SONY

VISION-S Prototype Design Story

なぜ私たちは
リアリティを追求したのか

#4 UI/UXデザイン

車のデジタル化が進み、ネットとの常時接続も当たり前となる次世代。そこでは、圧倒的な情報量が車内を満たすことになります。
その時、人と車は、情報と体験は、どのような関係性に進化していくべきか。この車のUI/UXデザインは、そんな問いに対して導き出されたソニーの答えです。

次世代の情報や
体験を包み込む
パノラミックスクリーン

車内空間で人が処理する情報やコンテンツは、今後爆発的な増加が見込まれます。これまでの走行のための基本的な情報や、空調操作のみならず、エンタテインメント、コミュニケーション、目的地情報、センサー情報など様々です。これらを車室内空間に最適に配置させるべく開発されたのが、車内幅いっぱいに弧を描くパノラミックスクリーンです。サイドミラーを含む、あらゆる情報の入出力をOVAL(オーバル)基調の流れの中に一元的にレイアウト。最大の狙いは、ドライバーが必要情報に数ミリ秒でも早くアクセスできること。幾度となくプロトタイプを作成し、エルゴノミクス観点で繰り返し精度を高め、その結果、シンプルかつ高速に人と車が対話できる、理想のUIを見出しました。

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乗員との水平連携を生む画面構成

パノラミックスクリーンには、ドライバーのためのクラスターディスプレイのほか、中央と助手席側にもそれぞれ個別の画面があります。この新たな2画面が、ドライブ体験に「連携」を生み出します。例えば、中央のディスプレイにはナビ、助手席側には行き先の店舗情報を表示することで、乗員は目の前の画面を操作しながら運転中のドライバーと相談し、選んだ店の情報をドライバーにも見やすい中央のナビ画面へと反映させることができます。乗員は自ずと「助手」の役割を担い、ドライブを二人で協働できる。そうした「分かち合う運転環境」を画面構成によって実現したのです。

情報を瞬時に受け渡しできる「L-Swipe」

ドライバーと乗員の水平連携をいっそうフレキシブルにするのが、ジェスチャー操作「L-Swipe」です。L字に素早く画面をスワイプ、ただそれだけで表示画面を隣のディスプレイへと受け渡すことができます。例えば乗員がナビ設定を行い、中央の共有画面へと渡す。あるいはドライバーが音楽アプリを起動し、選曲画面を乗員側に渡す。求めたのは、ドライバーがごく最小限の動作で直感的に隣の乗員とコミュニケーションできる次世代のインタラクションです。

公道走行を想定しながら、
デジタルネイティブな
コクピットへ

近未来的でありながら、同時にVISION-S PrototypeのUI/UXは、その本質的な価値である極めて高い実用性を一歩も譲りませんでした。乗員と車を結ぶUIの領域は、それが乗車を想定した「実車」か、それとも単なるコンセプトモデルかを測る試金石となるためです。そのため、前提として据えられたのが公道走行です。実際に、UI/UXがクリアすべき現行法規や、自動車業界のISO基準を徹底的にレビューし、その上で、将来のデジタルコクピットはどうあるべきか、クラスターディスプレイの視認性、ステアリングの操作性、さらに視界の中のあらゆるコントラストや色味までもが仔細に考え抜かれました。

単なる鏡の置き換えではない。デジタルミラー前提で車を最適化

UI/UXの高度な実用性を端的に示す例がサイドミラーです。従来のガラスミラーではなく、カメラ&ディスプレイのデジタルミラーを採用しました。しかし単なる置き換えでは意味がありません。例えばAピラーの位置やクラスターディスプレイとの関係性です。ミラーをデジタル化するならば、ドライバーの視線移動を引き直し、車の全領域を最適化する必要がありました。ディスプレイの位置ひとつにも、ダッシュボードの上やハンドル周辺など、あらゆる可能性を繰り返し検証。また同時に、性能面においても新たな試みがありました。周囲の車を検出するレーダーやセンサーと連動し、背後からの高速接近や死角への侵入など、危険が予測される場合にはディスプレイにアラートを表示します。さらにドライバーがより危険を把握しやすいよう対象車両のAR表示もされます。とりわけ、人間の不注意による見落としが増える夜間や荒天時には、こうしたレーダー&センサーが人に代わって鋭く目を光らせ、ディスプレイを通じて安全をサポートします。単純なガラスミラーの置き換えではなく、すべてゼロからの綿密な構想。そうして真のデジタルミラー環境が完成をみたのです。

乗る前から、降りた後まで。
クラウドで体験を地続きに

モビリティとクラウドが密接につながる時代に、ソニーは車のもたらす体験を車外へと拡張しようと考えました。スマートフォンのようなモバイルデバイスを車の一部とみなし、アカウントで紐づけてシームレスな連動を可能にする。乗車前には、様々な遠隔操作(空調・鍵開閉・自動駐車など)が行え、乗車後にはドライブレコーダーの映像を利用して、手元のスマートフォンや、リビングの大画面でBGM付きのプレイバックも可能です。移動時間の前後をもUXと捉えた上で、快適さからエンタテインメントまで、その領域を押し広げました。

ソフトウェアを更新し、UI/UXは進化してゆく

車の進化とは、これまでは最新型の車の開発、つまり「モデルチェンジ」を指していました。VISION-S Prototypeはネットワークとつながることで、継続的な進化を想定しています。ソフトウェアの更新によって、歳月と共に使いやすさが洗練され、体験はますます多彩で豊かになります。購入時点から日々古くなるのではなく、常に最新かつ最効率のUI/UXが提供され進化し続ける車です。「そうすることで快適性に寄与するだけでなく、乗り換えサイクルをのばすことができます。自動車業界の課題のひとつであるサスティナビリティにも貢献できるのです(赤川)。」ソニーがVISION-S Prototypeに夢見たのは、時の流れに置き去りとならない、常に現在進行形の車でした。「その時々、人や社会のニーズとともにUI/UXの最適解は変わります。作る我々もまたアップデート発想で挑んでゆければと思います(小松)」

チーフアートディレクター 赤川 聰 / アートディレクター 小松 英寛