Exhibition in collaboration with
Design Museum LondonWaste Age:
What can design do?
イギリス・ロンドンのデザイン・ミュージアムで先般開催された展示会「Waste Age: What can design do?」。
同展に参加したデザインセンター・ヨーロッパのクリエイティブチームがそのコラボレーションについて語ります。
(写真左から)デザインセンター・ヨーロッパ:
デザインプロデューサー 参木玲子、クリエイティブディレクター 田幸宏崇、シニアプロデューサー フィリップ・ローズ
「Waste Age: What can design do?」展は、2021年10月から2022年2月までデザイン・ミュージアムで開催されました。国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)に合わせて開かれた展示会で、「気候変動に立ち向かうために、デザインには何ができるのか」という視点を通し、人々に廃棄物への関心を一層高めてもらうという狙いがありました。展示会では廃棄物がもたらす壊滅的な影響を取り上げるだけでなく、ソニーの事例を含め、廃棄物を貴重な資源とみなすソリューションも展示されました。
未来につながるデザイン
フィリップこの展示会の「Post Waste」と題したセクションで、ソニーは三つの展示をデザインしています。このセクションで展示されているのは、資源を長期的に活用できる未来につながる先見的なデザインとして厳選されたものです。資源や製品をむやみに使って終わるのではなく、形を変えて再利用するなど、より負荷の少ないクリーンな環境につながる道筋を示しています。
米は世界で最も広く消費されている主食の一つですが、農家では廃棄される籾殻が問題になっています。一つ目の展示では、ソニーが開発した Triporous™(トリポーラス) という新しい多孔質カーボン素材を紹介しています。トリポーラスは籾殻を原料としたサステナブルな素材で、微細な汚染物質を吸着し、水や空気の安全性と品質を向上できるという優れた機能を備えています。また、高い吸着性や消臭性を活かして衣類やトイレタリーなど幅広い製品に使用されています。
参木私たちがどのようにトリポーラス素材を開発しているのか、廃棄される籾殻というまさに最初の段階から生地になるまでの過程を見ていただこうと思いました。この展示の重要な構成要素として大きな籾殻の山を作り、原料、加工したカーボンペレット、糸、展開例という各工程を紹介しました。
フィリップ二つ目の展示は「オリジナルブレンドマテリアル」です。ソニーは脱プラスチックパッケージに向けた取り組みの一環としてサステナブルな紙素材を開発しました。成長が早く持続可能な作物である竹やさとうきびの繊維を原料とし、市場回収したリサイクルペーパーと合わせて作られます。ソニーのワイヤレスノイズキャンセリングステレオヘッドセット 「WF-1000XM4」のパッケージではこの素材が使用されており、分別することなく簡単にリサイクルに出すことができます。
田幸この展示では、ソニーデザインが手掛けたオリジナルブレンドマテリアルの開発過程を紹介し、素材研究のあらゆる側面を細分化することでそのプロセスを際立たせています。エンボスの深さや文字の大きさによる読みやすさの違いが分かるエンボステキストのサンプルから、さまざまなサステナブル資源の素材構成や生産時の変動に左右される紙の質感まで、詳細なデザインのプロセスをお見せしたいと思いました。
フィリップ最終的に仕上がったパッケージは非常にコンパクトかつ軽量で、とてもシンプルな構造になっています。そのため輸送効率が非常に高く、これまでのソリューションに比べて使用する素材はかなり少なくなっています。材質は一つなので分別の必要がありません。さらに、手にとると小石のような触感と美しさも兼ね備えています。
「Life in Light」インスタレーション
ジャスティン・マクガーク氏は、ロンドンのデザイン・ミュージアムのチーフキュレーターです。ソニーは同氏から「Waste Age」展の最後を飾るにふさわしい刺激的なインスタレーションの制作について依頼を受けました。インタビューの機会を得て、三つ目の展示「Life in Light」に対する考えを伺いました。
チーフキュレーター デザイン・ミュージアム(イギリス・ロンドン) ジャスティン・マクガークと田幸宏崇
田幸ジャスティンさん、このインタラクティブなインスタレーションの制作に参画させていただきありがとうございます。「Waste Age」展の最終展示について、ぜひご意見をお聞かせいただきたいと思います。
