VISION-S 02

モビリティの未知を駆ける

ソニーが実走可能なEV試作車「VISION-S 01(VISION-S Prototype)」を発表したのが2020年。
それから2年が経ち、今年新たにSUVタイプの「VISION-S 02」が世界に披露されました。
その開発に関わったデザイナーたちを代表して4名が語り明かす、秘められた狙いと挑戦の数々。

(写真左から)ソニーグループ クリエイティブセンター アートディレクター 玉村(UI/UXデザイン)、
アートディレクター 本石(エクステリアデザイン)、アートディレクター 植田(インテリアデザイン)、
アートディレクター 小松(UI/UXデザイン)

進化を目指すなら、
挑戦者として
アグレッシブに。

植田前回の「VISION-S 01」(以降「01」) と同様に、「VISION-S 02」(以降「02」)も企画や設計、エンジニアといったメンバーと密に連携しながらデザインを進めました。「01」の開発でわれわれデザインチームを含めてプロジェクトメンバー全体に車づくりの知見が養われていましたし、「01」の開発で新たに見えてきたアイデアもふんだんにあり、それらをどんどん落とし込もうと各チームがより積極的に動けましたよね。

本石「02」のテーマは、「01」からの「継承と深化」だと捉えていて、関わったメンバーそれぞれが各々の領域で知見を活かしてチャレンジしていけたと考えています。

小松まさにそうですね。「01」で掲げた3つのコンセプトがセーフティ、エンタテインメント、アダプタビリティでしたが、これらに対して想像以上に大きな共感が寄せられ、この方向性で間違いないと確信を得ることができました。よって、反響のあった部分は迷うことなく継承しました。

本石一方で、ソニーはモビリティ業界ではあくまで挑戦者の立場。継承だけではなく、アグレッシブな進化も求めたいという思いがVISION-Sのメンバーにあったと思います。3つのコンセプトはモビリティの空間価値を変えていく試みなので、どうしたらその価値を最大化できるかメンバーで検討を重ねました。そしてSUVへと辿り着いた。なぜSUVかといえば、どんなに素晴らしい移動体験もその根幹には空間のゆとりが必要で、とりわけエンタテインメントを存分に楽しむ上では必須要素。だから次のモデルには「広い」ということがまずは欠かせないというのが結論でしたね。

玉村ただ、単に広ければいいわけでもない。「02」のプロジェクトの初動時はもっとボクシーなスタイルも検討していたことを覚えています。当然、四角いカタチの方が室内は広いですから。でも、それはごく自然にやめようとなりました。

本石そうですね、最終的にクーペタイプのSUVになった理由は、世界中で市場が活性化しているのがSUVであることが一つあると思います。この競争の激しいマーケットにあえて踏み込み、更にクーペスタイルにして新たな価値を見出し検証しようと臨んだ結果だと思っています。このチャレンジする精神は「01」同様にソニーらしいと思いました。

玉村競争が激しいということは、それだけシビアに見られるわけで、その後の課題の抽出も見込みやすいですからね。多くの反応を持ち帰りプロジェクトに還元させれば、次に繋がっていきます。

前モデルの
横展開ではなく、
エクステリアの
進化形を。

玉村思い返せば本石さん、今回のエクステリアのデザインは結構悩まれていましたよね? 2代目のデザインって簡単なようでいてとても繊細で、結局「01」と重なり合っているところが、「VISION-S」全体の骨格として見られるわけだから…。

本石そうそう。だからエクステリア担当としてまず決めたのは、乗員を包み込む「OVAL(オーバル)」という「01」で定めたデザインコンセプトを丁寧に継承すること。「OVAL」はVISION-Sのデザイン全体の核心的な思想なので当然大事にしなければいけないし、毛色をあれこれ変えずに「らしさ」の純度を高めていくのが大切だと考えました。途中デザイン展開をする中で、何がVISION-Sなのか?どう進化していくのか?という問いを何度も重ね、それはVISION-Sの思想やデザインを皆で再確認するような作業にも感じました。

植田「02」は、ともすると「01」の横展開と思われがちですが、そうではなくこれは次回作とか深化形とか、そうしたアップデート的な気持ちで私は取り組みました。チームメンバーもきっとそうだろうなと。

本石まさしく!例をひとつあげると、横一線に光るテールランプの見せ方について、ここでは敢えて「01」とは違うアプローチを施しました。このテールランプの表現は光の帯がボディ全体を巡る「OVAL」の象徴だったので、より研ぎ澄ました佇まいが無いか模索していました。

