Warp Square
Mixed Reality CAVE experience
目指したのは
「次なるストーリー」
を生み出す装置
メーカーにおけるR&D(研究開発)と言えば、通常、製品開発に直結するエンジニアリング面での活動を想定することでしょう。
しかしソニーでは、デザインの領域においても積極的にR&Dがなされています。このWarp Squareもその一例。
同プロジェクトに参画する4人のメンバーは、ソニーの未来におけるどの「領域」を創り出そうとしているのでしょうか。
インハウスデザイナーの
存在意義
Warp Squareとはどのようなプロジェクトなのでしょうか?
小椋(プロジェクトリーダー):インタラクティブなコンテンツを流すフォーマットのR&D、つまりは、インタラクティブなブースをゼロから提案し、そこで流すコンテンツも独自に作る、というのが我々の命題です。Warp Squareはコンテンツ制作だけの関わりですが、2016年10月にオープンしたISETAN The Japan Store Kuala Lumpurにおいて、ソニーデザインは「CUBE_1」というインタラクティブなスペースをゼロから手がけており、今回はその延長線上のプロジェクトだと言えます。
具体的には、超短焦点のプロジェクターによる高精細かつインタラクティブな映像を、20㎡ほどの個室の4つの壁に投影し、音と映像による没入感を複数人で同時に体感していただくという空間です。インタラクティブなコンテンツの新しい価値を模索するべく、360度分け隔てのない映像ではなく、あえて壁ごとに別々の表現をすることをオリジナリティと捉えました。
大木(デザイナー):社内を見回すと、「なんだかわからないけどすごそう」といった技術がたくさんあります。インハウスのデザイナーの存在意義というのは、そこへ入っていって、エンジニアたちが考えつかなかったような使い方や、コンセプトを打ち出して、そうした技術に新しい価値を積み上げていくことだと個人的には思っています。
今回のWarp Squareも、初めはいわゆる丸いドームに比べると角が気になってしまったのですが、逆にそうした特徴を活かしたコンセプトを出してみようと思い、「連続しているようで不連続なコンテンツ」にトライしました。
試すからこそ得られる
リアルなフィードバック
今回制作された3つのグラフィックは、どのようなディスカッションから生まれたのでしょうか?
野々山(デザイナー):当初は空間を広く見せるようなコンテンツなども検証したのですが、しっくりこないというか、どこかで見たことあるというか。既存の表現とは違うものにしようということで検討し、大木さんから「連続かつ不連続」というつまり「表現は異なるがある要素では4面でつながりを持っている」というコンセプトが出たところから具体的に見えてきました。
本田(デザイナー):そこから、とにかくアイデアを出し続けたのですが、コンテンツの開発にあたっては、実物大の環境を用意して進めました。やはり、パソコン上で検証するのとはまるで感覚が違うので、これは大きかったです。
4面をただ引いて見ているときには「おもしろい」と感じても、そこにインタラクションが入るとそちらに注意が行ってしまうので、バランスが難しかったですね。こうした気づきは実際にやってみなければ得られなかったと思います。
大木:今回は複数人が同時に操作することを意識したので、なるべく、同じ空間にいる人同士のコミュニケーションを創発できればいいなと思い、コンテンツを制作しました。一度やってみて、どこをどう詰めていく必要があるのかをある程度はっきり認識できたことは、大きな収穫だったと思います。
本当に気持ちいい
インタラクションを目指して
Warp Squareは、今後どのような発展をみせていくのでしょうか?
小椋:Warp Squareは、映像、サウンド、インタラクションといった要素をふまえたセンサリーな空間の提案なので、まずB to Bにおけるアミューズメント分野での可能性が考えられます。あるいは商空間や教育現場での活用という方向性もあり得ると思います。一方B to Cでは、「各家庭には必ずひと部屋Warp Squareがある」といった未来を、エンジニアと夢想してしまいます。遠隔地でも、その場にいるような空間を自宅に作れるということに対するニーズが高まれば、まったくあり得ない話ではないかなと。
今回SXSW2017に出展したことで、さまざまなフィードバックを得られました。今後それをどう活かしてバージョンアップへ繋げていくか、このチームで継続的に考えていかなければなりません。いずれにせよ、我々としてやりたいことと、お客さまの価値観をどうミートさせるか、ということを追求していきたいですし、そのためには、実験を重ねて行かなければならないと思っています。
大木:本当に気持ちいいインタラクションは、現時点でもまだまだ追求可能だと思います。「わかりやすさ」と「ちょっとひねったよさ」のバランスを取り、「おもしろさ」へと転換する方法を、今後も課題として考えていかなければならないと思います。
ソニーデザインは、常にストーリーを大事にしています。ストーリーを作るためにはまず登場人物が存在し、そこに乗っていく素材やコンテンツがあり、ぼくらはそれを実現させる技術をデザインしているわけですが、そうした「ストーリー」に至るまでのプロセスにも、ぼくらデザイン側が携わってもいいわけです。その意味で言うと、Warp Squareは、次なるストーリーを生み出す装置なのだとぼくたちは思っています。