VISION-S Prototype Design Story
なぜ私たちは
リアリティを追求したのか
#3 インテリアデザイン
VISION-S Prototypeのデザインコンセプト「OVAL(オーバル)」を最もはっきりと感じるのは、キャビンに乗り込んだときかもしれません。
「人を乗せる」ではなく「人を包む」。インテリアのデザイナーが車内空間に求めたのは次世代の移動体験であり、安心や楽しみに関するこれからのあり方でした。
内外で幾重にも
人を包むOVAL構造
VISION-S Prototypeは、複数のOVALによって人を包み込みます。広がる居住空間は、乗員を直接包む第一のベール。さらにその外側には、高性能なセンサーのベールが展開され、車外環境を360度チェックします。そして、その先にあるのは社会全体のベール。社会と車が常につながり、情報やエンタテインメントが降り注ぐ。ソニーの考える「人を包む」とは、こうした乗員を中心とする幾重にも重なるOVAL構造に表現されています。内外の環境が溶けあって人を抱擁し、重層的な深い安心、寛ぎ、そして心踊る感動をもたらす、そんな車室内空間を目指しました。
車との一体感を実感できる、オーバルな光
オーナーが近づくと、車の周囲に光がループ。その循環はさらにキャビンへと続き、360度包み込みます。こうしたイルミネーションは人を車内へと迎え入れる演出や作法であるだけでなく、オーナーその人を見分けた証に他なりません。さらに、乗り込めば光で改めて優しく包んでくれる。インテリアのOVAL構造を視覚的に伝える光のデザインは、同時に車に対する親しみや安心感を、なお深くする配慮でもあります。
自律運転を見据えた、エンタテインメントに包まれるUX
OVALの考え方は車内のエンタテインメントにも通底しています。ソニーの音響技術から緻密に計算され最適に配置されたスピーカー。それらが生み出すのは、まるで奏者が車を取り囲んで演奏しているかのような鮮烈な臨場感。スピーカーのあしらいはあえて控え目にし、その存在を隠して空間に溶け込ませることで、音に包まれる体験そのものを大切にしました。また各シートの首元にもスピーカーが内蔵されており、乗員それぞれがパーソナルに音の世界に没入することも可能。車内をエンタテインメントの新しい「場」として捉え、心高鳴る車内体験をデザインしました。
インテリアの
本質に向かって
高純度にデザインする
ドライバーに安心を。乗員に快適を。車のインテリアは、究極的にはそんな本質へとたどり着きます。私たちソニーはユーザーに何をもたらしたいのか。そんな本質に対するチームの高い姿勢が、車室内の細部に至るまで見られます。コクピットの視界から運転時のノイズを減らすため、極力同じ素材を広い面積で使用して境界を減らすとともに、ディスプレイ間の分断を排除してシームレスに。さらに、運転に不可欠なステアリング、サイドミラー、計器類、加えてドアノブやライトスイッチ、空調操作パネルまでをも水平に集約。視線移動を最小限に抑え、手の動きが直感的になるようにデザインしました。そうして運転に集中できるノイズレスなコクピットを実装したのです。
大空が視界に迫る、開放的な空間づくり
VISION-S Prototypeに乗り込んだときに感じる快適さは、何よりもその開放感にあります。エクステリアチームとの協調で、シャープなスタイリングと空間のゆとりを両立。とりわけリアスペースは、単に広いだけではない開放感を創出することに成功しました。両サイドのピラーが視界の外へと逃れるように入念に配慮。結果、ガラスルーフのみが目の前に大きく広がり、まるでテラスで空を仰ぐかのような感動をもたらします。いつまでも乗っていたい、そんな気持ちにさせる贅沢な居心地を実現しました。
スポーティでありながら、座って深い安心感
シートの座り心地もまた、快適さを真摯に見つめた成果です。外観のスポーティさと調和させつつ、同時に着座姿勢を優しくサポートするよう、エルゴノミクスの観点から形状やクッション性を工夫。座れば深い安心感を覚えつつ、自然と視界が広がるように、さらにドライビングポジションを取りやすいように、十全な配慮を巡らせました。また、こうしたシートの快適さの裏には、エンタテインメントとの両立がありました。高性能スピーカーを全席内蔵とし、そのためにスピーカーユニットの容量を確保した上で、なお人が座って心地よくする。とりわけ前席は、座り心地を維持しながら、同時に後部座席の空間確保のためにシートバックの厚みにも配慮しています。長時間でも過ごしたくなる車室内体験が待っているからこそ、長く快適に座れるシートを妥協なく追求したのです。
従来の車づくりに、
ソニーのスタイルを
インテリアを作り込むその過程は、従来の車づくりの常識にソニーのデザイン文化を融合させる試みでした。1年程度の短い歳月でデザインを昇華させ、世に送り出すのがソニーデザインの通常プロセスです。思いついたアイデアはすぐに作り、すぐに見直し、さらに良くして育て上げます。今回のプロジェクトでは、パノラミックスクリーンを着想してすぐに、デザイナーはあり合わせの材料を集めて自作し、テスト環境でディスプレイ角度やサイズ、タッチスクリーンの操作の快適性などを試しました。思い立ったら手を動かす。その軽やかなものづくり精神は、車という重厚なプロダクト開発においても鮮やかに発揮されたのです。
ダイバーシティの恵みを受け、そのインテリアは完成をみた
一方で、今回ソニーはかつて接したことのない異文化からの惜しみないサポートとインスピレーションを受け取りました。とりわけインテリアは部品や素材の点数が多く、その数だけスペシャリストが存在します。様々な国での、多様な職人や技術者との協業。「それだけに、信頼関係を築くことの重要性が改めて身に染みました。距離や文化を超えて親密にコミュニケーションを取り、互いを高め合って作り上げた成果です(本石)。」最後は全員の想いを束ねあげ、たったひとつの空間デザインへ。ダイバーシティの知恵と熱意が生み出した室内空間、それがVISION-S Prototypeの唯一無二のインテリアです。「振り返ると、ソニーだけでは決して作れなかったという、その事実をむしろポジティブに感じています。他者と共鳴し、良さを積極的に取り入れ協創する。それもまたモノづくりの可能性で、今回の成功体験のひとつだと思っています(鞍田)。」
クリエイティブプロデューサー 鞍田 享 / アートディレクター 本石 拓也