小松深化の部分ですね。SUV化に伴って、ナンバープレートの位置を下げる余地が生まれたと聞いています。

本石そうです、それを活かしてテールランプの下側にクリーンな面を確保し余白を作ることで、光の帯をくっきり強調して見せることができました。コンセプトの「OVAL」がひときわ鮮明になり、これひとつとってもコンセプトが深化した、そんな手応えを感じています。一からデザインしたのにも関わらず、一見して「01」と統一感のある佇まいに映るのはある意味では成功で、コンセプトが真っ当に継承された証でもあるんです。

植田とはいっても「01」とは全体のボリューム感の差も大きいので、実際のプレスラインのバランス取りからリフレクションの見え方、更には稜線のRの大きさの見え方まで全てに調整の手が入ってるわけですが(笑)。ドアハンドルの位置や機構は想定ユーザーに合わせて見直しているし、ホイールも電費に影響する大きな要素として独自のパーツ構成に基づきデザインして空力と軽量化を両立させました。本石さんも、ルーフラインはとことんこだわって線を引いていた記憶が…。

本石実は「02」の主役はキャビンの空間とそこで得られるUXだと思っていて、だから乗客を包み込むルーフラインをどう引くかは特に念入りに取り組みました。「01」ではインテリアデザインを担当したので、ギリギリ攻めたラインがどこになるか想定できていましたが、それでも「02」インテリア担当の植田さんにとってもそこは生命線だったのではないかなぁと。

植田室内空間を規定する線ですからね。なので、われわれインテリアチームも一緒になって議論を重ねました。とはいえ、やはり僕たちはスタイリングこそが大事だとも思っていて(笑)。お客様はソニーのSUVにもクーペ同様にやはり先進的な美しい佇まいを期待されると思うんです。なので、エクステリアチームには極力理想のラインを引いてもらいたかった。

本石確かに、新たに発表するものとしては先進性って不可欠ですよね。つまりお互いが個々の領域を超えて、車全体の最適化を目指していったということ。このボーダレスなデザイン開発体制もソニーの強みだと言えるのではないかな。

同じ全長に3列7席。
妥協なき快適を
室内に求めて。

植田先ほどの話にもあがった「OVAL」コンセプトは安全や快適で人を包み込もうという考え方なので、その中心となってくるのは人が直接触れて実際に時間を過ごすインテリア空間のクオリティーだと思っています。そのため、「02」でのインテリアチームのミッションは、「OVAL」の心地よさをSUVでも妥協なく実装することにありました。

本石言葉にするとシンプルですが、「01」と同じ全長の中に今度は3列7席です。乗員の心地よさを確保するのは難易度の高いチャレンジだったのでは?

植田そうですね。なので最も時間を費やして行ったことはシミュレーションを繰り返しながらのシャシーエンジニアとのスペース調整でした。原理試作のシーティングバッグや3Dでシートポジションを繰り返し検討して、エンジニアと一緒に数ミリ単位で手前だ奥だと追い込んでいく。EVならではなシャシー特性を活かしながら心地よい空間づくりを目指し、最終的にはニークリアランスやレッグルームと呼ばれるような足元の空間も目指していたレベルでしっかりと実現することが出来ました。

小松われわれUI/UXチームの視点で言っても、座った時の快適さはエンタテインメントの感動と直結するところ。徹底的に詰めてもらえて本当によかったと思っています。

植田いっそ車の全長を伸ばす…が実は一番簡単な解決方法なんですけどね(笑)。当然そんな声は誰からもあがることはなく、妥協せずとも十分な快適性を確保することができました。実はレイアウトの他にも、乗降のしやすさや計器類の見やすさなど、エルゴノミクス観点から実に仔細にユーザビリティを引き上げているんです。

玉村そもそもの話、クーペとSUVでは想定されるユーザー像が異なります。自ずとインテリアの最適解も変わってくるのでは?