ジャスティンはい、この展示で実現したかったことが二つあります。一つは、とてもポジティブで楽観的、かつインタラクティブで思考を促すようなひとときの中で、来場者を自然の中に連れ戻すようなかたちでこの展示会を締めくくるということです。一方で、万物の生命の終わりを物語る特別なメッセージも伝えたいと思っていました。私たちが考えていたのは「森の中に広がる地面」です。生命体が死に、腐敗し、別の生命体に栄養を与える場所だからです。
田幸そうですね。菌糸のことですね。
ジャスティンその通り。キノコです。キノコは生命の循環を表す良い象徴になると思ったのです。この展示会はある意味では生命の循環をテーマにしています。私たちが「森の地面」について話したら、田幸さんがキノコを思い付いたんですよね。
田幸最初にお話を伺ったときは、非常に難解なお題だと思いました。というのも、もともとは展示会のフィナーレではなくエントランスについて話し合っていましたよね?最初に与えられた課題は深刻な環境危機を伝えることで、デジタルコンテンツを通して廃棄物がいかに地球の脅威となるかを表現する試みでした。議論の末に方向転換し、展示会の締めくくりに、よりポジティブなメッセージを伝えようということになり、そこで思い付いたのが森のアイデアです。菌類やメタファーとしての菌糸体や植物体など、動きのあるインタラクティブなコンテンツを採り入れて新たな生命を表現しようと考えました。ディテールを詰めるうちにさらなるアイデアが生まれました。来場者がどのようにコンテンツを理解し、どのようにインタラクションを楽しまれているかは、現場でその様子を観察することでしか評価できません。お伺いしたいのですが、メッセージは伝わりましたでしょうか?
ジャスティン来場者に伝わったと思います。この作品はとても瞑想的なものなので、来場者は少しずつ理解する必要があると思います。立ち止まったり歩き回ったりするうちに、だんだんと分かってくるのが見て取れます。この作品の仕組みを理解していただくために、ギャラリーのスタッフもサポートさせていただきました。思い返せば当初、私たちは腐敗していることが分かるミクロの世界にズームインしようと考えていました。しかし面白いことに、田幸さんはズームアウトして来場者に風景を感じてもらいたいと主張していましたね。
田幸ええ、友人たちや家族と一緒にそれを感じてほしかったのです。
ジャスティン面白い選択だったと思います。ズームインした抽象的な瞬間に引き込まれるのではなく、自然の中に引き戻されるような感じです。それから私たちは光について、そして何かが成長して花を咲かせるときに生命を創造する過程をメタファーとして表すことについて、多くの対話を重ねました。
田幸私たちはまず、光が生命を創造すると考えました。真っ暗な森の地面から再生する生命を表すのに、光はとても分かりやすいメタファーになるかもしれないと思ったのです。ジャスティンさんに、新たな生命の基盤を表すもう一つのメタファーとして菌類やキノコを使うというヒントをいただき、リアルタイムで成長する一風変わったキノコのようなものを出現させています。それらは二度と同じ現れ方はしません。森が人の動きに応じて違った反応を示すのです。
非常に面白い体験を創り出せたと思いますので、「Waste Age」展の締めくくりにふさわしい展示として皆さんに楽しんでいただければ幸いです。とても興味深いお話をいただきありがとうございました。おかげでテクノロジーとデザインを融合し、サステナビリティに関する重要なメッセージを際立たせることができました。
ジャスティンおっしゃる通りです。ここではとても面白いことが起こっていると思います。私たちが二人いることで森との相互作用が強まります。誰かと一緒にこの展示の前に立つと、より多くの生命や光を生み出すことができるのです。それもこの展示のメッセージを補完するもう一つのメッセージであり、サイドストーリーでもあります。ここでは、おそらく来場者が実際感じている以上にたくさんのことが展開しているのです。
田幸そうですね。私たちが作り上げた360度の真っ暗な森の世界の中には、たまにイノシシやシカが出てきます。あれは確かジャスティンさんのリクエストでしたね。
ジャスティンそうです、そうです。覚えています。この展示に長くとどまる人たちがいるのですが、彼らは何が起こっているのか必死に理解しようとしているのです。彼らは展示で遊び、体を動かしています。それこそ私たちが望んでいたことです。
田幸ありがとうございます。一緒に仕事ができて本当に光栄です。
ジャスティンありがとうございました。