牢な構造にするなど、コネクターやネジの形状ひとつに至るまで現場で使う方への安心や信頼につながる佇まいを追求しました。

シネマカメラは撮影シーンによって使用するレンズや周辺機器も異なり、どのようなシチュエーションにも自在に対応できる「フレキシビリティ」が求められます。そのため装着レンズとのバランスや使い方に応じて、ハンドルやビューファインダーの位置を自由に調節できる新しい構造を開発。これにより、壁際や車内などの狭い場所での撮影にも対応できます。セッティングも特別な工具なしでできるため、タイトな時間の中でもストレスなく撮影準備を行えるようにしています。また、カメラの顔となるRECキーは、サイズや配置はもちろん、ボタンの押したときのフィーリングにもこだわり、確実に押せたことが分かる操作感に仕上げています。

商品に込められた想いを
メッセージ化する

今回、商品開発だけでなく、商品カタログなどのコミュニケーションのあり方も刷新している。テクノロジー訴求から映画制作者を主役にしたメッセージに転換することで、どのような想いや姿勢を伝えようとしたのだろうか。

横山VENICEは映画制作に特化したカメラであり、主役となるべきは映画を制作するクリエイターたちです。そのため商品カタログでも、従来のように自分たちの技術を語るのではなく、映像制作のプロフェッショナルにフォーカスし、彼らのリアルな声を届けることが重要ではないかと考えました。そこで映画制作に関わる、監督やカメラマン、アシスタントなど、さまざまな職種のクリエイターたちに取材し、VENICEの使用感を語ってもらうとともに、実際の撮影風景をビジュアライズすることで、商品に対する信頼感が伝わるようにしています。また、この制作風景の写真も映画の現場を熟知するカメラマンに依頼し、映画関係者が知りたいポイントを抑えることで訴求力を高めています。

商品名も、これまでのようなアルファベットや数字が並んだ型名だけではなく、「VENICE」という名前をつけました。これはハリウッドに近いロサンゼルスのベニスビーチに由来しているのですが、映画関係者に愛着を感じてほしいという想いを込めています。さらに、映画制作に携わる人たちに向けて強いメッセージを発信するため、アカデミー賞を受賞しているハリウッドの映像監督にVENICEを使用したショートムービーの撮影を依頼。商品発表と同時に公開することで、映像のクオリティーを伝えるとともに、ソニーが映画にかける情熱や姿勢をクリエイターたちに感じてもらえるようにしています。

共創によって生まれる、
未来の映像表現

2018年2月の発売後もユーザーへのヒアリングや検証を継続しながら、ファームウェアのアップデートを重ね、現在ではハリウッドから、UKやアジアにまで市場が広がっている。今回VENICEが、映画業界に受け入れられたポイントはどこにあるだろうか。

岡橋プロフェッショナル機器は、企画・設計者自身が真のユーザーにはなれません。カメラ本体のデザインやUIの設計変更は、いくら私たち作り手側が使いやすいと思っても、それが市場に受け入れられるかの判断は難しいところです。しかし、今回はプロジェクト初期からデザイナーに参加してもらい、映画制作者と共に検証しながら、彼らの真意まで引きだせたことで、自信を持ってVENICEを世の中に送りだすことができました。

フォレスト今回のプロジェクトでは、商品企画や設計、デザイナー、さらに映画制作者まで一緒になって、何が理想なのかを話し合いながら共創していきました。そのプロセスの中で、なぜそのデザインになったのかもお互いが納得しながら進めることで、すべての人がステークホルダーとしての責任と同時に完成したときの喜びがありました。開発メンバー全員が、映画制作に関わるすべてのクリエイターをリスペクトし、彼らが喜ぶものをつくりたいという強い意志があったからこそ、VENICEは映画業界の方々に受け入れてもらえたのではないかと思います。これからもクリエイターとの共創をさらに深めることで、まだ見たことのない映像体験を一緒につくり出していきたいと思います。

映画制作に関わるクリエイターの声に耳を傾け、
現場での使いやすさを突き詰めたVENICE。
これからも、クリエイターとの共創により、
未来の映画づくりに貢献します。