植田「02」では、ファミリー層もかなり意識してデザインしています。車高の高いSUVなので小さな子どもまでちゃんと乗り降りしやすいようにサイドシル断面の形状や距離を最適化したりとか、シート形状も乗り降りの際に座面がドアの直前までの伸びていたり、そういう小さな工夫を多く盛り込んでいます。あと環境配慮を徹底していて、ヴィーガンレザーや竹をはじめ、車内で見て触れられる素材はカーボンニュートラルやサステナブルといった観点で選定しています。フロアマットにはソニーが開発したTriporous™という籾殻由来の素材を使っていて、車内空気環境の改善にも一役買っています。

本石環境負荷の低い素材の選択は、実は先ほどのユーザー像の話の延長でもありますよね。

(写真左)外装色検討時に使用したドアパネルモック。左は「02」右が「01」の外装色。
(写真右)環境に配慮して選定した内装素材の構成イメージモック。

植田そうなんです。ファミリー層を意識したと言いましたが、チーム内では「明日へ繋がる今を生きる人々」を想定ユーザーだと定義しています。つまり、今日を全力で生きながら、その地続きにある地球の未来も見据えている方々。サステナブルな素材の起用はソニーにとって当然の選択ですが、それと同時に想定ユーザーとの調和を狙ってのことでもあるんです。最近よく考えるのは、お客様がソニーのモビリティに何を期待しているかということ。世の中としっかり向き合って、新たな潮流をどんどん取り込んでいければと思っています。

オーナーの嗜好へと
接近していく
「成長するモビリティ」

小松われわれUI/UXチームが実現したいことは、厳密には「成長」なんじゃないかなとも思うんです。人の趣味とか気分とか、そういう不確かな感性に接近していくモビリティ。その最も分かりやすい事例が今回実装された「VISION-S THEME」だと思っていて、パネルスキンや操作音、アクセルやブレーキ操作に応じて発生する加減速音をカスタマイズできる仕組みなんですが、これは逆に言うと、時間をかけて自分好みのスタイルへ「成長」していくということです。

玉村好きな映画やアーティストをテーマ設定してもいいし、センサーとAIで車両に趣味嗜好を覚えさせ、自律的に変化させても面白い。実は、外部のクリエイターが参入してデザインしやすい仕様にしてあって、車の成長余地が新たなクリエイションの場をも生み出すかもしれません。

本石「車内=エンタテインメント空間」という図式がいっそう強まる大きな流れを感じますね。それだけに、こうしたソフトウェア的な進化にはいっそうスピード感が求められる気がします。

植田「02」のUXでいえば、身内ながら個人的に驚いたのが、「BRAVIA Core for VISION-S」のアプリを使って 車内の3つのディスプレイでコンテンツを見た時のシンクロ再生です。車両がSUVになったことで、移動しながら家族揃って同じ映画を観るケースが想定されるわけですが、当然スピーカーは全員共通。だから映像の同期が甘いと席によって音ズレが発生してしまう。

小松俳優の口の動きの映像と声がずれていると気になるんですよね。映画制作をしているグループ会社のソニー・ピクチャーズエンタテインメントのチームと協力してシステムがシンクロ再生できるように調整を重ねました。また、ソニー・インタラクティブエンタテインメントと連携してクラウドにあるPlayStation®のゲームも楽しめるようになっているなど、リビングでテレビを囲むあの環境に、車内がグッと近づいたとも言い換えられます。

本石成長余地の話でもう一つ注目なのが、スマホなどから車両を操作したり確認したりが可能になる「VISION-Sリンク」。機能がより充実してきましたよね。

玉村キーの開閉や室内温度の調整なんかは「01」の時点で実現していたんですが、今では速度や加速度などの走行ログもクラウド上に保存可能になっています。いわば車の頭脳がネット上にある感覚。こうしたデータが大量に蓄積した先に、どんな魅力が提示できるか、開発と並行して目下チーム内で検討している段階です。ソフトとハードがこのレベルで融合したプロダクトはそう無いと思うので、まだ誰も知らない移動体験を創出していきたいですね。

小松段々とソニーのモビリティの土台が固まってきて、この土台の上にどんな進化や成長を描くのか、われわれもワクワクしていますよね。この先もVISION-Sのメンバーと連携しながら、その進化にデザイン面で貢献できればと思います。

<Creative Center VISION-S 02
Project Member>

クリエイティブディレクター 石井大輔 / クリエイティブプロデューサー 鞍田享 / エクステリアデザイン 高木紀明 / エクステリアデザイン 志水曜介 /
エクステリアデザイン 本石拓也 / インテリアデザイン 植田有信 / インテリアデザイン ヘンリック・エルベウス / CMF デザイン リンダ・リソラ /
CMF デザイン リッケ ゲルツェン・コンスタイン / UI/UX デザイン 赤川聰 / UI/UX デザイン 小松英寛 / UI/UX デザイン 入矢真一 / UI/UX デザイン 玉村広雅 /
UI/UX デザイン 永原潤一 / UI/UX デザイン 伊藤圭祐 / コミュニケーションデザイン 城ヶ野修啓 / コミュニケーションデザイン 幸田拓真